これでこの後日談も終わりです。お付き合い有難うございまいした。
いやー、弄られるマサキが書けて楽しかったです。青春もさせられましたし!
やっぱりですね、この年齢になりますと、くだらないことでやいのやいのやっていた青春時代が懐かしくなるものでして、そういう思いをマサキたちにさせたいなあ、と。やりたいことを全部やれたので私はとても満足です! 私にしてはちょっと毛色の変わった話になりましたし!
次は最後のリクエストを消化しようと思います。でもあのリクエストは私に大惨事にしろって言ってますよね。いいのですかねえ、私が思うがままの大惨事にして。汗
いやー、弄られるマサキが書けて楽しかったです。青春もさせられましたし!
やっぱりですね、この年齢になりますと、くだらないことでやいのやいのやっていた青春時代が懐かしくなるものでして、そういう思いをマサキたちにさせたいなあ、と。やりたいことを全部やれたので私はとても満足です! 私にしてはちょっと毛色の変わった話になりましたし!
次は最後のリクエストを消化しようと思います。でもあのリクエストは私に大惨事にしろって言ってますよね。いいのですかねえ、私が思うがままの大惨事にして。汗
<その後の操縦者たち ~甲児とさやかとシュウとマサキ~>
「なんで俺までここにいなきゃいけないかね」
寒さが厳しさの絶頂にある二月の半ば。マサキはテーブルの上に出されている紅茶に口を付けながら、壁一面の窓の外、終わりなく広がっているイングリッシュガーデン風の庭を眺めていた。
綺麗に刈り込まれた芝に植え込み。色とりどりの花が咲く庭は、侘しさ増す冬でありながらも、見る者の目を鮮やかに楽しませてくれる。マサキには良さのわからないオブジェクトの数々も、この景観の中にあっては芸術に映ろうというものだ。
「それ言ったらあたしもよ、マサキくん。何でこんな大事になってるの?」
「そりゃあマサキが方々で言って歩いたからじゃないかねえ」
けれどもそれも少しのこと。さやかと甲児の非難めいた台詞に、マサキは室内に視線を戻すとテーブルを挟んで並んで座っているふたりを眺めた。いつも通りの雑な服装の甲児に、光沢のあるドレスを自然に着こなしているさやか。ふたりともどこか落ち着かない様子でいるのは、マサキを含めた三人でいる部屋が部屋だったからだ。
シンプルな中にも格調高さがあるテーブルと椅子のセット。使い込まれた感のある壁や柱が却って味わい深さを醸し出している。若者三人が身を置くには高級感が邪魔をして、とても気軽にいられる場所ではない。そんな一流ホテルの控え室にマサキたちはいた。
「目出度いけど目出度くない展開になってるって聞きゃあ、俺だって心配するさ。でも俺、万丈とブライトとアムロぐらいにしか相談してないぜ。そしたら万丈が甲児を祝うパーティをやるって言い出して、ついでにロンド・ベルの同窓会にしようって」
「それ、相談する相手を間違えてるって言わないかしら?」
さやかの意見が耳に痛い。けれども、元々はついに甲児に春が来たという目出度い話だった筈なのだ。万丈だってそれを祝う気満々でいたというのに、甲児が自らそれをこの短期間でなかったことにしてしまうとは、誰が一体予想できただろう。
「この俺ですら気を遣って、お前の噂をお前自身に聞かせるような真似はしなかったんだけどねえ」
「あれ、そうなのか? だったらそれは悪いことをした」
「嘘よ、マサキくん。騙されちゃ駄目よ。最初、すっごい嬉しそうにあたしに話して聞かせてきたんだから。ふたりだけの秘密とか言って。でも、絶対に甲児くんは他の人たちにも言って歩いてるわよ。あたし、レミーさんからも聞いたもの。甲児くんが真吾さんのところに電話をかけてきたけど本当の話なの、って」
「知らぬは本人ばかりってな。俺、それを暴露するのを楽しみにしてたんだけどな。でも、ブライトがあんまり狼狽えちまってるもんだから、可哀想になっちまって」
ひっひっひ、と下卑た笑い声を甲児が上げる。正義の味方マジンガーZの操縦者が聞いて呆れる悪辣ぶりに、マサキは思いっきり眉を顰めてみせるが、そんなものは目に入らないとばかりに甲児は更に声を上げてがははと笑い、「いやあ、それさえなければなあ。本当に楽しみにしてたのに残念だ」と言い放った。
「仲直りしねえ方がよかったんじゃねえの、さやかさん」
「後でたっぷりお説教するから安心して、マサキくん」
