リクエスト作品です。リクエストはYOUTUBER白河の世界でデートするシュウマサでした。
<YOUTUBER白河番外編 冬のデート編>
シュウがマサキに行きたい場所がないかと尋ねてきたのは、結婚してから半年以上が経ったある日のことだった。
どういった風の吹き回しかと意図を尋ねてみれば、シュウ曰く、デートの誘いなのだという。
確かに、結婚してからというもの、シュウとマサキは偶のカフェに出るぐらいしかデートらしいデートをしていない。一緒に出掛ける回数は増えたが、それは食料品だのの買い出しといった『ふたりの生活に必要な用事』だ。それがこの半年の動画にも表れていたのだろう。『先生、結婚したことで甘えてない?』と、最近、ちらほら視聴者から攻撃的なコメントを書かれるようになったのだという。
「だからデートをするってか? それって本末転倒じゃ……」
「勿論、私がしたいからするのですよ。そうでなければあなたに行きたい先を尋ねたりもしないでしょう」
本当だろうか? マサキは首を傾げた。
流石に結婚当初の意味不明なマサキフィーバーは治まっていたものの、シュウが動画投稿を中心とした生活をしているのは相変わらずだ。日課のショート動画に、週に一度の長編動画。そして、月に一度のライブ配信。企画から撮影、編集まで全てひとりでこなしているシュウの原動力が何であるかマサキはわからないが、彼が立ち上げたマサキを演者としたチャンネルが、今ではひとかどのカップルチャンネルになっているのは動かし難い事実である。
マサキはシュウほどチャンネルをチェックしてはいないが、シュウから聞かされたところによると、ついに登録者が百五十万人を突破したらしい。よくよくおかしな連中だと思いながら、久しぶりに携帯型小型端末《PDA》で動画のコメント欄を開いてみれば、成程、確かにシュウが口にした通りのコメントがちらほら見受けられる。
「余計なお世話だと思うんだけどなあ」
マサキは溜息混じりに携帯型小型端末《PDA》を閉じた。
彼女らがマサキの心配をしてコメントしているのは、流石に鈍感なマサキにもわかる。とはいえ、余所の家庭のことなのだ。どう感じたところで、本来は黙っておくのが筋ではないだろうか。
「放っておけばいいんだよ、こういうのは」
マサキはソファの隣でマサキの返答を待っているらしいシュウを見上げた。
「あなたは私とデートをしたくないのですか、マサキ」
「そういう訳じゃないけどよ」
シュウが彼女らの言葉で自分を省みたのは悪い傾向ではないと思うが、かといって、他人の言葉がなければデートも出来ないような関係にはなりたくない。そもそも――、と、マサキは結婚前に思い描いていた結婚生活を思い返した。自分はただシュウとともにいられればそれだけで良かった筈だ。
だからこそ、こう思う。
彼女らが期待するように、何処かに改めて出掛けるだけがデートではない。日々の買い物も立派なデートだ――と。
あのよ。と、マサキはシュウに向き直った。そして、『既に充分なデートの回数をこなしている』という自分の考えを素直に伝えた。
「だから俺としては特に行きたいところもないんだよな。お前が一緒にいればいいっつーか……」
成程。と、頷いたシュウが宙を仰ぐ。
「しかし、マサキ。私が舞い上がり過ぎていたのは事実ですからね。その甘えを払拭する為にも何処かに行きたくはあるのですが」
「お前が行きたいところはないのかよ。それだったら付き合うぜ」
「それでしたら、冬を感じられる場所に行きましょう。ラングランはいつでも温暖な気候ですから」
どこか弾んでいるようにも感じるシュウの声からして、彼がマサキとデートをしたかったのは間違いなさそうだ。マサキはシュウの手元に目を落とした。そして、早速、携帯型小型端末《PDA》で候補地を探し始めているシュウに、いつ行くつもりなんだ? と、笑いかけた。
※ ※ ※
どういった理由をセニアに述べたのかは不明だが、地上に出る許可が取れたとシュウが告げてきてから三日後。
※ ※ ※
どういった理由をセニアに述べたのかは不明だが、地上に出る許可が取れたとシュウが告げてきてから三日後。
シュウとともにサイバスターで地上に向かったマサキは、北海道の上空にサイバスターを待機させ、寒さ厳しい北の大地に降り立った。電車を乗り継いで向かった先は小樽。観光地であるからか。宵闇に包まれつつある街中はまだまだ人で賑わっている。
「流石に寒いな」
