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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

夢の頂(5-前)
思い付いちゃったものはしょうがない!
鉄は熱い内に打て!

ということで、今回のシュウマサは「医者と傭兵」です。

このシリーズ、毎回、即エロをやろうと思ってるんですけど、結局前置きが長くなるんですよね!
次こそは即エロをしたいところではありますが、どうなることやら。

では、本文へどうぞ!
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<夢の頂>

 宇宙航路を往く戦艦の中にいた。
 コロニーからコロニーを渡る戦艦内は、そろそろ艦内時間で夜半を迎えるとあって、ひっそりと静まり返っている。
 傭兵であるマサキがこの戦艦に乗り込むことになったのは、それまで居たコロニーでの紛争が終結を迎えたからだった。ひとつの戦いが終われば次の戦いへと。戦地から戦地へと渡り歩くマサキのことを、人はその疾風の如き戦いぶりと掛けて|渡り鳥《マグトリー》と呼んだ。
 傭兵の戦いは必ず勝利を掴めるとは限らない。勝つ時もあれば、負ける時もある。それだけではない。時には不条理にも戦争の最中に解雇されることもある。先の紛争では無事に陣営を勝利に導けたマサキであったが、次の戦場ではどうなったことか。マサキは目的地であるコロニーで、新たに自分を待っている戦いを思った。
 議会と王族が対立するコロニー。軍と民衆は二つに割れ、日々各所で小競り合いを繰り返している。一見、旧体制と新体制の対立のようにも映るが、ことはそう単純なものではないようだ。マサキが事前に仕入れた情報では、議会は特権階級に居座り続ける王族の解体を求め、王族は民衆に圧制を強いる議会の解散を求めているのだという。詳細な情報は現地に入ってからの調査を待たねばならないが、現状、マサキとしては議会側につこうと考えているところだ。
 到着までは丸二日はある。
 その間にも情報収集を続けなければならなかったが、この戦艦に乗り込んでからのマサキの体調は良くない。先の紛争での疲労が残っているのだろうか? 動くのが億劫に感じられる倦怠感。今日に至っては、一日を|客室《キャビン》で過ごしてしまっている。
 このまま次のコロニーに到着したところで、思うように戦えはしないだろう。流行病でなければいいが――。自身の身体の不調を早急に治癒する必要性を感じたマサキは、艦に常設されている医務室へと向かうことにした。

 ※ ※ ※

 過労? と、言葉を返したマサキに、医師がええ――と頷く。
 ひと通りの検査を受けた後の呆気ないまでに単純な宣告に、マサキは脱力せずにいられなかった。戦地を渡り歩く渡り鳥は、時として危険な施設や地域に足を踏み入れることもある。先の紛争でもそうだった。レベル3の病理研究所。敵軍が制圧したその施設を開放する為に、建物近くで長時間に渡って戦闘を繰り広げた。
 あの施設の防疫機能に万が一の事態が起きていたら。マサキの懸念は尤もだった。
「しかし解放戦から一ヶ月は経過しているのでしょう。あなたが倦怠感を覚えたのはこの戦艦に搭乗してから。潜伏期間を考えれば、当該施設で扱っている細菌に感染したのではないのは明らかです」
 切れ長の眦。鋭い眼光とは裏腹に、物腰穏やかな男はそう云って、マサキの懸念を杞憂と一笑に付した。
「本当に俺のこれはただの過労なんだな」
「長らく過酷な環境に身を置いていたからでしょう。それが落ち着ける環境に移ったことで気が抜けた……良くあることですよ。深く気にすることではありません」
 なら、良かった。マサキはほうっと息を吐いた。もし何らかの細菌に感染していようものなら、病理研究所で扱っている細菌だ。同乗者たちも無事では済まなかっただろう。よしんば彼らが無事であったとしても、戦艦ごと検疫に回されていたに違いない。
「ところで、これからどうしますか。過労である以上、ここで出来る処置は点滴ぐらいですが」
「過労を早く治すにはどうしたらいいんだ?」
「規則正しい生活をし、きちんとした栄養を摂る――ぐらいでしょう。勿論この規則正しい生活というのは、無理に身体を動かさず、きちんと休養を取るという意味ですよ」
「点滴の中身は」
「栄養剤ですよ。人によっては効果が覿面に出ることもありますが、気休め程度だと思っておいた方がいいでしょうね」
「そうか」マサキは頷いた。「気安めでもいい。なるべく早く治したいんだ」
 いずれは身体が追い付かなくなって、傭兵生活を辞める日が来るだろう。そうでなくとも危険と隣り合わせの生活だ。大きな傷を負って、早期リタイヤを強いられる可能性もある。マサキとしては、稼げる場所がある内に稼げるだけ稼いでおきたかった。
 その為には切れ間なく戦場を渡り歩くしかない。
 自身の身体のコンディションを常に良好に保つことに敏感なマサキは、だからこそ点滴を受けることに決めた。
「なら、こちらへ」
 パーテーションで仕切られた奥にあるベッドに招かれたマサキは、そこで男の手で点滴用の針を手首に差し込まれた。「一時間ほどで終わりますよ」
 彼の言葉に頷いたマサキは、その背中がパーテーションの向こう側に消えるのを見送ってから、視線を白く高い天井へと向けた。少し休むことにしよう……程なくして身体を支配し始めた心地良い疲労感に、マサキは目を閉じた。


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