甘さの欠片もないバレンタインネタです。
明日はカラオケに引っ張られて行くので更新はどうなるかわかりませぬ。土曜日は頑張ります!日曜はゆっくりします……なんかね、来週他の事業所に研修に行くじゃないですか。残業がある時もあるって話だったのに、今日詳しい話を聞いたら「17時終業予定」ってことで聞いてない……ってなってるんですけどこれは。
明日はカラオケに引っ張られて行くので更新はどうなるかわかりませぬ。土曜日は頑張ります!日曜はゆっくりします……なんかね、来週他の事業所に研修に行くじゃないですか。残業がある時もあるって話だったのに、今日詳しい話を聞いたら「17時終業予定」ってことで聞いてない……ってなってるんですけどこれは。
<バレンタインの清算>
ほらよ。と、玄関に出てきたシュウにマサキが手にしていた紙袋を渡すと、何が起こっているのか彼にはわからなかったようだ。首を傾げたシュウに中を見るようにとマサキが云うも、彼は紙袋の中身を見ても尚、自分がこれを貰うことになった理由に気付けぬ様子で、視線を紙袋の中に落としたまま、これは? と、訝し気な表情で尋ねてくる。
「チョコレートに決まってるだろ。バレンタインだ」
成程――と、頷いたシュウが、それでもまだ納得がいっていないといった表情で言葉を継いだ。
「それにしても、何故こんなに大量にあるのです」
色取り取りのラッピング袋はどれも手のひらに乗るぐらいのサイズだったが、どれもマサキの周りの女性陣が気合いを入れて用意しただけあって、センスの良さに溢れている。
シックなチョコレートカラー、ポップな水玉模様、高級感溢れるボルドー……シュウのメインカラーに合わせた紫色のラッピングもあれば、同じく彼が好んで着る服の色に合わせた白色のラッピングもある。それらが詰め込まれた紙袋を前に困惑しているらしいシュウに、「皆からに決まってるだろ。ちなみに俺のはこれな」マサキはそう云って、ジャケットのポケットから市販の板チョコを取り出した。
「……有難く受け取ることにしましょう」
カラフルなラッピングに対する素っ気なさの落差に、流石に気分を害した様子だ。無表情で板チョコを受け取ったシュウに、「先ず理由を訊けよ」マサキは玄関から上がり込みながら、先をゆくシュウの背中に語りかけた。
「頑張ったんだよ、一応は。手作りしようって。ただ、どれだけ頑張ってもデコレーションが悲惨なことになっちまってな。ほら、料理と菓子作りは要領が違うだろ、それで」
「あなたに情緒というものは期待していませんから、気になさらなくとも結構ですよ」
「聞けよ人の話」
「聞いてますよ」クックと声を上げてシュウが笑う。「ある意味予想通りで良かったですよ。これで有名パティシエも驚くような品が出てきたとしたら、それはそれで私は疑問に思ったことでしょうしね」
云いながらリビングのテーブルの上に紙袋を置いたシュウが、マサキを手招きながらソファに腰掛ける。そして、マサキから受け取った板チョコを片手で振ってみせながら、「これは最後にいただきますよ、マサキ。あなたからの贈り物ですから」
貰えたことに満足をしているようだ。板チョコを眺めながら口元を緩ませているシュウに、マサキは微かな後ろめたさを感じながら、「まあ、先に食ってもらってもいいんだがな……」と、彼の隣に腰かけた。
そこいらで売っている板チョコよりはランクが高い品とはいえ、製菓用である。だのこの表情。マサキは改めて満足気な様子のシュウの横顔をしみじみと眺めた。
切れ長の眦を細めて板チョコを眺めているシュウは、その由来に微塵も疑いを差し挟んでいないようだ。ただの板チョコだぞ。思わずマサキが口にするも、わかっていますよ。何がわかっているのか不明な答えが返ってくる。
自分で選択した結果ではあるのだが、無邪気に喜んでいる彼の姿を見ていると、流石にマサキも胸が痛む。
「あんまりまじまじと見るなよ。申し訳なくなるだろ」
「努力の甲斐が窺える気がするのですよ」
「ただの板チョコだぞ」
マサキはどうかすると苦々しさが増す表情を取り繕った。わかって云っているようなシュウの台詞に冷や汗が背中を伝うも、彼が『マサキから貰った板チョコ』という事実に満足しているのは明らかだ。
大丈夫だ。マサキは自分に云い聞かせた。幾ら頭脳明晰な彼であろうとも、よもやマサキが失敗作続きのチョコレート作りに自棄を起こした結果、材料のチョコレートをそのまま持ってくるという暴挙に出たとは思うまい。
どれだけ彼の知能が高くとも全ての知識に通じている訳ではないのだ。料理にずぼらな男は、そういった知識においては幼児並みの常識さえ持ち合わせていない。
「それはそれとして、この大量のチョコレートは?」
マサキから貰った板チョコをひと通り眺めたシュウは気が済んだのだろう。ようやく板チョコをテーブルの上に手放すと、マサキに向き直って尋ねてくる。
「だから皆からだって云っただろ。リューネに、ウエンディ。セニアに、プレシアに、テュッティに、ミオだろ。シモーヌやベッキーも持ってけって煩くてよ」
「しかし、私はあなたがたからチョコレートを貰うようなことは何もしていない筈ですが」
一難去ってまた一難。板チョコの真実にシュウが気付いていないのは幸いだったが、よもやチョコレートの数で詰められることになるとは――。マサキは盛大に顔を歪めた。語るも屈辱的な話であるが、云わないことにはシュウが納得しない。
「俺のチョコレートの話はしただろ。あれ、味に変わりはないから、お前にやろうかと思ってたんだがな。その惨状を見たあいつらが、あまりにもお前が可哀そうだって……」
瞬間、シュウが片手で顔を抑え込んだ。
次いで小刻みに震え出す肩。どうやら彼はしてはならない想像をしてしまったようだ。顔を俯かせると、必死に笑いを堪えている。
「いや、そりゃ俺もあれは酷い出来だと思ったけどよ……」
マサキは慌てて弁明しようと試みるも、元のチョコレートの実物を知っているだけにフォローが上手くいかない。
ホーンテッドマンションもびっくりのメルト。他人がやれば可愛らしいハートになるデコペンでのデコレーションが、マサキの手にかかった瞬間にホラーと化す。やったマサキ本人が、何故ああも崩壊するのかと思っているぐらいだ。シュウの想像の悲惨さは想像が付く。
「これは失礼しました、マサキ。来年は期待していますよ」
ややあって顔を上げたシュウが、ソファから立ち上がる。
「折角、これだけのチョコレートを頂いたのですから、今日はこれで|午後の紅茶《アフタヌーンティー》にしましょう。あなたは珈琲でいいですか、マサキ」
想像の中身に触れることをしないのは、彼なりの優しさであるのだろう。
低いテノール。オペラの一節を諳んじながら、鼻歌混じりでキッチンへと向かったシュウに、マサキは来年こそは――と、気が早くもリベンジを誓わずにいられなかった。
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