昨日、妹が泣きながら家に電話をかけてきた。
話を聞いたら、仕事の上司が物凄いダメ人間で、4年の間にバイトが30人辞めて、社員も5人辞めるような30超えても人が育てられない馬鹿だった。バイトも社員も長くいつかない。昨日も怒ったバイトが途中で帰ってしまったらしい。自分が思うように仕事が進まないと怒り始める人らしく、それでいて見て覚えろだの、俺のやり方でやれだの、おまけに誰がどこまでやることなのか仕事の範囲も把握出来てないような、あんた何で会社にいられるの?と思わずにいられないような人だった。
見て覚えろってそれで俺のやり方に従えってもう超ダブスタなんですけどー?
上も問題は把握しているようだけれども、数字だけは出せる人らしく、それで今のポジションにいるらしいけれども(数字が出る営業所を回ってるだけなんじゃないの?と思わなくもない)、人的被害をそれだけ出してて何も起こらない筈がなく、上の人に妹が辞めたら辞めて貰うと言われている状態。妹が昨日ついにブチ切れて、課長に直訴したらしく、今日はお偉方がわんさか来るのだとか。少しでも状況が改善されればいいなと思う。
定年退職しても尚元気な親父は「俺がバイトに行って矯正してやろうかな」と始まった。あんた元気過ぎだよwwwww流石、ビール瓶割って、刺すか刺されるかのヤクザと同僚の喧嘩を「やってらあ」と平静で眺めていられる人間は違う。姉妹で家を出て独立して暮らすと決めた時に、いざってときはこれで戦えとゴルフクラブを寄越すような父親だ。潜って来た修羅場の分だけ人は肝が据わるものだ。
バイトと上司に挟まれているからだろう。妹は家事が全く手に付かなくなったようだ。出来ないときは家に帰って来なさいと言った。家では休み休みだけれども、私が家事をやっている。その負担が減ればまた違うだろう。私のリハビリにもなるからね!
身内の事情ですみません。
妹に何を言われたかとかの記録とっておけ、と言ったのだけれども、本人に余裕がなさそうなので、一応記録代わりに。勝気な妹があれだけ参るってどれだけ俺様なんだろうと思ったもので。
以下は前回の続き。
半年にも及ぶ教育という名の隔離期間を終えたマサキは、東部セクションMのブロック1に”配置”された。日常生活を営む生活スペースは、もっとせせこましい部屋を想像していたものの、自習用の机や椅子の配置もあったからだろう。8畳の二人部屋と、充分な広さだ。同室になったのは、元同業者の”ナオヤ”。女受けする端正な顔立ちの、一見優男に見えるナオヤは、マサキと同業者だっただけあり、表裏激しい性格だ。
「ここで3年も過ごすのか。やってらんねぇ」
「いきなりかよ、ナオヤ」
それは監理局の配慮だった。地上においても相当なゴシップでもって報じられた事件に発展した彼らの稼業は、知己の友人がいなければ、即座に特定されかねないという。純粋培養の試験管ベビーや、事故、事件で親を失った子らと同室にしてしまっては、即座に特定されかねないほどに世故に長けた彼らは、だからこそ出身セクションこそ違うものと書類上処理されていたが、同室にされたのだ。
「やってらんねぇ。折角稼いだ金も没収されちまうし」
「その分、今度は監理局とやらが出してくれるだろうよ」
「それだって雀の涙の補助金だろ?」
溜息とも呻きとも取れない声を上げて、ナオヤはベットに転がった。割のいい稼業は、同年代のバイトに明け暮れる子らと比べて、遥かに大きい収入を彼らに与えていたからこそ。
「贅沢な暮らしを夢見てたんだけれどな」
「俺は妹と一緒に、普通の生活が出来れば充分だけれどもな」
一人っ子のナオヤと異なり、マサキには妹がいた。プレシアと名付けられたその子が、どのセクションにいるかマサキは知らない。妹の手を汚させまいと、そして十分な生活と教育を与えたかったからこそ、マサキはその稼業に手を染めた。決して褒められた稼業ではなかったけれども、その仕事は兄妹二人が暮らす分には、充分な稼ぎを与えてくれた。
「ああ、そうだったな。お前には妹がいたんだったっけ。教育課だっけ? あれもこれも言うな忘れろって言われ続けられたものだから、すっかり忘れちまってたよ」
地上でマサキたちがいたのは”キッズガーデン”という施設だった。民間経営の施設は、非合法であったけれども、エルドラドに行きたくない子供たちにとっては、これ以上とない楽園だった。中には親の都合で預けられていた子供たちもいただろう。だからこそ、長く当局からお目こぼしを受けてきた施設でもあった。
そのキッズガーデンの子供たちは、エルドラドがそういった施設であったからだろう。卒業までに間違いを起こされては、折角の人口管理プログラムに綻びが出る……どうやら監理局は、そして国際科学連盟は、本気でそう考えていたらしかった。男と女に分けられた彼らは、そうしてそれぞれに教育を受けたのだ。
プレシアにも随分会っていない。
マサキはマサキで陰鬱な気分になる。狩りで捕獲されてからの数か月間、それからエルドラドへ送られてからの半年間。考えてみれば一年間近くも妹に会っていない。
そのささやかな幸せの貯蓄たれと、マサキは”仕事”に励んできたというのに。
「元気でいるといいな」
そこに響き渡る館内放送を告げるアラート。館内放送は、ブロック1の子供たちに、これから行われるらしい交流会のために、全員、集会場フロアに集まるように告げて切れた。
荷物の移動だなんだで、通路ですれ違いはしたものの、これが実質的に初めての試験管ベビーたちとの対面である。「ちゃんと襟を正した方がいいかね?」与えられた制服を崩して着ているナオヤは、呑気にもそうマサキに尋ねて寄越した。
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