ということで、リクエスト第三弾です!今回も絵でリクエストを頂いております!
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嫌そうな顔をしているマサキということで、今回は少し時間を巻き戻してお送りします。私の書く白河はマサキに首ったけ(死語)なのですが、今回もそれが爆発したお話になってしまいました。頂いた絵ではこんなにクールな白河なのに……!
拍手・感想有難うございます。喜ばしく感じております!
そのひと手間が私の日々の活力です!
と、いうことで、早速本文へどうぞ!
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<彼は、舞い降りた>
他者が美しいと認める人間というものは、総じて自らの美しさに自覚があるものだ。
彼らは赤子の折より、その美しさを褒めそやされて育つ。そもそも赤子という存在は、母親の愛情を受けられるようにと一様に愛らしい顔立ちしていたものだが、彼らの愛くるしさはその中でもひと目でわかるほどに抜きんでていたものだ。後に美の覇者となる彼らは、そうして生まれた時からその特別な容姿でもって他者を魅了し、だからこそ、その評価は稚さが抜けても変わらぬまま、彼らの自信を支え続けてくれるものとなった。
成長期を経た赤子の大半は、家族以外における容姿の評価に変化が生じてゆくのを、辛く感じることもあっただろうが、彼らに於いてはその法則は当て嵌まらない。いついかなる年代に於いても、常に美しいと評価され続ける彼らは、人々の賞賛と羨望を一身にその身に受けながら成長を続けるからこそ、美しさという概念の意味を他の誰よりも知っている存在なのだ――。
ラングランより遥かに離れたシュテドニアとの国境近くの都市を歩いていたシュウは、辺境の地であるが故にシュウの本名と顔を知らぬ者たちが、擦れ違い様に自らに無遠慮に投げかけてくる視線の意味に気付いていた。
ラングランより遥かに離れたシュテドニアとの国境近くの都市を歩いていたシュウは、辺境の地であるが故にシュウの本名と顔を知らぬ者たちが、擦れ違い様に自らに無遠慮に投げかけてくる視線の意味に気付いていた。
物心が付いた頃から晒され続けてきた視線。感嘆の溜息を洩らす者もあれば、感想を口にする者もあった。握手を求めてきた者もあれば、隠れて写真を撮る者もあった。そうした己の容姿の優れたさまに、シュウは当然ながら自信を持っていた。幼い頃から賞賛を浴び続けてきた己の容姿。それで自信がない方が他者に対して失礼にあたったものだ。
だからこそシュウは、彼らに意識を向けずに歩き続けていた。今更に彼らの賞賛に物思うことなど何もない。シュウは一部の優れた容姿の持ち主たちとは異なり、自己陶酔《ナルシシズム》に浸れる性格ではなく、冷静に己の容姿を分析出来る審美眼に優れていた。上を見始めたら際限がないとはいえ、世の中には更なる美しさを持った人間が存在していたものだし、そもそもシュウとしては、自らの本質である知能の評価に影響を与えかねない己の容姿には含むところがあった。
表面的な美しさに果たして何の意味があったものだろうか。それが結果として後光効果となって、さしたる技術や知識を持っていない分野に対するシュウの才能を、他者に過大に評価させてきたものだというのに……自らの容姿に対する自信を失うまでではないが、その事実に奢ろうとは思えないシュウは、評価されることが日常になったことで、もしかすると自分はそうした評価に心が麻痺してしまったのかも知れないと思いながら、それでも無遠慮に投げかけられる視線に向き合うことなく歩き続けていた。
その背後で、突然にそれは起こった。
げ、という嫌気を多分に含んだ声。聞き覚えのある声は、シュウが唯一聞き間違えることがないと断言出来る人物のものだ。瞬間的に騒ぎ立った心に即座に振り返りたくなるのを抑えて、ゆっくりと足を止めたシュウが背後に顔を向ければ案の定。盛大に顔を顰めたマサキがそこに立っている。
