私、最近どんどん気持ちが前倒しになっていて、最近、休みの前の日が一番憂鬱なんですよ。「今日が終わって休みが来たらまた仕事か……」的な。仕事は嫌いじゃないんですけど、ぶっちゃけ創作が楽し過ぎてね……一生家に篭って文章打ってたい!的な。
今が多分、一番二創作家としては充実している気がします。
と、本文に関係のない前置きを置いて、では本文へどうぞ!
今が多分、一番二創作家としては充実している気がします。
と、本文に関係のない前置きを置いて、では本文へどうぞ!
<LOVE of CHOCOLATELIKE>
一杯の紅茶と一杯の珈琲。|午後の紅茶《アフタヌーンティー》の支度を終えたシュウが、早速と紙袋の中に入っているラッピング袋のひとつを取り出した。
目が覚めるようなミントグリーン。口は黄金色のリボンで絞られている。あ、それは。マサキが声を上げるもお構いなし。甘いものがあまり好きではないシュウは、きっとどれから食べても一緒ぐらいの気持ちでいるのだろう。他のラッピング袋の中身を検めもせずに、黄金色のリボンを解き始めた。
「随分、粒の大きいチョコレートですね」
ミントグリーンの袋の中から転がり出てきた6粒のチョコレートは、1粒が親指と人差し指で作った輪と同じぐらいの大きさだった。
包みはダークレッドのアルミ箔。巾着のように上側だけが絞られているそれを抓んで3粒、きちんとマサキに分けて寄越したシュウは、そこで初めて、「これは誰からのチョコレートですか」と訊ねてきた。
「セニアのなんだけどよ……」
「彼女ならそう間違いを起こすこともないでしょう。何か不安でも?」
言葉を濁したマサキに、王室に残った従妹に対する信頼は絶対であるらしい。きっぱりと云ってのけたシュウが、包みを解き始める。
マサキは咄嗟に手を伸ばして、シュウの手首を掴んだ。
そのチョコレートは普通のチョコレートではない。それをシュウが口に入れる前に伝えなければ。
「ウィスキーボンボンなんだよ、それ。他の奴のはどれも普通のチョコレートなんだが、セニアだけ『このぐらい余裕よ、余裕』って。そうは云ってもな。ワインならともかく、ウィスキーだろ。匂いや味が駄目なヤツもいるから、一応聞いておこうと思って」
「大丈夫でしょう。安物は粗悪なウィスキーを使っているからか風味に欠けるきらがいがありますが、彼女はあれでも王族ですからね。面子にかけてもおかしなものには手を出しませんよ」
「そうか? お前をあっと云わせる為なら、あいつは余裕で面子を捨てそうだけどな」
「そんなことをしようものなら」そこでシュウは声を押し殺して嗤った。「どういった結果になるかは火を見るより明らかでしょう。そのぐらい彼女とてわかっていますよ」
「ホント、お前ら嫌な方向で気が合うだけはあるよな。何だその妙な信頼感」
裏で手を結ぶのが日常茶飯事な二人組は、顔を合わせれば憎まれ口を叩き合う仲な割には、お互いに対して絶対の信頼を置いているらしい。伊達に血縁ではないということだろう。マサキの知らない年月を身近な存在として生きてきた彼らは、彼らだけにしかわからない絆で結ばれている。
だったら俺がどうこういう問題じゃねえや。マサキはシュウから手を離した。そして片手に乗せられている3粒のウィスキーボンボンの内、1粒を残してテーブルの上に置いた。
けれども、いざ口に運ぶとなると、どうしても躊躇いが出る。
実はマサキはあまりウィスキーボンボンが好きではなかった。理由は単純。子どもの頃、父が会社から貰ってきたウィスキーボンボンを、それと知らずに食べてしまって酷い目に合ったからだ。
その時の記憶は今でも脳にこびりついている。食べて数分もしない内にもどし、その後数時間、吐き気と頭痛に悩まされ続けた……。
――食って大丈夫かね、これ。
不安な気持ちに導かれるがまま、そうっとシュウを覗き見れば、包みを開いた彼は迷うことなくチョコレートを齧ったようだ。断面からゼリー状のウィスキーの蜜が顔を覗かせている。
ふわりと香ってくるウィスキーの匂い。
どうだよ、味。マサキは恐る恐るシュウに訊ねた。
きっと先程の会話の流れから、おかしなものを掴まされたのではないかと案じていると思ったのではないだろうか。「流石はセニア。風味が違います」口元に笑みを湛えて頷きながら1粒目のウィスキーボンボンを食べ終えたシュウが、おもむろに紅茶を淹れたカップを取り上げた。
「安物と違って雑味がない。食べてみればわかりますよ、マサキ。何だと云いつつお金をかけたのでしょうね。これは紅茶のともには丁度いい」
