現在絶賛六勤中の@kyoさん。
今週、来週は六勤につき、殆どまともな更新が出来ないので、手慰みに例のシリーズの続編を。
白い文庫→続・白い文庫→赤い新書
ときたシリーズ最新作です。もう日記関係なくなってますけど、それはそれで!
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今週、来週は六勤につき、殆どまともな更新が出来ないので、手慰みに例のシリーズの続編を。
白い文庫→続・白い文庫→赤い新書
ときたシリーズ最新作です。もう日記関係なくなってますけど、それはそれで!
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<或る日のチカとマサキ>
「そういやマサキさん、知ってます?」
いつもであれば暇と見付けるなり誘いに来る仲間が、珍しくも誰ひとりとして訪れて来ない休日。マサキは風を通すのに窓を開いた自室で、柔らかな陽射しを受けながら溜まった雑誌を読み耽っていた。
そこに話し相手を求めて来たらしい。チカが窓から飛び込んできた。
マサキが座っている椅子とセットになっているテーブルの上にちょこんと陣取った彼は、暫くの間、主人と愉快な仲間たちの近況報告を切れ間なくマサキに聞かせてきたが、その反応が鈍いことに業を煮やしたようだ。不意に話を切ると、マサキの肩に飛び乗ってきた。
「何をだよ」
「うちのご主人様が、最近、あるものを手に入れたんですよ」
「あの不条理な機体をまたパワーアップでもさせるつもりか?」
「そういうものではないんですねえ」
羽根でくちばしを覆ったチカがうっふっふと含みのある笑い声を洩らす。
マサキは雑誌のページを捲った。
嫌な予感はしたものの、ある種生真面目が服を着て歩いているような男のすることである。それが仮に厄介事を生み出すだけのシステムだったとしても、迷惑を掛けないぐらいの対処を施した上で研究に使うことだろう。
万が一、不測の事態が起こったとしても、その被害を最小限で食い止めてみせるに違いない。そう、かつてゼゼーナンの企みを暴き、壊してみせたように。そういった意味では、マサキはシュウの研究者としての能力と善性に信頼を置いている。
だのにチカと来た日には、その話を嫌でもマサキに聞かせないと気が済まないようだ。何だと思います? 云って、気のないマサキの意識を自分に向けるように、耳朶をくちばしでつついてきた。
「一発で当てられたら、マサキさんの望みをひとつ叶えて差し上げますよ」
「大きく出るじゃねえか。そんなに意外なものなのかよ?」
「それを知ったマサキさんが何を望むかは、あたくしにも想像が付くものですからねえ」
マサキは読みかけの雑誌をテーブルに放り投げた。そして間髪入れずに肩にとまっているチカの身体を掴み取った。
「云え」目の前に掲げたチカの顔を睨む。
「えー? どうしよっかなー?」
おちょくっているとしか思えない口調。腹立たしいこと他ない。マサキは無言でチカを掴む手に力を込めた。ヒィ! 全身を締め付けられたチカが悲鳴を上げる。
「このままお前を握り潰してもいいんだぜ? あいつだってお喋りな使い魔からそろそろ解放されたいところだろうよ」
「い、いいいいいんですかッ!? 正義の味方の魔装機神の操者が使い魔虐待なんて!」
「お前が一匹いなくなったぐらいじゃ誰も困らないだろ。むしろ方々から感謝されるに違いねえ」
「返事になってない! しかもマサキさん本気ですね!? 目が据わってる!」
当たり前だ。マサキは更にチカを掴む手に力を込めた。まるでゴムボールのような弾力を感じさせる身体が、むに、と指の合間からはみ出してくる。お前……マサキは起こり得ない事態が起こったことに目を剥いた。
「おーほっほっほっほ! あたくし使い魔ですからね! このぐらいの圧力で潰されるようなやわな身体は」
ばん。マサキは反射的に床にチカの身体を叩きつけていた。
「な、何たる虐待! 動物愛護団体に訴えますよ!」
マサキは今まさに起き上がろうとしている最中のチカの身体をブーツで踏みつけた。むぎゅ。何とも気の抜けた声がくちばしから洩れる。
「潰れなきゃ潰れるまで踏み続けるだけだ。云え。何をあいつが手に入れたって?」
「……しん」
ブーツの下から小さく聞こえてきた声に、マサキは僅かに力を緩めた。その隙を逃すようなチカではない。ずるり――と這い出てきた身体が次の瞬間にはふわりと宙を舞う。
「写真ですよ、写真! 聞いて驚け! ついにマサキさんの写真を手に入れたんですよ、あのゲス野郎は!」
部屋の中を所狭しと飛び回りながら喚くチカに、マサキは椅子から飛び上がらずにいられなかった。
「冗談じゃねえええええええ! 何に使われるかわかったもんじゃねえ! 絶対に取り返す! 取り返すに決まってるだろこの野郎おおおぉぉぉぉおおおおおお!」