防寒対策を施しても身に染みる寒さに、マサキは隣のシュウを振り仰いだ。寒さを微塵も感じさせない涼しい表情。頬に色が出ない性質であるようだ。白磁を思わせる白い肌が雪積もる街並みに溶けている。
「この時間からデートって何処に行くんだ」
片手にGoProを掲げて知った顔で道を往くシュウに肩を並べながら、マサキは尋ねた。北海道に行くことは聞かされていたが、その先の予定については当日のお楽しみですよ。と、教えてくれなかったシュウ。見た目に似合わずサプライズが好きな男に、期待は限りない。
駅前から長く伸びる中央通りを真っ直ぐ歩いてゆくと、目に飛び込んでくる電飾。イルミネーションに青く染まる川に架かる橋の上に、観光客が溜まっている。川べりには石造りの倉庫の群れ。どれも古い建物ばかりで、ノスタルジックな雰囲気に満ちている。
「今日はこの小樽運河をクルーズします」
「これ、運河なのか。ライトアップが凄いな」
「青の運河と呼ばれているそうですよ」
コートのポケットからパンフレットを取り出したシュウが、マサキに渡してきながら言葉を継ぐ。
「北海道開拓の玄関口であった小樽では、運搬作業を効率的に行う為に運河を作ったのだとか。完成は大正12年。今はもう用途がなくなりましたが、こうして当時のままに残されているのだそうです」
「へえ、大正時代の建物と運河か」
パンフレットによれば、運河沿いに並ぶ街灯はガス灯であるらしい。云われてみれば、確かに明かりの灯り具合が違う。淡く光を滲ませている街灯のぼんやりとした明かりを横目に、橋を越えてクルーズの発券場に向かう。
既に予約を済ませていたようだ。あっさりと発券を済ませたシュウとともに船の乗り場に向かったマサキは、桟橋に停泊しているクルーズ船に乗り込んだ。シュウから聞いた話によると、クルーズのコースは橋の下を抜けるものであるらしい。船の屋根が低い造りになっているのはだからなのだろう。背の高いマサキとシュウにとっては、少なからずせせこましく感じる座席ではあるが、鮮やかなイルミネーションを特等席で見られるのだ。多少の不自由は甘んじて受け入れる。
「もう既に見える景色が凄ぇ」
「ですね。視界がこんなに青いのは、初めてかも知れません」
運河沿いに帯となって連なる青いイルミネーションが、ガス灯とともに川面に映り込んでいる。さながら光の洪水といった様相だ。視界いっぱいに広がる青いイルミネーションに瞳を細めながら、マサキはシュウとともにクルーズ船の出発を待った。
――本日は乗船いただき有難うございます……
ややあって、聞こえてくるガイドのアナウンス。座席が程よく埋まった頃合いを見計らって、クルーズ船は約40分の航行に出発した。
※ ※ ※
すっかり闇に染まった空にライトアップされた倉庫群が浮かび上がる運河。運河のクルーズを終えたマサキは、運河沿いに通っている散歩道をシュウと歩いていた。周囲には同じ目的と思われる観光客の姿。スマホを片手に歩く人々の足元に、ガス灯の明かりで生じた影がぼんやりと浮かび上がっている。
※ ※ ※
すっかり闇に染まった空にライトアップされた倉庫群が浮かび上がる運河。運河のクルーズを終えたマサキは、運河沿いに通っている散歩道をシュウと歩いていた。周囲には同じ目的と思われる観光客の姿。スマホを片手に歩く人々の足元に、ガス灯の明かりで生じた影がぼんやりと浮かび上がっている。
「寒いけど綺麗だな」
「大正時代の残り香を感じますね」
運河を背景に歩くマサキをGoProで捉えているシュウ曰く、クルーズ船での映像は動画には使用出来ないらしい。きちんと料金を取ってアトラクション化しているものであるのだから、当然だ。私の個人的なコレクションにします。と、笑いながら云い切ったシュウに苦笑しつつも、趣き溢れる散歩道を歩んでゆく。
「今度はイルミネーションがない時期に来たいものですね」
「それはそれで面白そうだな」
運河に架かる橋から橋までの間を歩ききったマサキは、先導するシュウに続いて橋に上がった。運河クルーズはマサキたちが乗った便で最終だったようだが、イルミネーション自体はまだ続いている。橋の欄干に凭れてスマホを掲げる人々を横目に、今度は倉庫の前に伸びる通りに入る。
「何処に行くんだ?」
「今、これらの倉庫はレストランや酒場、美術館などに転用されているのだそうです。流石に美術館は営業を終了していますが、レストランはこれからが書き入れ時ですからね。食事とお酒を楽しむことにしましょう」
