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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

その後の操縦者たち(5)【改稿アリ】
気付けば後日談も五回目なんですね。残り二回ぐらいで終わる予定ですが、今回はラブラブ要素が足りないDEATHね!
私がただ青春している甲児とマサキとさやかを書きたかっただけでもあるので、これで正しいといえば正しいのですがラブラブ成分は私へのご褒美でもあるので、どこかに挿入しないと気が済まない!
 
相変わらず羞恥プレーの旅をしているマサキです。きっとブライトしかいなかったら、マサキは惚気けまくっていたんじゃないかな、と思ったりもしなくもないですが、残念ながらそれはまた今度の機会にということで。笑
<その後の操縦者たち ~ブライトとアムロとマサキ~>
 
 気まずい空気のまま別れた筈の甲児から、数日も経たない内に連絡をもらったマサキは、相変わらず軍でデスクワークに励んでいるらしいブライトの元にいた。「この間、伝え忘れてたんだけど、ブライトがお前に話があるって言ってるらしいんだよな」
 伝聞調の報せに一抹の不安を感じたものの、恐らくは、前回の相談内容に関係する話なのだろう。そう解釈したマサキは、相談するだけしておいて結果を知らせず放置したままにしておくのも忍びないと、地上に出て軍を訪れたのだが。
「本当にすまなかった、マサキ」
 前回と同じく、通された軍の応接室。目の前のソファには、ブライトとアムロがふたり並んで腰掛けている。彼らは応接室に入ってくるなり、揃ってマサキに頭を下げた。どういうことなのかとマサキが事情を訊ねてみたところ、ブライトは話が自分の想定の範囲外に広まってしまったことを相当に気に病んでいたらしい。
 事の経緯はこうだ。
 マサキから相談を受けたブライトはアムロだったら他言もしまいと、特に口止めをすることもなく、マサキの喜ばしい事態を話してしまったのだという。口止めをされなかったアムロは、軍内部だったら問題も起こるまいと、やはり他言はしないだろうと思ったカミーユたちに話をしてしまったらしい。
 真面目なきらいがあるカミーユやシーブックは、他人の恋路の話。自分の胸だけに仕舞っておいてくれたようだったが、陽気で人付き合いの幅も広いジュドーやアストナージは「こんな面白い話を自分たちだけで独占するなんて勿体ない」と、口止めされなかったのをいいことに、かつてのロンド・ベルの仲間たちに連絡を取ってまで話をしてしまったのだとか。
「あ、あのふたり……今度会ったらタダじゃおかねえ」
 そこからはネズミ算式に知っている人間が増えてゆく。親しくしている間柄や、久しぶりに連絡を取った相手だのと、世間話のついでにと話題に上り続け、三ヶ月が経過。最終的にシュウの耳にまで届いてしまったとは、さしものブライトたちも思っていなかったようだが、自分たちがうっかり口を滑らせた結果、かつてのロンド・ベルのメンバーの広範囲に話が広まってしまってしまったことは把握していたようだ。
「いや、本当にすまなかった。全て私が悪い」
「僕ももう少し考えるべきだった。本当にすまなかった」
 恐縮しきりで頭を下げ続けるブライトとアムロを目の前にしては、マサキとしても責めるに責められない。まさかこのふたりから話が洩れるとは考えてもいなかったマサキだったが、こうして反省を態度で示しているのだ。広まってしまった話を今更どうにもできない以上、許す以外の選択肢もないだろう。
「本来だったら私たちが足を運ぶべきところを、わざわざ足を運んでもらって本当に申し訳ない。もう、君には何と言って詫びればいいのか……こんなものしか用意できなくて悪いが、受け取ってくれないか」
