Twitterの画像が読み難い人用です。
シュウマサに外デートをさせたかっただけです、はい。映画とか美術館とか公園とかはさせたので(皆様のお目には触れてないですが、過去には遊園地デートもやってます)、もっとゴージャスなデートでもいいんじゃないのー?って感じで観劇にしたのですが、マサキが不憫ですねこれ。笑
ところでお前いつまでリハビリしてるんだって話なんですけど、今週が終わるまではのんびりとと思っていました。ところがそののんびりしている間に、また私、寝惚けて変なことをしでかしてしまったので、さてどうしたものか……もうこれ創作せずにちゃんと休むべきですかね……

シュウマサに外デートをさせたかっただけです、はい。映画とか美術館とか公園とかはさせたので(皆様のお目には触れてないですが、過去には遊園地デートもやってます)、もっとゴージャスなデートでもいいんじゃないのー?って感じで観劇にしたのですが、マサキが不憫ですねこれ。笑
ところでお前いつまでリハビリしてるんだって話なんですけど、今週が終わるまではのんびりとと思っていました。ところがそののんびりしている間に、また私、寝惚けて変なことをしでかしてしまったので、さてどうしたものか……もうこれ創作せずにちゃんと休むべきですかね……
<真夏の夜の夢>
珍しくも盛りにして涼しさが増していた夏のある日のことだ。
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珍しくも盛りにして涼しさが増していた夏のある日のことだ。
うららかな昼下がり。シュウが所有している住処のひとつで、マサキはゆったりとした時間を過ごしていた。ソファの上でくつろいでは、シュウと他愛ない会話を重ね、意味もなく点けているテレビを見ては、その内容にあれこれ考えを巡らすような。
その矢先に歌劇を見に行かないかと誘われたマサキは、あまりにも自分に不釣り合いな場所に、シュウがわかっていて巫山戯ているのではないかと思った。
そもそも学校の文化祭や芸術鑑賞会で披露される劇でさえ、途中で寝こけて最後まで見れたためしがなかった。しかも過程よりも結論を求めたがる性質なものだから、テレビドラマや映画でさえも展開が遅く感じられてしまって仕方がなくなったものだ。
根本的に物語を楽しむのに向いていないマサキに、それをどう期待すれば、大舞台で披露される芸術作品の鑑賞が務まると思えたものか。俺が歌劇って柄だと思うか。反射的にそう口にしていたマサキに、大丈夫ですよとシュウは微笑みかけてくる。
「大丈夫な訳ないだろ。そんなの途中で絶対に寝るに決まってる」
「どうしてもつまらなく感じるというのであれば、寝てくださっても構いませんが」
「なんだよ、それ。随分内容に自信がありそうじゃねえか」
「あなたでも楽しめると思っていますからね」
云いながらシュウは一冊の本を差し出してきた。重厚な皮表紙の本のタイトルは真夏の夜の夢。作者名はウィリアム=シェイクスピアと書かれている。
タイトルに聞き覚えはなかったものの、いかに文化的な知識に乏しいマサキであっても、流石に劇作家シェイクスピアの名ぐらいは聞き覚えがある。まさかこのシェイクスピアって――と、本を受け取りつつシュウに尋ねてみれば、そのシェイクスピアですよ。しらとシュウは云ってのけた。
「シェイクスピアの代表作と云えば何を思い浮かべますか」
「ハムレットだろ……後は、ロミオとジュリエットか」
「そう。他にもマクベスやリア王、オセロなどが有名ですね。重い話を創り出すのが得意な作家なのでしょう。現代に残っている作品には世の不条理を説いたものが多く、先ほどあなたが挙げたハムレットなどを含めた作品群は、シェイクスピアの四大悲劇などと呼ばれています」
「俺が楽しめる作品じゃないだろ、それ。いくらなんでも無理だ。間違いなく寝る」
どう優しく見積もっても、マサキが観劇していい作家ではない。歴史に名だたる作家シェイクスピア。著名な作家の創り上げた作品が、つまらないものである筈がない。極上のエンターティメント。そうでなければ、どうして現代にまで語り継がれる名作となったものか。
けれどもそれをマサキが理解出来るかとなると、それとこれとでは話が違ってきたものだ。
どれだけ厚かましい性格であるところのマサキであっても、多少は自分自身のことも把握している。飽きっぽく、気が短い。だからこそ、素直に自分がそういった世界に不向きであると云っているのに。それを聞いているのかいないのか。シュウはシュウで、どうあってもマサキを観劇に連れて行きたいらしい。最後まで話を聞きなさいと、ぴしゃりとマサキの言葉を封じると、歌劇の内容を説明し始めた。
