旅行しているところが見たい?
それはまた後程のお楽しみ、ということで、短いですが今年のバレンタインはこれにて終幕です。
終わりが不穏な感じではありますが、来年で完結の予定ですので、続きはそれまで気長にお待ちください。
後程、pixivに上げた際にまたアンケを取ろうと考えていますので、もし宜しければそちらもご協力いただければと思います。では、本文へどうぞ!
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後程、pixivに上げた際にまたアンケを取ろうと考えていますので、もし宜しければそちらもご協力いただければと思います。では、本文へどうぞ!
<すれ違いのSt.Valentine.>
求められるのに悪い気分はしない。けれども場所が場所。目的地に付いてからならまだしも、そこに向かう車内で人の気配に感じながらとなると、さしものマサキにも躊躇いが生まれた。けれども耳に、首筋に、そして取られた手にと、繰り返し愛撫を仕掛けられ続ければ、情欲も煽られようもの。
髪に、頬に。会えなかった時間を埋めるように触れてくる手が、抗う気持ちを打ち消してゆく。とはいえ、あまり大きな声を上げる訳にもいかない。マサキはなるべく声を殺して、そんなシュウの愛撫を受けた。
一等客室だけあって、そこそこの広さのあるベッド。ふたりで寝るのには狭いくらいだったが、身を重ね合うには充分に足りる。脱がされた服が床に溜まっていくのを横目で眺めながら、マサキは何度も襲い来る快感に身体を震わせた。胸に、腰に、腿に。紅斑が浮かび上がってゆくのが手に取るようにわかるほどに、シュウの口唇がマサキの肌を吸う。吸っては舌を這わせる。その都度、マサキは堪えきれない声を口から洩らした。
「挿《い》れてもいい、マサキ?」
微かに呼吸を乱しながらシュウがそう問いかけてくる頃には、マサキの気持ちと身体は存分な高まりをみせていた。
断る理由などどこにもない。一も二もなく頷いたマサキの腰を抱えたシュウが、その男性自身を双丘の奥へと埋めてくる。ゆっくりと動き出す腰に止め処ない快感を覚えたマサキは、シーツを掻きながら。次第に頻度を増してゆく自らの喘ぎ声を抑えるべく、口元を手で覆った。
指の合間から、熱い吐息が零れ落ちる。
息苦しさの下で確かに息衝いている快感が、時に激しくマサキを攫う。不自然な恰好で喘がせられながら、マサキは目を細めて自分を征服しているシュウの顔を盗み見た。額いに僅かに汗を浮かべながらも、満たされた表情でマサキを見下ろしている顔を。
やがて、マサキの口元からいっそう熱い吐息が吐き出される。その次の瞬間。マサキは大きく腰を跳ねさせながら、自らの精を放っていた。
列車で一泊、ホテルで二泊。サイバスターを置いての計三泊の旅行は、マサキにとっては命の洗濯とも云うべきき時間となった。
列車で一泊、ホテルで二泊。サイバスターを置いての計三泊の旅行は、マサキにとっては命の洗濯とも云うべきき時間となった。
勿論、急な社会情勢の変化や重要な任務の依頼があれば、マサキはいつでも戻るつもりでいたが、ホテルに着いてから旅行に出ていることをセニアに伝えたからか。セニアはそれで、マサキが任務にミオを同行させろと云った理由を察したようだ。そしてマサキの旅行という珍しい事態に気を遣ってもくれたらしい。「そういうことだったらゆっくりしてきなさいよ」かんからと笑って云った彼女から、急な連絡が来ることはなかっった。
そのお陰もあって、マサキはシュウとのびやかに旅行を楽しんだ。
滅多にない機会だからだろう。シュウはタイトなスケジュールでマサキを方々へと連れ出した。滝に洞窟、創建数千年を誇る神殿。ロープウエイに乗り、山の頂から町を見下ろしもした。町にある店で地元名産の食材を使った料理や酒を味わいもしたし、ホテルのラウンジで絶景を臨みながら、ティータイムをを楽しみもした。シュウとどこかに行く機会のないマサキにとっては、どの場所も楽しかった記憶しかない。
サイバスターを駆って、東へ西へ。気紛れにラングラン国内を訪ね歩いたマサキだったけれども、ひとりで巡る観光スポットは、それはそれで深く趣を感じられはしたものの、やはり寂しいものでもあったのだ。
その感動を分かち合える相手がいる。たったそれだけのことで、目の前の景色は大きく姿を変える。
マサキはこの旅行でそのことを知った。
「来年はどこに行きましょうか」
帰路は直通の高速列車で六時間ほど。旅行の間に少しずつチョコレートを食べていたシュウの手元に残されたチョコレートは残り一枚となっていた。それを列車のラウンジで食事のついでに食べきったシュウは、旅行の間、余り頁の進まなかった本を片手にそう尋ねてきたものだ。
当然のことながら、そのにはマサキが作ったミサンガ製の栞が挟まれている。早速とばかりに使われている栞を見るのは悪い気がしない。マサキは幸福を噛み締めていた。
「俺はどこでもいいよ。お前が選んでくれるなら、どこでも。結構、ひとりで色んなところに行ったけどさ、今回は知らない観光スポットばかりだった。だから、まだまだ俺が知らない観光スポットって多いんだな、って。それだったら行き場に困ることもないだろ。
それに、お前と一緒なら、俺は行ったことのある場所でも楽しめだろ。ひとりで見る観光スポットも楽しいけれど、その楽しさを共有できる相手っていないじゃないか。たったそれだけのことかも知れないけれど、それって重要なことなんだって、今回の旅行でわかった気がする」
「なら、来年もその期待に応えられるようにしましょう」
「無理はしなくていいぞ」
