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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

DANCE IN THE DARK
「シュウマサでシュウがマサキにちょっかいを出してくる話」そのいち。
 
ちょっかいの意味をどう解釈すべきなのか悩み、結局思いついた話を全部書く事にしました。エロありをトップバッターにしている時点で私が迷走をしていることがわかります笑 これはちょっかいを出していると言えるんですかね……?
<DANCE IN THE DARK>
 
 ロンド・ベルからリューネとヤンロンが離脱したその日、マサキは戦域から戦艦への帰還を果たしたのち、自らに与えられている居住空間《キャビン》にひとりで篭った。
 折も折。「ひとりきりになって今後について考えたい」と口にしてみせれば、二匹の使い魔は勝手にマサキの心情を推測してくれたようで、深刻な面持ちで頷いてみせるといずこかへと姿を消した。
 ――雁首揃えて姿を現しやがって。
 ウィーゾル改にガディフォール、そしてノルス・レイを引き連れて、戦場に姿を現した|青銅の魔神《グランゾン》。再び仲間となった男が気に入らなくはあったけれども、だからといって、ロンド・ベルから離脱を果たすまでではない。
 特異点の位相をずらして偶然を多発させるシステムを、わざわざロンド・ベルの目の前で破壊してみせたのだ。“グランゾンの本質はヴォルクルス”だというのであれば、それは世界に混沌と混乱と破壊を齎す存在であるということだ。グランゾンをそうした存在たらしめていたのはそのシステムだったのだろう。その破壊を遂げた以上、恐らく、シュウが世界の敵になることはない。もし、仮にそうなったとしても、再び宇宙の闇の只中に沈めてみせればいい。それだけのこと。マサキはベッドに寝転んだ。
 キャビンに戻るまでの道すがら。サフィーネとモニカ、そしてテリウス。三人を引き連れて格納庫《バンカー》から上がってくるシュウの姿を目にした。そのときのシュウの表情は、三人が傍らに存在していることを受け入れているように見えた。
 あれが今のシュウの日常なのだ。
 ひとりとひとり。追う者と追われる者。雁字搦めにお互いを縛っていた鎖はもうない。シュウは新たな世界へと一歩を踏み出したのだ。
 サフィーネたちと四人でいるシュウの姿を見たその瞬間、マサキはその現実を突き付けられたような気分になった。そして同時に自分の中から失われてしまったものがあることに気付かされた。それはシュウに対する執着心。憎み倒すべき敵だったあの男は、自分の手の届かないところへ向かっている。そんな予感がした。
「やっぱり、こういうときにひとりは駄目だな」
 自分は何を焦っているのだろう。すべきことをこなせばいいだけなのだ。目の前に敵がいる。世界を混乱に陥れ、その存亡を危うくするような敵が。“世界の存亡の危機には最優先で立ち向かえ”という不文律。その唯一の枷に従って魔装機神の操者としてすべきことをこなせばいいだけだ。マサキはぼんやりと天井を見詰めた。
 硬質的な銀盤が室内灯《ライト》受けてその色を薄くしている。まるで色鮮やかだった世界がその色を失ってしまったように、薄く。マサキはゆっくりと口唇に指を這わせた。指先を舐める。良くない癖だ。わかっている。それでもその衝動を止められそうにない。マサキは爪を噛んだ。
 指先に走る痛みが、一瞬、マサキを現実に引き戻す。
 止めておけ。自分で自分に言い聞かせる。マサキは続けて爪を噛んだ。考えるのが嫌になると、発作的に這い出してくる欲望がある。それにマサキは身を委ねたくない。どちらがいいかと聞かれれば、まだ爪を噛む方がいい。そう思っているのに。
 口元から手を剥がし、マサキはその手のひらを見詰めた。そのまま首筋に這わせる。ぞくり、と背中を駆け上がってくる快感に、マサキは口唇を結び目を伏せた。指先で、手のひらで、首筋をなぞるように撫で上げる。我慢できそうにない。その手をマサキは身体に這わせながら下ろしていった。
 もどかしさを感じながらジーンズのボタンを外し、ファスナーを下ろす。既に熱を帯びつつある股間にマサキは手を滑り込ませ、自らの男性自身を掴んだ。そして、空いた手でシャツをたくし上げ、それを口唇で喰む。
 元々そういったきらいがあったマサキは、戦場に身を置くようになってから、その傾向を強めていった。逃避としての自慰行為。特にものを考えなければならないと感じたときに強く出る。深く物事を考えるのが苦手だからだろうか。それとも何か別にきっかけがあったのだろうか。マサキにはその辺りのことがよく思い出せない。気付いたら習慣化していた。それだけだ。
 男性自身に絡み付かせた手を緩く動かす。「……ふ、う」と、シャツを喰んだ口唇の隙間から声が洩れる。