「おや、マサキ。これは奇遇ですね。あなたとこんなところで顔を合わせるとは」
その台詞を全て云い終えるのを待たずに、マサキが踵を返して人混みの中へと歩き出す。これまでの経緯が経緯であったものの、それにしても随分と嫌われたものだと、シュウは苦笑しきりでマサキの後を追った。
歩数が同じリズムを刻んでいるのであれば、歩幅の広い方が時速は速くなったものだ。マサキよりも上背の高いシュウは、当然ながらマサキよりも歩くスピードが早い。程なくしてマサキに追い付シュウは、射程圏内に入った身体に手を伸ばした。
そしてマサキの腕を掴む。
暴れるのも見苦しいと感じたのだろうか。すんなりと足を止めたマサキが、そのままシュウを振り返る。
「何だよ、もう……」
先程と変わりのないしかめっ面。普通にしていれば、愛らしい幼顔《ベビーフェイス》であるものを、恐らくはその顔立ちに自覚がないのだろう。そのままつっけんどんな態度でマサキが言葉を吐き出すのを、シュウは肩をそびやかしながら聞いていた。
「顔を合わせないようにしたんだから、俺のことは放っておけって」
「人の挨拶を無視しておいてその台詞とは、随分な挨拶もあったものですね」
「煩せえよ。大体、てめえ何でこんな所にいやがるんだよ。またシュテドニアスを使って何かしようとか企んだりしていねえだろうな」
「この街にある図書館に用事があって来たのですよ。あなたこそ、どうしてこんな辺境の地に?」
大方、任務か迷ったかしたのだろうとシュウが尋ねてみれば、やはり任務のついでに立ち寄ったとのこと。
「定期的に巡回しておかねえと、国境警備隊の連中は何をしでかすかわかりゃしねえ」
何やら物騒な台詞を吐いたマサキは、そう云うとシュウの反応を窺うように顔を覗き込んできた。そうして、どう反応したものか言葉を詰まらせたシュウに、「冗談に決まってるだろ」やおらそう口にすると、ふてぶてしくも笑ってみせた。
どうやら担がれていたらしい。シュウは得意げな様子ですらあるマサキの表情に、ただただ苦笑を浮かべるしかなかった。、
シュウには信頼する情報網《ネットワーク》があった。王宮時代や教団時代の人脈で構築されたその巨大な情報網は、ラングラン全土のみならず、世界の広範囲をカバー出来るだけの情報収集能力を有している。その情報網の構成員である彼らから届けられていない情報を口にしたマサキに、シュウが反応を迷ったのはだからだった。
餅は餅屋という言葉の通り、マサキたち魔装機操者たちの本領は戦いの場でこそ発揮されるものであるのだ。故にシュウは彼らが有している情報に期待をしていない。彼らが入手出来る情報には、それだけ限りがある。
それをマサキは知らない。
短気で粗野で粗暴な男たるマサキは、勧善懲悪といった単純明快な世界を好んだものだろうが、世の中とは様々な思惑が絡み合っうことで成り立っているものであるのだ。だからこそシュウは情報網を構築した。二度と自らの持つ力を他者に利用されない為に――……。
「それにしても図書館ねえ。お前がわざわざ足を運ぶほどのものなのか」
「何代か前の領主が読書好きだった名残りで蔵書の充実にかなりの力を注いでいるらしく、蔵書の数だけで云うなら、ラングランの国立図書館に迫る勢いですよ。ここの図書館にしか所蔵されていない蔵書もかなりの数に上ることから、研究者の間では、ここと国立図書館の蔵書があれば、研究活動に不自由しないとまで云われています」
マサキは未だシュウへの疑いを捨てきれていないのだろうか。その行動を確認するように尋ねてきたマサキに、かつての地上と地底に災厄を招いた男と認識されているに違いないシュウは、それでもこうして大手を振って街中を闊歩している己を見逃して貰えている現実に、マサキの器の大きさの片鱗を見たような気がした。
