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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

send my love 2020
レポの為にメモを取っていたら結構な量になってしまって(しかもまだ半分しか見ていないんです……)、驚くことしきりです。まだ時間がかかりそうですみません。
 
そういや思い出したんですけど、SFC版EX発売後、おかめ&ひょっとこ仮面ってユーザーアンケの上位だったらしくて(ゲーム雑誌で読んだ記憶が)、私も大好きだったので、LOEでの活躍を期待していた口だったんですが、出なかったなあと……続編でもやっぱり出ないんですかね?
ああいうノリが好きなんですよね。
<send my love 2020>
 
 乗合馬車を乗り継いで半日。マサキがようやくゼオルートの館に帰り着くと、今となってはこの館の女主人として、その管理の一切を任されるまでになったテュッティが、呆れ果てた表情で玄関に迎えに出てきた。
「急にシュウと一緒に暮らすと言って、服だけ持って出たと思ったら、今度はここに住ませろ。あなた、勝手にもほどがあるでしょう。ねえマサキ、こちらにもこちらの都合があるのよ。まあ、そんなことになるかも知れないと思って、あなたの部屋の家具はそのままにしてあるけれど」
 一気呵成にそこまで言い放つと、そこでようやくテュッティは館の中にマサキを招き入れてくれた。ひと足先にリビングに飛び込んでいく二匹の使い魔とは別れ、鞄を片手に、マサキはかつての自分の部屋に向かう。
 階段を上がって、左手に折れた突き当たり。長く馴染みながらも家具の一切を置いて、シュウと一緒に暮らすために出て行った部屋。その床の上には何個かのダンボールが置かれていた。
「私の部屋に入りきらない荷物を、少し置かせて貰っているのよ。大体、あなた。乗合馬車の待合所から、当日になって連絡してくるなんて遅過ぎるのよ。これでも他の荷物は減らしたんだから。ただ、このダンボールだけはね、どうしても置き場が」
「客室に置けよ。空いてる部屋ばかりだろうよ」
「皆が泊まりに来るついでに、自分の私物を置いていくのよ……ベッキーが使っている客室なんて酷いものよ。トレーニング器具に酒樽。クローゼットまで持ち込んでるのよ。その割にはここに住もうとはしないんだから。全く、客室をこれ以上減らす訳にもいかないし、明日は大掃除だわ。手伝いなさいね。
 それはそれとして、紅茶の準備をするわ。寒かったでしょう、マサキ。服の片付けが終わったらいらっしゃい」
 そう言い残して、テュッティは階下に降りていった。
 部屋を見渡して、マサキはふう、と息を吐いた。荷物置き場にされていた割には、家具の傷みも少なければ、埃っぽさやカビ臭さもない。きっとテュッティが偶に風を通したりしてくれていたのだろう。
 ベッドには真新しいマットレスと布団が敷かれている。急ぎ用意してくれたに違いない。
 ダンボールを邪魔にならない位置に寄せ、マサキは鞄を開いた。僅かに持ち出しただけの量の衣類は、床に広げて選別するまでもないぐらいで、そのままクローゼットとタンスに収めるだけで済む。さあ、今日からはまたこの館の住人となるのだ。マサキは衣類を片付けながら、ひとつずつシュウとの思い出を振り切っていった。
「そうは言ってもね、あなた絶対にまた向こうに戻るのよ」
 ダイニングで紅茶を飲みながら、シュウとの同居を解消するに至った理由をマサキがテュッティに話して聞かせれば、それが当然とばかりに彼女は言い切り、面白くなさそうに口を尖らせた。
「賭けてもいいわよ。そうやってこれまでも何度も喧嘩を繰り返してきたのだから」
「ないだろ、流石に。もう二度と会うこともない、まで言われてるんだぜ。俺がどう思っていようが、あいつはもう」
 そこで不意に涙腺が緩んだ。ずうっと家に溜まりに溜まっていた荷物の片付けに追われていた。誰かに何かを相談することもなく決めた同居の解消。それが意味することをマサキは、深く考えることなくここまできてしまったのだ。
「馬鹿ね、マサキ。あなたはそうやって、肝心なときに肝心なことを、私たちに相談してくれないのだから」