 射精のあとの倦怠感に何も考えずに身を任せている間の何とも表現できない解脱感が好きだ。マサキはその瞬間を求めて、手を動かし続けた。何も考えずに、ひたすら。空いた手は肌に這わせる。鎖骨から、胸、そして腰周り。普通とは言い難い自慰の遣り方を覚えてしまったのは、余計なことを考えずに行為に没頭し続けるにはどうしたらいいかをマサキになりに追求した結果だった。
 マサキは自慰で快感を得たいというより、その行為に耽ることで目の前の問題を考えずに済む時間が欲しいだけなのだ。
 防音対策が完璧とは言い難いキャビンの扉の向こう側からは、様々な音が聴こえてくる。何か物を運ぶ台車の音、賑やかな笑い声、どたどたと走り去る子供のような足音。扉一枚隔てた向こう側に広がるロンド・ベルの日常。彼らはその奥で何が行われているかなど、考えだにしない違いない。
 その現実に目が覚めるよりも、密やかな背徳感を覚えてしまう。マサキは更に手を動かし続けた。
 忙しない靴音。キャビンの近くで止まったその音に、誰のものだろう? ぼんやりとマサキは思った。どうせ自分には関係ないこと。近くの部屋のメンバーを思い返しながら、彼らがマサキの私的空間《プライベート》を侵さない人種であることを確認したマサキは行為の続きに耽り始めた。
 そのとき、マサキのキャビンの扉は開いた。
 慌ててベッドの中に潜り込もうとするマサキと、無礼にも声のひとつも掛けずに室内に足を踏み入れてきた人物との目線がまともにかち合う。彼は目の前で繰り広げられている光景を予想していなかったに違いない。少しだけ目を見開いてみせると、直後にその表情を和らげて、ふふ……と笑った。
「無礼は詫びますよ、マサキ。少しの間、私をここに匿ってはくれませんか」
 慌てて衣服の乱れを直しながら、マサキはベッドの上に身体を起こす。よりによって一番見られたくない相手に見られてしまった。その羞恥がまともに視線を合わせることを許してくれそうにない。
「冗談じゃねえ。なんで俺がてめえを匿わないと」
「静かに、マサキ」
 シュウの手がマサキの口を覆う。次の瞬間、高く響くハイヒールの音が辺りに響き渡ったかと思うと、マサキのキャビンの扉が激しく叩かれる。「私はいないと言ってください」シュウが扉の脇に身を潜める。仕方ながい。ベッドから離れたマサキは扉の前に立つ。「誰だ」と訊けば、「いいから開けなさいよ、ボーヤ。あたしよ、あたし。サフィーネよ」
「何の用だよ」言いながら扉を開ける。
「シュウ様の姿を見掛けなかった?」
「何で部屋の中にいる俺があいつの姿を見られると思うんだよ」
「この辺りで姿が消えたのを見たのよ。もしかして中にいたりしないかしらと思ってね」
 サフィーネがマサキの肩越しに室内を覗き込んでくる。乱れたベッドの跡が気になりはしたものの、そこまで気にされることでもないだろう。何よりその位置から扉の影に隠れるシュウの姿は見えまい。
「いねえよ、いねえ。あいつが俺の部屋になんて来るかよ。他の部屋じゃねえのか」
「本当に? 匿ってたりしないかしら?」
「そんなことになってたら、むしろ俺はお前らに突き出すね。主人の管理はしっかりしておけってな」
「どうだか。あたしたちの知らない時間をふたりで過ごした仲でしょうよ。案外……なんてことも有り得ない話じゃないわね」うふふ、と濡れた口唇を歪ませてサフィーネが笑う。なめかましい笑み。彼女はそのまま再びマサキのキャビンを覗き込むと、「でも、まあ、ここには本当にいないみたいね。わかったわ。有難う、ボーヤ」
「二度と来るんじゃねえよ」
 潔く背中を向けたサフィーネを見送って、マサキは扉を閉める。左右に別れる通路を折れた姿を確認した。暫くの間、この辺りに彼女が戻ってくることはないだろう。マサキは、行ったぜ、と隣に身を潜ませ続けていたシュウに声を掛ける。
「有難うございます。あなたには何かお礼をしなければなりませんね」
「いいよ、別に。てめえのお返しなんて怖くて受け取れねえ」
 見てしまったものを口外してくれさえしなければ、他のことはどうでもいい。そう思いはしたものの、けれどもマサキはそれをストレートに口に出すことができない。涼やかなシュウの態度は、そんなことがあったことすら忘れ去ってしまったように映る。わざわざ自ら穿《ほじく》り返すような真似をしていいものか。考えて、マサキは言わないことを選択した。この男のロンド・ベルの人付き合いの幅で広まる話でもないだろう。
「私の気が済まないのですよ、マサキ。借りを作るのは性分ではない」
 腕を取られ、強く引かれる。そのままマサキの身体を壁に押し当てると、シュウは自らの長駆で押さえ込むように身体を密着させてくる。「途中だったのでしょう、マサキ」耳元に降りてきた口唇が囁くように言葉を吐くと同時に、股間をその手が撫でた。