彼がそこまで太鼓判を押すのであれば、大丈夫なのだろう。そうか。と頷いたマサキは手にした包みを解いて、チョコレートの表面の照り返しも美しいウィスキーボンボンを、ゆっくりと口元へ運んでいった。
※ ※ ※
マサキが警戒しつつも口に含んだウィスキーボンボンは、こんな味だったかと思うぐらいに美味しかった。
※ ※ ※
マサキが警戒しつつも口に含んだウィスキーボンボンは、こんな味だったかと思うぐらいに美味しかった。
いかにも酒といった苦みがない。かといって、普通のチョコレートを食べているのともまた異なる。上品な味わい。ウィスキーの風味を残しつつも優しい甘さに纏め上げられたチョコレートは、マサキの苦い思い出を払拭して余りある美味しさだった。
それが災いした。
美味しさがあまり、立て続けに3粒のウィスキーボンボンを腹に入れた。食べ終わってほどなくして、マサキは妙に身体が火照っているのに気付いた。おかしいと思うよりも先に、気だるさが襲いかかってくる。マサキはソファの肘当てを枕代わりと横になった。
どう考えても、ウィスキーボンボンで酔ったとしか思えない。
「おかしいですね。ウィスキーボンボンにそこまでのアルコールは入っていない筈ですが」
酔うほどのアルコールが入っている筈のないウィスキーボンボン。子どもならいざ知らず、マサキ自身も酒の味を覚えて久しい。今更、風味付け程度のウィスキーでどうにかなるとは考え難かった。
「あなたはアルコールが駄目なのではなく、ウィスキーが駄目なのかも知れないですね」
そういってマサキを尻目に紅茶を啜っていたシュウだったが、暫くもすると彼もまた異変を感じたようだった。酔いました。そう言葉を吐いたかと思うと、マサキの上に身体を重ねてくる。
「嘘吐け。俺はともかくお前は絶対嘘だろ。そんな涼しい表情をしやがって」
「しかし実際、酔ったような感覚があるのですよ」
そう口にしたシュウの呼気は確かに酒臭い。例えるなら彼が好んで飲むワインを一本空けきった直後の酒臭さに似ている。おかしい。マサキは訝しんだ。たった3粒のウィスキーボンボンでしていい匂いではないのは明らかだった。
「その証拠にあなたが可愛く見えて仕方がない」
酔うとスキンシップが過剰になる男は、そう云ってマサキの頬に触れてきた。ちょっと待てよ。マサキは声を上げた。酔う筈のないウィスキーボンボンで酔うという異常事態。セニアが件のチョコレートに何か仕掛けを施しているのは明白だ。
「そうは云ってもね。こんなしどけないあなたの姿を前にして、何もせずにすませられるような性格を私はしていないのですよ」
間近にあるシュウの顔が、うっすらと笑みを湛えている。マサキを愛でているような、それでいて捕食しようとしているかのような眼差し。見慣れた彼のその表情に、けれども微かに感じた違和感をマサキは見逃さなかった。
「お前、絶対に酔ったとか嘘だろ。それが証拠に目が笑ってやがる」
「私が酔っていようが酔っていまいがあなたには関係ないでしょう」シュウの骨ばった手がマサキの目を覆った。「ほら、ちゃんと目を閉じて、マサキ」
「関係あるだろ。絶対、あのウィスキーボンボンだぞ。それともお前、俺の飲み物に何か入れたとかいうのかよ」
「まさか。そういったことをせずともあなたに触れられるものを」
「なら、何でそんなに落ち着いてられるんだよ」
「口にしてしまったものを今更取り返せもしませんよ、マサキ。後は酔いが覚めるのを待つしかないでしょう」
セニアに一杯食わされた形になっている割には寛大なシュウの態度に、絶対にこいつは酔っていないとマサキは思うも、それで止まるような男だったらこうはなってはいない。それにシュウの云うことにも一理ある。食べてしまったものを吐き出そうにも、とうにマサキは酔ってしまっていた。
「お前の云い分はわかった」
「わかったなら結構」
「けどな、もう少しデリカシーってもんを持てよ。酔ったら触っていいみたいなこの流れ、あんま好きじゃねえ」
「なら、私はどうすればいいと思いますか、マサキ。あなたに愛の言葉を100回ほど囁けばいい?」
「そういうトコだろ、お前……」
視界を塞がれたままのマサキは彼の表情を想像で補うしかなかったが、シュウは未だ嗤い続けているようだ。恐らくは、今の言葉でマサキが諦めたのだと思ったのだ。彼の声には勝ち誇っているのような響きがある。
「好きですよ、マサキ」
「知ってる」
「だからあなたに触れたくて仕方がない」
「それも良く知ってる」
マサキの口元にシュウの吐息が触れかかる。よくよく振り返れば、こういったシチュエーションも数多く経験してきている。直後に重ねられた口唇に、諦めてマサキは目を閉じた。
PR
コメント