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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

云えないようにしてみれば(後)
ただただふざけ倒しました。何だこの話ww

次こそインモラルを更新します。がんばるぞー。



<云えないようにしてみれば>

「――で、ニャにをされたんだニャ?」
「それを俺に聞くな……」
 芸術品を芸術品で飾りたいだなどという一生理解出来ない欲で屈辱的な格好をさせられたマサキは、戻ってきたリビングのソファの上で項垂れるしかなかった。
「まあ、想像は付きますよ。(ピー)を(ピー)に嵌め込んで、(ピー)で(ピー)を挟み込んで、(ピー)で(ピー)を縛って、(ピー)を着用させた上で手足を(ピー)したってところじゃないですかね」
 奇跡の復活をしたらしい。シロとクロとともに、先にリビングに戻ってきていたチカがソファの背もたれにちょこんととまっている。どうやらシュウは即座に術を復活させたようだが、放送禁止音塗れの彼の台詞の内容が、マサキには手に取るように理解出来てしまった。
 それ即ち、ほぼその通りのことがマサキの身に起こったからである。
 少しは罪悪感があったのかも知れない。いつも延々とマサキを占有する男にしては、珍しくもあっさりとマサキをベッドから解放してみせたものだが、だからといってそれでマサキの気持ちが落ち着く筈もなく。流石はあいつの使い魔。主人のことを良くわかっていやがる――そう胸の内で思ったマサキは、けれどもそれを口にも出来ず。
「フルコースニャんだニャ」
「ニャんとニャく想像が付くのね」
「付くんじゃねえよ、お前ら。こいつとだけは同類になるな……」
「酷い!? ご主人様はいつものこととして、マサキさんまで! まるであたくしをゴミのように扱う!」
「お前の明け透けな物云いはそれに匹敵するんだよ」
 様々な感情がないまぜになったまま面を上げれば、上機嫌でキッチンに立っているシュウの背中が目に入る。あいつ、超弩級の馬鹿なんだろ。術を展開し続けている割には元気そうな彼の姿に疑問を抱きつつそう口にすれば、今更わかったんですか? 一羽と二匹の使い魔の視線が一斉にマサキに向けられた。
「前からシュウはマサキが絡むと馬鹿にニャってたのね」
「今に始まった話じゃニャいんだニャ」
「もしかして知らぬは本人ばかりだったりします?」チカがふわりと宙を舞った。「知ってます、マサキさん。書斎にあるアルバム。あれ全部マサキさんのスナップ写真ですよ。他人が撮った写真を全部蒐集してるんです。そういうご主人様がまさかまともだなんて思ってないですよね、マサキさん!」
「恐ろしい事実をさらっと暴露するんじゃねえよ! 初耳だぞそれ!」
 どうせ読んでも理解出来ないからと足を踏み入れたことさえない書斎。書棚に並ぶ重厚な表紙の分厚い書物の中に、よもやそんなとんでもない代物が隠されていようとは。シュウの偏愛ぶりには自覚のあったマサキだったが、流石に他人が撮った写真にまで手を出しているとは考えるだにせず。
「重大な秘密保持契約違反ですね、チカ」
 食事の支度を終えたらしい。パスタとサラダが乗ったプレートを両手に、リビングにシュウが戻ってくる。口元にうっすらと笑みを湛えている彼は、けれども使い魔が秘密を暴露したことを快くは感じていないようだ。鋭さを増した目尻の際。主人に横目で姿を捉えられたチカがひぃ! と声を上げた。
「で、でもあたくし、ご主人様とそういった契約をした覚えは」
「あなたが生まれたあの時に、きちんと契約書を交わした筈ですが」
 渡されたプレートを膝に置いたマサキは、その中身に目を遣った。几帳面な男らしく、料理の見栄えも美しい。海の幸をふんだんに使ったシーフードパスタにミモザサラダ。盛り付けの妙も相俟って、美味しそうに見えて仕方がない。
 来るなり妙ちきりんな事態に巻き込まれたのみならず、魔術で動きを制限され、体力を大幅に消耗させられたマサキとしては、とにかく早く食べ物を摂取したくて堪らなかった。そこにこの御馳走だ。マサキは早速とフォークを取り上げた。
「契約書、ですか? そういや何か変な紙切れにサインした気が……」
「それが秘密保持契約書ですよ。主人のプライバシーを口外しないとそこには書かれていたのですよ」
