今日は猫の日です。
なので、気合いを入れてマサキの猫化ネタを書こうとしていたのですが、仕事の関係上、まとまった時間が取れず。私にしては滅多にない超SSとなりました。やっただけ褒めてください。笑
なので、気合いを入れてマサキの猫化ネタを書こうとしていたのですが、仕事の関係上、まとまった時間が取れず。私にしては滅多にない超SSとなりました。やっただけ褒めてください。笑
<Paraphilia.EX>
大事なことを忘れていた、と云ったのだ。
ロリータファッションで喘がされてから、数日後。今年のシュウの誕生日をどうにか祝い終えたマサキは、これで来年までこの手の苦行とはおさらばだと安心しきっていた。だから、日をそう開けずに訪れた彼の家で、いつものように怠惰に一日を過ごすべくソファで寝そべっていたところに、紙袋を手にした彼が姿を現しても特に警戒心を抱くことはなかった。
「大事なことを忘れていたのですよ、マサキ」
そう云って渡された紙袋。「何を忘れてたって?」受け取りながら、流石に感じる嫌な予感に、マサキはどうにかしてその紙袋を開かずに済む方法を考えたものの、「中身を見ればわかることですよ」と云われてしまえば、気にならずにいられない。かくて、マサキはその紙袋を、自らの直感を裏切って開いてしまったのだ。
開いてしまってから、盛大に後悔した。
昨年の悪夢再び、とばかりに詰め込まれた猫化セット。ファー製の猫耳カチューシャに、口が裂けてもどう装着するか云いたくない尻尾。肉球付きの手袋もあれば、レザー製の首輪もある。恐ろしいのは、同じようなセットに見えて、色が全く異なっているところである。そう、シュウは、昨年のセットでは飽き足らずか、新たに今回マサキに着せる為に、全部の品をわざわざ買い直しているのだ。
幸いなのは、下着を着せるつもりはあるらしく、紙袋の一番底にボクサーパンツが入っていたことである。
尤も、そのボクサーパンツはOバックだったけれども。
それでも局部を晒さずにいられるだけましだ。ついにマサキの気持ちを慮るようになったのかと、マサキが顔を上げてその表情を窺ってみれば、シュウは相変わらず何を考えているのか読めない笑みを浮かべている。
「地上の暦で今日が何の日か知っていますか?」
「今日? 今日は何日だっけ」
「二月二十二日ですよ」
「何か特別な日だったっけかな……」
目の前で口を開けている紙袋の中身の存在も失念して、マサキは今日という日の意味を考えてみたものの、それらしい記念日は思い浮かばない。訝しく思いながら、再びシュウを見上げてみれば、「あなたの|使い魔《ファミリア》の日ですよ、マサキ」
「もしかして、猫の日か」
その通り、と歌うようにシュウが答える。けれどもそう答えを聞いても、マサキには納得がいかないまま。「どういう理由で猫の日になったんだ?」由来が気になったマサキが興味本位で聞いてみたところ、単純に「2=にゃん」が三つ並ぶからという理由なのだとか。
馬鹿々々しい。マサキは手にしていた紙袋を膝の上に放り出した。
「粗雑に扱わないでいただけますか。今日のあなたの為に用意した衣装なのですから」
「これは衣装とは云わねえだろ! 俺、ちゃんと調べたからな。SMグッズじゃねえかよ。それにな、年に一度だから付き合ってやってるってのに、この間の今日でまた着ろ? お前、俺をなんだと思って――」
そう云いかけた直後、身を屈めたシュウの口唇がマサキの口唇を捉える。そして僅かに口唇を舐めて離れた。短い口付けは、けれどもマサキの虚を突く効果は抜群だった。「こういうことだと思っていますけど」言葉を失ったマサキに、シュウはしらと云ってのけたものだ。
「大丈夫ですよ、マサキ。あなたが思うようなことはしませんから」
「お前のその言葉ほど、信用ならないもんはねえんだよ」
マサキは紙袋の中に手を差し入れると、猫耳の付いたカチューシャを取り上げた。それをシュウの目の前で振りながら、「このぐらいなら付けてやってもいいけどな。他は絶対に嫌だ」
「全部セットでないと意味がないでしょう。少なくとも尻尾ぐらいは付けて欲しいものですね、マサキ」
「それが一番嫌なんだよ! 何で紐とかで吊り下げるタイプの尻尾にしないんだよ。こっちの気にもなれよ。ずっと中に挿《い》れておかないといけないんだぞ。下手に力むと抜けそうになるし。そんな変な気を遣うのは年に一度だけで充分だ」
「来年はちゃんとした衣装を用意しますよ」
「その代わり下着に穴が開いてるんだろ。お前が考えそうなことはお見通しだって」
「下着もちゃんとしたものを用意します。ですから、マサキ」
そこで考え込んでしまう自分の性格が、シュウを付け上がらせ、ひいては良くない結果を招いているのだ。わかっていても、毎年の碌でもない衣装から逃れられる好機《チャンス》。そんな餌を目の前にちらつかされて、どうして考えずに済ませられようか。
「本当に、ちゃんとした衣装を用意してくれるんだろうな」
カチューシャを紙袋の中に収める。そしてマサキは立ち上がると、着替えをするべく寝室に向かおうとした。
「その代わり、ひとつだけ追加のお願いがあります」
満足げにシュウが嗤う。それはこれ以上となく愉しげに。
この笑顔は碌なことを考えていない笑顔だと、マサキが気付いても時既に遅し。
結果、丸一日。マサキは猫の格好で、「にゃん」以外の言葉を吐くことを、シュウに禁じられるという屈辱を味わったのだった。
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