最後は全然チカとマサキではなくなりましたが、久しぶりにこのノリがやれて楽しかったです!
明日はLottaLoveか夢の頂を書こうと思います!
.
明日はLottaLoveか夢の頂を書こうと思います!
.
<或る日のチカとマサキ>
「つまりあなた方は私が所持しているマサキの写真を入手すべく、私の部屋に忍び込んだ――と」
シュウがゆったりとした動きで|両袖机《デスク》に腰を落ち着けるのを、諦めに近い感情を抱きながらマサキは見守った。
「その割には聞き捨てならない呼ばれ方をしていたようにも思えますがね、チカ」
「そ、そそそそんなことはございませんよ、ご主人様。あたくしこれでもご主人様の使い魔ですからね。使い魔の使命は主人のフォロー! 陰に日向に主人に仕えるこのあたくしの鋼のような忠誠心! 間違ってもご主人様のことをゲス野郎なんて呼びませんて!」
「あなたとは別口で話すことにしましょう」
主人に対する裏切りをあっさりと白状してみせたチカに、シュウは思うところがあるようだ。額に手を当て、暫し考え込む素振りを見せると、それで? と、部屋の中央で所在なく立ち尽くすしかないマサキの言葉を促してきた。
「私があなたの写真を持っていたとして、あなたはそれに何の不満があるのですか、マサキ」
「不満しかねえだろ!」
自らに対しては劣情の塊でしかないような振る舞いに及ぶ男の、さも自分に落ち度はないとでも云いたげな台詞に、マサキは反意を唱えずにいられなかった。
「お前のすることなんて碌な事じゃねえ! 夜中に俺の部屋に忍んで来るだけじゃなく、そのついでに人の大事な日記を盗み見る。それだけじゃ飽き足らず自分の日記に妄想を書き散らす。挙句の果てには俺に黙って俺の写真を何処からか入手してくるとか、どう考えても真っ当な目的の用途じゃねえだろ!」
「なら聞きますが、あなたはどういった目的であれば、私があなたの写真を所持していることに納得出来るのですか」
「そもそも持つなって云ってるんだよ!」
マサキはシュウの度を越した自分への執着心が怖ろしくて仕方がなかった。
何処かで迷ったと思えば彼の掌の上。虚仮にされているとしか思えない実験とやらに付き合わされる。だったら自宅に篭ろうと思えば、気紛れに人目を忍んで忍び込んでくる。そうした拘束から解放されてひととき安らぎを得たと思えば、自宅であられもない妄想を日記帳に書き付けている。場所も時間もお構いなしにマサキを構い倒してくる男は、果たしていつマサキから心を離しているのか。マサキには想像が出来ない。
「そうは云いますが、マサキ。あなたがこの写真を入手した経緯を聞けば、そういった口を利いてはいられないと思うのですがね」
「何だよ……入手の経緯って……」
「聞きたいですか?」目にするのも心臓に悪い悪魔の微笑みが彼の口元に浮かぶ。「聞かない方がいいと思いますが」
云いながらシュウが上着の内ポケットから分厚い手帳を取り出す。どうやらそこに写真を挟んでいたようだ。白く細い指先が開いた手帳から写真の束を取り上げた。
マサキは身を乗り出してシュウの手元を覗き込んだ。
判で押したように同じショット。場所は何処かの平原。サイバスターをバックに立つマサキは、カメラではない方向をどこか物憂げな表情で眺めている。背後に軍用テントが並んでいるということは、ラングラン正規軍との合同演習中の一枚だろうか。
「覚えがねえ。誰だ、この写真を撮ったのは」
それにしても、いつ撮られたのか覚えがない。マサキは首を捻った。
「合同演習に参加していた兵士ですよ」
「何の目的でだよ。演習の記録が必要だっていうなら、ひと言声をかけてくれりゃいいものを」
マサキの答えに何を感じ取ったか。シュウは顔を俯かせると、声を潜めて嗤った。お目出度い。直後には嫌味とも皮肉とも付かない言葉が洩れる。
「何だよ……だって、あいつらが俺の写真を撮る理由なんて他には何も」