向かったのは年代を感じさせる赤レンガ倉庫を再利用したレストランだ。かつての倉庫名が書き入れられたままになっている鉄扉を潜り抜け、中央が吹き抜けとなっているホールに足を踏み入れる。しっとりとした和の空間。二階席にぐるりと取り囲まれる形となるホールの隅にあるテーブルに身体を落ち着けたマサキは、早速とメニューブックを取り上げた。
「やっぱり北海道に来たからには魚だよな。あとカニ」
茹でズワイガニにホタテの鉄板焼き、そして寿司。それぞれ二人前ずつ頼んだマサキは、シュウよりも食べる自分の為に、うどんと焼き肉、そしてハイボールを頼んだ。シュウは珍しくもビールで済ますようだ。このメニューならビールの方が美味しく飲めそうですから。などと口にしながら、直ぐに届けられたグラスの泡を啜っている。
入店時に撮影許可を得ていたのは知っている。マサキはGoProを向けてくるシュウに向かって、ハイボールのグラスを掲げた。
「うめぇ」一口飲めば、久しぶりの酒が喉を潤す。「外で飲む酒って旨いんだよな」
「まるで家で飲む酒が美味くないような台詞を吐きますね」
小食な割には食に対する拘りの強いシュウは、酒に対しても強い拘りをみせた。ワインにリカー、ビールにしてもそうだ。柔らかい口当たりで度数の強いものを好む。
そういった自分好みの酒を大枚叩いて新居に揃えているシュウからすれば、自身のコレクションを否定されたような気になったのかも知れない。少しばかり面白くなさそうな表情をみせると、豪快にビールを飲み干していった。
「そうじゃねえよ。宅呑みには宅呑みの、外呑みには外呑みの良さがあるって話じゃねえか」
「云いたいことはわかりますよ」シュウがビールのグラスを傾ける。「ただの国産ビールがこんなに美味しく飲めてしまう」
「そういうことだろ。このなんてことないハイボールだって旨く感じちまう」
「それが悔しいのですよ。家に置いている酒に安くない投資をしているというのに」
「お前、あれに幾らかけてるんだよ」
「さあ? あなたに比べれば安い金額ですよ」
酒に詳しくないマサキでは価値がわからないと思っているのだろう。口元を緩めたシュウが惚けた台詞を吐く。
とはいえ、いつだかのホームパーティにやってきたベッキーを筆頭とする酒飲み軍団が、酒瓶を前に唸っていたくらいである。かなりの有名どころが揃っているのは間違いない。
「巫山戯ろよ」マサキは笑った。
あの時のシュウは結婚後初のホームパーティのホストということもあって、気合の入り方が尋常ではなかった。家の飾りにしてもそう。料理にしてもそう。とてつもない金額になった費用に、領収書の数々を見たマサキは驚いたのだが、「余っている金を使っただけですよ」と、涼しい顔でいた。
「てか、お前は宅呑みの方が好きそうだよな。いつも俺と家で呑んでばかりだし」
「外で飲むのも好きですよ」
「そうなのか? その割には外で呑んだ記憶が少ねえ」
「それはそうでしょう」早くもテーブルに並び始めた料理にGoProを向けながら、さらりと「あなたの酔った姿を他人の目に晒したくないのでね」
「独占欲が強え」
「当たり前でしょうに。あんなに可愛い姿をどうして他人に見せられたものか」
シュウの台詞に呆れ返ったマサキは、気まずさを押し隠すようにテーブルの上に目を遣った。
鉄板の上でぐつぐつと煮えているホタテ、白い湯気を立てているズワイガニ、そして、北海道の選び抜かれた海鮮を使用した寿司。焼き肉とうどんはテーブルで火を通すようだ。たまんねえな。マサキは声を上げて、早速と寿司を口の中に放り込んだ。
「旨い。カジュアルな店にしちゃかなりの味だ」
「流石は北海道といったところですね」
「よーし、食うぞ」マサキはセーターの袖を捲った。「食って飲んで腹いっぱいになって帰る」
※ ※ ※
膨れた腹を抱えて店を出たマサキは、シュウと肩を並べて夜の小樽の街を歩いていた。
※ ※ ※
膨れた腹を抱えて店を出たマサキは、シュウと肩を並べて夜の小樽の街を歩いていた。
運河沿いの大通りから少し街中に入った通りは、飲食店が多いこともあってか、道幅の割には人の流れが多い。
「どこに行くんだ? 駅はあっちだろ」
「折角小樽に来たのですから、もう少し小樽を味わってから帰りましょう」
車の排気ガスが空気を白く染める中、駅に向かわないシュウにまだ寄る場所があるのかと思いながら、マサキはシュウについていく。と、ややあって見えてくる洋風喫茶風の建物。格子状に柱が通った扉を目の前にして足を止めたシュウに、脇に小さく立っているメニュー看板を見てみれば、どうやらバーであるらしい。