ブライトから、「甲児の付き合いの幅を狭めるような真似をするのは良くない」と諭されたさやかは、そういうことなら、と甲児との付き合いを復活させた。それで甲児はさやかの重要性を再認識したのかも知れない。「何か物足りねえ」と、例の娘との付き合いを終わりにしてしまったのだそうだ。
半年ぶりぐらいに三人で会った先日。ふたりからそう聞かされたマサキは「友達付き合いなんだろ? だったら別に彼女との付き合いまで終わりにしなくとも」と言ったものだし、さやかも同じことを感じていたようだったが、甲児本人が「いーや、そういう中途半端なことは良くないね」と、この軟派男にしては、珍しくも真っ当な意見を口にして譲らなかった。
「俺はね、お前とは違うの、マサキ」
甲児は甲児でマサキの環境に物思うところがあったらしい。「気を持たせるように女を拘束するような真似はしちゃいけねえよ。リューネなんて人生賭けてるようなもんじゃねえか」と、おまけの説教付きである。これにはマサキはぐうの音も出ない。全くその通りだからだ。
とはいえ、リューネに関しては「帰れ」と言っても聞かなかったのだから仕方がない。しかも元々の理由は「面白そうだから残る」である。
買い物にでも行くような気軽さで、地底世界に残ることを決めてしまったリューネが何を考えているのかなど、マサキにはわかりようもない。ましてや説得しきれる筈もない。マサキがそう言えば、「そりゃあお前、お前がはっきりしねえからじゃねえの?」と、甲児はにべもない。
「大体、誰なんだよ。お前の好きな奴って。俺ァ、本気でびっくりしたね。今までそんな気配、これっぽっちもさせなかったくせして、影じゃやるこたやってたのかよって。しかも相談した相手がブライトときたもんだ。何だそれ、水くせえ。俺はそんなに頼りにならねえかよ」
嫌味ったらしく責められたものだから、マサキは咄嗟に、「お前の知らねえ奴だよ」と言ってしまった。しかも興味があったらしい。さやかまでもが「どんな人?」「年上? 年下?」などと聞いてくる。何故、世の中にはこんなに詮索好きが多いのか。そう思いながらも相手はこのふたり。言わずに済ませようにも、黙りっぱなしでは角が立つ。
「一緒にいて安心できる奴だよ。向こうのが年上」
「へえ。マサキくんだったら年下かと思ってたけど」
「案外、こいつ甘えたなところがあるんだぜ、さやかさん。しかも奥手ときたもんだ。まあ、落ち着くべきところに落ち着いたってトコかねえ。上手いことやりやがって、コンチクショウ」
その打ち明け話がどこまで広まったのか、マサキは怖くて確認ができていない。万丈のところにはわざわざ足を運び、真吾には電話をしてまでマサキの近況を伝えるような甲児に教えてしまったのである。そもそも、甲児やさやかと一緒に、今日の万丈主催のパーティの主役扱いをされている時点で、その規模は知れたも同然のようなもの。きっと大勢の操縦者たちから色々と聞かれるに違いない。
本音を言えば、出ずに済ませたかったのだ。
それを甲児が「お前ね、俺たちだけに恥をかかせようなんて考えちゃいねえだろうね」と、チクチク啄《つつ》いてくるものだから、もうどうにでもなりやがれ。マサキは半ば自暴自棄でパーティへの参加を決めた。結局、マサキは甲児に弱いのだ。
「しっかし、こんないいところでパーティなんてねえ。しかも費用は全額万丈持ち。いやあ、今日はたらふく食って帰らねえと」
「いいよなあ、お前らは。仲直り記念だもんな。気楽なもんだ」
「ふふふ、マサキくんは気が気じゃないわよね。皆、きっと興味津々よ」
「それが面倒臭えんじゃねえかよ。人が誰と付き合おうがどうしようがそんなのどうでもいいじゃねえかよ。そっとしておいてくれよ、そっと」
やいのやいのと話をしていると柱時計がパーティの開始時刻を告げた。今頃、会場には元ロンド・ベルの面々が顔を揃えているに違いない。マサキは空になったティーカップをテーブルに戻すと宙を仰いだ。
破嵐財閥の名にかけて全員揃えてみせると息巻いていた万丈は、彼らの都合を確実なものとする為に、ギャリソンを使って裏で相当に手を回したようだ。地底組は流石に窓口になっているマサキが参加を許さなかったものの、地上組は見事に全員が参加するらしい。
金持ちに悪ふざけを許すとこんな恐ろしい結果になってしまうのだ。マサキはもう憂鬱で仕方がない。そんなマサキの気持ちを知ってか知らずか、無情にも控え室の扉がノックされる。
