忍者ブログ

あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

記憶の底 ReBirth(18)
まだ街に着かねえ!!!!
びっくりですよ。

街でデートだデートだと云っていましたけど、なんか道中で満足しそうな勢いです。いきなり場面転換しちゃったらごめんね☆と、先に謝罪をしておきます。

拍手有難うございます!励みとしております!
そろそろ本当に折り返しです。ここから怒涛の急展開!……に、なるといいですねッ!←


<記憶の底 ReBirth>

 無駄に道を塞いでいるとしか思えなかった工事の数々は、継ぎ接ぎだらけとなった道を自転車で走ることになったマサキからすれば、本当に効果があるのか不明なものだったが、こうして未舗装な道を走っているとその有難みを実感する。
「意味があったんだな」
 マサキがぽつりと洩らせば興味を喚起されたようだ。シュウがマサキの顔を見下ろしてくる。
「何の話です?」
「地上でさ、年末になるとあちこちで道路工事が始まるんだよ。一度に全部じゃなくて一部分だけ、ってのが色んなところであるからさ、道が通り難くなって仕方がねえって思ってたんだが」
「一度に全部となると、かなり大規模なインフラ整備になりますね。予算もかなりの額に上るでしょうし、封鎖した道の代わりをどこにするかという問題もあります。地方の行政では一部で済ますのが限界なのでしょうね」
「大人たちは余った予算を道路工事で消費してるんだって云ってたけどな。でも、そういった意味だろうが、道路をマメに整備するってのには意味があったんだなって思ったよ」
「やらないよりかはやった方がいいですよ。交通の発達は商業や産業を盛んにします。それは通貨の流通に弾みを付けるでしょう。国を潤したければ、人を動かせ。治政の基本戦術です」
 マサキからすれば当たり前の世間話も、彼にとっては如何に国家を発展させるかという政治論になってしまうようだった。あいつもそうだったな。何かに付け、国のシステムを論じたがった男は、幼少期よりそう躾けられてきていたのだろう。9歳のシュウの態度でそれを知ったマサキは、今更ながらに彼の出自を強く意識した。
「お前、やっぱり王族なんだな」
 それに対して、シュウは肩をそびやかしてみせただけだった。
 鼻につくほどの自信家でありながら、自らの立場を笠に着ることのない男は、かつての自らの地位に思い含むところがあったのだろう。あれこれ詮索するのは好きではないマサキは彼にわざわざ過去を尋ねることをしなかったし、彼もまたわざわざ語るような真似をしたりはしなかったけれども、そうした話題になった折になんとはなしに伝わってくる空気は、彼が過去についてつまびらかにするのを嫌がっていると感じさせるに充分足り得た。
 マサキはそれを彼の劣等感の表れだと思っていた。
 世界を混乱に陥れた首謀者として指名手配犯と扱われるに至った過去は、彼の意思に反して起こったことであったからこそ屈辱的な記憶となったのだと。だが、今のシュウの態度から察するに、それはマサキの読み違いであったようだ。
 がたんごとん。バスは不規則な揺れを刻んでいる。
 宿場町を抜けたバスは、今は街まで続くだろう草原の中をひた走っていた。馬車の轍《わだち》も目立つ未舗装な道。運転手にどれだけの腕があろうとも、スムーズにバスを走らせるのは難しいことだろう。頻繁に石に乗り上げては左右に振れる車体に、マサキはどうにかバランスを保つのが精一杯だった。
「――地上はどういった世界なのですか」
 途切れた会話を繋ぎとめるようにシュウが尋ねてくる。
「どういった世界……か。その質問に答えるのは難しいな」
「あなたが住んでいたところの話でいいですよ、マサキ」
 彼にとって、地上世界はまだ未知なる場所であるようだ。あからさまではないにせよ、好奇心を窺わせる表情。切れ長の眦の奥に潜んでいる紫水晶の瞳が、輝いているようにマサキの目には映った。
「俺が住んでた場所か? この世界と比べりゃごちゃごちゃしてるぞ。何処に行っても建物が密集してるし、そこかしこを電車やら車やら自転車やらが走ってる。普通に歩く奴の方が珍しいんじゃないか。何せわざわざウォーキングなんて、歩くのをスポーツにしてる奴がいるくらいだ」
「まだ科学文明の時代なのですよね、地上は」
