幸せって、ささやかな日常にこそ感じられるものであると思うんですよ。
ということで、今回のリクエストは「30代のシュウマサのある平凡な朝の話。幸せな人生について考えるシラカワさん」になります。考えていたよりもさっくりと終わってしまったので、もう何編か同じテーマで書くと思いますが、お読みいただけると幸いです。
拍手有難うございます!大変、励みになっております!!!
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<或る晴れた冬の日に>
温暖な気候が常なラングランでは、四季に関係なく過ごし易い陽気が続いたものだったけれども、稀にはそれらしい天気になることもあった。
実に五年ぶりに雪模様となった翌日のこと。くるぶしまで雪が積もった庭で、マサキが使い魔たちとともにはしゃぎ回っているのを、シュウはリビングのソファの上から眺めていた。
先日、30歳を迎えたばかりのマサキだが、無邪気さを失うことはないようだ。掴んだ雪を周囲に撒き、使い魔たちに飛びかかられては雪の上に転がってゆく。きっと幼少期からこういった活発な性格だったに違いない。わあわあと声を上げて庭を駆けている彼の姿は、そういった幼少期を送ることのなかったシュウからすればとてつもなく眩いものだ。
対して自分はどうだろう。シュウは膝に置いている電子版の新聞に目を落とした。年齢を重ねたことで分別が付くようになったシュウは、かつてのような情熱を感じることは少なくなってしまっていたが、だからといってマサキに対する執着心や本能的な衝動を失ってしまった訳ではない。そう考えると、子どもの頃にとてつもなく大きな存在だと感じていた大人という生き物は、実際はそこまで大した存在ではなかったのだろう。自身の内面的な部分に変化を感じていないシュウは、改めて自身を振り返ってみてそう思わずにいられなかった。
――あの頃は、歳を取れば自然と年相応の振る舞いや考えが身に付くものだと思っていた……。
立場や人間関係と、シュウを取り巻く環境は、まるで移ろう季節のように様々に変化を繰り返したが、たったひとつのシュウを支える軸となるものは変わらぬままだ。自らの心のままに生きる。その為ならば、シュウは誰に何を謗られようとも構わなかった。
――自らの価値を決めるのは、他者ではなく自分自身であるのだ。
そういったシュウの覚悟を知ってか知らずか、いつしか傍にいるのが当たり前となったマサキは、シュウの我儘を最大限受け止めてくれる存在へと変化していた。彼のいない生活など考えられない。マサキがいる日常の有難みを噛み締めながら、新聞の中身に目を通し終えたシュウは、さしたる動きのない世界情勢に、平和なのが何より――と、強さを増す陽射しを受けながらソファから立ち上がった。
――あの頃は、歳を取れば自然と年相応の振る舞いや考えが身に付くものだと思っていた……。
立場や人間関係と、シュウを取り巻く環境は、まるで移ろう季節のように様々に変化を繰り返したが、たったひとつのシュウを支える軸となるものは変わらぬままだ。自らの心のままに生きる。その為ならば、シュウは誰に何を謗られようとも構わなかった。
――自らの価値を決めるのは、他者ではなく自分自身であるのだ。
そういったシュウの覚悟を知ってか知らずか、いつしか傍にいるのが当たり前となったマサキは、シュウの我儘を最大限受け止めてくれる存在へと変化していた。彼のいない生活など考えられない。マサキがいる日常の有難みを噛み締めながら、新聞の中身に目を通し終えたシュウは、さしたる動きのない世界情勢に、平和なのが何より――と、強さを増す陽射しを受けながらソファから立ち上がった。
「そろそろ雪も解け出すでしょう、マサキ。中に入っては」
窓から声をかければ、いつの間に作られたのか。マサキの腰ほどの高さになる雪だるまが、庭の隅にちょこんと座っている。あれも今日が終わる頃には溶けてなくなってしまうのだろう。シュウは積雪が齎した奇跡的な光景を、瞼の奥に焼き付けるように暫く凝《じ》っと眺めていた。
「五年ぶりの雪だってのに、呆気ないもんだな」
二匹と一羽の使い魔たちはこのまま外で過ごすつもりなようだ。今度はチカを相手にじゃれ合いを始めたシロとクロに、程々に――と、ひと言云い置いて、シュウはマサキをリビングに迎え入れた。雪に塗れた彼の髪はすっかり濡れてしまっていて、肌に雫を垂らしている有様だ。シュウはソファに用意していたタオルをマサキに渡し、シャワーを浴びてくるように告げた。
「それが終わったら昼食にしましょう」
「お前は浴びないのか」
「あなたと違って雪遊びをした訳ではありませんしね。それとも洗って欲しいですか、マサキ」
