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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

記憶の底 ReBirth(33)
次回で最終回にございます!
私へのご褒美回である今回!の予定な筈でしたが、あんまりエロくはなりませんでした……

がっかりだよ!自分に!

拍手有難うございます!ここまでお付き合いいただき有難うございました。あとはエンディングを書くだけです。支えていただいた全ての拍手に感謝しつつ、これから作業に取り組もうと思います。


<記憶の底 ReBirth>

「そうでしょうとも」
 シュウの口元に冷ややかな笑みが浮かぶ。昏い光を孕んだままだの彼の紫水晶の瞳が、白い肌の中、洞のようにぽっかりと穴を広げている。その、感情の一切を放棄してしまったのかのような表情が、却って彼が今抱いているだろう感情を強く表していた。
「あなたはそういう人ですよ、マサキ。他人にばかり答えを求めている」
 執着と心酔と依存。そして肉欲。胸に様々な感情を抱きながらも、それでも彼もまたマサキと同様に、自らの欲を捨て切ることは出来ないのだ。
 追って、追って、追い続けて。赦し、助け、肩を並べた。彼との記憶は、マサキにとっては決して他の仲間とは持ち得ないものばかりだった。絡み合った記憶と感情の糸。互いに関心を抱くこともなく、道を交わらせることもなく、ただ運命に流されるがままに、それぞれ何処かで生きていられれば、今日という日の訪れは異なる様相を示していたことだろう。けれどもそうはならなかった。彼は幾度だって窮地を迎えては、奇跡の復活を遂げてマサキの人生へと戻ってくる。
「本当に嫌であるのならば、腕でも足でも好きなだけもいでいけばいいでしょう。あなたにはそれだけの力があるのですから」
「馬鹿野郎……出来るか、そんなこと……」
「どうして? いっそ心臓を貫かれても構わない。あなたに殺されるのでしたら本望ですよ、私は」
 冷えた温もりを伝えてくるシュウの手がマサキの手を取った。そうっと取り上げられた手が、彼の口元に運ばれる。
 薄く開いた口元が、マサキの指を咥え込んだ。
 指を舐られたマサキは、びくりと腰を浮かせた。シュウに気《プラーナ》を吸われた状態とあっては、ささいな愛撫ですら身体に障って仕方がない。だのに、身体の奥底から湧き上がってくる快感。それは歓喜の咆哮を上げて、マサキの心をひと思いに食らい尽くした。
 指を舐っては手の甲へと舌を這わせ、手首に口付けてはまた指を舐ってゆく。取り上げられた右手に与えられるシュウからの愛撫の数々は、マサキの理性を呆気なく溶かしてしまった。欲しくて欲しくて堪らなかったものが、すぐそこに口を開けて迫っている。
 はあ……と、息が上がった。
 薄らぼやけた視界の向こう側で蠢くシュウの姿は輪郭を僅かに残しているだけだったが、何よりも雄弁に彼の動作を伝えてくる温もりの数々がマサキを捉えて離さなかった。
 ややあって、マサキの手からシュウの口唇が離される。身を屈めてマサキを見下ろしてくる彼の顔立ちは、出来のいい彫刻のように硬質的だ。先程まで露わとなっていた激情はすっかり形を潜め、今となっては残滓が僅かに眦に感じられるのみとなっていた。恐ろしいまでに理性的。彼のそういった自身に対する統制力の強さが、マサキには憎らしくも、また歯痒くも感じられる。
「嫌ではなかったの?」
「動けると思うなよ。こんな状態なんだぞ、俺は」
 シュウに与えられた愛撫の余韻冷めやらぬマサキの身体は、小刻みに震え続けている。そうですね。それを認めたのかはわからない。抑揚のない声で頷いた彼はやおらマサキの身体を抱き上げてきた。
 整い過ぎたきらいのある顔がにわかにマサキの首筋へと下りてくる。今度のマサキは逃げなかった。シュウの口唇が肌を吸い上げていくのを、時に身体を小刻みに震わせながら、そして小さく声を上げながら素直に受け止めた。
 憐れで愚かな男と自分。どちらも逃れ切れない欲に囚われてしまっている。耳に、頬に、首筋に。幾度もシュウの口付けを受けながら、マサキは声を上げ続けた。一枚、また一枚と脱がされてゆく衣服。躊躇いや途惑い、そして恐れはもう感じない。マサキは時に腕を上げ、膝を抜き、彼が自分の衣服を取り払ってゆくのを助けた。