自らへの不審をただ言葉で尋ねるだけに留めてくれるマサキ。彼はどういった思惑でシュウの為すことを見逃すようになったのだろう。さしたる情報も持っていない筈の少年は、だのにシュウの為すことを仕方のないことと捉えているようでもある。その疑問をいつかマサキに直接尋ねてみたいものだとシュウは思いながらも、今直ぐそれを実行に移せるまでに大胆にもなれないまま。シュウの説明に目を丸くしてみせたマサキが感心した様子で言葉を吐くのに耳を傾けた。
「それは凄いな。確かに、それだけの規模の図書館なら、お前がわざわざ足を運びもする。ところで、その図書館ってどこにあるんだ」
「あそこに見える建物がそうですよ」
道の果てにどっしりと構えている尖ったアーチ状の天井を持つ巨大な建造物を指し示してみせれば、そこまでとは想像していなかったようだ。マサキは一瞬、言葉を失うと、「……本当に凄いな」まるで自分に云い聞かせるように呟いた。
国立図書館に比類するだけはある州立図書館は、ゴシック建築で造られた工学的な美しさに満ちた外観が特徴的な施設だ。尖塔アーチに飛び梁といった雑多にも映るモチーフの数々が組み合わさることで、ひとつの美術的な完成品となるゴシック建築は、他の建築様式と比べて美しさでは一段劣る評価をされていたものだが、シュウは計算され尽くした感のあるゴシック様式の造形美を気に入っていたものだ。
その良さが存分に発揮された目の前の建造物。まるで教会のように荘厳な雰囲気に満ちている建物は、だからこそ一見しては図書館に見えないと感じる者も多いようだ。立場柄この都市に足を運ぶ機会もあったに違いないマサキもそのひとりであったのか。まるでその建物を初めて目にしたような表情で、モチーフの数々に目を配っては、感心しきりな声を上げている。
「州民の為の施設ではありますが、閲覧だけでしたら身分証なども必要なく利用出来ますよ。行ってみますか」
「俺に理解出来るような本がある筈ないだろ」
「雑誌の類も所蔵されていますよ。尤も普通に閲覧出来るのは最新号だけで、バックナンバーの閲覧には手続きが必要になりますが」
「図書館まで行って雑誌を読むのもな……」
「建物の内部を見るだけでも楽しくはあるのですがね」
そこで図書館から目を離したマサキは、何かに気付いたようだ。気もそぞろといった様子で周囲を窺い始める。きっと自らの用事に思い至ったのだろう。マサキの行動をそう受け止めたシュウは、別れ難く感じながらも辞去の言葉を口にしようとして、
「お前さ……いつもこんな感じなのか」
まじまじと自らの顔を眺めてくるマサキの視線とまともに視線がかち合う。マサキが云わんとしている意味が上手く飲み込めないシュウは、何がですと問い返しながら、未だあどけなさが残るマサキの顔を見詰めた。
ツンと上を向いた小鼻に、薄く開き気味の口唇。そこには何かを咥えさせたくなるような扇情感がある。顔の上部には瞳。黒々とした眼の下に白目が筋を引く三白眼は、上目遣いに他人を見るマサキらしい瞳だ。眉にかかる無造作に分けられた前髪に、頬にかかる横髪。顔を覆い隠す髪のお陰で、そうでなくとも小さい顔がより小さく映ったものだ。
その個性的でありながら魅力的な顔立ちは、決してシュウの贔屓目ではなく、存分に他人の目を惹き付けてくれたものだろう。それではウエンディやリューネといった女性たちも夢中になろうというもの。そう思いながらシュウがマサキの言葉の続きを待っていると、シュウの顔からその視線を外したマサキは再び周囲に目を遣りながら、
「滅茶苦茶注目されてるじゃねえかよ。あそこの喫茶店の前に立ってる二人組なんて、ずっとお前のことばかり見てるぜ」
「大丈夫ですよ。私が誰かわかっていて見ている訳ではないのですから」
「自覚はあるんだな。ならいいけどよ」
「子供の頃からですしね。自覚がない方が問題でしょう」
はあ、と何とも気の抜けた声を発したマサキが、「お前にない物ってあるのかね」と呟く。
そのマサキの疑問にシュウは答えるのを避けた。容姿に知能、魔術に剣術の才能。かつては王族ですらあったクリストフ=グラン=マクソードという人間は、他人からすれば羨望の対象でしかない程に恵まれた人間に映ったことだろう。けれどもそれらの天から恵みは外的要因を支えるものでしかないことに、シュウは早い段階から気付いてしまっていた。