 嫌悪感よりも先に、ぞくり、とした快感が背中を駆け抜ける。マサキは焦った。シュウの手がジーンズのボタンに、次いでファスナーにかかる。「やめ……」抗議の言葉は続かない。マサキの耳を舐るシュウの舌が、その思考を奪ったからだ。
「変わった遣り方を好むようですね、あなたは。ほら、これだけでこんなに」
 一瞬にして熱を持ったマサキの男性自身に触れながらシュウが言う。想像したことがなかったと言えば嘘になる。全身に愛撫を受けながら嬲られる自分。自らの性的嗜好はアブノーマルなのかも知れない。マサキは自分の想像に何度かそう思ったものだった。それが現実としてここにある。その相手は決してこの男ではなかったけれども、想像を飛び越えたリアルな感触は、自らが手で与えてきた刺激など微々たるものでしかなかったことを思い知らせてくる。
 抱えられる腰。絶え間なく耳を舐る舌。緩く動き出す手に、マサキはシュウの肩口に回した手でその衣装を掴んだ。掴んで、その肩に顔を埋めながら、
「馬鹿、やめろ……本当に、やめろって……」
「やめろと言う割には大人しい。ふふ……いいのでしょう、マサキ。大丈夫ですよ、誰にも言いません。あなたと私の秘密だ」
 本当に? 聞いてしまいたくなる気持ちを抑えて、マサキはシュウの衣装を引く。当然ながらその程度ではシュウの身体はびくともしない。耳から首を滑る口唇が、ときどき軽く肌を啄む。そこから顎、そして口唇へ。ああ……、マサキは喘ぎながらその口付けを受けた。
「いい声ですよ、マサキ。可愛らしい。普段のあなたからは想像も付かない声だ。ほら、もっとその声を聞かせて、私に」
 緩やかだった手の動きが激しさを増し、マサキは咄嗟に腰を引いた。「駄目ですよ、マサキ」腰を抱えるシュウの手が強くマサキを引き寄せる。口唇、首筋、耳介。何度も辿ったシュウの口唇が鎖骨から降りてくる。シャツの上から乳首を喰まれたマサキは、歯を食いしばって強く身体の中を駆け抜ける快感を耐えた。とはいえ、それは一瞬のことだからこそ。脇腹、臍。収まらないシュウの口唇での愛撫に、次第にマサキの口元は緩みがちになる。
 ふふ……と、愉しげに笑うシュウの声が、限界を迎えようとしているマサキの脳の奥に響いてくる。自分はこの男によって玩具にされてはいないか? 「やだ……も、いく……」マサキは喘いだ。羞恥と快感が絶え間なく自分を犯している。それは甘い毒だ。蠱惑的な魅力に溢れた。
「大丈夫ですよ、秘密だと言ったでしょう。あなたがどんな姿を晒したとしても、私はそれを自分の胸ひとつに仕舞っておきますよ。だから、マサキ」
 ひと通りマサキの身体を辿ったシュウの口唇が、マサキの口唇に戻ってくる。マサキを嬲る手は、その動きを止めそうにない。玩具扱いでもどうでもいい。肩から背中へ。マサキは手を滑らせると、口の中。シュウの舌に深く自らの舌を絡めながら、強くシュウの身体にしがみついた。
 そうして、そのまま果てた。
 ぼんやりとしていた意識がすうっと覚める。同時に襲いかかってくる倦怠感。剥がれる口唇。荒くなった息を収めながら、マサキは暫くそのままシュウにしがみついたままでいた。やってしまった。羞恥でその顔がまともに見られない。
「もう、いいだろ……さっさと金魚のフンどものところに戻れよ」
「その台詞、まるで彼女らに嫉妬しているように聞こえますよ」
「そんなこと、あるかよ。こんな格好を見られて、お前とずっと顔を合わせる? そんなこと俺に出来るはずがないだろ。それだけに決まってる」
 マサキの服の乱れを整えながらシュウが嘲笑《わら》う。マサキはシュウの背中から手を放した。覚めた意識に気だるい身体。このままベッドで身体を休めたい。そう感じ始めたマサキの身体をシュウは未だ解放するつもりはないようだ。
「安心しなさい、マサキ。私はあなたを連れてゆく。私が見ているこの世界、その高みへと。あなたにしか成せないこと、それをあなたに成してもらう為に」
 眩暈を覚えそうなくらいに眩い言葉が降ってくる。その世界が見たい。マサキは猛烈に思った。ひとりとひとり、追う者と追われる者。その関係が失われたのであれば、新しい関係を構築していけばいい。その始まりを予感させるシュウの言葉に、マサキは失われつつあったシュウへの執着心が蘇ってくるのを感じた。
 シュウの口唇がマサキの口唇に触れる。それが僅かな温もりを残しただけで離れる。
「必要になったら言いなさい。いくらでもしてあげますよ、マサキ」
 冗談じゃない。そっちはもういいのだ。そう言いたくとも上手く言葉が出てこない。「いくらでもね」繰り返しそう囁きかけると、シュウはそのままマサキから身体を放し、扉を潜って通路へ出て行く。振り返らずに立ち去る後ろ姿。マサキはそれを見送ってから、してしまったことの余韻に浸りながら、ベッドの上に身体を投げ出した。
 
 
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