長くかかったこの話もこれで終わりです。
いっぱい加筆しないとな、って出来になってしまったのが悔しくもありますが、取り敢えずこれで次にいけるという解放感に今は身を委ねたいと思います。
ここまでお付き合い有難うございました。
次回はイベントシリーズの最新作です。十月くらいから始められたらいいなと思っております。
では本文へどうぞ!
いっぱい加筆しないとな、って出来になってしまったのが悔しくもありますが、取り敢えずこれで次にいけるという解放感に今は身を委ねたいと思います。
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次回はイベントシリーズの最新作です。十月くらいから始められたらいいなと思っております。
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<インモラルオブザーバー>
久しぶりの王都への帰還は物々しい道のりになった。
周囲をラングラン正規軍に護衛されての移送。グランゾンを牽引しつの移動とあっては、機動力に勝るサイバスターもその実力を思うようには発揮出来ない。まるでドライブだな。マサキは先導役の軍機に続きながら、シュウを振り返った。
操縦席に身体を収めているシュウは、珍しくも疲労を感じている様子だ。目を閉じて操縦席に身を任せている。色の抜けた顔。そうでなくとも白い肌がいっそう白く映る。少し面やつれしたようだ。マサキはその頬に手を這わせた。
「らしくねえ」
「あなたの相手をせずにいられればよかったのですがね」
そう口にしたシュウが目を開く。そして、まるで自らを嘲るかの如き笑みを口元に浮かべてみせた。
広いベッドで寝ることに慣れている男にとって、冷えた独房の床はさぞ寝辛く感じられたことだろう。しかも運動らしい運動もしていない。精々、マサキ相手に腰を振ったぐらいだ。
それで健康を維持していようものなら、それはそれで驚嘆に値する……マサキは正面モニターに向き直った。視界を塞ぐラングラン軍の魔装機の群れ。その隙間から、輝けるラングランの雄大な自然が覗いている。
「俺を置いて行くからだ」
「あなたを私の都合に巻き込むのは性分ではないのですよ」
「それで俺と敵対するんじゃ本末転倒だろ」
「汚れ仕事にあなたを付き合わせるぐらいなら、私が悪役を演じた方がマシですよ。ねえ、マサキ」
そう云って抱き寄せる腕に力を込めてきたシュウに、マサキは眉を顰めた。
シュウの首には魔力を制御する魔法具が嵌められている。魔法に弱いマサキの為にとセニアが軍を通じて届けてきたものだ。それは、確実にシュウを王都に連れ帰って来いという彼女からのメッセージでもあった。
独断専行の多いシュウは魔装機神にとってはイレギュラーな存在だ。突如として姿を現わしてみせては、場を掻き乱して去ってゆく。そうした彼の動きに助けられる場面も少なからずありはしたが、大抵は複雑化した状況の始末に追われることとなる。
組織だっての動きを求められる作戦遂行時に、彼のような不確定要素はあってはならないのだ。
だからセニアはシュウをも作戦に組み込むことにした。彼を魔装機神と共闘させる。シュウの自主性に任せた今のままでの遣り方では邪神教団を潰せない。何せ五万人の信者を抱える巨大な組織だ。先ずは足並みを揃えるところから。情報局の女傑として正魔装機を統括するセニアはその重要性を誰よりも理解している。
故にマサキはシュウを手放さない。
彼が往く道に肩を並べて立つ。例えそれが目を背けたくなるまでに、残酷な世界を見せるものであろうとも。
「俺は嫌だからな。お前と離れるの」
「随分と熱い台詞を吐いてくださる」
「そういう意味じゃねえよ」
ゆるゆるとラングランの平原を進む。マサキは自動操縦の目的地を王都にセットした。