「真夏の夜の夢はウィリアム=シェイクスピア作の喜劇です。『父の云い付けに背く娘は死刑』という古い法律を持ち出して、娘であるハーミアとその恋人たるライサンダーの仲を引き裂こうとする父イージアスに、自身もまたアマゾンの国のヒポリタとの結婚を控えているアテネ公シーシアスは、自分たちの結婚式が行われる四日後までに、イージアスが選んだ結婚相手であるディミートリアスと結婚するか、それとも死刑になる道を選ぶか決めるようハーミアに告げます。ここにディミートリアスに好意を抱いているヘレナや、妖精王オーベロン、その妻である女王ティターニア、そして悪戯好きな妖精パックが絡むことで、それぞれの男女の関係がより入り組んだものとなるのですが、さて、ではこの先彼らはどうなってしまうのか――と聞いたら、あなたでも少しは興味が出てきませんか」
「だから無理だって云ってるだろ。喜劇つっても、俺が思うような喜劇じゃないだろ。何だよ父の云い付けに背く娘は死刑って。そんな無茶な法律があるかよ」
「だから喜劇だと云っているでしょうに」
そしてシュウは本を膝の上に乗せたままのマサキに対し、壁に掛けてあったラングラン式の礼服を渡して来た。ずっとおかしいと思ってたんだよ。云ってマサキは盛大に顔を顰めた。シュウのものにしてはサイズが小さい礼服が、何故壁に掛けられていたのか。その答えを知ったマサキは、どうすればシュウが気を変えてくれるかと考えを巡らせて、少しもしない内に頭を垂れた。
「着替えて劇場に向かうには丁度いい時間ですよ、マサキ」
一度こうと決めたことは絶対に譲らない男なのだ。有無を云わさないシュウの言葉に、マサキは仕方なしと観劇に付き合う決心を固めた。膝の上の本をソファに置く。寝ても文句を云うなよ。云いながら礼服を片手に立ち上がると、それは勿論と歌うような調子でシュウが云う。
機嫌を良くしたのだろう。他人の前では決して見せない歓びに満ちた表情。眦《まなじり》を細めて笑みを浮かべているシュウに、マサキは、現金な男だ――と呟いて、礼服への着替えを済ませるべくリビングを後にした。
タイトなスラックスにチェスターコートといった趣きのジャケット。タイこそないものの、太いバンドでジャケットの前襟を留めているからか、胸元が窮屈に感じられて仕方がない。そもそも、全く着る機会のない礼服に袖を通しただけでも落ち着きを欠こうというものだろうに、普段は雑にブラシを入れる程度の髪の毛までも、どうせだったらとシュウによってセットされてしまっている。それに加えてこの座席だ。マサキはシュウと揃って足を踏み入れた劇場の前から数えた方が早い座席の位置に、内心、生きた心地がしなかった。
タイトなスラックスにチェスターコートといった趣きのジャケット。タイこそないものの、太いバンドでジャケットの前襟を留めているからか、胸元が窮屈に感じられて仕方がない。そもそも、全く着る機会のない礼服に袖を通しただけでも落ち着きを欠こうというものだろうに、普段は雑にブラシを入れる程度の髪の毛までも、どうせだったらとシュウによってセットされてしまっている。それに加えてこの座席だ。マサキはシュウと揃って足を踏み入れた劇場の前から数えた方が早い座席の位置に、内心、生きた心地がしなかった。
舞台のみならずオーケストラをも間近に見渡せてしまう舞台正面席。これでは寝たくとも寝られない――むしろ寝てしまおうものなら、連れであるシュウの沽券に係わる事態になりかねない。上流階級の人間と思しき人々が客として陣取っている特等席《プレミアム》。シートに身体を収めたマサキは、その座り心地の良さに驚きながらも、パンフレットに目を落としているシュウを横目に、そりゃあこんなにいい席を手に入れたら舞い上がりもするとひたすらに長い溜息を洩らした。
いくらマサキが観劇の世界の事情に疎くとも、シュウがプラチナチケットの争奪戦に勝ったことぐらいは理解出来ようもの。どれだけの金額を支払ったのか想像だにしたくないが、金銭感覚の異なる男がしでかすことだ。マサキが想像する金額の倍、もしくは三倍。下手をすれば桁が違う可能性すらある。しかもそれを2シート分。さしたる贅沢をしないマサキとしては、そんな席に果たして自分が座っていていいものかと気が気ではない。
あまりにも落ち着かないものだから、この席にかかった金額をシュウに尋ねてみるべきかと思いもしたものだが、それは流石に無粋に過ぎる。