 マサキの頬を伝う涙を、席を立ち上がったテュッティが拭う。子どもの相手をするように、マサキの横にしゃがみこんで、ただ涙を流し続けるマサキの顔を見上げている。マサキはそんなテュッティの肩に顔を埋めた。瞬間、嗚咽混じりの涙がどっと溢れ出す。
「大丈夫よ、マサキ。ちゃんとね、シュウはわかっているのよ。わかっていて、一端、あなたと距離を置く決心をしただけよ」
 |二匹の使い魔《シロとクロ》は、マサキのプライベートな事情に余計な口を挟みたくないのだろう。リビングの暖炉の前で、微睡みの中。泣くだけ泣いて、少しだけ心が軽くなったマサキはその様子を窺う。「おい、お前ら腹は空いてないのか。ミルク、温めるぞ」
 乗合馬車を待つ間に、「喧嘩相手《チカ》がいニャくニャったんだニャ」と、ぽつりと寂しそうに呟いたのを最後に口を利いていない。二匹の使い魔は、だるそうに目を開けると、「後でいいニャ」とまた眠りに落ちてしまった。
「寂しいのでしょうな」
「我々もこの下等生物がいなくなったときは、暫く何もする気が起きなかったほどで」
 テュッティの|二匹の使い魔《フレキとゲリ》は、何をするでもなく、寄り添うようにその傍らに伏せた。気を遣わせてしまっている。マサキはふたりだけの問題だと思っていた関係が、思った以上に大勢に関わってくる問題であることに気付いて、申し訳なさにいたたまれなくなった。
 翌日は館の大掃除。そんな気持ちを振り切るように、テュッティとふたりで物置の整理をし、不要物を廃棄した。マサキの部屋のダンボールをその空いたスペースに運び込む。そしてテュッティは自身の部屋の片付けを、マサキはすっかり魔装機操者たちの物置場と化してしまった客室の片付けに向かった。
 マサキが各客室にある彼らの私物をそのひと部屋にまとめ、テュッティが自身の部屋の不用品の選別を行う。大掃除だけあって、やってもやっても終わらない。ようやくふたりでひと心地着けたのは、昼下がりも大分過ぎた頃。
「雪がまだ溶けないかしらね、今日は来客がなさそうだわ」
「昨日も誰も来なかったもんな。なんだかな。俺が帰ってきたってのに」
「あなた、そういう都合のいい考え方をするのは相変わらずなのね」
 更に翌日。ようやく空に晴れ間が見えた。館の前に積もりに積もった雪をマサキは掻き出しに出た。こんな力仕事は久しぶりだ。男ふたりの同居生活は、それだけマサキの負担を減らしてくれていたのだ。
 これがテュッティ相手ではそうはいかない。彼女の細腕でやれることには限界がある。その手伝いが当たり前だった生活が、かなり昔のことになってしまっていたのだと、簡単に悲鳴を上げる腕にマサキは思う。
 四匹となった使い魔は、やっと昔のようにじゃれあう姿を見せるようになった。雪に埋もれるようにして、庭の片隅で跳ね回るその姿を眺めながら休んでいたマサキは、さて続きを――と、スコップを持ち上げた。
 とにかく門から玄関扉に続く道を作らなければ。
 一度、二度、三度……足元の雪を見据えて掻くこと少し。雪を踏む音。マサキの目の前の積もりに積もった雪に、影が差した。見覚えのあるシルエットに、マサキは顔を上げて、
「どうしたんだよ、もう二度と俺とは会わないんじゃなかったのか」
「チカが寂しがるのですよ。話し相手がいないとね」
 素直になれない物言いをするのは、喧嘩の後のシュウのいつもの癖だ。マサキは泣き出したくなる気持ちを必死に抑えて、二歩、三歩とシュウに近付いた。「だから言ったじゃないの」背後から呆れ返った様子のテュッティの声がする。
 過ぎてしまえば、どんな不幸もよき思い出に変わるものなのだ。
 シュウの手がマサキの腕を引く。雪に足を取られそうになりながらも、マサキはその手に導かれるがまま、シュウの腕の中に収まった。その背中に手を回す。滲む涙で視界が利かない。
 冷えた身体の温もりが布越しに伝わってくる。「帰りましょう、マサキ。あの家に」囁くような声が、たった一日の別れだったにも関わらず懐かしくて仕方がない――。マサキは黙って頷いた。
 
 
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