冗談めかして口にしてみれば、どうやらそういった気分であったらしい。ああ。と、頷いたマサキが、気恥ずかしそうに俯く。それを微笑ましく感じながら、シュウはマサキの頬に手を置いた。
身体の関係を持つようになって、かなりの歳月が経過したが、彼の照れ屋な性分はそう簡単には直らないようだ。
昨日、お前遅くまで本を読んでただろ。読書の終わりを待ちきれずに寝てしまったマサキは、何事もなく朝を迎えたことに不服を感じていたのだろう。彼の口からぽつりと洩れ出た不満の声に、シュウはその全てを奪い去りたくなる衝動に駆られながらも、最早そうする必要などどこにもないのだと、ともに住むようになって久しいマサキの顔をそうっと上げさせた。
――彼だけが、私を満たしてくれる。
青年期のシュウが抱えていた、原因不明の焦燥感。何かが欠けていると感じながらも、自分の不足を補うものの正体が何であるのかわからなかったシュウは、人生を生き急ぐかのように数多くのことに手を出した。復権だろうか。栄誉だろうか。それとも単純な平和だろうか。自問自答を繰り返したシュウは、その中で変わることなく輝き続けたマサキ=アンドーという光に、ある時、唐突に啓示を受けたのかのように答えを得た。
――自分は未来永劫変わることのない愛情が欲しいのだ。
自らの本心を容易には表に出せないシュウにとって、その道は過酷で果てしなく長い道のりだった。このまま溶けてひとつになれたらと望んだ数多くの夜。シュウは本能的な衝動に襲われるがまま、幾度もマサキを肉体的に征服した。それでも満たされることのない渇望。彼が欲しい。その餓えたような感情が何処から来るのか。高い知能を誇る筈のシュウは、容易にはその答えを導き出せぬまま。長い歳月が過ぎてゆく中で、少しづつ頑なな自らの殻を破ってゆくしかなかった。
「好きですよ、マサキ」
たったひとつの単純《シンプル》な答えに辿り着いたシュウは、ユリイカと叫んだアルキメデスの気持ちがわかったような気分になったものだ。自分の気持ちを言葉に乗せる。マサキに求めるばかりだったシュウは、而立を迎える頃になってようやく自らが与えることを覚えた。不器用で照れ屋なマサキはそれに対して頷くばかりだったけれども、嫌がることのない彼の反応は充分にシュウの心を満たしてくれた。
――相手の気持ちを受け入れることもまた、愛情の表れであるのだ。
そう考えると、自分は大分変わったのかも知れない。シュウはマサキの口唇に自らの口唇を重ねてゆきながら、彼の存在が与えてくれる幸せの数々を深く胸に刻み込んだ。そして、「なら、一緒にシャワーを浴びましょう。あなたの身体を温めないとね」そう口にして、彼とともに。バスルームへと足を運んで行った。
――彼だけが、私を満たしてくれる。
青年期のシュウが抱えていた、原因不明の焦燥感。何かが欠けていると感じながらも、自分の不足を補うものの正体が何であるのかわからなかったシュウは、人生を生き急ぐかのように数多くのことに手を出した。復権だろうか。栄誉だろうか。それとも単純な平和だろうか。自問自答を繰り返したシュウは、その中で変わることなく輝き続けたマサキ=アンドーという光に、ある時、唐突に啓示を受けたのかのように答えを得た。
――自分は未来永劫変わることのない愛情が欲しいのだ。
自らの本心を容易には表に出せないシュウにとって、その道は過酷で果てしなく長い道のりだった。このまま溶けてひとつになれたらと望んだ数多くの夜。シュウは本能的な衝動に襲われるがまま、幾度もマサキを肉体的に征服した。それでも満たされることのない渇望。彼が欲しい。その餓えたような感情が何処から来るのか。高い知能を誇る筈のシュウは、容易にはその答えを導き出せぬまま。長い歳月が過ぎてゆく中で、少しづつ頑なな自らの殻を破ってゆくしかなかった。
「好きですよ、マサキ」
たったひとつの単純《シンプル》な答えに辿り着いたシュウは、ユリイカと叫んだアルキメデスの気持ちがわかったような気分になったものだ。自分の気持ちを言葉に乗せる。マサキに求めるばかりだったシュウは、而立を迎える頃になってようやく自らが与えることを覚えた。不器用で照れ屋なマサキはそれに対して頷くばかりだったけれども、嫌がることのない彼の反応は充分にシュウの心を満たしてくれた。
――相手の気持ちを受け入れることもまた、愛情の表れであるのだ。
そう考えると、自分は大分変わったのかも知れない。シュウはマサキの口唇に自らの口唇を重ねてゆきながら、彼の存在が与えてくれる幸せの数々を深く胸に刻み込んだ。そして、「なら、一緒にシャワーを浴びましょう。あなたの身体を温めないとね」そう口にして、彼とともに。バスルームへと足を運んで行った。
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