そろそろ話を動かしくたくもあるのですが、やることが決まっている割にはそこに辿り着くのがたいへーん。不穏さだけが増してゆくー。
拍手有難うございます。励みにしております。
ようやく仕事も落ち着いてきました。今週はなんと二度も早帰り出来ました!
この調子で来週以降もいければいいなあ。それだけで結構書くもの書ける!
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<インモラルオブザーバー>
彼は生に意地汚い。
何があろうと自分は生き抜いてみせるという意思。シュウ=シラカワという人間は、自分本位に生きているように見えて、あれで中々、利他的な面を持ち併せている。マサキに対しては容赦なく立ち回ることも多い彼ではあったが、仲間の為とあれば率先して動いてゆく。それが、自らとともに生きていくことを選択し、その為に地位や立場を失った者たちに対するせめても償いだとでも考えているように、彼は自分の仲間に対しては寛容且つ面倒見のいい男であった。
そう考えると、マサキは未だ彼との関係構築におけるスタート地点にさえも立てていないのかも知れない。そもそも今の関係にしたところで、彼がマサキにかけた催眠暗示の効果が大きい。その催眠暗示をかけられるに至った経緯にせよ、正直大ぴらに出来るものではない。情報交換のついで――そう、マサキは彼に自らの気持ちを伝えたことがなければ、彼から自らの気持ちを伝えられたこともなかった。
それでよくも一緒に住んでいられると思う。
けれどもあの時のマサキは他に行き場がなかった。彼がマサキの肌に刻んだ紅斑の所為で起きた喜劇。もし、テュッティに見付かることがなければ、マサキは未だプレシアと一緒に暮らしていたことだろう。
マサキにとって、シュウと一緒に暮らす理由などその程度のものだ。
対してシュウはどうであるのだろう。仲間に対して寛容な彼は、マサキに対しては辛辣なぐらいの厳しさを垣間見せてくることがままある。それは、その立場に相応しい働きをしてみせろと挑発してくるが如く。
四大精霊が頂点に君臨する風の魔装機神の操者。
風の噂で耳にしたところによれば、彼はサイバスターの操者候補として期待されていた時期があったようだ。その所為なのだろうか。彼はマサキの成長を助けるように厳しく接してみせながら、マサキをその立場から引き摺り落とすように堕落への道をひた走らせようとする。そう、快楽という餌で以て。
マサキは管理室を出て、独房へと向かった。
彼に何を選択するのかわざわざ問うのも馬鹿々々しいと思いつつも、あれらをどう組み合わせるのかと期待してしまっている自分もいる。使いようによっては首輪の分解にも使える装置の数々。果たしてシュウはどちらの選択をしてみせるのだろうか?
「おい、入るぞ」
マサキが独房に足を踏み入れると、床の上に座した男は腕を組んで宙を睨んでいた。
シュウの足癖はあまり良くない。足を日常的に組む彼は、床に座る際も胡坐を掻くのが普通であるようだ。欲に塗れた要望をマサキに叶えさせようとした後には思えない。まるで主賢者の如き禁欲的《ストイック》な表情。彼の鋭い切れ長の瞳は、時に彼を世俗的な事柄とは無縁に生きているように捉えさせる。
「何だ。そんなしかめっ面をして」
「暇ですからね。頭の中でパズルを作っていたのですよ」
「パズルだと。呑気にも限度があるな、お前。囚われの身のくせしやがって」
「あなたと性行為《セックス》をする自由はありますからね」
「云ってろよ」
マサキは床に置かれたままのノートと筆記具を取り上げた。パズルを考えていたという割には、何かを書き付けた気配がない。念の為にノートの紙の枚数を確認する。30枚きっかり。どういうことだ? マサキはシュウを振り返った。
「お前、もしかしてパズルを考えてるって脳内でか」
「紙に書いたら面白くないでしょう。直ぐに解けてしまう」
「それ、楽しいのか」
「頭の運動にはなりますね」
そう云ってマサキを手招いてくるシュウに、マサキは顔を顰めつつも膝に乗った。そろそろシャワーを浴びさせないと。彼が好んで付けている香水の匂いが薄れつつあるのを嗅ぎ取ったマサキは、それがかなりの手間になることを覚悟しながら、頬に手を這わせてくるシュウに向き合った。
「ところで何の用で来たのですか」
「お前が云ってた玩具を持ってきたんだがな、流石に一度に全部は持ち込ませられないって云われてな」
「成程。まあ、最低限の用心はしているようで何よりですよ。あまりに警備が笊でもね。面白味がない」
「逃げ出そうとしてるんじゃねえよ」
「逃げるのなら、あなたを仲間にしてからですよ、マサキ。あなたが相手だったとはいえ、無様に捕らえられてしまった。手土産ぐらいは持ち帰らねば」
どこまで本気なのか。そう云ってマサキの口唇を啄んでくるシュウに、「だったら一生、ここにいろ」マサキは自ら口唇を合わせていった。
不摂生が祟っているのだろうか。口の端が荒れている。
窓もなければ、ベッドもない。劣悪な環境に置かれては、如何に鋼の精神力を有する彼であってもストレスを感じるようだ。せめてベッドがある房に場所を移してやりたいとマサキは思うも、シュウが有している能力が能力だ。マサキにしても、この独房だからこそ彼の相手が務まっている面がある。制限のない状況下の彼と本気で戦ったことは数えるぐらいしかないマサキだったが、今の自分の実力でも単独で敵う気はしない。
「それで、マサキ? 一度に無理ということは、幾つかは持ち込めるのでしょう」
「諦めるということを知らないな、お前」
「あなたとこうしている時間が、唯一の娯楽のようなものですからね」
「さっさと寝返ればいいものを。強情を張るからだ」
どうやらシュウは、まだ敵がどういった集団であるかを吐く気はないらしい。
本当に持久戦だな。マサキはシュウ=シラカワという男をここまで従属させる正体不明な敵に、今更ながら不気味さを感じた。大抵のことであれば自分の力だけで処理しきってみせる男が、ここまで意地になるということは――けれども、その予想をマサキは口には出来なかった。
憶測で動きを決めることほど愚かなこともない。それは敵を決めることと同じくらいの暴挙だ。足元を掬われない為にも、目の前の事実だけを信じなければ……マサキはシュウの肩に顎を乗せた。そして、彼の頬にかかっている髪を掻き上げてやりながら、その耳元に囁きかけた。
「どれを持ってくればいい? 三つまでなら許してやる」
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