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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

君にあげたいものがある
淫獄の宴と同時期にBOOTHで配布していたうさマサエロ絵に付けたおまけの小話です。
特にオチはありません。しかもこれからという所で終わります。笑

続きを欲しがると書くかもしれません。
<君にあげたいものがある>

 これは、と朝から用事があると云って出て行ったシュウが持ち帰った木箱に、マサキは尋ねずにいられなかった。
 久しぶりにシュウの家を訪れたにも拘わらず、しかもそれをかなり前から伝えていたにも関わらず、客人たるマサキを放置して数時間。帰って来たと思えばこれである。50センチ四方ほどの木箱。見た目は確かに普通の木箱であったものの、ただの木箱であったなら、マサキとてわざわざ尋ねはしなかったのだ。
 がさごそと音がする。
 マサキの質問にシュウは微かに笑みを浮かべてみせる。悪戯めいた笑み。何やらよからぬことを企んでいるのは間違いない。手に入れるのに苦労したのですよ。そう云ったシュウが木箱を括っている荷縄を解き始める。動いているものが入っているらしい木箱を、果たしてそう簡単に開けてしまっていいものなのか。マサキの不安は尽きなかったけれども、それを口にしようと決心した時には、既にシュウは木箱の蓋を開けてしまっていた。
 げ、とマサキは声を上げた。木箱の中に敷かれたおがくず。その中で蠢いている1メートルはあろうかという蛇のような生き物。せせこましい木箱の中をうねうねと動き回っているその生物の体表には、クリスタルのような円形の突起がいくつも連なっている。
「魔法生物ですよ。今でこそ、あれだけ豊富な種類と知性を蓄えていますが、使い魔作成の術式が確立されるまでは、こうした僅かな知性を与えた生物を助けとしていました。させられることには限りがありましたが、それでも人間生活を大きく助ける存在であったのには違いありません。使い魔の台頭に従って、殆どが処分されてしまいましたが、こうして生きている個体が残っているとはね。知り合いから借り受けたので、数日もすれば返さなければなりませんが、中々云うことを聞いてくれる“いい子”ですよ」
 へえ、とマサキは感嘆した。そう云われれば、自然界には存在しない一種独特でもあるグロテスクな外見にも納得がゆく。時折、きぃきぃと小さく鳴き声を上げているのは、環境の変化からだろうか。
 よくよく見れば愛らしくも感じられるようになってきた魔法生物を、更によく見ようとマサキは木箱の中を覗き込んだ。蓋を開けられたからといって直ぐに外に出てこないのは、知性の表れなのだろうか? 興味と関心は尽きそうにない。そんなマサキの心中を見透かすようにシュウは云った。
「触ってみてはいかがですか?」
 爬虫類的な肌は赤黒く、いっそうクリスタルのような輝きを持つ突起が目立ったものだ。もしかしたら目なのかも知れない。それらしい器官が頭と思しき部位にないのを確認したマサキは、想像も付かない感触に少しばかり躊躇いはしたものの、その身体を撫でてみることとした。
 そっと体表に触れてみる。じとりと生暖かく濡れた感触。きぃ、と声を上げた魔法生物は、頭を持ち上げてマサキを見るような素振りをみせた。良かったですね、あなたを気に入ってくれたようですよ。シュウはそう云って、何が可笑しいのか小さく声を忍ばせながら嗤った。
「この魔法生物はね、マサキ。人間の性欲を解消する手伝いをする為に作られたのだそうですよ。つまりは生きた大人の玩具です。ほら、喜んでいるでしょう。あなたの手伝いがしたくて堪らないようだ」
 マサキの手を伝って腕に絡まった魔法生物がきぃきぃとしきりに鳴き出す。何故だろう。マサキには魔法生物が、その鳴き声で何を伝えようとしているのかがわかってしまった。どうやら仕事をさせろと訴えているらしい。
 仕事。シュウが口にしたことが事実であるのであれば、この魔法生物がさせろと訴えている仕事というのは……冗談じゃねえよ。マサキはどう反応すればいいかわからない。しかもマサキが引き剥がそうにも、強い力でその腕にしがみ付くように絡み付いてしまっている。
 少しばかり愛嬌を感じてみれば、これだ。これまでシュウのやることが、マサキにとって穏便に済んだ試しはなかったものの、ここまで悪趣味な趣向にはそうそう出会えたものではなかった。
「やだって。絶対にやだ」
「そうは云われましても、この魔法生物はあなたを気に入ってしまったようですしね。このままでは引き剥がせそうにありませんし、一度くらいは使ってあげてはいかがです。そうすればこの魔法生物も気が済むことでしょう」
 きぃきぃ。鳴きながら、魔法生物は緩くカーブを描く頭をマサキの耳元に擦り付けてきた。じとりとした感触は、舌で舐られている感触にも似ている。しかも鳴き声が腰に響いて仕方がない。ほら、その気になってきたでしょう。揶揄うようなシュウの声に、マサキは観念した。一度だけだぞ。シュウと魔法生物。両者にそう云うと、腕に魔法生物を絡ませたまま不安と微かな期待を胸に。マサキは寝室へと向かった。


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