忍者ブログ

あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

記憶の底 ReBirth(20)
20回を数えてしまいましたー!?

マジかびっくり。このペースで一週間過ごさせようとしていた自分が如何に無謀だったか思い知りました。プロット立て直してよかった……!!!!

風邪は少し落ち着いてきました。
大人しくしてろよ、というのはご尤もなのですが、風邪だから寝て過ごすって出来ないんですよねえ。(私、子どもの頃病弱だったのもあって、このぐらいだったら余裕で元気な方に入るので……)それにほら、シュウマサない生活って私の心が荒れるので……


<記憶の底 ReBirth>

 鳩が空を舞っている。
 ベンチに座っている人が餌を撒いたようだ。足元に寄ってきて餌を啄んでは、行き交う人々を避けるように空へと羽ばたいて行く。風船を持っている子どもがいるのは、何処かで配っているからだろう。きゃっきゃと声を上げながら両親とともにマサキたちの目の前を通り過ぎてゆくその子に、可愛らしいですね。シュウが目を細めて云った。
「可愛らしいって、お前も子どもだろうに」
「こんな風には遊ばせてはもらえていなかったので」寂し気な表情をみせたシュウが続けた。「羨ましくもあります」
 シュウは勿論のこと、フェイルロードにセニアとモニカ、そしてテリウスと、王室で育った彼らがどういった子供時代を送ってきたのか。マサキは彼らの口から訊いたことがなかったが、彼らの逞しい生き様を見ていると、マサキたちが過ごしてきたような子どもらしい幼少期を送ってきたのではないだろうとは予想が付く。
 マサキはシュウの背中をポンと叩いた。
 職業選択の自由が保障されているラングランに於いて、たったひとつの不変なる血統――王族という檻に閉じ込められた彼らには、それ以外の生業に就く選択肢は与えられなかった。そう、彼らがしてみせたように、重罪人の咎を受ける覚悟を背負って王室を飛び出すより他には……
 シュウが様々な学問や習い事、果ては武芸にまで通じているのは、そういった背景あってのことだ。未来の神聖ラングラン帝国を正しく導いてゆく為に、彼はそれらの教養を国家によって身に付けさせられた。その為に彼が費やしただろう膨大な時間は、どれだけ幼い頃から教育を受け始めたとしても早過ぎることはないぐらいだ。その時間の分、彼は子どもらしく過ごせる時間を奪われてきたのだろう。
 大丈夫ですよ。風船を持った子どもが人いきれの中に姿を消してゆくのを眺めていた彼は、ややあって背中に置かれたマサキの手に気付いたようだった。微笑みながら振り返ると、行きましょう。と、案内板の前に立つ。
「武器屋はあちらの通りにあるようですね。宿屋を目印にすればすんなりと辿り着けそうです」
「宿屋の隣に武器屋って、まさしくRPGの世界だな」
「RPG?」シュウが怪訝そうな表情を浮かべた。
「そういうゲームのジャンルがあるんだ」
 マサキは答えてみるも、シュウにはいまいち伝わっていない様子だ。
 地上世界よりも発達した文明を誇るラ・ギアス世界だが、マサキが見聞きした範囲では、電子技術を用いたゲーム機というものは存在していないようだ。それを裏付けるシュウの反応に、やっぱりな――とマサキは思いつつも、技術力的に作れない筈がない遊具であるだけに、釈然としない思いが残る。
「科学文明時代があったなら、ゲーム機が発達しなかったなんてことはねえと思うんだがなあ」
「ゲーム機、ですか……ボードゲームやカードゲームはプレイしたことがありますが、ゲーム機というものには心当たりが……」
「そう考えると、地上の方が文明的には贅沢なのかも知れないな」シュウを促して歩き始めながらマサキは云った。「味気ない世界って意味では地上の方が上かも知れないが、選べる選択肢が幾つもある」