途惑うマサキにシュウが諭すように言葉を継ぐ。
「あなたは知らないでしょうが、軍は圧倒的男社会ですからね。長く従軍していると、何処かにオアシスを求めたくなるようなのですよ。それ即ち、性的な|象徴《シンボル》という意味でですが」
予想だにしていなかった単語が飛び出した所為か。マサキは云われた言葉の意味を一度で咀嚼しきれなかった。何だって? マサキはシュウに問い返した。
「つまり彼らはあなたをセックスシンボルとして拝しているのですよ、マサキ」
「嘘だろッ!?」マサキは声を上げてシュウに詰め寄った。「お前、俺がわからないと思って適当なことを云ってるだろ!」
「この写真を撮った兵士に話を聞いたところ、彼はこの写真を五十枚は売ったそうですよ。一般女性兵の写真は三十枚も売れればいい方らしいですから、あなたの人気の高さが窺えますね」
同じ釜の飯を食い、時には死地をともにもした兵士たちの思いがけない裏の顔。セックスシンボルということは、シュウの手にしている写真は彼らに性的に消費されたということである。マサキは言葉を失った。見た目はどうということもないスナップ写真だけに、にわかには信じられない。
「信じる信じないはあなたの自由ですが、だからこそ私はこの写真を全て回収しようと決めたのですよ。そう、出来ればあなたには内緒でね、マサキ。そこのお喋りな使い魔の所為で台無しになってしまいましたが」
信じ難い話ではあるが、シュウの言葉には整合性がある。マサキは考え込んだ。
何よりマサキに強い執着を向けているシュウだ。他人にそういった目的でマサキが消費されるのを我慢出来る筈がない。そもそも、幾らシュウであろうとも、ただマサキを揶揄う為だけに、マサキの写真を何枚も焼き増すような真似はしまい。彼が出回った写真を取り戻そうとしているのは、手にしている写真の数でも明らかだった。
「あー……そりゃ、すまなかった……」マサキは鼻の頭を掻いた。「その、なんだ。ありがと、な……シュウ……」
「私に感謝をしているのでしたら、形で表して欲しいものですね」
はあ? マサキは目を剥いてシュウに向き直った。
「お前、相変わらず厚かましいな! 折角いい話で終わりそうだったのに、恩を着せにかかるんじゃねえよ! しかも形で表せ? 金でも寄越せってか!」
「まさか。もっとささやかなものですよ、マサキ。あなたの髪の毛を一本、それ以上の礼は要りません」
「髪の、毛……? 嫌な予感しかしねえ。お前、それを使って何をするか云ってみろ」
「ここに用意した人形に埋め込むのですよ」シュウは|両袖机《デスク》の引き出しの中から、粘土で作られた人型を取り出してみせた。「既に術を施した後です。ですから、それさえあれば、あなたを好きな時に意のままに動かすことが」
悪魔のような発想をする男の、悪魔のような宣告。真っ当な精神を持っていない男だと承知してはいても、不条理さに我慢も限界だ。マサキはシュウを睨み付けると、全身の力を込めて絶叫した。
「巫山戯ろ! 絶っっっ対に、やらねえからなあああああああああッ!」
結果、髪の毛に気を取られて写真を撮り返すことを忘れたマサキは、後日チカに「同じマサキの写真しか並んでいないアルバム」をシュウが作り上げたと聞かされて卒倒する羽目に陥るのだが、それもまた彼の深い愛情の為せる業。マサキ自身にとってはさておき、何だかんだで今日もラングランは平和なのである。
.
「巫山戯ろ! 絶っっっ対に、やらねえからなあああああああああッ!」
結果、髪の毛に気を取られて写真を撮り返すことを忘れたマサキは、後日チカに「同じマサキの写真しか並んでいないアルバム」をシュウが作り上げたと聞かされて卒倒する羽目に陥るのだが、それもまた彼の深い愛情の為せる業。マサキ自身にとってはさておき、何だかんだで今日もラングランは平和なのである。
.
PR
コメント