 抗い切れない欲に溺れ、堕ちてゆく。
 全ての衣服を剥ぎ取られたマサキの身体が、ベッドに横たえられる。しがみ付くように背中に回されているマサキの手を、シュウがやんわりと解く。そして鎖骨へと下がってゆく頭。鎖骨から肩口、肩口から二の腕、肘窩を経て腋窩。丁寧に肌を這ってゆく彼の舌に、マサキはその都度、全身をわななかせた。
 腋窩から脇腹、そして臍と、シュウの舌は更にマサキの身体を下ってゆく。その頃ともなると、マサキの男性器はすっかり天を仰いでいる有様だった。きつくて苦しくて堪らない。下着はとうに取り去られた後だというのに、しきりと窮屈さを訴えてくる男性器。漲り切ったその先端から雫が滴った。
 だのに快感は絶え間なく。彼の舌が生じさせる感覚に呼応するように、マサキの身体を駆け巡るのだ。
 臍から下腹、腿と伝って、足の付け根。会陰を舐め上げた彼の舌が、ふっと肌から離れたかと思うとマサキの男性器の先端を吸った。途端に激しく跳ねる腰。自分の身体が自分の意思で制御出来ない。マサキはぶるぶると全身を震わせながら、声にならない声を上げた。
「もう少しだけ、我慢なさい」
 僅かに亀頭に触れただけのシュウの口唇の記憶が、まるで水底の藻のように全身に絡み付いている。
 滲む世界。いつしか瞳に浮かんでいた涙が、一筋の跡を残して零れ落ちた。マサキは重い両腕を持ち上げて、自身の瞼の上に置いた。どうしようもない欲に溺れている自分の浅ましさが、その涙に詰まっているような気がしてならなかった。
 背負い切れる筈がないのに。
 腿から膝頭、向こう脛、そして踝とシュウの舌が次第に足先へと迫ってくる。はあ、ああ、ああ……っ。顔を腕で覆い隠したまま喘ぐマサキを、彼がどういった思いで眺めているのか。マサキには想像も付かなかったが、彼もまた次第に欲望に溺れていっているのだということだけは理解出来た。
 時折、肌を吸い上げながら、足の甲を経て爪先へと辿り着いたシュウが、マサキの足の指を口に含んだ。あ……っ! マサキは短く声を上げて、頭を仰け反らせた。
 幾度も脳裏に蘇らせては自慰に耽った。たった一度限りの契りの記憶。その記憶が不意に胸の奥で弾け飛んだ。あの時のシュウもこうだった。マサキの全身を舐り尽くした彼は、あまりの快感と、けれども達しきれないもどかしさに懇願したマサキに逆らえないといった様子で、この後孔に自身の男性器を収めてきた。
 まだ半分も終わっていない。その現実がマサキを安堵させ、また同時に追い詰めてもゆく。
 達《い》きたい。達きたくて堪らない。
 足裏をじっとりと舐っていたシュウが、おもむろにマサキの身体を返す。ようやく折り返しだ。マサキは枕に頬を埋めて、両手できつくシーツを掴んだ。たったこれだけの愛撫でも、情緒が壊れてしまいそうだ。
 踵からふくらはぎ、膝窩《しつか》。腿の裏側を辿ってきた舌が、双丘の谷間を割って口を窄めている蕾に捻じ込まれる。あ、馬鹿。マサキは顔を上げた。咄嗟に腰を引こうとするも、気《プラーナ》を奪われた身体は簡単には動かせない。指で広げることに慣れた後孔が、シュウの舌をすんなりと受け入れている。マサキは強くシーツを掴んだ。自身の指では決して得られない感触が、じわじわと染み出すように快感の波を生み出してゆく。
「まだ――ですよ、マサキ」
 いつしかシーツに擦り付けるように、腰を振っていたようだ。後孔から舌を抜いたシュウがマサキの腰を抱え上げながら、臀部へと口付けを繰り返してくる。気が狂う。僅かに与えられる解放の兆しが、目的を果たせぬままに離れてゆく。そのもどかしさはマサキの理性を徐々に、だが確実に消失させていった。はやく。マサキはシュウにねだった。恥も外聞も捨てて、早くと声を上げた。
 背筋をゆっくりと伝い上がってきた舌が、うなじに触れる。欲しいの? 訊ねられたマサキは、何度も頷いた。ここはまだなのに。腰から腹を伝って胸へと上がってきたシュウの手が、とうに膨れ上がっている乳首に触れた。
「お、前。この……っ」
