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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

冬が来た(前)
何度だってふたりで遊ぶシュウマサを書いていい。

LottaLoveをやったことで、マサキと遊ぶシュウというのが想像付くようになりました。最近ちょっと思ってるんですけど、歳の離れたいとこが三人いるシュウは、なんだかんだで年下の扱いに慣れてるんじゃないかって。小さい頃は彼らと遊んでたりすると萌えだな!などと思う今日この頃です。
ということで、夏のプール遊びの次は雪遊びです。いやー、べたべたしているシュウマサを書きたい欲が、何故かこんなことになってしまって。でも楽しいですね!シュウマサのある日常はいい!

後編はご期待通りの展開になる予定です。とはいえ、今日はこの後ReBirthをやる予定なので、そのご期待通りの展開がいつ投下されるかは神のみぞ知るというところであります。焦らしプレイ良くない!笑


<冬が来た>

 温暖な気候が常なラングランでも稀には雪が降ることがある。足首まで積もる雪は更に深みを増し、今や膝を覆い隠さんとするまでになっていた。
 ラングラン全土を降雪が襲ったその日。午前中に街に出て買い出しを済ませたシュウは、滅多に点けることのないエアコンで暖気を取りながら、リビングでのんびりと読書に耽っていた。
「いやー、偶にはこんな珍しいこともあるんですね。一体、何年ぶりですか、こんな積雪。しかもまだ積もりそうな様子ですよ、ご主人様」
 外に出ることも叶わなくなったからだろう。シュウの肩に居場所を定めたチカが、延々ひとりで喋り続けている。それを右から左に聞き流しながら、シュウはこの機会とばかりに溜め込んでいた書物の数々を片付けていった。
 ペースとしては順調だ。夜を迎える頃には全ての書物を読破出来るだろう。
 二冊目の本を読み終えたところでスープで昼食を済ませる。そのついでに放置しっ放しだったチカと少しだけ会話を交わし、さて読書の続きとソファに腰を落ち着けたその矢先だった。どんどんどん。昼もそろそろ過ぎようかという頃になって、玄関のドアを盛大に叩く音が響いてきた。シュウは表紙を開いたばかりの書物から溜息とともに顔を上げた。シュウの許を好んで訪ねてくる人間には限りがある。ましてや交通網に影響が出ているこんな日に、わざわざ足を運んでくるとなると――。
「雪だぞ」
 玄関に出てドアを開けば、全身にしっかりと防寒対策をしたマサキが両手に雪を抱えて立っている。
「雪ニャのだ」
「雪ニャのね」
 その足元で彼の二匹の使い魔が続けて声を上げた。誰が編んだのかはわからないが、その首元には可愛らしい色違いのお揃いのマフラーが巻かれている。シロの首には赤色、クロの首には水色。ポンポンのついたマフラーをなびかせながらぴょんと雪の中から跳ね上がった彼らは、まるでシュウを外へと招くかのように脚に飛び付いてきた。
「まさかとは思いますが」シュウは眩暈を覚えながら、マサキと向き合った。「それだけでここに来た、などとは云いませんよね」
 活動的になれば精力的に方々に出掛けてゆくシュウではあったが、基本的には学問の徒である己の本分に真面目に向き合う日々を送っている。資料の読み込み、研究、論文作成……どうかすると家に篭りがちになるシュウを、外界に繋ぎとめてくれているのは仲間やマサキたちの存在だ。
 彼らが積極的にシュウを外に連れ出してくれるからこそ、シュウは外の世界と隔絶することなく生きていけている。
 とはいえ、何年ぶりかもわからない雪の日だ。過ごし慣れなさも手伝って、そうでなくとも足が遠のき易い外の世界が、いっそう遠いものに感じられる。内に篭り易い性質のシュウとしては、彼らに誘われた程度で外に出たいとは思えなかった。
「ご主人様、マサキさんを侮ってませんか? 妙な所で子どもっぽいこの人のことですよ。久しぶりの雪に興奮して飛び出してきてもおかしくはないですよ。何せいつぶりかわからないぐらいの雪ですからね」
 余程、相手にされずにいたことに鬱憤が溜まっていたのだろう。ここぞとばかりに肩にとまっているチカが口を挟み始める。けたたましく続くその言葉を途中で遮って、よーくおわかりじゃねえか。鼻をフンと鳴らしたマサキが、自らが耳に当てているイヤーマフを取った。
「行こうぜ、外。雪合戦をするんだ」
 そのイヤーマフをシュウに被せてきながら言葉を吐く。
 彼の温もりが残ったイヤーマフ。雪に縁遠いラングランの民であるシュウの防寒具の足りなさを案じているのだろうか。シュウはマサキたちの奥に広がっている雪景色に目を遣った。しんしんと降り積もる雪は一向にやむ気配を見せず、更に雪の壁を高いものとしようとしている。
 防寒具らしきものと云えばコートと手袋ぐらいしかない。靴は整備の時に履いているゴム長靴で済ませるとして、果たしてその程度の装備でこの寒さを凌げたものか。暫く逡巡したシュウは、重ね着をすれば何とかなるだろうと、自身でも根拠のなさに失笑するしかない結論を出した。
「少し待っていてください」何のといいつつも、彼に誘われれば応じてしまう。シュウは己の愚かさを蔑むように自嘲めいた笑みを浮かべながら、「このままでは流石に外に出られませんので、着替えてきますよ」