※ ※ ※
部屋を飛び回りながら喚き散らすチカをどうにかして捕獲したマサキは、件の写真を取り戻すべく、彼を引っ立ててシュウと愉快な仲間たちが隠れ住む|拠点《アジト》に向かった。どうやら以前、生活の拠点にしていた洋館は引き払ってしまったようだ。クラッシック一辺倒だった以前の住処と異なり、古めかしさと目新しさが同居する外観。両翼を広げるように建つレトロモダンな二階屋を、マサキは草むらに身を潜めながら遠目に眺めていた。
「冗談じゃねえええええええ! 何に使われるかわかったもんじゃねえ! 絶対に取り返す! 取り返すに決まってるだろこの野郎おおおぉぉぉぉおおおおおお!」
※ ※ ※
部屋を飛び回りながら喚き散らすチカをどうにかして捕獲したマサキは、件の写真を取り戻すべく、彼を引っ立ててシュウと愉快な仲間たちが隠れ住む|拠点《アジト》に向かった。どうやら以前、生活の拠点にしていた洋館は引き払ってしまったようだ。クラッシック一辺倒だった以前の住処と異なり、古めかしさと目新しさが同居する外観。両翼を広げるように建つレトロモダンな二階屋を、マサキは草むらに身を潜めながら遠目に眺めていた。
「あたくしに任せておけばいいものを」
「お前に任せて物事が上手く行ったことなんてあるかよ」
「でも、マサキさん。どうやって写真を取り戻すおつもりで?」
「だからそれは、あいつらが留守の内に忍び込んで」
はあ。とチカが大仰に溜息を洩らす。
「それで前回、どういった目に合ったかお忘れで?」
そう、マサキが彼らの拠点に忍び込むのは、今回が初めてではなかった。チカの口車に乗せられたとはいえ、シュウの日記という手にしただけでも呪われそうなアイテムの中身を盗み見みに向かった前回。確りと鍵のかかった意匠も見事な分厚い日記帳は、どうやらシュウが魔術でプロテクトをかけていたようだ。
マサキが触れると同時に開錠された日記帳。まるでこうなることを予想していたような仕掛けに、嫌な予感を感じながらもマサキが中を読んでみれば、そこには彼のめくるめく妄想が微に入り細に入り書き綴られていた――……。
「いや、待て。今回は俺の写真だろ。流石にそれを使ってどうこうなんてそんなこと」
「何せご主人様のすることですしねえ。写真の中のマサキさんが動き回ったとしても、あたくしは驚きませんが」
十指に及ぶ博士号を得られるだけの知力に、王位継承権を与えられたほどの魔力。才能に恵まれた男に不可能はないのだろう。彼の手にかかれば写真の中のマサキが動き始めるのも時間の問題だ。
しかし、その半面、彼は自分に益のないことに労力を使うことを厭う。
彼にとっての利益とは彼自身の興味や関心を満たすことも含むものであるとはいえ、だからといって写真の中のマサキを動かして、彼が利益を得られたものか?
「それを使って何をする……」云いかけた瞬間、マサキの脳裏に悍ましい想像が過ぎる。「あ、いや。云わなくていい」
「そりゃ勿論、(自主規制)するんじゃないですか?」
「云わなくていいって云ってんだろ! 何でわかってることを云うんだよ、お前は!」
「そりゃあ、あの日記を読めばねえ。飛んで火に入る夏の虫っつーか、マサキさんだって何だかんだ楽しんでるのがわかるっていうか。だのに否定するようなことを云うんですもの。だったら、あたくしだって意地悪のひとつやふたつ」
マサキの部屋の本棚にひっそりと眠っている日記。いつの間にか無礼にも夜中に忍び込んでくるようになった主人ともども中身を読んでいたらしいチカが、その内容に言及しかけた刹那、館の入り口からシュウと愉快な仲間たちが出てくるのがマサキの目に映った。
咄嗟にチカのくちばしを掴んだマサキは、彼らに気取られないように、気配を殺してその行く先を窺った。どうやら彼らは徒歩で街に向かうようだ。家の前の道を東に折れていった一行の姿が遠のく。マサキはチカを掴みながらゆっくりと草むらから這い出た。
「何しに出て行ったと思う?」
「さあ? 買い出しじゃないですか? そろそろ冷蔵庫の中身が怪しかったですし」
「何時間ぐらいで帰ってくるかね」
「サフィーネさんとモニカさんがウィンドウショッピングを始めなければ、一時間ぐらいじゃないですかね」
「それだけあれば充分だ」
マサキはチカをジャケットのポケットに突っ込んで立ち上がった。ひょいとポケットの口から顔を覗かせたチカが、大丈夫なんでしょうね? と、声を上げる。正直、一抹の不安が顔を覗かせるも、シュウの手元に自分の写真があると知りながら、それを放置しておくなど言語道断。
当たり前だ。強気に言葉を返して、マサキは館に向かって走り出した。
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