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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

記憶の底 ReBirth(了)
ここまでお付き合い有難うございました!
次はリクエストを消化しようと思います。

何を思ってこうした話を書いたのかについては、日記で半分ほど書いたのでそちらに譲ることとして、長く苦しい戦いでした!暫く過酷な戦いが続きますが、先ずはお疲れ様、私!と、自分を労いたいと思います。いやーシリアスは疲れますね!この鬱憤はエロ一辺倒の「インモラル」で晴らしたいと思います!笑

では、物語のラストシーンへどうぞ!って、云っても、この話まだまだ続くんですが……
今回はここまでということで!


<記憶の底 ReBirth>

 目を開いたマサキは視界いっぱいに広がる天井に、ここがまだシュウの部屋であることを覚った。
 どうやらシュウは既にベッドを後にしているようだ。いや、もしかすると、マサキが手足を楽に伸ばして僅かに余る程度の大きさのベッドだ。場所を変えて眠っているのやも知れなかった。
 マサキはのそりとベッドから身体を起こした。几帳面な性格は大人にとなっても変わらずであるらしい。サイドチェストの上にきちんと畳まれて置かれている衣服。だるさの残る身体を引き摺るようにしてベッドから抜け出したマサキは、のろのろと着替えを済ませるとベッドルームを出た。
「起きてきたのですね」
 リビングのソファに身体を落ち着かせて読書に励んでいるシュウは、果たして眠りに就いたのだろうか。マサキは壁に掛かった時計を見上げた。時計が昼を指しているということは、凡そ一日近くが経過したということである。
「懐かしいものを買ったようですね」
 彼が手にしている本を眺めてみれば、9歳のシュウが街に出た際に買い求めた中の一冊であるようだ。
「今のお前の知識を理解するには、事前知識が足りないって云ってたからな」
 そうですか。どこか懐かしさを感じているような口振りでシュウが頷く。彼は読み進めていた本を閉じると、それをテーブルの上にそうっと置いてから、マサキにソファに座るよう促してきた。
「過去の私は今の自分が置かれている環境をどう感じているようでしたか」
「混乱していたんだろうな。でも、受け入れるしかないと腹を括ったんだろ。記憶が戻らなければ、お前の意思を継ぐつもりでいたようだった」
「でしょうね」シュウの瞳がマサキを通り越した遠くへと向けられる。「私のすることですから、何となく予想は付いてましたよ」
 それは何処かを見ているようで、けれども何処をも見ていない眼差しだった。他人の心の機微に疎いマサキは、こうした時に相手が何を考えているのか想像が付かないことが多かった。それでもマサキには、シュウが何を見ているかわかるような気がした。
 きっと、マサキの知らない過去を見ているのだ。
 だからマサキは、余計な言葉を差し挟むのを避けた。そして、黙って様々に思いを巡らせた。
 どうやら彼は始まりから、9歳のシュウが事態に右往左往しているのを眺めていた訳ではなさそうだ。さしもの彼であっても自然の為すことには逆らえなかったのだろう。それならいい。マサキは気掛かりのひとつを清算した。
 人の悪い彼は、そうやってマサキを陥れることさえ躊躇わない気がしていた。
 そうでなかったことがわかっただけでも、マサキは心が慰めらるような気分になった。たった三日間。9歳のシュウと過ごした日々は、時間の短さに反比例するように密度の濃い記憶をマサキに遺してくれていた。だからこそ。
「何も聞かないのですね」
 ふっとシュウの瞳がマサキを中央に焦点を合わせてきた。熱に浮かされたようにマサキの身体を求め尽くした後にしては、落ち着き払った態度。それこそがシュウ=シラカワという人間の常態であると理解はしていても、遣る瀬無い。
 ともに堕ちることを選んだ男は、だからといってマサキとの心の距離を詰めることはしないのだ。
「聞いても仕方のないことだろ。それとも何だ。日記帳の中身を見せなかった割には、聞いて欲しいのか」
「まさか」シュウが乾いた笑いを浮かべる。
「なら、聞かせるなよ」マサキはシュウを真正面に見据えて云った。「俺にはお前は背負えない」
 それにシュウは答えなかった。ソファから立ち上がった彼は、飲み物と食べ物のどちらを口にしたいかマサキに尋ねてきた。水が飲みたい。マサキは答えた。最後にスープを口にしてから丸一日が経過している。当然のことながら、喉はからからだ。マサキはシュウが用意したミネラルウォーターを殆どひと口で飲み干した。
「帰るぞ」そして最後に残った大事な用事を済ますべく口を開く。