「そうだな。資源に環境、問題が山積みな世界だ」
「自然はどうです? あなたの話だと、自然がそんなにないようにも思えますが」
「都市部から離れりゃ嫌ってほど自然が広がってるさ。田んぼに畑、山に川。まあ、人の手が入っちまってる土地を、草木が生えてるからって自然扱いしていいのかって問題はあるけどな」
 マサキの言葉から自分なりの地上のイメージを作り上げたようだ。成程、と、頷いたシュウが、「生き難そうな場所ですね」きっと心の底から出た言葉であるのだろう。云って、けれど――と、言葉を継いだ。
「死ぬまでには一度、訪れてみたい場所です」
 白河愁。彼が持つ名前と地上世界は、恐らく無関係ではないのだろう。どこか遠くを眺めるような眼差し。雲の切れ間に色を薄くしてゆく大地を、バスの車窓越しに見詰めながらシュウがぽつりと呟く。
「もう何度も地上に出た後だぞ。今のお前は」
「わかってはいるのですけど」大まかな事情は聞いているのだろう。シュウの笑い顔は儚げだ。「そこだけ記憶を取り戻すなんて、都合のいいことは出来ないでしょう。いえ、それさえも思い出さない方がいいのでしょうね。僕は地上でも非道な行為に手を染めてしまったようですしね……」
 自らが犯してしまった罪に、既に9歳のシュウは押し潰されそうなプレッシャーを感じているようだ。
 まだ一日ばかりの付き合いではあるが、マサキでも彼が芯の真っ直ぐな性格であることには理解が及ぶ。現在の彼もこうして過去に悔恨の念を抱いているのだろうか? 人が変わってしまったかのように太々しくなった現在のシュウ。それが彼が辿ってきた過酷な道のりの結果であるのだとしたら、運命とは不公平に出来ているとマサキは思う。
「お前の記憶が戻らなかったら、地上に連れて行ってやるよ」
「……本当ですか? でも、僕の為にそんな。ラ・ギアスは地上世界を快くは感じていませんよ。そんなことをしたら、あなたがどういいった懲罰を受けたものか」
「野蛮な人種だってな」マサキは声を上げて笑った。「気にするな。そういった扱いには慣れてる。それに俺にはサイバスターがあるんだぜ。まあ、だからって勝手に地上に出ちまったら問題にはなるがな」
 ラングランに召喚された直後。サイバスターの操者として、そして剣聖ランドールとして我が世の春を謳歌したマサキは、その後に庇護者であったフェイルロードを失ったことで、地上人を取り巻く現実に直面する機会が増えた。
 口を聞いてもらえないのは当たり前。聞こえよがしに野蛮人と云われたことも数多くあった。
 彼らはどれだけマサキがラ・ギアス世界の為に身体を張ろうとも、態度を変えることがない。それはマサキに覚悟を求めさせた。決して全ての人間から理解が得られるとは限らない。それでもこの世界を護る為に戦い続けるのか――と。
「笑い話ではないですよ、マサキ」
「大丈夫だ」マサキはシュウに笑いかけた。「俺は魔装機神サイバスターの操者だからな。セニアにちょっとどやされればいいだけの話さ」
「本当ですか? 本当にそれだけで済みますか?」
「当たり前だろ。大体、どうやって俺を止めるんだよ。魔装機神でなきゃ地上に出られないっていうのに」
 マサキの言葉を聞いたシュウは悩まし気な様子をみせた。彼はマサキが魔装機神の操者という立場を盾に、規則違反を押し切ってしまっていることに気付いてしまったのだろう。潔癖なきらいがある彼のことだ。それでも抗い難い地上への関心。それが彼の心を揺らがせているのだろう。
「あんまり難しく考えるなって。見たいものを見りゃ記憶が戻るかも知れないぞ。それと比べたら、セニアにどやされるくらいどうってことはないさ」

 がたんごとん。バスが揺れる。
 マサキたちに限らず賑やかな車内は、どうかするとシュウの言葉を掻き消してしまいそうだ。

 がたんごとん。街を目指すバスが揺れる。
 マサキはシュウの返事を待った。潔癖な彼はこの程度の保証では、地上へ行くのを躊躇うかも知れない。そう思いつつも、心のどこかでは彼が誘惑に勝てないだろうとも思っていた。

「……そうですね」
 ややあって、マサキを向いたシュウの顔は彼の覚悟を窺わせる決意に満ちていた。
「わかりました、マサキ。いつかでいいです。僕を地上に連れて行ってください」
「ああ、約束だ」マサキはその言葉に力強く頷いた。


PR

コメント