「お迎えに上がりました、お三方。準備が整いましたので、どうぞこちらに」
主人の言い付けは絶対の万能執事のギャリソンに先導されて、眩いばかりの照明に照らし出されたホテルの通路を行くこと暫く。会場ホールに続く重厚な扉の前。恭しくホテルマンが開いたその向こう側には、大所帯だったかつてのロンド・ベルの面々が、本日の主役たちを左右に分かれて待ち構えていた。
「俺、帰る」
「駄目よ、マサキくん。一緒に恥をかくのよ」
さやかの手によって後ろに押し込まれたマサキを振り返って、甲児はもう面白くて仕方がないといった表情で、「はいはい、行きますよ、マサキさんや」と先を歩き出した。「いやいや、どーもどーも。お久しぶりですね、皆さん。この度はご迷惑をお掛けして……」
さやかに背中を押されながら、その後ろを着いて歩く。おめでとう、と何が目出度いのかよくわからない歓声を受けつつ、紙吹雪や紙テープまみれになりながら、会場の奥で待ち構えている万丈の元へ三人で歩いてゆく。流石に壇上に立てとまではあのお祭り男も言わないらしい。それでも並んで立つなり静まり返った会場の中で、大勢の視線が自分たちに集まっている状況に置かれるのは居心地が悪い。
どうぞ、と給仕のホテルマンに渡されたグラスをそれぞれ取る。「それでは、本日の主役を迎えたところで乾杯!」万丈の音頭に合わせて全員で乾杯を済ませると、あとは歓談の時間らしい。ホール内が一斉に賑やかになった。
だったらこの間に逃げてしまえばと思ったマサキを、けれども彼らは放置するなどといった優しい扱いをしてはくれないのだ。あっという間にできる人垣は、マサキを逃がしてくれそうにない。
「おめでとう、マサキ」
「それで、どんな人なんだい?」
詮索好きな面々に囲まれて、あれもこれもと質問攻めにされるマサキの傍らで、今回の騒動の大元である甲児とさやかは呑気なもの。「頑張ってね、マサキくん」甲児に至っては早速とテーブルの上の料理を大量に皿に盛っている。
「主客転倒じゃねえかよ」思わずマサキがそう口にすると、「彼らの喧嘩はいつものことだからね」マサキの扱われ方が面白いのだろう。可笑しそうに笑ってアムロが言った。「それで、今回は色々と聞かせてくれるのかな? 甲児たちには話をしたみたいだけど」
絶対に知っていて言っている。マサキは呻いた。誰も彼も人が悪いにも限度がある。
「っていうか、お前ら絶対に甲ちゃんから聞いて」
その時だった。マサキの目の前の人垣が割れたかと思うと、上半身を覆い隠すぐらいの巨大な花束が突き付けられた。わあ、と座が湧く。花屋で集められるだけの花を集めたのかと思うほどに、種類様々な花が詰まっている花束。その向こう側に覗いている顔を目の当たりにしたマサキは言葉を失った。
「おめでとうございます、マサキ」
これ以上の微笑みなどこの世に存在しないのではないかというくらい、涼やかな笑みを浮かべてシュウが立っている。「お前、何で、ここに」それだけ口にするのが精一杯なマサキに、シュウは花束を強引に受け取らせると、ふふ……と声を出して嗤った。
「こんなに面白い催しに私が参加しない筈がないでしょう? それで、相手は誰なのでしょうね? ちらと耳にした話では、彼らの知らない年上の人だという話でしたが。と、いうことはウェンディ辺りでしょうか」
わかっていてやられて、こんなに性質の悪い悪戯も他にない。お前だろうが! そう叫びだしたいのを堪えて、マサキは頬を紅潮させつつシュウを睨み付けた。「お前、誤解を振り巻くなよ!」そう口にしたものの、時既に遅し。マサキを取り囲んでいた彼らはシュウの口から出た名前が気になって仕方がないようだ。一斉にそちらに視線を向けた。
「そうか。君は、マサキの地底世界《あちら》での人間関係を知っているんだったね」
「ええ。ですから今日は、その辺りの話をじっくりと聞かせていただこうと思いましてね……」
これでは庇われているのか責められているのか全くわからない。面白がっているようで刺のあるシュウの台詞にマサキは思う。きっと、後でシュウふたりで会った時に、また詳しく色々と聞かれるのだろう。
マサキは花束を片手に頭を抱えると、目の前でマサキの地底世界での人間関係を、聞かれるがままに語って聞かせているシュウを見詰めながら、そうして、いつ終わるとも知れない長い溜息を吐いた。
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