世の中の人にとって三連勤って当たり前のことだと思うんですよ。なのに私、その最終日だった昨日、本当に疲れていたみたいで、帰宅後、食事の支度と化粧を落とすぐらいしか身体を動かすことをせず、延々眠ってしまいました。寝ても寝ても眠くて、自分でも驚いたぐらいだったんですが、その分今日は元気だという。笑
甲児とさやかの心配をすればしただけ羞恥プレーになるマサキの巻。青春っていいですね。笑
甲児とさやかの心配をすればしただけ羞恥プレーになるマサキの巻。青春っていいですね。笑
<その後の操縦者たち ~シュウとマサキ(1)~>
今回の甲児とさやかの仲違いの件を、シュウだったらどう感じるのだろう? 破嵐家を辞した翌日、ラングランで偶然にもシュウに会う機会に恵まれたマサキは、その意見を求めることにした。
「あなたが動き回る問題ではないと思いますよ、マサキ」
父親は上場企業の課長職。母親は専業主婦。下に妹がひとり。恵まれた家庭に育っていると言っても過言ではない件の娘の調査結果には、当然ながら怪しいところはなかったらしい。
家族仲は良好。学校での生活態度も普通に収まる範囲。友人関係に不審な点はなし。ギャリソンの報告を聞いた万丈は、「これで心置きなく計画を進められる」そう言って笑った。
「まあ、彼は単純な性格をしていますし、新しい彼女の背後関係が気になるのはわかりますよ。下手に利用されてしまっては目も当てられない。あれだけの力を持っている操縦者ですしね。とはいえ、そこがクリアになった以上、もうあなたが首を突っ込む問題ではないでしょう」
マサキの気持ちも大分、甲児を祝福してやろうという方向に傾きつつあった。ただ、そうなると問題はさやかだ。これまで、ボスも含めれば、四人で行動してきたことも少なくない。今後はそういった機会が無くなるのだと思うと、やはりそこは割り切れない気持ちが残る。
男と女。認められるのが簡単だと思っていた関係というのは、案外、複雑なものでもあるということをマサキは思い知った。異性の組み合わせといっただけで、本人たちの気持ちがどこにあろうともお構いなしに、周囲の人間たちはそういった関係だと先回りして見てしまう。マサキだってそうだった。まさか甲児の口から「腐れ縁」などといった単語が、さやかを表現するのに飛び出してくるとは思ってもいなかった。
「そこはもういいんだよ。彼女とどういった関係になったとしても、受け入れられる覚悟はできた。ただ、さやかさんとこれからどうやって付き合っていけばいいのかなって」
「彼女は芯の強い女性ですよ、マサキ。きちんと自分で折り合いを付けられる女《ひと》でもあるでしょう。今はもしかしたらショックを受けている状態かも知れませんが、恐らく、時間が経てば、これまで通りに彼との付き合いを続けていくのではないかと思いますよ」
テュッティに頼まれた買い物を済ませに出た街でばったり出くわしたシュウは、「落ち着いて話せる場所がいい?」と、話をしたいと言ったマサキに訊ねてくると、頷いたマサキをさも当然のようにうらぶれたホテルの一室へと連れ込んだ。
使い込まれた感のある家具の配置された部屋の中で、ベッドの上の真新しいシーツがやたらと目を引く。そのシーツの上でマサキを膝に乗せて、抱え込むように話をすること暫く。シュウはどうやら、甲児とさやかの関係にマサキが立ち入るのは好ましくないことだと感じているようだ。穏やかながらも明確に説いて聞かせてくる。
「そうですね。どうしても気になるというのであれば、これまで通りに付き合っていけばいいのでは? 下手に彼の友人でもあるあなたに気を遣われても、彼女としては扱いに困ってしまうでしょう」
「それでいいのかな。何もしないのも、甲ちゃんの味方をしているような気になっちまう。いや、味方をしたくないって訳じゃねえんだけどさ。変な気分なんだ。ずっとさやかさんと三人だったり、ボスも含めて四人でだったり、行動してきたもんだから」