 ※ ※ ※

 家に上がって待つようにマサキに云ったが、彼としては一刻も早く雪と戯れたいようだ。雪だるまでも作りながら待ってるさ。と、外に二匹の使い魔とチカを引き連れて出て行った彼に、呆れ半分、羨望半分。つい緩んでしまう口元をその都度引き締めながらシュウは家で身支度を整えた。
 きっと手足が冷え切ってしまうことだろう。ついでに風呂の用意をセットしてから玄関に向かう。
 エアコンの効いた室内では汗を掻き出しそうなぐらいの温かさを感じてはいても、外に出ればまた違った感想を抱くに違いない。シュウはコートを羽織り、手袋をし、久しく履いていなかったゴム長靴を出した。グランゾンの整備や改修の際に絶縁をする為に履いている長靴だったが、思いがけない形で役に立ちそうだ。靴下を重ね履きした足では少しばかり窮屈にも感じられたが、足先を締め付けるほどではない。準備を終えたシュウはドアノブに手を掛けた。
 玄関ドアを開けば、冷えた外気が肌を刺す。シュウは降り続ける雪のカーテンの奥に目を凝らした。少し離れた位置で既に胴体部分が完成した雪だるまをマサキたちが囲んでいる。彼らが上げている賑やかな声に、寒々とした真白の世界がぽっと色付いたような気がした。
「お前、それで大丈夫か? 薄着に見えるぞ」
「下に着込んでいますから大丈夫ですよ。それよりも、このイヤーマフはどうしますか」
 シュウは片方の手袋を外して、マサキの赤くなった耳に触れてみた。冷たい。動き回っていたからか、芯には温かみを感じるが、外側が思った以上に冷え切ってしまっている。シュウはマサキの耳にイヤーマフをかけてやった。大丈夫だって。マサキとしてはシュウが思った以上に軽装で出てきたことに対する焦りがあるのだろう。慌ててイヤーマフを外そうとする。
 ダウンジャケットにボア付きのブーツ。皮のミトンにマフラー、ニット帽。これ以上となく冬めいた彼の格好と比べれば、確かに自分の格好は薄着に映る。けれども――、と、シュウはマサキの動きを手で制した。
「雪合戦をするのでしょう。動いていれば温かくなるのは直ぐですよ」
「その前にこいつの頭を作らないと」
「手伝いましょう」
 見ればマサキの足元には既にそこそこの大きさになった雪玉がある。鼻と目が欲しいんだよな。ぽつりと口にした彼に、胴体部分を眺めてみれば、そちらの飾りは手を木の枝で、服のボタンを小石で済ませたようだ。
「まあ、目は石でもいいとして、鼻はどうしたもんかな。俺としてはニンジンを刺したいところだが」
「そういうことでしたら持って来ますよ」
 家に戻ったシュウはついでと余っているオセロの石を持ち出すことにした。収納の奥に仕舞い込んでは、出すのが面倒で方々で買い集めることとなってしまったオセロ。気付けば盤だけが何処かに行方不明になってしまっているセットがある。それを目に使えば丁度いい。シュウはニンジンとオセロの石をポケットに詰めマサキの許に戻った。
 その間に頭を胴体の上に乗せたようだ。自身のニット帽とミトンを雪だるまに装着させているマサキに、寒くないのですか? シュウが尋ねれば、大分身体が温まったとの返事。基礎体温が高い彼としては、徹底した防寒対策が仇となったのか。逆に暑くて堪らなくなってきたようだ。
 ニンジンとオセロの石をマサキに渡すと、彼は思いの外テンションが上がったようだった。髭だ、耳だと云いながら、更に何かを作り始めた。ややあって完成だと声を上げた彼に、出来上がった雪だるまを見てみれば、頬に木の枝で作られた髭と、頭上に三角に尖った耳が付いている。
