秘めたる純情(2)
差し向かいで話をしていたのだったら、どれだけ心を救われただろう。チカに背中を向けているモニカは、既にベット身体を休めつつあったらしいシュウの手を取って、それは切なげな吐息を洩らしながら、その間近に顔を寄せつつ、
――元とはいえ、私とて王家の女です。
少し動けば口唇が触れ合う程度の距離にある自らの主人とモニカの頭に、そして、普段は冷静沈着な主人の怜悧な眼差しに、ありありと浮かぶ困惑の色を見取って、チカは思わず羽根で自らの顔を隠した。
――はしたない行為とはいえ、嗜みはございます。
それはシュウをもってして、幼少期に植え付けられた心理的外傷を思い出させずにいられなかったのだろう。まだ、自分が生まれていなかった頃の話とはいえ、小耳に挟んだことがある王家の風習は、チカをもってしても口にするのを憚られる類の醜聞だったし――ましてや、王家をグラニア、或いはグラザールと尊号する一般人には理解が及ばないものに違いなかった。
――好きな方と交情を交わせぬまま、嫁ぐことなど出来ません。
誰に助けを求めるべきか――やはり、ここはテリウスであるべきだろうか……チカは逡巡した。王位よりも恋情を取った元王女は、邪神崇拝、そしてその換生の咎を負わされ、王位継承権を剥奪させられても尚、シュウの側に居たがった。その好意を包み隠そうともしなかったにも関わらずの気まずさは、彼女がそれ以上の熱情をもって、シュウと向き合っていたからに他ならない。
そして、その決意が、昼間のイヴンとの会合の内容によるものだということにも気付いてしまったからこそ。恐らくは、事情を知る貴族か王族に連なる者との縁談を勧められたのだろう。王位継承権を剥奪されたとはいえ、元王女。縁続きになって損はないと考える輩がいない筈がない。むしろ、歳月を重ねるごとに、しとやかに、あでやかに、育ちゆく彼女を欲しがらない男がいない方がおかしかった。
――お願いします、シュウ様……。
羽根の隙間から覗き見れば、明らかに青褪めた主人の面差しがある。表情こそ冷静を努めていたけれども、平静さを欠いているのは明らかだ。
僅かにモニカが動く。
呼気が感じられるほど端近に、その口唇が近付いた刹那、どれほどの困難にも屈強に、そして冷静に立ち向かっていった筈のシュウは、その身体を片手で振り払ったのだった。
「あなたには、慎みが足りない」
そして乱雑に立ち上がると、茫然とした表情で振り返るだけとなったモニカを尻目に、部屋を出ると、シュウは応接間へと姿を消したのだ。
わかってはいましたが、この文体にすると時間がかかって仕方がない。楽なものを10万字も打ってりゃそら簡単には単語も思い浮かばなくなりますよね(;´・ω・)久しぶりに辞書と睨めっこしながら文章を打ってしまいました。
ところで、長編のあれやこれはPDF化した方がいいですかね?その方がリーダーではしおりがはさめますし、ブラウザでは章単位でスキップ出来ますし……色々弄った結果、その方が読み返したい人にとってはいいかな、と思ったのですがいかがでしょう?
(なぜなにの移動を考えていまして、あれなんかはモロスタイルシートの影響を受けるものですので、いっそPDF化してしまった方が規格的に楽なのかな、と思いまして……)
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