「まだ飲むのかよ」
ほろ酔いの身体はすっかり温まってしまっていて、少々の寒さはものともしない。だのにまだ呑むつもりでいるらしい。笑みを浮かべたシュウが扉を潜る。
「俺はいいぞ。サイバスターの操縦があるからな」
「目的はお酒ではないのですよ」
「なら、なんだよ」
カウンター席に並んで二人で座る。カジュアルな内装。バーらしくグラスの並んだ棚を目の前に、シュウがメニューを広げる。
もうそろそろ21時を迎えようというのに店内は盛況で、方々のテーブルから賑やかな声が聞こえてくる。このパフェをふたつ。シュウが店主に告げる言葉を耳にしたマサキは、甘いものをそこまで好まない男の意外なオーダーに目を瞠らずにいられなかった。
「お前、パフェ食うのかよ」
「北海道では〆にパフェを食べるのがお決まりのルートなのだそうですよ」
「本当か?」
「本当ですよ」
頷いたシュウが店内に顔を向けた。
マサキも倣って顔を向けてみれば、確かにどのテーブルにもパフェが並んでいる。どれも細身のグラスに盛られている辺り、デザートとしてがっつり食べるというよりは、パフェの雰囲気を軽く味わうといった様子であるようだ。
「面白い文化でしょう? ですから一度、経験してみたかったのですよ」
「経験してみたい、はいいけど、お前はこれを食い切れるのか?」
マサキは不安を隠せなかった。
何せシュウは食が細いのだ。先程の店でもマサキの三分の一も食べていない。少しの酒と寿司のみで食事を終えたあとは、延々マサキが食べる姿をGoProで撮っていただけ。それもこのパフェの為と思えば納得がゆくが、加えて甘いものも得意ではない性質である。
「食べきるより先に飽きがくるんじゃねえの?」
「そうなったらあなたに食べてもらいますよ」
「人を残飯処理係にするんじゃねえよ」
食が細い自覚はあるようだ。マサキに肩を小突かれたシュウがメニューに載っているパフェの画像を指差す。
「このサイズ感からして、私でも食べきれるとは思いますが」
とはいえ、こと食となると信用のおけない男の台詞である。不安は拭えない。
「最悪、俺に寄越せよ。このぐらいのサイズならまだ入る」
そこでパフェが完成したようだ。どうぞ。と落ち着いた店主の声とともにパフェが差し出される。
マサキはカウンター越しにパフェを受け取った。そして早速一口味わった。
栗を使用した柔らかい味わいのパフェ。じんわりと滲み出てくる栗の甘味が舌を満たす。これなら二人前でも食べきれそうだ。マサキは店主に許可を取ったらしいシュウが自分の分のパフェを映している中、黙々とパフェを食べた。流石はシュウが選んだ店のパフェだけあって美味い。
「これ、美味いな」
「そうですね。上品な味がします」
とにかく量を求めるマサキに対して、シュウは味を求める男だ。何を食べるにしてもじっくり時間をかけて味わう。
「もう少し食べますか?」
呆気なく空になったグラスに手持ち無沙汰になったマサキは、ゆったりとした所作でパフェを味わっているシュウを眺めた。それが物欲しそうな視線に映ったのだろう。シュウがスプーンに乗せたパフェをマサキの口元に運んでくる。
「もう食ったぞ」
「食べさせたいのですよ」
マサキは口を開けた。きっとこれも動画で流されるのだろう。そう思いながら、口の中で溶けるパフェを飲み込む。
「〆にパフェって聞いたときはどうかと思ったが、こうして食べてみるといいもんだな。酒で火照った身体が程よく冷める」
マサキは笑った。
眩いばかりの青い光に包まれた幻想的な運河に、美味い飯とデザート。最高だったな。そうシュウに告げれば、シュウも深い満足を得たようだ。「今度は泊まりで来ましょう」と、マサキに微笑みかけてきた。
※ ※ ※
それから一週間後。
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それから一週間後。
ついにアップされた日帰りデート小樽編の動画を視た視聴者たちは、思惑通りであるのかないのかは不明であるが、シュウへの攻撃の矛先を収めたようであった。「お泊まり編はよ」とのコメントで埋め尽くされたコメント欄。ちなみに動画で一番再生された箇所は、シュウがマサキにパフェを食べさせているシーンであったらしい。
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