 まるで猫ですね。シュウがそう感想を述べると、猫だるまだよ。マサキは云って、はははと笑った。
「よーし、それじゃやるぞ。雪合戦。シロとクロのどっちを味方にしたい? 貸してやるよ」
「彼らに雪は投げられないのでは?」
「雪玉を作らせるんだよ。そのぐらいなら役に立つだろ」
 どちらを選んでも作業効率的には変わらない気がしたが、フェアであろうとするマサキの気持ちをシュウは素直に受け取ることにした。とはいえ、チカもいる。殆ど役には立たないのは間違いなかったが、なるべくなら彼らの戦力も等しくしておきたい。シュウは少し考えてから、クロを指名した。
 活動的なシロと、しっかり者のクロ。雪玉を作るスピードはシロの方が早いに違いなかったが、シュウの側には日頃から主人の無茶な要求に慣れっこのチカがいるのだ。たかがローシェンと侮ることなかれ。彼は天井の桟の掃除ぐらいなら、自らの羽根で器用にこなしてみせる。
「なら始めるぞ。ほら、シロ! 頑張って雪玉を作れよ!」
 マサキの掛け声に、あいニャ! と威勢よく声を上げたシロが、雪の中に潜り込んで雪を固めてゆく。
「はいはいご主人様! みなまで云わずともわかってますよ! 雪玉のことは心配なさらず、思いっきり投げちゃってください!」
 それに対抗してだろう。ぱふ、と雪の中に埋まったチカが器用にも転がりながら雪玉を作り始めた。その傍ではクロが駆け回って雪玉をこさえている。シュウは雪を手で掬い上げた。両手で固めていると、早速とマサキからの雪玉が飛んでくる。
「質より量だ! くらえー! なんてな!」
 軽い雪玉をこれでもかと投げてくる彼に、シュウはだったら質だと、そこそこの大きさの雪玉を作った。服に当たった雪が弾け飛んでは、白い粉となって散ってゆく。「行きますよ!」手のひらに余る大きさの雪玉を、彼の胴体目がけて投げつける。ばふ、と思ったより大きい音を立てて、マサキの身体に当たった雪玉が崩れ落ちる。
 作らせた雪玉を投げ、時には彼から投げつけられた雪玉を掴み取ってまた投げる。繰り返している内に、服が雪で重みを増してきた。降り続く雪が髪に、肩に積もっている。見ればマサキの姿も大差ない。
「その程度ですか!」
「うるせえ! お前こそ疲れきたんじゃないか!」
 投げ合うこと10分ほど。弾けるような笑顔で雪玉を投げ続けていた彼は、「これで終わりだ!」と小脇に抱えた雪玉を出鱈目に投げつけてきながら、シュウとの距離を詰めてきた。そして対抗して雪玉を投げ続けるシュウの目前に迫ると、ふっと身体を屈めて、足元の雪を両手に抱え込んだ。
「ほら! 食らえ!」
 ばっと撒き散らされた雪の塊がシュウの顔をまともに覆い隠した。やりましたね! シュウはマサキの腕を取った。力任せに引き寄せて、自らの身体ごと雪の中へと雪崩れ込む。ばさっと、音を立てて舞い上がるスノーフレイク。シュウの身体の下で雪に埋まっているマサキが、その欠片に手を伸ばしながら云った。
「ああ、楽しかった」
「満足しましたか」シュウはマサキの身体を雪の中から引き上げた。
「もっと遊びたかったけど、雪遊びって思ったより体力を使うもんだな」
 手袋を外してマサキの手に触れれば、素手で雪を掴み続けただけあって、真っ赤に染まった指先は驚くほどに冷たくなっていた。ふと気付けばシュウの足も彼のことは云えない有様だ。長靴の隙間から入り込んだ雪が、靴下をすっかり濡らしてしまっている。
「手足が冷え切る前に家に入りましょう」シュウの言葉に今度のマサキは逆らわなかった。
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