 ブライトに渡された手提げの紙袋は、それなりの大きさがある。了解を得てマサキが中身を覗いてみると、新品のグレーのジャンパーが入っていた。「|MA-1《フライトジャケット》だよ。アメリカ空軍から取り寄せたんだ。君に似合うと思ってね」アムロが言う。
「何か悪いな。こんな物まで用意してもらっちまって……まあ、起こっちまったことは仕方ないし、こうして詫びてもらったし、ふたりともあんまり気にしないでくれよ」
「そう言ってもらえると、こちらとしては有難い」ほっと息を吐くと、安堵した様子でブライトは言い、「ところで足を運んでもらって、それだけでも何だから聞くが、その後どうだね? 君は変わりなく地底世界《あちら》で過ごしていたかい?」
「あっちでは変わりなく過ごせてたけど、こっちではなあ。甲ちゃんに春が来たって話は聞いたか?」
「へえ! あの甲児に春が!」アムロは興味津々といった様子で身を乗り出してきた。「目出度い話だね。相手はどんな子だい?」
「今どきの可愛い子なんだよ、これが。でも、それでさやかさんが拗ねちまったとか何とか……」
 連絡を寄越したついでにその辺りの進展について聞けるかと思いきや、甲児は何も言ってこなった。ということは、例の娘にせよ、さやかにせよ、現状維持のままなのだろう。
 困ったものだ。マサキは溜息を洩らす。シュウには気にするなと言われているものの、親しく付き合ってきた仲間の関係を変えてしまうかも知れない大事。やはり気になって仕方がない。
「ああ、彼女は何気に嫉妬深そうだものなあ。でも、こればかりはね。人の気持ちはどうにもできない。身近に居すぎると却ってそういった対象として見られなくなることもあるし、難しいものだね」
「そうなんだよ。でも、甲ちゃんも煮え切らない態度なんだよ」
 そこでマサキは万丈に話して聞かせた話を繰り返した。甲児がさやかに年末の買い出しに付き合わされた先で、声を掛けた結果、思いがけずOKをもらえた相手であること……友達付き合いは順調で、SNSを通じてメッセージの遣り取りを重ねていること……念の為に万丈に調べてもらったところ、問題のない相手であったこと……あまり他人のことに興味を持っていなさそうなアムロが、あれこれ質問を飛ばしてきてまで深く話を聞いてきたのがマサキには意外だった。どうやら思っていたのとは異なり、アムロは他人の噂話を好むタイプらしい。
「自分から声を掛けておいて、恋人として付き合うのには後ろ向きなのか。これまでの苦労の割には贅沢を言うね、彼は」
 可笑しくて仕方がないといった調子でアムロは言い、声を抑えつつも笑った。その隣でブライトは「今どきの若い子とでも言えばいいのだろうかね」と、甲児の行動そのものが不思議で仕方がないといった様子でいる。
「俺やさやかさんの反応が悪いのが気に入らないみたいなんだよな。万丈はさやかさんに対する当て付けなんだから仕方がないって態度だったけど、当て付けで自分から声を掛けた女の子と付き合わないっていうのもなあ。何だか無責任っていうか」
「それもそうだ。でも、付き合いの幅が広がるのは悪いことじゃないよ。友達付き合いを続けていくならいいんじゃないかな。僕たちはどうしても似たような境遇の者同士固まってしまう傾向があるからね。普通の人たちの普通の感覚を知るのは大事なことだよ」
 アムロの言うことも尤もだ。確かに、マサキたちは普通の人間と付き合う機会に恵まれない。どうしても話が合う人間が限られてしまう以上、それは仕方がないことであったにせよ、その所為で自分たちの常識と世間の常識にズレが生じてしまっては、自分たちの存在に理解を得るのは難しくなる。その為にも新しい人間関係の開拓は必要なのだろう。
 その機会を甲児は得たのだ。きっと、甲児にとって一番収まりのいい形は、例の娘ともさやかとも友達付き合いを続けてゆくことなのだ。同じ立場で話せる相手と、普通の人間の日常生活を教えてくれる相手。マサキは改めて、他人の意見を聞くことの重要性を思い知る。
