「シュウマサでシュウがマサキにちょっかいを出す話」3パターン目です。最近エロばかりでしたので、今回は真面目にやろうをコンセプトに頑張りました。エロ・エロ・真面目ときたら、最後は当然ギャグになりますよねー。(でも今の私ギャグをやれる状態じゃないっていうかエロをやり過ぎて脳が戻らない!笑)
<邂逅の魔神>
平穏な日常に胡座をかいて座っていた。
マサキがその事実を突き付けられたと感じたのは、緑も鮮やかな大地を眼下に|白亜の機神《サイバスター》を変形させて疾《はし》らせていた最中。今日も豊潤なラングランの自然は、安らかな風を受けて、歓喜の咆哮を上げている。これ以上とない穏やかな陽気。つれづれなる散歩と表すには過ぎ去る景色のスピードは早かったけれども、こうして愛機に騎乗して、この神聖なる帝国領内を駆け抜けるのがマサキは好きだった。
そこで精霊レーダーに巨大な一体の所属不明機の反応を認めたのだ。
恐らくは、|青銅の魔神《グランゾン》。そう二匹の使い魔から情報を受け取ったマサキは、それだったら取り立てて問題もないだろうと、その機影が遠ざかるのを見逃すつもりでいた。
今更、敵になる男でもない。
手の内のカードが揃い切るまで自らの行動の理由を明かさない男は、自分たちを利用することはあっても対立する気はないらしい。ときには疑いを差し挟むこともあったけれども、何度も顔を合わせてはともに問題解決に挑んできた男の行動を、それを態度に露わにすることはなかったものの、マサキは内心で概ね認めてきたつもりだ。
だからその機影がサイバスターと距離を詰めて来ようとも、マサキは何かこちらに用事があるのだろうと、それ以上深く考えることはなかった。用があるならどこかでは通信を入れてくるに決まっている。そう高を括っていたマサキの期待を裏切って、グランゾンが攻撃を始めたのは、その射程圏内にサイバスターが収まった直後のこと。
黒い砲弾が時空を歪ませながらこちらに迫ってくる。一発目を避けた後ろには二発目の砲弾が控えていた。その後ろには三発目が待っているに違いない。迂闊に変形が解けない状況に、マサキは空へと舵を切ってどうにかその砲撃を凌ぐ。
「通信回線を開け! 乗っているのがシュウか確認しろ!」
しかし長く戦場で対峙することがなかったのに、何故。そう疑問を抱いたマサキは、先ずグランゾンが他人の支配下にあるのではないかと予想した。精霊の宿らない機体は、どの魔装機の攻撃も等しく耐えてみせる。況《ま》してやこの不条理な構造を持つ機体は、単騎で超魔装機とも渡り合えるほどの底知れぬ力を隠し持っている。
ネオ・グランゾン。その性能を欲しがる連中が存在しない筈がないのだ。
「ふふ……安心してください、マサキ。今のは間違いなく私が放った攻撃ですよ」
「シュウ、てめえ何を考えてやがる!」
止まない砲撃。マサキはサイバスターで地を這い空を舞い、ひたすら立て続けに飛んでくる砲撃を避けた。その最中にもしかして、と考えた。頭脳、剣技、魔力。どの才能にも恵まれたあの男にはクリティカルな弱点がある。サーヴァ=ヴォルクルスとの契約の記憶。そこに付け入れられての行動ではないかと。
「もしかして、また操られたりしてるんじゃねえだろうな!」
追尾機能を持つ砲弾の威力が弱まって地に落ちるまで、サイバスターを右に左に操作してマサキは逃げ続けた。正直なところ、話をしている余裕などない。シロとクロのサポートがなければとうに地に墜ちている。そのぐらいにグランゾンの攻撃は苛烈だった。
「あなたこそ、平和に慣れきっていませんか? 私はあなたたちの味方でなければ敵でもない。そういった相手を目の前にしたにしては、あなたの態度はあまりにも油断が過ぎますよ。私を見逃そうとするなど、以前のあなたでしたらなかったことでしょう?」
ぐ、とマサキは言葉に詰まった。言っていることは尤もだ。自分の都合でしか動かないシュウは、時と場合によっては、マサキたちの動きを制限するぐらいはしてみせる。そういった相手を目の前にして、その目的を確認することもなく遣り過そうとしてしまった。これでは油断が過ぎると言われても仕方がない。
全弾を撃ち尽くしたのだろう。シュウのその言葉を最後にグランゾンからの過激な砲撃が止む。マサキはようやくサイバスターの変形を解いた。一撃ぐらいは遣り返したいとは思ったものの、既にシュウは攻撃する意思を失ってしまったようだ。