 隣に腰を落としたシュウがしらと言葉を継ぐ。
「で、でもそれペナルティ、あるんですか?」
「魔力を込めた契約書ですからね。何某かの不自由は出るでしょうね」
「ちょっと待って? 何が起こるか云わないって滅茶苦茶怖い!」
「良くやるよな、お前ら」マサキはパスタを掬い上げながら云った。「俺の尊厳なんて、もうどうでもいいって顔してやがる」
「まだ拗ねてるの、マサキ」
「当たり前だろ」
 ごろりとした大きさの烏賊の切り身、ホタテもあれば海老もある。家にあった海鮮を全て放り込んだような具材の量に、シュウの機嫌のほどが窺えるような気する……腹は減っているが、何とはなしに憂鬱。マサキはひとつ溜息を洩らした。
「どれかひとつにしろよ。何であんなに使うんだよ」
「我慢が限界だったものですから」
「処分しろよ、お前……増やすからそういうことになるんだろ」
 愚痴りながら口にパスタを放り込めば、とにかく美味い。海戦の出汁が詰まった風味。シュウがこれまで作ってきた料理の中では、一、二を争う出来に、何だかなあ。事前の出来事が出来事だっただけに、マサキとしては手放しでは褒め難くもある。
「ですが、マサキ。あのぐらいでしたら付き合ってもいいとは思いませんでしたか」
 そういったマサキの胸中を知ってか知らずか。まるで懲りる気配のないシュウが悠然と言葉を継ぐ。
「図々しいな、お前! 人の動きを制限しておいてその台詞かよ!」
「痛い思いはしなかったでしょう?」
 ふわ、と彼が付けている香水の匂いが薫る。
 マサキの耳に口を寄せてきたシュウが「気持ち良さそうではありましたし」と、声を潜めて囁きかけてくる。煩えな。マサキはその顔を引き離した。嫌だの何だのと口にしつつも(ピー)してしまった自分。だから屈辱なんだと、どうしてこの男にはわからないのか。
「駄目ですか、マサキ。偶に、でいいのですよ。毎回とは云いません」
 続けてそうねだってくるシュウに、マサキは迷った。確かに痛くはなかった。むしろ非日常的なシチュエーションは興奮を煽るものですらあった……躊躇いと、誘惑。そういうことなら……と、マサキはシュウに向き直った。
「一ヶ月に一回」
「ええ」
「ひとつだけなら使ってもいい」
「充分ですね」
 それでも結局、快感とこの男には抗えないのだ。盛大に譲歩をしたマサキに、足元の二匹の使い魔が深い溜息を洩らす。けれども知ったことか。マサキは愉悦の表情を浮かべているシュウに目を遣った。
 うっとりとマサキを見詰めているシュウの目は、マサキを見ているというより、先程までのマサキの痴態を眺めているようだ。
「ところで、いつになったらこの放送禁止音は消すんだ? 考えることに機械音が混じるのは気持ち悪いぞ」
「ああ、そうですね。ペナルティも発動しましたし、流石にもう止めましょうか」
 パン、と乾いた音が響き渡る。身動き一つせずに術の効果を解いてみせるのは流石というより他ないが、咒文さえも必要としないのは不条理だと思うより他ない。これが良くないよな。有能にも限度がある男は、不可能を知らない。マサキは隣でスパゲティを口にし始めたシュウに合わせてフォークを動かした。
「あのー、ペナルティ……って、もしやご主人様……」
 シュウの肩口にとまったチカが恐る恐る身を乗り出して尋ねている。
「三日で終わりますから安心なさい」
「いやその内容! 内容が問題なんですって! 鳥権奪取はんたーい!」
 主人の不穏な物云いに焦った彼がばたばたと。羽根を振りながら主人に抗議を口にするも、シュウ=シラカワという男はその程度で動じる人間でもなく。
 にたりと裂けた口。それは愉快で堪らないといった風に、シュウはチカに向けて言葉を吐いた。
「チカ、あなたは口が過ぎるようですからね。放送禁止音だけでは物足りないでしょう。ですからそういった類の言葉が口に出ないようにして差し上げましたよ。思っても云えない。あなたにとってはさぞ素晴らしい環境でしょうね」
「ひぃぃぃぃぃぃぃッ!?」
 チカの絶叫を耳にしながら、まあでも有情だよな。マサキはシュウがするにはまだ可愛い部類のペナルティに、彼を見上げて笑いかけながら、「俺のお陰かね」冗談めかしてそう云った。






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