膨大なプラーナ量を有するマサキは、この手のシステムを実に良く使い物にならなくした。けれどもこの巡行スピードだ。壊れて明後日の方向に進んだとしても、周囲を囲っている護送団の誰かが気付いてくれることだろう。自動操縦システムにサイバスターの往く道を任せたマサキは再びシュウを振り返った。
「俺をもっと信用しろって云ってるんだよ」
「信用していますよ。信用していないものをどうして置いていけたものか」
「待つのは性分じゃねえ」シュウの背中に腕を回しながら続ける。「大体、汚れ仕事をさせたくないだ? 舐めたことぬかすんじゃねえよ。俺を誰だと思ってる。これでも魔装機神サイバスターの操者だ」
「だから、ですよ」
「あのな、綺麗事だけじゃ戦争なんて出来ねえんだよ。そのぐらいお前だって知ってるだろ」
「そうですね。良く――知っていますよ。とても、良く」
マサキを抱き締めたシュウが、正面のモニターを見上げる。引き絞った口唇が端正な顔をより際立たせた。けれども彼の瞳に映っているのは、先方を往く軍機でもなければ、ようやく目にしたラングランの豊かな自然でもないようだ。
「あなたはこの世の邪悪に限りがないことを知らない」
それはシュウがこれまでに目にしてきた世の醜さを語って余りある言葉だった。
邪神を拝する教団が、世の常識で量れるなどとは流石にマサキも思っていない。きっと自分はこれから幾度も絶望することになるのだろう。セニアが覚悟を決めろと云ったのは、だからだ――マサキはシュウの両頬を自らの手で包み込んだ。そして彼の陶器で出来たような顔を自らに向けさせる。
「知ってるか。荷物はふたりで持った方が軽くなるんだぜ」
「それが私には辛いのですよ」
到底、辛いと感じているようには見えない表情でシュウが云う。
いつもそうだ。シュウはいざとなると途端に心を閉ざしてしまったかのような態度を取ってみせる。まるでマサキたちには自分の因縁は関係ないとでも云わんばかりに。
けれどもマサキは知っている。その冷酷にも映る仮面の下に全てを押し込むことで、彼は他人が覚える罪悪感を濯いでいるのだと。
「どんな邪悪にも耐えてみせる。だから俺を信じろ」
暫く、沈黙が流れた。
マサキを凝視しているシュウの瞳には感情らしい感情がない。それでも、そこに映っている自分の顔が揺らめているのを見て取ったマサキは、彼の感情が激しく揺れ動いているのだと感じ取った。
「地獄に落ちても知りませんよ」
ややあってシュウが口にしたひと言は、これまで彼が戦い続けてきた中で、犯さざるを得なかった罪の重さを感じさせるものだった。
孤軍奮闘を常とする彼は、正攻法だけでは乗り切れない修羅場を潜り抜けてきている。マサキは笑った。今更その程度のことを気にしてマサキを連れて行かない選択をするなど、どれだけ彼はマサキを見縊っているというのか。
「お前が一緒なら、それも本望だ。それともお前、俺をひとりで地獄に落とすつもりか」
「まさか。あなたが地獄に落ちるのであれば、私はその先を往きますよ」
「だったら構いやしねえ」
マサキはシュウの顔に自らの顔を重ねていった。
きっと、ここから先、彼の温もりをこうして感じ取れる機会にはそう恵まれないことだろう。だからマサキはシュウの口唇を思う存分貪った。滑った彼の舌を、狂ったように絡め取る。
どの道、彼にかけられた催眠術がある以上、マサキはシュウでなければ達することは出来ないのだ。
だったら生きるも死ぬも一緒だ。シュウから口唇を離したマサキは、糸を引く自らの舌を口腔内に吸い込んだ。
「先ずはサフィーネの目を覚まさせないとな。あいつを何とかしねえことにはお前を表舞台に立たせられねえ」
マサキはもそりと身体を動かして、シュウの膝の上で身体を返した。
自動操縦システムは順調に動いているようだ。正面モニターに映る軍機を確認したマサキは、これから始まる熾烈な戦いを思って表情を険しくした。
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