そもそもマサキを誘うつもりで取った席かも不明なのだ。幅広い人脈を誇る男。もしかするとそういった相手と行くつもりで取った席やも知れない。それが何某《なにがし》かの理由で叶わなくなってしまった……充分に有り得る可能性に、尚の事圧し掛かってくる重圧《プレッシャー》。だったらひとりで来るべきだった、などとシュウに思わせてしまわないようにしなければ。マサキは落ち着かない気持ちを鎮めるべく、違う話題を口にすることにした。
「しかしお前が喜劇を見るなんてな。何かこう、もっと格調高い内容のものを見るんじゃないかって思ってたもんだが」
「シェイクスピアで好きな歌劇を上げろと云われれば、マクベスかリア王ではありますが、衆俗的なエンターティメント性に溢れているという意味で作品をひとつ上げろと云われれば、真夏の夜の夢を選びますね」
「面白いと感じてるのかそうじゃないのかわからない表現をしやがる」
「それは勿論。面白いと感じないものを見るのにあなたを誘いはしないでしょう」
ほら、と手にしていたパンフレットを渡されたマサキは、何も知らずに見るよりかは作品に対する造詣が深まるやも知れないと、膝の上でそれを開いて目を落とした。シェイクスピアの功績から始まり、真夏の夜の夢の公演の歴史、そして今日の出演者や楽団がどれだけ有名かを書き立てるパンフレットは、紙質に拘った重厚な造りの外見ではあったものの、中身としては至ってオーソドックスな記事構成だった。
「映画のパンフレットとそう変わらないんだな。もっと難解に書かれてるもんだと思ったが」
「映画にせよ劇にせよ娯楽ですからね。気を張って観るものではないでしょう」
「そうは云ってもな。ドレスコードを求められるようじゃ、一般大衆向けじゃないだろ」
「娯楽とは非日常を愉しむものですよ。だからこそ余所行きの服を着て普段とは異なる世界に浸る。今となっては娯楽も日常的なイベントのひとつとなってしまいましたけれど、かつての娯楽とは、それこそ事前に準備をして行うに値する本当のイベントであったのですよ」
娯楽ねえ。マサキはそう呟いて周囲を見渡した。特等席《プレミアム》には相変わらず大元の生活様式からして異なるとしか思えない客層が顔を並べている。マサキのような人種はそもそもこういった場に興味を持たないのだろう。持ったとしても特等席《プレミアム》を手に入れられるだけの財力がないに違いない。上質な衣装を優雅に着こなし、上品な言葉遣いをネイティブに使いこなす人々は、オペラグラスや扇子を片手にゆったりとシートに身体を収めて開演を待っている。いかにもな佇まい。そういった場にぽつんと置かれてしまっては、いかに隣にシュウが居るとはいえ、マサキにも思うところは出るものだ。
「日々社交に精を出しているような連中ばかりな気がするけどな」
「相変わらず口が悪い」
云いながらも気を悪くした様子もなく、むしろ面白がってすらいる様子でシュウはふふ……と笑ってみせた。
「今日の歌劇は完全公演なのですよ。だから客層がいつもと比べると上質になっているのです」
「完全公演?」
「シェイクスピア劇に限った話ではありませんが、娯楽が限られていた時代に創られた劇というものは、基本的にどれも上演時間が長いものなのですよ。ですから現代でそれを上演する際には、冗長なシーンをカットしたりして、上演時間を短く収めるようにしているのです。現代人はタイトなスケジュールの中で生活していますからね。娯楽も巷に溢れていますし。真夏の夜の夢で云うのであれば、冒頭のアテネ公シーシアスに父イージアスが願い出るシーンや、六人の職人の話し合いのシーンなどは、カットされやすいシーンとして知られています」
「それも今日はやるって?」
「そうですよ。しかもこのキャスティングにオーケストラですからね。それはこれだけの客層が集まりもするものです」
マサキは盛大に顔を顰めた。聞けば聞くだに無事に済みそうにない。
そもそも映画ですらまともに最後まで見れたためしのないマサキに、映画を見るくらいの気軽さで見ればいいなどと、ここに来る道すがら云ってのけた男なのだ。マサキがどれだけ観劇に向かない男なのかなど、常識の異なる世界に住む男。考えも及ばないに違いない。不安しかねえ。思いがけず口を衝いて出た言葉に、休憩時間もありますから大丈夫ですよと、シュウは相変わらず余裕綽綽といった態度だが、果たしてそれもどこまでもったものか。
「……寝ても絶対に文句云うなよ」
「あなたが寝てしまったら、それは私の人選が悪かったということです」
上演開始のブザーが劇場内に響き渡る。気を楽になんて見れるもんか。マサキは気を引き締めて、徐々に暗くなる劇場の中。これから幕が開く舞台に姿勢を正して向き直った。
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