申し訳ございません!
知り合いから久しぶりのSkypeが飛んできて長話になってしまいました!
遅くなった挙句、前中後編の三回では終わらない空気がひしひしと。
しかし書いていて思いますが、うちの白河とビアン博士はホント仲が良くないですねー。余所との解釈の違いに驚くばかりですが、こういう人がひとりぐらいはいてもいいんじゃないかなと特攻します!骨は拾ってね!
拍手有難うございます。感謝しております。
まだまだ白河祭りは続きますので、できれば最後までお付き合いのほどを!
知り合いから久しぶりのSkypeが飛んできて長話になってしまいました!
遅くなった挙句、前中後編の三回では終わらない空気がひしひしと。
しかし書いていて思いますが、うちの白河とビアン博士はホント仲が良くないですねー。余所との解釈の違いに驚くばかりですが、こういう人がひとりぐらいはいてもいいんじゃないかなと特攻します!骨は拾ってね!
拍手有難うございます。感謝しております。
まだまだ白河祭りは続きますので、できれば最後までお付き合いのほどを!
<汝、求めるものに忠実なれ>
「――今週の活動報告は以上になります」
専用通信回線《ホットライン》を通じてDC総帥ビアン=ゾルダークへの活動報告を終えたシュウは、そうして卓上に開かれているホログラフィックディスプレイへと視線を向けた。威厳に満ちた表情。順調に拡大を続ける組織の基盤を支えている男は、シュウの報告に満足そうに頷いた。
「ところで、シュウ。君は今、意識についての論文を書いているそうだが」
唐突にビアンの口から発された言葉にシュウは何故か激しく動揺した。何処からその話を聞き付けてきたのか。組織の機材や電子網《ネットワーク》を使用している以上、いつかは彼に伝わる話だと思ってはいたが、それでも早まった鼓動が落ち着く気配はない。
ええ――、と頷くに留めたシュウは、動揺が面に出ないように努めるのが精一杯だった。
世界最高峰の頭脳を持ち主にして、超越者《カリスマ》ビアン=ゾルダーク。長く工学畑で活躍を続けてきた彼に比べれば、学者としては駆け出しであるシュウは知名度も経験値もないに等しかった。十指に及ぶ博士号は確かにシュウの学会デビューの話題作りに一役買ったが、それはつまりその後の他人の見る目がそれだけ厳しさを増すということでもある。
所属する学派のノルマをこなすように論文を上げる日々。腰を据えて研究をしたいと望んでも、|後ろ盾《スポンサー》に乏しいシュウがやれることには限りがある。そこに手を差し伸べてきた男がビアンだった。彼はシュウに適切な環境を与える代わりに、組織の活動に力を貸すよう要求してきた。
地頭の良さだけでは優劣が付かないのが学者の世界だ。シュウは功績を上げる為、また自身が心に秘めている目的を果たす為に、彼の申し出を受けることにした。ビアンと向き合う際に、シュウがどうとも表現出来ないいたたまれなさを感じるのはだからなのだろう。
「何故、今になって意識とは何かについて論じようなどと思ったのかね。専門家《エキスパート》であるならまだしも、君は門外漢《ビギナー》だ。既にあらかた意見が出尽くした分野に手を出したところで、今更目新しい発見もあるまい。さりとて、君のことだ。踏み荒らされた荒野で一粒の麦を探すような無意味な作業に、今更、理由もなく手を出した訳でもないだろう」
しかしそのビアンの明晰な頭脳をもってしても、シュウが何故、意識を論文のテーマに選んだのかの理由は見抜けないようだった。
心底不思議そうに言葉を吐いたビアンに、当たり前だ。シュウは心の中で毒付いた。シュウにも良くはわかっていないのだ。衝動的に手を出した研究。魅力的と感じたというよりは、本能的な欲求だった。それをどうして他人が理解出来たものか。
とはいえ、よもや自分でも理由が良くわかっていないなどとは云えない。シュウは仕方なしに、思い付くがままに言葉を吐くことにした。
「お言葉ですが、博士。研究とは、自身の興味に因ってのみ為されるものだと私は思っています」
「君が意識に興味を持つ?」ディスプレイの向こう側のビアンは、余程シュウが意識というテーマに手を出したことに意外性を感じているようだ。蓄えた髭を手で撫で付けながら、怪訝そうな表情で言葉を継ぐ。「AIにでも応用するつもりかね。それにしても思考モデルが成り立って久しいものだが」
