加筆・修正作業ばかりしていたからか、「文章を一から構築するってどういうことだったっけ?」となっております。なので軽めのこちらから。
相変わらず酷い内容です。下劣注意。
相変わらず酷い内容です。下劣注意。
<云えないようにしてみれば>
「何だ? 疲れてるのか」
マサキがリビングに足を踏み入れると、ソファに身体を投げ出しているシュウの姿が目に入った。彼はマサキの言葉に返事をするのも億劫な様子で、ちらと視線を向けてきただけで瞼を閉じてしまう。
「何だよ、お前。人がわざわざ来てやったってのに」
マサキはソファの肘当てに腰を落とした。
ソファの足元にめいめい陣取るシロとクロ、そして主人の胸の上に乗ったチカ。合わせて八つの目が見守る中、それは疲れもします――と、彼の口から覇気のない声が吐き出される。
「成程!」チカが声を上げた。「魔法ですね、魔法! あたくしの言葉をこんなことにした原因は魔法にあり! ほーらほら、ご主人様。マサキさんも来たんですし、意地を張るのは止めて元に戻しましょうよ。そして(ピー)ですよ! (ピー)! 使いたくないんですか? クローゼットの中の蒐集品《コレクション》!」
「俺の平和の為にはこのままの方が良さそうだな」
マサキはクッションを枕代わりに目を閉じているシュウの顔を見下ろした。
どことなく青白い。
チカの予想が正しければ、魔法でこの事態を引き起こしているシュウは魔力を消耗し続けているということになる。とはいえ、かつては第三位の王位継承権を有していた男。彼の魔力は、ラングラン全土に効果を発する調和の結界を維持出来るほどに膨大な筈である。特定の言葉を封じる程度のことで、ここまで枯渇するとは考え難い。
「お前、何をやったんだ? ちょっと尋常じゃないだろ、その消耗具合は」
「そこの口汚い使い魔が」
「そこまで云いますかッ!? ご主人様、ちょっとあたくしへの愛情少なくないですか? 別にあたくしマサキさんに勝とうなんて思ってませんけど、でもマサキさんより付き合いは長いんですよ? せめて鳥権ぐらいは認めてもらえても」
「ちょっとお前は黙ってろ」
マサキはシュウの胸の上からチカを掴み上げると、ジャケットのポケットに突っ込んだ。むぎゅ。まるで蛙がひしゃげたような声を発しながら、チカがポケットに収まる。だからといって気には掛けない。彼は魔法生物であるのだ。
――で? と、マサキは力なく横たわっているシュウに続きを促した。
「……私に対抗して遠出をしてしまった時に備えて、ラングラン全土に効果範囲を広げたのですよ。彼のことです。どうかしたら、あなたのところに助けを求めに行かないとも限りませんから」
「馬鹿だろ、お前」
「あなたには云われたくありませんね」
そう云って再び目を伏せたシュウに、マサキは首を傾げた。チカの口から絶対に猥語を発させてなるものかという彼の執念は感じられるが、だからといってその為にラングラン全土に術の範囲を広げるなど無謀に過ぎる。
シュウにしては短絡的な行動に疑問は尽きない。何か他に考えがあってのことだろうか? マサキはその疑問をシュウにぶつけてみることにした。
「大体、あいつが遠出をしたからって何だ? 俺に助けを求めるぐらいなら可愛いもんだろ。それでお前に不都合なことがあるとはとても思えな」
「彼は私に一泡吹かせる為なら、王都の真ん中であなたとの行為の内容を叫ぶぐらいはしますからね」
「捨てろよこいつ」
「ちょっと待って!? 掌返し早くないですか!?」
がば、とポケットの中から頭を出したチカが抗議の声を上げるも、彼が口を挟めば話がややこしくなるばかりだ。お前は黙ってろって云っただろ。マサキは再びチカをポケットの中に押し込んだ。
「一応は長い付き合いですからね」
「長い付き合いにしちゃ品性がなー。お前とは……」
日頃の彼とは雲泥の差だ。そうマサキは口にしようとしたが、そこでふと思い当たってしまった。
時としてそれが長じて慇懃無礼になることがあったものの、王室育ちの彼は基本的に折目高な人間である。だが、こと性的な面となると、何故かマサキが閉口するぐらいの悪趣味を露わにする。クローゼットの中に仕舞われている彼の収集品にしてもそうだ。(ピー)に(ピー)に(ピー)と枚挙に暇がない。使い魔が主人の無意識の産物であるのだとしたら、成程、確かにチカは彼の使い魔であるだろう。
「いや、ある意味お前の使い魔か」
「どういう意味です」
「そういう意味に決まってんだろ。処分しろってあれだけ云ったのに、クローゼットの中の(ピー)も捨ててないらしいしな。それどころか増やしたっていうじゃねえか。そりゃあ、主人がそんなんじゃ、使い魔もああなる」
「(ピー)は芸術品ですよ、マサキ」
「芸術品だと? あれのどこが芸術だ! 使われたら身の危険しか感じねえぞ、俺は!」
「同意があるまでは使いませんよ」
「同意があったら使うつもりなんじゃねえかよ」
マサキはシュウから顔を背けた。
「だから帰ろうって云ったんだニャ」
「このはニャしにニャると、途端にシュウがおかしくニャるのわかってるのに」
二匹の使い魔が足元でぼそぼそと声を上げる中、そんなに怒らなくても。と、背後からシュウの手が伸びてくる。どうやら身体を起こしたらしい。彼の腕に捉われたマサキは、「誤魔化されねえぞ」と口を尖らせた。
PR
コメント