「あなたも。多忙な生活の合間にこれだけの物を作るのは大変だったことでしょう」
「それはいいんだよ。それも楽しかったしさ……」
あっという間の計三泊の旅行。来年の行き先がどこであろうとも、それは今回と同じか、それ以上に楽しいものとなるに違いない。考えただけでも気持ちが逸る。マサキは今更に、獲得した幸福の大きさを噛み締めていた。
楽しい時間が過ぎ去るのはあっという間だ。ラウンジから指定席へ戻り、読書を再開したシュウの隣で、マサキは仮眠を取ったり窓の外の景色を眺めたりしながら、残り僅かとなった旅行の時間を過ごした。時にシュウと会話をしつつも、何事もなく穏やかに過ぎていく時間。気持ちが洗われるというのは、こういったことを指すのだろう。
その視界に映る車窓の景色が、徐々に馴染み深いものへと変わって行く。巨大な森を抜け、平原を往き、見知った町の中へ――……ゆっくりと迫りくる巨大な駅。三泊の非日常は、終着駅を迎えたことで終わりを告げる。
「あなたは直ぐに帰る?」
行きと同じ駅の別のホームに滑り込んだ列車から、荷物を手にシュウとともに降り立つ。日常に帰ってきたことに物寂しさを感じているのはマサキだけではなかったようだ。駅のホームに立ったシュウが、手にしていた本をバッグに収め直しながら、マサキに尋ねてくる。
「もし、時間があるなら、少しゆっくりして行きませんか」
断る理由などない。マサキは一も二もなく頷いて、シュウの後に続いてホームを出ようとした。
その瞬間だった。
「あれ、マサキさん」
会いたくない訳ではないが、今顔を合わせる訳には行かない相手。階段を下りかけたところでかけられた聞き覚えのある声に、マサキは盛大に顔を顰めた。そこに居たのは紛れもなく、ザシュフォード=ザン=ヴァルハレビア。間が悪いというより他ない邂逅に、マサキは全ての厄が降りかかってきたような気分になった。
「まさか、今、旅行から帰ってきたところですか」
「そのまさかだよ。悪いか」
「僕にとってという意味であれば、悪いんじゃないですかね?」
相も変わらずの世を拗ねているような台詞に、マサキはひたすらな溜息を吐く。一体、長距離運行をする列車が出入りをしているホームに何の用なのか。しらと恨み言を云ってのけたザッシュは、そのまま視線を滑らすとまじまじとマサキが手にしている荷物を見た。
「何だよ」
「いえ、僕らへのお土産はないのかと」
「ねえよ。何を期待してるんだよ、お前は」
ひとりに配ると、自分もとなる連中ばかりの魔装機操者全員に土産を用意して、あれこれと詮索されては堪ったものではない。シュウとの仲はそう大っぴらに出来る関係ではないのだ。
根気よくミサンガ作りに付き合ってくれたミオと、寛大にも旅行を許してくれたセニアには土産を用意したものの、それだけ。確かに、ザッシュには旅行前の昼食の借りがあったが、それはリューネとの今後についてのアドバイス料である。土産まで用意してやる謂れはない。だからこそすげなく扱えば、ザッシュはザッシュで思うところがあるのだろう。「冷たいですよね、マサキさん」と、彼にしては珍しくもはっきりと云ってくれたものだ。
「幸せのお裾分けぐらい、用意しておいてくださいよ」
「お前、何の用でいるのか知らねえが、ここで油を売ってていいのかよ」
「まだ時間はありますしね」ザッシュは腕時計を確認して、「次の列車を待ってるんですよ。知り合いが赴任先から戻ってくるのを迎えに来たんです」
何にせよ厄介な相手に見付かってしまったものだ。待ち人来たるまでまだ時間のあるザッシュは、そう簡単にマサキを離してはくれないだろう。さて、どうしたものか――とマサキが思案しながら、ザッシュと話を続けていると、マサキとシュウの呼ぶ声。
彼は彼で思うところがあるようだ。少し階段を下りた先で待っていたシュウは、待ちかねたのか。マサキの元に上がってくると、当然のようにその傍らに立つ。旅行に出たとしか思えないシュウのいでたちに、マサキとひと揃いのリング。それでザッシュは全てを悟ったようだ。
「ああ、成程。そういうことですか……」
子犬のような人好きのする笑顔が、マサキには悪魔の微笑みのように映って仕方がない。それでも衆人環視の中でマサキを詰問したりしないのは、流石良家の子息たる振る舞いだ。ザッシュはさっとマサキの耳元に口を寄せると、「そういうことなら僕は退散しますよ。でも、マサキさん。後で詳しく話を聞かせてくださいね」
「絶対に御免だ。話すようなことはねえよ」
「口止め料ですよ、口止め料。僕の恋路の参考にするんですから、詳しく聞かせていただかないと」
そしてザッシュは簡単に去り際の挨拶を述べると、振り返ることなくホームへと上がって行った。その背中がマサキの視界から消える。ザッシュのこと。他人に云って歩くようなことはないだろうが、厄介なことになったのは間違いない。
「いいのかよ、お前。あいつ絶対にわかってるけど」
「そうですね」シュウはそこで何が面白いのか、笑った。「まあ、いずれはこうしたことも起こるとは思っていましたよ」
「気にならないのか」
「私は気にしませんよ。ただあなたがね。面倒事になるは目に見えていますし」
「なら、いい。お前が気にしないっていうなら、別に」
覚悟を決めきれる話ではなかったけれども、相手はザッシュ。大事にはなるまい。そう考えてマサキが云えば、その言葉の意味をどう取ったのだろう。シュウはマサキの手をそうっと握ってくると、そのまま。人目も気にせず、マサキの手を引いて階段を下り始めた。
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