「彼らが帰って来るまでいてくださってもいいのですよ」
「冗談だろ。お前とこの後も顔付き合わせて生活しろって? 俺の役目は終わったんだ。素直に帰らせろよ」
 本当に? 悪戯めいた表情。彼の口元に広がった性質の悪い笑みに、マサキは顔を顰めることしか出来なかった。
 長い性行為の終わりがいつだったのか、マサキは覚えていない。
 二度ほど達したのは覚えている。
 一度目はシュウが動き始めて程なくだった。既に愛撫で充分過ぎるほどに高められていたからだろう。気付いた時にはあっさりと、陰嚢に溜まった精液を吐き出してしまっていた。
 二度目は体位を変えて、彼の腹の上。自分で腰を振るように命じられたマサキは、呆気なく射精に至った一度目の鬱憤を晴らすように、後孔に咥え込んだ彼の男性器を貪り尽くすが如く思うがまま腰を振った。その終わり際だった。両手を掴まれて、嫌というほど突き上げられた。
 深く収まった彼の男性器はマサキの肚の底を叩くように、小刻みに振動を繰り返した。
 快感の波が引き切るより先に、尤も弱い部分を叩かれ続ける。それはマサキの置かれている状況を一変させた。下ることなく上り続ける快感の波。ああ、ああ。くる。そう思った次の瞬間、視界が真っ白に弾けた。
 何が起こっているのかわからないぐらいの快感。上に向かっているのか、それとも下に向かっているのか。重力を無視した浮遊感に包まれながら、どろどろと溢れ出た精液を吐き出し切った。そうして、視界が暗転した。
 それがマサキのシュウとの性行為の最後の記憶だ。
「……帰るったら帰る。プレシアにしてもそうだし、シロとクロにしてもそうだ。何も云わずに出てきちまった」
 探るような眼差しがマサキを窺っている。それはこれで終わりにしていいのかという、彼からの最後の確認のようだった。とはいえ、マサキに欲がある彼は決してそうは思っていないに違いない。機会があれば次も――そう心の奥では望んでいることだろう。
 要はマサキの受け止め方次第であるのだ。マサキは彼との関係を終わらせたかった。本能に抗えず、幾度だって彼の掌中に堕ちてゆく自分を止めたい。そう、この関係に行き場がないことを知っているからこそ。、
「そろそろサイバスターにも乗りたいしな」
 マサキはシュウに笑いかけた。
 正直、未練はある。マサキはこれからの長い月日を思った。身体が彼の温もりを欲しがって夜泣きをする。そんな夜を、後どれだけ過ごさねばならないのだろう。死ぬまで続く永劫の苦しみ。考えただけで気が遠くなる。
 それでもマサキはこの立場からは降りられないのだ。魔装機神操者。マサキがこの立場を降りる時は、ラ・ギアスを後にして地上に戻る時だ――。
「なら、送って行きましょう。あなたひとりでは、いつ家に帰り着けたものかもわからないでしょうしね」
 腹の探り合いはこれまでだ。マサキはほうっと息を吐いた。話を切り上げるように再び立ち上がったシュウに続いて腰を上げる。そして、彼を追うようにして部屋を出る。その扉が閉まり切る前に、マサキは9歳のシュウを思いながら室内を振り返った。
 沢山の会話を彼と交わした部屋。そこに彼はもういない。
 ――これで良かったんだ。
 テリウスのこと。サフィーネのこと。モニカのこと。管理室を抜けて格納庫に向かうまでの道のりを、今となってはどうでもいい会話にマサキは費やした。彼らは元に戻ったシュウの存在を当たり前に感じるのだろうか? それとも今回ばかりは悦びに舞い上がってみせるのだろうか? 心の端にも引っ掛からないようなことを考えながら、マサキは格納庫に出た。
 淡く光を放っている青銅の騎士《グランゾン》は、主人の帰還に気付いたようだった。ニュートラルに保たれたシステムが、シュウを目の前にした瞬間に唸り声を上げた。待たせましたね。シュウもそれに気付いたのだろう。愛機にそう声をかけると、コントロールルームへと続くパーツを開いたグランゾンに乗り込もうとする。
 そこで彼はふと思い出した様子で動きを止めた。
「そう云えば、レシピを教わっていませんでしたね」
 9歳のシュウが気に入ったらしい玉葱のグラタンスープ。それを云っているのだと、直ぐに察しが付いた。
「誰がお前に教えるかよ」マサキは声を上げて笑った。「プレシアの大事なレシピだぞ」
 そう口にした瞬間、泣き出してしまいそうな感情の波がマサキに襲いかかった。脳裏に過ぎる9歳のシュウの無邪気さを感じさせる笑顔。それをマサキが目にすることはもうない。そう、もうないのだ。
 肩を竦めてみせたシュウを目の前に、マサキは目を細めた。
 涙は、出なかった。

<了>




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