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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

未来《あす》を夢見る籠の中の鳥(前)
お待たせしました!最後のリクエスト消化になります。

幼少期に初めてサイバスターを見たシラカワさん

思った以上に難産になってしまったのですが、どうにか進められるところまできたので書き始めます。短い話にはなると思いますがお付き合いいただけますと幸いです。あ、全て妄想の産物ですので悪しからずご了承ください!←大事なこと

拍手、コメ、有難うございます。とても感謝しております。残すところ僅かではありますか、最後までお付き合いのほどを宜しくお願いいたします。レスは明日返します!


<未来《あす》を夢見る籠の中の鳥>

 成人すると同時に練金学士協会《アカデミー》に入会を果たした才女が、段階的に進められていた魔装機計画に携わることになったのは、彼女の実力がそれだけ比類なきものだったからに他ならなかった。
 他の研究に携わっていた彼女から或る日突然に提出された一枚の設計図。独りで書き上げたとは思えぬ完成度の高さを誇った新型魔装機の設計図は、これまでの魔装機の概念を覆す斬新なデザインも相俟って、彼女を一躍、練金学士協会の時の人とした。
 たった一年で未来を嘱望されるようになった不世出の才女の名は、ウエンディ=ラムス=イクナート。後の練金学士協会会長の輝ける練金学士人生は、こうして始まりを迎えたのだ。

 ※ ※ ※

 シュウがウエンディと初めて顔を合わせたのは、彼女が練金学士となった年のことだった。王族が居並ぶ玉座の間で行われた協会への入会式典。アルザールから拝命を受けた練金学士の卵たちの中に、花も可憐と佇む彼女がいた。
 さりとて、その時点でのシュウは彼女には何ら興味を持ってはいなかった。如何にも学術の徒というべき野暮ったい風体の練金学士の卵たちの中では、彼女の容姿は非常に目を引くものであったが、それが必ずしも実力を表すとは限らない。幼くともシュウはそう理解していたからこそ、脚光を浴びることとなった彼女の名を聞いても、最初は誰のことを云っているのかわからなかったものだ。
 彼女に強い興味を抱いたらしいシュウの両親が彼女を王宮に招いたからこそ、シュウは彼女が件の少女であったということを知るに至ったのだが、だからといって特に心を動かされることもなく。不世出の才女であれば、幼くして才気煥発な息子の相手も任せられる――そう考えて彼女を呼び寄せた両親としては肩透かしを食らった気分であったようだが、それもその筈。始まりの時点から、シュウが興味を抱いていたのは、彼女よりも彼女が設計した新型魔装機の方にあったのだ。
「なら、今作っている模型をあなたにあげるわ、クリストフ」
 穏やかに言葉を紡ぐ彼女は、シュウが想像していた才女の像からはかけ離れていた。鋭い発言をすることもなく、ありがちな言説に終始する。既に学問の分野で頭角を現し始めていたシュウにとっては、ウエンディのそれらの言葉は子供騙しな発言のようにも捉えられたものだった。
 むしろシュウに付けられていた家庭教師たちの方が、そういった意味ではシュウの興味や関心を引く発言をしてくれていただろう。斬新な設計図を作り上げたにしては目新しさを感じさせない――彼女の発言の数々は、シュウにある種の警戒心を植え付けていた。
「模型?」
「そう。開発コードサイフィス。私が設計した魔装機の模型よ」
 その彼女からの思いがけない提案。会う度にシュウが新型魔装機のことばかり尋ねていたからだろうか。試作に進む前段階でバランスや駆動域等を見る為に作られる模型を、彼女はシュウに譲ると云ってきたのだ。
 様々な花々が咲き誇る王宮の庭でのことだった。ラングランを吹き抜ける温かくも穏やかな風が、花弁をさやさやと揺らしていた。この庭を見るのが楽しみなの。王宮に上がり始めた頃にそう云ってはにかんだ笑みを見せた彼女は、特に強い要望がない限りは、華美に飾り立てられた室内で時を過ごすよりも庭で会話をすることを望んだものだった。
「あなたは魔装機に強い関心を抱いているでしょう。どの道、チェックが終われば用の終わる模型だもの。機密保持の問題もあるから、本来であれば廃棄処分になるものだけど、あなたが持つというのであれば、練金学士協会《アカデミー》も許してくれると思うわ」
 国家機密に属する魔装機計画。科学を超えたる練金学は、無限の可能性を未来に描き出していた。人類の長年の悲願であった世界平和。争いのない世界の構築の為には、抑止力たる兵器が必要不可欠である。それを強国ラングランは生み出す決意をした。シュウが強い関心を魔装機計画に寄せていたのは、その理念が果たして叶えられるのか――それを見たかったからでもあった。
 ウエンディ=ラムス=イクナート。不世出の才女が造り上げる新型魔装機は、その力に足る兵器となるのだろうか?
 そこにはシュウと同じ年頃の子どもたちが感じるような単純な好奇心はなかった。国民の為に戦うことを宿命付けられた王族の一員たるシュウは、将来的には自分も魔装機を駆り戦場に赴いてゆくものだと思っていたからこそ、それが自身の命を預けるのに相応しいものであるのかも知りたかったのだ。
「約束するわ、クリストフ。あなたに私の作品を必ず見せてあげる」
 シュウの母と親交を得るに至った彼女は、無邪気な気質を有する母をいたく気に入っていたようだった。シュウの母もまた、歳の割にしっかりとした気質の彼女が気に入っていたようだった。だからだろう。そう云って小指を差し出してきた彼女に、シュウは自身も小指を差し出した。
 ――指切りげんまん、嘘吐いたら針千本飲ます……
 きっと母が教えたことであるのだ。シュウはそう思いながらも、彼女がいつの間にか母の故郷の文化に親しんでいることに好ましさを感じずにいられなかった。
 子どもとは単純な生き物だ。
 地底人と地上人の合いの子であるシュウは、その出自を蔑まれることが少なからずあった。王族の忌み子。貴族の一部で自分がそう呼ばれていることを知っていたシュウは、この頃には既に、自分の存在がどうやら一部の他人にとっては歓迎されざるものであるらしいということに気付いてしまっていたのだ。
 だから彼女が曇りなき心で、自分たちの存在を受け入れてくれているらしいという事実に喜んだ。
 ――指切った!
 そう高らかに声を上げた彼女が、続けて花も零れる笑顔を浮かべる。ずっと距離を感じさせていた幼子が、自分が差し出した小指に指を絡めてくれたことが、彼女にとっては嬉しく感じられる出来事であったのだろう。約束よ、クリストフ。そう云ってそうっとシュウの髪を撫でてきた彼女に、シュウはもう警戒心を感じなくなっていた。




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