冷静沈着で冷徹。コンピューターのように正確無比。己の本質への評価は常にネガティブな要素ばかりで、ポジティブな要素については人々の口の端にも上らなかったものだ。まさに中身のない張り子の虎。そうとしか表現出来ないシュウ=シラカワという人間の像に、シュウは物思わずにいられない。自分はないものだらけの人間でもあるのだ――と。
美しさの本質というものは、内面にこそあるのだろう。どれだけ美しく容姿を飾り立てたところで、本質までもが覆い隠せるものではない。卑しい人間は態度や言葉にそれが表れたものだったし、そうした彼らの表面的な美しさに縋り付ける人間は、極々一部の特殊な嗜好を持つ者に限られたものだ。
短絡的で直情的なマサキは、けれども感情豊かで情け深い一面も併せ持っている。目標に向かって他人を牽引してみせるだけの胆力や統率力にも恵まれていたし、見知らぬ人間を受け入れられるだけの懐の広さもあれば、最終的に他人の我儘を受け入れてしまえるだけの寛容さも有していた。ましてや人々に慕われる人間性。それはまさに超越者《カリスマ》と呼ぶに相応しい。
シュウが得られなかった評価を得てそこに立っている少年、それがマサキ=アンドーという孤高の存在だ。
直感的に本質を見抜くマサキは、理論に頼ってそこに辿り着くシュウよりも判断力に優れていたし、洞察力にしてもそうだ。同じ条件で洞察力を二人が競い合ったならば、恐らくはマサキの方が先に他人の行動の不合理な点を発見してみせるに違いない。それに、何よりも――そう、何よりも。世界の平和という夢物語にしか聞こえない願いを叶える為に、マサキは己の故郷を捨てて献身的にその実現に励んでみせている。
自らの命の危機も省みない自己犠牲の精神。それは高潔で美しい。
だからこそマサキ=アンドーという人間は、総じて美しい人間であると評価出来るのだ。
けれどもそうした自らへの評価に気付いていないマサキは、自分たちに注がれる視線に落ち着かない様子で、靴のつま先で盛んに地面を叩いている。その視線の何割かは間違いなくマサキに注がれているものでもあるだろうに――とシュウは苦笑しつつも、折角の機会でもある。
「お茶でも如何です、マサキ」
「はあ? お前、何をトチ狂ったことを云い出してるんだよ」
「ここで顔を合わせたのも何かの縁ですしね。少しぐらい私の話に付き合ってくださってもいいでしょう」
まるでその場に舞い降りたかのように、シュウの背後に姿を現わしてみせたマサキ。シュウにとっては美しさの象徴である彼がこの場に遣わされたのは、きっとシュウが信仰する精霊の導きであるのだろう。
都合のいい考えだ。そんなことはシュウとて承知している。けれどもマサキの信頼を己の行動で勝ち取ることが出来ないシュウは、彼との奇妙に繋がれた縁の意味を、人間世界の外側に求めないことには、己の自信や自尊心を保てないまでに疲弊してしまう。
「そんなに時間は取らせませんよ。私も用事を抱えていますしね」
駄目押しとばかりに言葉を吐けば、俯き加減で考え込んでいたマサキの顔が、ゆっくりとシュウに向けられる。
「少し、だけだぞ」
「それで結構ですよ」
マサキの承諾を受けたシュウは、逸る気持ちを抑えながら辺りに視線を彷徨わせた。相変わらず自らに向けられている羨望の眼差しの数々が、けれども今は誇らしく感じられて仕方がない。何せマサキを傍らに置いているのだ。
ラングランの動乱を治めし魔装機神の高潔たる操者、マサキ=アンドー。
これでどうして歓びを感じずにいられようか。
とはいえ、そう長くはこの場に留まってもいられない。シュウはマサキに見えないようにひっそりと笑みを浮かべた。そうして、自分たちが落ち着いて過ごせる店を探すべく、自らを注視する人々群れの中へと足を踏み出して行った。
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