「純粋な興味ですよ、博士。哲学、心理学、脳神経学と分野を違え、そのシステムが解明されようとも明かされない謎。それが意識の在処ですからね」
「その割には、文学的な文脈の収拾に終始しているように思えるがね」
どうやら電子網《ネットワーク》を介してシュウの研究のデータベースにアクセスしているようだ。手元で操作をしながら表示されるデータに目を通しながらビアンが口にする。
「先ずは人間がどう意識というものを捉えているのか知ることが肝要だと思ったのですよ」
「確かにこの膨大なデータは特定分野の人間にとっては垂涎ものだろうが、実際のモデルを分析せずに結論を導くのでは、理想を語っているだけなのと同義だ。折角の研究を机上の空論にしない為にも、実モデルの参照は必要不可欠だと思うが。ましてや、AIの誕生でこの分野は飛躍的な伸びをみせている。概念的な意識のモデルは既に完成域に辿り着いてしまった後だ。余程の目新しさがなければ注目は浴びれそうにないが、君に勝算はあるのかね」
「博士、あなたは知的好奇心に勝ち負けがあると仰る」
それに対してビアンは、ふむ。と、考える素振りをみせた。
しかしビアンとて伊達にこの世界で最高峰に登り詰めた訳ではない。彼には彼なりのこの世界で生き残る為の規範や哲学があるのだ。だからこそビアンはシュウを諭すことにしたのだろう。ややあっておもむろに口を開いたビアンは、シュウを懐柔するかのように言葉を継いだ。
「しかし良きスポンサーを得る為には注目を集めることも大事だ」
「その為の有機モデルの構築ですよ」シュウは論文における最終目的を挙げた。
だがビアンは、モデルは所詮作り物だとでも思っているのか。即座にシュウの言葉を打ち消しにかかってくる。
「モデルは所詮モデルに過ぎんよ。君が良ければ丁度いい観察対象《モルモット》がある。分析に使ってみたいとは思わんかね」
「実例……? 捕虜でも使わせるつもりですか」
確かに有機モデルは作成者の概念が反映されるという問題点があった。その欠点を軽々しく見逃してくれるようなビアンではない。彼はシュウのスポンサーであると同時に、|一流の研究者《プリマクラッセ》でもあるのだ。
それを把握していたからこそ、彼になるべく情報が入らない形で研究を行っていたというのに。シュウは悩ましい状況に追い込まれた自身の研究の方向性を改めて確認した。
シュウが多角的な視点からの分析を経た上での有機モデルの構築という手順を選択したのは、人間の意識――実モデルの分析における不確定要素の排除にある。観察者と被観察者という関係性、或いは第一印象が与える影響は、実モデルたる彼らの意識の流れに少なからず影響を及ぼすことだろう。そうしたある種の恣意性を排除しきれないのであれば、それを最小限に食い止められる構成にすればいい。自身の分析力を過信しているシュウは、そこから被観察者という他人を排除することで、それを可能に出来ると考えている。
「それではデータに偏りが出るだろう。有意性を保つ為には、観察対象《モルモット》が置かれている環境の標準化が必須だ」
「それは確かに。しかしどういった実モデルを用意されるつもりですか。私は観察者と被観察者の間から、感情的なノイズを排除しきれるとは思っていないのですが」
「観察者は必ずしも対面である必要もないだろう。測定装置さえ装着させられれば、遠隔で問題ない」
「装置の装着を覚らせない方法があるとでも?」
ある。と即座に断言したビアンに、シュウは嫌な予感がするのを止められなかった。
それは被観察者の同意を得ずに装置を装着させるということではないのか? 観察を行うに当たって尤も根本的な問題を処理せずにことを進めようと企むビアン。倫理的且つ人道的な問題と直面させられたシュウは、それを無視してまでシュウに人間という実モデルを分析させようとする彼の思惑を様々に推測した。
――そこまでの有用性を持つ意識の持ち主とは誰だ。
いずれにせよ、ビアンがその人物の意識を高く評価しているのは間違いない。そうシュウが結論付けた矢先だった。何が可笑しいのか。ビアンはクックと声を低く立てながら嗤ってみせると、程なくして閉じた瞼をゆっくりと開いた。
「私の娘を使うのだよ、シュウ」
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