「あなたはもう充分にすべきことをしましたよ。新しい彼女の信用が間違いないものであることを確認したのでしょう。だとしたら、後は彼らの問題です。あなただって嫌ではありませんか? 私との関係で何か問題が起こったときに、他人にとやかく口を挟まれるのは。彼だってもう自分で判断して動ける年齢ですよ。あれこれ世話を焼いてあげなくとも、必要になれば自分から助けを求めてくるでしょう」
確かにシュウの言う通りだとマサキは思う。自分たちの関係に、頼んでもいないのに口を挟まれたりするのは、幾ら照れ屋だからこそ思ったことを行動に移すまでに時間がかかるマサキでも遠慮したいところだ。
「しかし、マサキ。あなたにしては面白い着眼点ですね。破嵐財閥の情報網を使うなんて」
びく、とマサキの身体が跳ねる。そこを突っ込まれるとは思ってもいなかったからだ。
クリスマス・イブの夜。マサキはひとつだけシュウに打ち明けずにいたことがあった。例の女性の信用調査を万丈に頼んだことだ。行為ばかりが先走りするシュウとの関係に疲れてしまっていたからこその行動だったとはいえ、表沙汰にしていい話ではない。嫉妬に駆られた結果、無関係な女性に疑惑を向けてしまった。その後ろめたさがマサキの口を閉ざさせたのだ。
「お前、俺を見くびってないか? ロンド・ベルの情報網は流石に今となっちゃ使えないだろ。消去法だよ、消去法。この程度のことって思ったりもしたけど、万が一がないとも言えないし」
「ふふ……私のことも調べたりしたの、マサキ?」
ある意味で正解を吐かれて、マサキはしまったと思う。答えの難しい問い掛けだ。調べていなければいないで不審がられるし、調べているなら調べているで何を調べたのかとなる。「別に、お前のことは何も」だからといって答えを迷っている暇もない。マサキは言葉を濁す。
「私のことは、ということは、他のことは調べたということですね。マサキ、何を調べたの?」
「ちょっと待てって……お前、またそうやって人の返事を聞かずに」
シュウがマサキをベッドの上に横たえる。指を絡めてその手の動きを封じながら、耳に舌を這わせてくる。クリスマス・イブの夜もそうだった。マサキがブライトにした相談の内容を吐かされたのも、こうして行為に及びながら。「言わなければ終わりにしませんよ」繋がったまま、何度も何度も繰り返し問い掛けられたマサキは、ぼんやりとした思考の赴くままに話をしてしまった。
「あなたの秘密を聞き出すには、この方法が一番だとわかったからですよ、マサキ」
からかうような、笑い声混じりのシュウの台詞。クリスマス・イブの夜を思い出してしまったマサキは顔を熱くしながら、首を振った。もしかするとシュウはブライトへの相談内容と同じように、本当は何を万丈に調査させたのか知っていてマサキに語らせようとしているのではないか。
「お前が気にするようなことじゃないから」
「そう言われると余計に気になるのですよ、マサキ。私に言えないようなことを調べたの?」
愉しげにシュウが重ねて訊ねてくる。それはもしかしたら、マサキの立場に関わることであるかも知れない。魔装機神の操者として、しなければならない調査をしただけの。その可能性に思い至らない男ではない筈なのに、そうはシュウは考えてはいないようだ。
だからと言って、そこを突けば、シュウはそのマサキの言葉尻を捉えて、更に自分の考えに確信を持つに違いない。「本当に、お前には関係ないんだって……」マサキはそう言うのが精一杯だ。だのにシュウは納得しようとしない。穏やかな微笑みを浮かべたまま、自分の身体の下に組み敷いたマサキの顔を見下ろして言った。
「大丈夫ですよ、マサキ。今日は時間があります。ゆっくりその話をしましょう」
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