 豊かな自然と発達した技術、そして剣と魔法の世界が同居しているラ・ギアス世界には、家に閉じこもって遊ぶようなゲーム機の存在は必要ないのかも知れない。メインストリートを折れた先の通りにも溢れる人々の群れに、マサキはそう思わずにいられなかった。
 街角で立ち話に興じる大人たちに、通りを駆け抜けてゆく子どもたち。連れだって歩く人々の手には、食べ物やら風船やら、買ったばかりと思しき荷物やらと、様々な品が握られている。その表情は千差万別だったが、マサキの目には彼らが伸びやかに暮らしているように映ったものだ。
「ゲーム機というものはどういったものなのです?」
 シュウを伴ってその通りを往けば、彼はゲーム機という存在に関心を持ったのか。話の続きとばかりに尋ねてくる。
「ひとりでだったり、複数人でだったりでゲームを楽しむ機械だよ」
「それって機械である必要があるのでしょうか?」
「あるんじゃないか。いや、どうなんだろうな。そもそもラ・ギアスがファンタジー世界みたいなもんだもんな。お前にとっては物足りなく感じるかも知れないな」
 マサキの説明は、シュウにとっては想像力だけでは補えないものであったようだ。テーブルゲームで充分な気がしますが――と、首を傾げた彼に、地上に行けばわかるさ。云って、マサキは通りの先に目を遣った。
 建物と建物の間をフラッグが繋ぐ通りに降りしきる太陽の光。眩さに目を細めながらも、人の流れに任せて通りを往けば、やがて目印となる宿屋が見えてきた。あれか。マサキは隣に立つシュウに訊ねた。隣の建物に武器屋を示す看板が掲げられている。恐らく、と答えたシュウが先に軒先を潜る。マサキも続いて店内へと足を踏み入れた。
 焼けた鉄の匂いが鼻に満ちる。恐らく、店の奥が工房になっているのだろう。
 マサキはシュウと並んで、壁際に沿って並べられている剣を眺めた。街と街の距離が離れているラングランでは、移動の際に護身用の刀剣を持ち歩く民衆も少なくない。
 長閑に見える世界ではあるが、都市部を除いた地方の治安はそこまで良くないのが実情だ。追剥に盗賊と、危険が潜む外の世界。店に並んでいる剣は、彼らと戦うぐらいであるのなら事足りるだろうが、シュウを狙っている腕利きの暗殺者たちの相手をするには心ともなく感じられる。
「練習用でしたらこの辺りでしょうか。この長さが一番しっくりきます」
「実戦用の剣も欲しいところだがな」
「今からオーダーするとなると、それなりに時間がかかります。その間に記憶が戻らないとも限りませんし、当面はこの剣でいいかと思いますが」
「まあ、確かにな……」ついでとマサキも自分用の剣を選ぶ。
 重くもなく、軽くもない。それでいてしなやかな剣。注文は多いが、普段通りの動きをする為にも、愛用の剣に近い感触の剣が欲しい。マサキは次々と剣を手に取った。自らの伸びた手足に不慣れな現在のシュウであれば、剣を持たずとも相手は出来たが、元々の能力が能力だ。いつかは剣を持って相手をしなければならなくなるのは目に見えていたし、何よりどのタイミングで敵が襲いかかって来るかもわからない。魔法を使えるシュウはさておき、剣技のみを頼りとするマサキにとって、剣とは命を預けるものである。出来得る限り上質な剣を持ちたいと望むのは、当然の成り行きでもあった。
「これかな。値段は張るが、これなら思った通りの動きが出来そうだ」
 剣を購入し終えたマサキは、早速とその剣を腰に下げた。ずしりと腰にかかる重み。この方が落ち着くと感じるのは、それだけ剣を扱うのに慣れたからでもあるのだろう。
 これさえあれば万が一の事態が起ころうとも有利に戦いを展開出来そうだ。そう感じさせる程度には質の良い剣。所持金に余裕があればもう一本購入しても良かったが、今後、また街に出る機会が訪れないとも限らない。その時の為にも所持金には余裕を持っておかねば。同じく剣を下げたシュウとともに店を出たマサキは、食材を買い出す前に街を少しだけ見て回ることにした。




PR

コメント