「何より、さやかに気兼ねして、甲児の人付き合いの幅が狭まってしまうんじゃ勿体ない。そうじゃないかな、マサキ」
「それもそうだよな。いや、悪かった。ここでも愚痴っちまった。祝福する気はあるんだけどな。さやかさんのことを考えると、どうしても両手放しで喜べなくて」
「ふむ。彼女は表面はああ見えても、内面はナイーブそうだからね。少しフォローをしてやる必要があるかも知れないな」
「それもどうなんだろうなあ、ブライト。俺が口を挟んでいい問題なのか……」
 意見を求めたシュウに反対されていることもある。それを無視してマサキが下手に動き回ものなら、それを知ったシュウとの間にひと悶着起こるのは必死。
 マサキ自身も、甲児の友人で異性でもある自分が首を突っ込んでも、さやかが素直に心境を吐露してくれるとは思っていない。だからといって、放っておけば何も進展しないに違いない甲児とさやかの仲を、手を拱《こまね》いて見ているのも気が引ける……堂々巡りになる考えに、マサキの溜息の数は増えがちだ。 
「ああ、君は口を挟み難いだろうね。どうしたって甲児寄りの意見になってしまうだろうし。多分、さやかも君には素直に気持ちを言い難いんじゃないかな」
「だったらここは年長者の出番かな、マサキ」
 アムロの発言を聞いて、考え込んでいたブライトが言った。
「君には迷惑をかけてしまったしね。このぐらいしかしてやれることはないが、お詫びとして、ふたりのことは私が何とかしよう」
 気の強いさやかは意地っ張りな面も併せ持っている。マサキがさやかと直接話をするのを躊躇っているのは、それが理由でもあるのだ。
 意地っ張りな者同士、さやかがどういった反応をするのかが、マサキには何となく想像付いてしまう。付いてしまうからこそ、迂闊にさやかの内面に立ち入るような真似が出来ない。けれども、有象無象の操縦者たちを纏め上げた司令官ブライトの言うことだったら、自分だって聞いたのだ。さやかも聞いてくれるかも知れない。
 元の関係に戻れるとは、根が楽天的に出来ているマサキとて思ってはいなかったが、甲児とさやかの仲がこのまま拗れたままなのは収まりが悪い。ブライトの申し出はマサキにとっては渡りに船。そう、マサキは事態を打開できる方策を、誰かに提示して欲しかったのだ。
「……そうだな。その方がいいんだろうな。すまないな、ブライト」
「いやいや、気にすることではないよ。前回の件をこれだけの騒動にしてしまった。このぐらいでは、お詫びとしてはまだまだ足りないぐらいだ」
 生真面目な軍人でもあるブライトは、マサキの相談内容の流出騒ぎを、本当に気に病んでしまっているようだ。どこか済んだことといった感のあるアムロとは異なり、深刻な表情を崩さない。「ところでマサキ」そんなブライトを尻目に、アムロがのんびりとした調子で口を開いた。
「その前回の件のその後はどうなったんだい?」
 やっぱり思った以上の詮索好きだ。マサキは焦る。万丈に話をしてしまっている時点で、話が広まるのが時間の問題なのは明らかだったけれども、出来ればその後の話については、今度こそ限られて範囲に済ませたい。
 マサキは嘘が吐ける性格ではないのだ。適当な設定をでっち上げて取り繕うにも、深く詮索されれば、どこかで襤褸《ぼろ》が出る。だからこそ誤魔化せるところでは誤魔化しておきたい。どうしよう。マサキが返答に詰まったその時だった。
「私は万丈から話を聞いて知っているから言うがね、アムロ。あんまりこちらから詮索することじゃないだろう。マサキはこういう性格なのだから、話したくなった時に聞いてやる方がいい」
 結局、聞いていやがるんじゃないのか! さらっと問題発言を混ぜつつ、アムロに道理を説いて聞かせるブライトに、それは助け舟とは言わないんじゃないか――。そう言いたいのをぐっと堪えて、マサキは表向きには平然としている風を装う。 
 
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