「どうもあなたは平和が長くなると、その環境に甘え出すようだ。動きが鈍い。もし今有事が起きても、その有様では思うように身体が反応しないでしょう。それではランドールの名も泣くというものです。降りてきなさい、マサキ。私があなたの練習相手を勉めましょう」
「お前、そんな勝手な……!」
「私にやられっぱなしでいいのでしたら、それでも結構ですが」
マサキは盛大に舌を打った。「行ってやるよ。行けばいいんだろ!」巨大人型汎用機での戦いを、人対人の規模に収められてしまうのは面白くはないが、このままやられっ放しなのは確かに癪に障る。マサキは操縦席に積んである剣を掴むと、サイバスターをシロとクロに任せて地面に降り立った。
膝くらいまでの草が生い茂る草原の只中にシュウが立っている。その手にはマサキ同様にひとふりの剣。鞘に収めたままのその剣を抜くことなく、「どうぞ。あなたの好きなタイミングで打ち込んでくださって結構ですよ」シュウは言い放った。
「ふん、後で吠え面かいても知らねえぜ」
「これでも剣技はそれなりの年月修めてきましたからね。今のあなたの相手を勉めるぐらいなら問題ありませんよ」
気に入らない、本当に。マサキは気《プラーナ》を解放した。剣を抜き、構える。あれもこれもずば抜けた結果を出してみせる男の余裕に満ちた態度に、マサキはいつまで経っても慣れられそうになかった。「行くぜ、シュウ!」その鼻をへし折ってやるのだ。マサキは地を蹴って、シュウの懐に飛び込んで行った。
剣技と剣技のぶつかり合いは、シュウの剣がマサキの剣を受けることに耐え切れず、真っ二つに折れるまで続いた。「俺の勝ちだ」プラーナを使い続けたマサキは、そのまま草むらに疲れ果てた身体を投げ出す。
「流石はランドール……と言いたいところですが、時間がかかり過ぎですね。きちんと修練を積みなさい。才能があっても努力を積み重ねない人間に、その能力は微笑みかけてはくれないのですよ、マサキ」
口ではそう言うものの、シュウも疲れているのは同様なのだろう。マサキの隣に腰を落とすと、ふう、と深い息を吐く。ともすれば上がりそうになる息を懸命に整えているのだ。そんなシュウを気遣ってみせてやれるまでに、マサキはシュウとは馴れ合えない。けれども、と、マサキは思う。こういった距離感でなければマサキはシュウとは付き合えない。それをシュウはわかっていてやっているのではないか、と。
この男は一体何の利があって、ここまでして自分に絡んでみせるのだろう? まるでマサキの成長を促しているようにも思える行動の数々。マサキにはそれが不思議で仕方がなかった。
どうせこの男のことだ。マサキに何かをさせたいといった理由ではあるのだろうけれども。
「ああ、いいものがありましたよ。マサキ、口を開けて」
「何だよ、いきなり」
ほら、とシュウが包み紙を解いてマサキの口に押し込んできたのは、一口サイズのチョコレート。「疲れた時には甘いものですよ」ほろ苦いチョコレートはマサキの好みとはかけ離れた甘さだったけれども、疲れた身体には染み渡る。直ぐに溶かしてしまうのは勿体無い。マサキはチョコレートを舐めず、口の中に留めた。「まだありますよ、どうぞ」その口の動きで気付いたのだろう。チョコレートを口の中に残しているのに気付いたシュウが、嗤いながらマサキに三個の包みを渡してくる。
「何でこんなに持ってるんだよ、お前」
「脳は疲れを感じると甘いものを欲しますからね。研究に疲れた時などに重宝しているのですよ」
「身体よりも頭を使う方が疲れるって言うもんな。でも、お前がチョコレートに頼ってるなんて意外っていうか、想像もしなかったっていうか」
「私とて人間ですよ」
ふふ……と、声を潜めた嗤い声が降ってくる。その次の瞬間、身を屈めたシュウの口唇がマサキの口唇に触れてきた。マサキが驚きに目を見開いていると、シュウの手がその目を塞ぐ。少しの間、そうして目を閉じさせられたまま、マサキはその口付けを黙って受け続けた。やがて剥がれる口唇。僅かに感じた温もりは、マサキの体温よりは低いものであったけれども、この男も人間だったのだと思わせるのには充分な温かさだった。
「ほら、私も人間だったでしょう。マサキ」
どういった顔をしてシュウの顔を見ればいいのか、マサキにはわからない。「ああ、うん……」それが気のない返事に聞こえたのかも知れない。シュウは草を払いながら立ち上がると、「では、私は一足先に失礼しますよ」名残惜しそうな様子も見せずに、グランゾンに向かって歩いて行った。
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