 ゆっくりと円を描くように動き回る指先に、マサキは口を大きく開いた。あ、ああっ。うなじから首筋と繰り返し辿っている口唇が、時折、きつく吸い上げてはマサキの肌に紅斑を残す。きっと全身、酷い有様に違いない。前回の性行為で残された紅斑が綺麗に消え去るまで一週間を要した。人目を憚りながらシャワーを済ませた日々。けれどもそれは、寂しさをマサキの胸に残すだけだった。
 きっと自分はまた後悔をするに違いない。
 果てのない飢えに怖れ慄き、それでも自身の性に逆らえず、この男を想って自慰を繰り返す。わかっている。マサキは自ら彼に行為をせがめない自身の立場を思った。悔しくて辛くて仕方がない。それでもそれがマサキが命を懸けて歩むと決めた道だ。
「いい、加減に……しろ、って……」
 しつこくも愛撫を止めないシュウに、またも涙が零れ落ちた。犬のように腰を落として、両腕を突っ張らせて。背後からマサキにしがみ付くようにして愛撫を与えてくる彼に鳴き喘ぐ自分。はやく、しろって、云ってるだろ。繰り返す言葉はこれを限りにするつもりでいるからこそ。
 疼きを抱えた後孔が、彼を思っては収斂を繰り返す。
「そんなに挿《い》れられたい?」
 当たり前だ。マサキは呻くように言葉を吐いた。仕様のない。呆れているようにも、弾んでいるようにも取れる声が耳元で響き渡った。直後、彼の手がマサキの腰を軽く持ち上げてきたかと思うと、熱く昂る肉の塊がその蕾に押し当てられる。
 ずるり――と、挿入《はい》り込んできた彼の男性器に、理性が完膚なきまでに叩き潰される。あっ、あっ、あっ。剥き出しとなった本能がマサキを一気に飲み込んだ。彼の脈打つ男性器が、届きたくても届かなかった位置に収まっている。はあ、はあ。マサキは小さく腰を揺らした。動けよ。そしてそう急かすように言葉を吐く。
 まだですよ、と、マサキの腰を抱えたシュウが、繋がったままの身体を膝の上に乗せてくる。
 膝裏に差し入れられた手が、マサキの足を抱え上げた。「こんなに奥まで飲み込んで」緩く蠢き出した彼の男性器が、マサキの後孔の底を叩き始める。あ、ああっ。早くも限界を感じている男性器から、先走った汁が洩れ出た。
「何をしたらこうなるのでしょうね。ねえ、マサキ」
 暗に自慰に耽っていることを仄めかしているのだとマサキは気付いていたが、答えられるような余裕もなければ、反抗をするだけの余裕もない。それに、その言葉は今更でもあった。そもそもマサキがこういった状況に陥ってしまっているのは、この男に自慰を目撃されたのが始まりだったのだから。
 いいから、もっと動けよ。マサキは絞り出すように言葉を吐いた。じりじりと焼け付くようなもどかしさが肚の底に溜まっている。まるで暴龍を飼っているようだ。解放の時を待ち望んでいるそれは、もうじき肚から飛び出すことだろう。
「なら、お望み通りに突いてあげますよ」
 マサキの足をベッドに戻したシュウが、腕を後ろ手に引いてくる。彼の男性器と深く繋がり合った後孔に、ずしりとした重みがかかった。抽迭を始める男性器。緩く口を開いている蕾を擦り上げては、マサキの意思を攫う。
 ――ああ、ああ、ああっ。
 高く上ずった声が自分のものとは思えぬ甘ったるさで喘ぎ声を紡いでいる。シュウ。シュウ。シュウ。肚の底を叩いては、また抜き取られる男性器。繰り返し、繰り返し。譫言のようにその名を呼びながら、マサキは逸る気持ちを抑えきれずに自らもまた腰を振った。
 より深く、より奥へと。そうして彼の男性器を招き入れてゆく。
 いずれ脳の奥が散発的な光を放つ瞬間がくる。そうしてマサキは絶頂を迎えるのだ。自慰では得られなかった高揚感の中にいるマサキは、本能が命じるまま、貪欲にシュウに更なる性行為を求めることだろう。
 そこから先のことは、マサキにはわからない。シュウ=シラカワという人間は、手に入れた獲物を容易くは手放さない人間であるのだ。ましてやこのだだっ広い施設にふたりきり。科学文明時代の遺跡の奥とあっては、邪魔が入る可能性もない。いや、僅かにはあったかも知れなかったが、だからといってこの指紋認証の扉を誰が突破出来たものか。
 きっと彼はマサキを食らい尽くすのだろう。快楽という餌に引き寄せられた獲物《マサキ》を。
 その掌中にマサキは堕ちてゆくのだ。今度こそ。



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