おはようございます。
昨日は体調が悪かったので、念の為にお休みさせていただきました。
まだ鼻はぐずってますが、それなりに寝たので、体調的にはそこそこ良くなりました。
拍手有難うございます!励みとしております!
本当に折り返しに入っているのか不安ではありますが、今回はデート篇(ただふたりで街に出ただけ)です。あと二回ほどは続くと思います。では、本文へどうぞ!
昨日は体調が悪かったので、念の為にお休みさせていただきました。
まだ鼻はぐずってますが、それなりに寝たので、体調的にはそこそこ良くなりました。
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本当に折り返しに入っているのか不安ではありますが、今回はデート篇(ただふたりで街に出ただけ)です。あと二回ほどは続くと思います。では、本文へどうぞ!
<記憶の底>
長く揺られたバスから街へと降り立ち、先ず帰りのバスの時刻を確認する。頃合いが良さそうなバスが出るのが三時間後。暗くなる前に施設に戻る為にも、時間厳守で行きたいところだ。一時間に二本しかないバスは、乗り遅れるとかなりの時間をロスすることになる。遅れないようにしないとな。到着時刻を胸に刻んだマサキは、シュウとともに大勢の人で賑わう大通りに足を踏み入れた。
「この街には詳しいのですか」
「いや。一度ぐらいは来たことがあるんじゃないかとは思うが、覚えていたとしてもその程度だ」
「方向音痴なんですよね」
「残念ながら」マサキは肩を竦めた。
方向音痴でありながら、初めての場所にも物怖じせずに飛び込んでゆく。そういった向こう見ずなマサキの性格を心配しているのだろう。辺りを見回したシュウは、街の中央に聳え立つ時計台を指差して、
「はぐれたらこの場所で待ち合わせというのは出来ますか。あそこに丁度いい目印になりそうな時計台がありますが」
「そこまで辿り着けるかだな。あれを目指して街を出ちまうぐらいは日常茶飯事だしな」
「わかりました。とにかくはぐれるなということですね。気を付けます」
そうしてくれ。云ってマサキは周囲に目を遣った。色取り取りに掲げられた庇に、意匠を凝らした看板の数々。通りに沿って軒を連ねる店の数の多さは、流石街のメインストリートだけはある。矢鱈と飲食店が目に付くのは、街の外から訪れる人々の需要を当て込んでいるからなのだろう。
喫茶店に定食屋、レストランに酒場と搾りたてのフルーツジュースだけを扱っている店もあれば、海鮮を串焼きにして売ってい店もある。歩き食いにはもってこいだが、今日の目的はそこにはない。
先ずは自分たちの目的を叶えなければ。
マサキは歩きながら、飲食店の合間に並ぶその他の店を一軒々々検めていった。八百屋、魚屋、洋品店、雑貨屋、家具屋……その中に目聡く書店を見付けたシュウが、早速と足を止めるとマサキの袖を引いた。
「少しだけ見てもいいですか」
「10分だけな」
見た目が現在のシュウでなければ子どもを連れ歩いているようだ。マサキは店の外でシュウの用事が終わるのを待とうとしたが、彼としてはこの場にマサキを置いて行く方が心配であるようだ。あなたも中に、と乞うてくるシュウに、その方が安全かと考え直したマサキは彼に続いて書店の入り口を潜った。
強く香って来る独特の匂い。インクと紙が混じり合った匂いを嗅ぐと落ち着くのだそうだ。顔を綻ばせながら書棚に向き合ったシュウに、俺には一生理解が出来ない感情だな。マサキは首を傾げつつ、迷うことなく次から次へと本を手にしてゆくシュウを眺めながら、彼の用事が済むのを待った。
「えらいスピードで本を選んでる気がするんだが、どうやって自分が必要とする内容だって判断してるんだ。お前、1ページも中身を読んでないよな」
さっと中に目を滑らせては次、また次と、マサキには到底出来そうにないスピードで、自身が必要とする本であるか否かを選別してゆくシュウに訊ねてみれば、彼にとっては当たり前のことであるからだろう。
「中身をぱっと見れば、後は本が呼んでくれますよ」
云いながらも手と目を動かすのを止めない彼に、マサキとしては奇異なるものを目の前にしている気分になる。
「本が呼ぶ」
「呼ばれませんか」
不思議そうな表情を浮かべてマサキを振り返ったシュウは、本気でそういうものだと思っているようだ。いいや、と首を振ったマサキに、「家庭教師の先生方はそういうものだと仰っていましたが」一般人とは感覚がかけ離れた人種を例に挙げて、首を傾げてみせると、これ以上マサキと会話を重ねても話が発展しないと思ったのだろう。少しの時間も惜しいといった様子で本棚に向き直る。
「……そりゃあ、お前らの世界ではそれが常識なんだろうよ」
マサキは自分が感じたことのない感覚に、彼と自分との違いを思い知った気がした。
何かを知りたいと思った時、マサキは先ず他人に訊ねるところからスタートする。そして与えられた知識に満足する。興味深いと感じれば更にその先を調べることもあったが、基本は他人の知識頼りだ。けれどもシュウは違う。彼は先ず、自身でその知識を獲得するにはどうすればいいかを考える。他人に頼るのは最後の手段。そう、彼にとって知識とは目指すものではなく、呼ばれるものであるのだ。
きっかり10分で、彼は自身が必要とする本を選び終えたようだった。
会計を終えた彼の手には、10冊ほどの本が詰まった手提げ袋が提げられている。後にしても良かったんじゃないか。本来の目的を叶えるより先に出来た結構な量の荷物に、店を出たマサキがそう云えば、これもトレーニングの一環ですよ。幸せそうに笑ったシュウがそう嘯いてみせた。
「そのでかい図体じゃ足りないだろ」
「確かに、軽いですね。まあ、一般書店に置いてある本ですし、こんなものかと」
マサキは昨日のシュウが膝の上に置いていた本を思い出した。どこで殴っても人を殺せそうな厚みの本は、まさに鈍器と呼ぶに相応しかった。あれと比べれば、今彼が手にしている紙袋の中に入っている本はどれも薄い。
「それにしても、未来の僕がこんなに育つとは思ってませんでした」
現在の自分との体格差に慣れつつある様子のシュウではあったが、それでも自身の身体にはまだ違和感があるようだ。自らの大きさを確かめるように手のひらををしみじみと眺めたシュウに、既に成長しきった姿しか知らないマサキは、140センチか。彼が口にした9歳の時点での身長を改めて口にした。
「成長期に苦労してそうだよな、お前」
「成長痛ですよね。夜中に骨が軋む感触があるのだとか」
「そうなんだよ。あれは痛え」
小学校の時点で前から数えた方が早かったマサキは、中学に入るなり身長が伸びだしたタイプだった。測れば測っただけ伸びていく身長。あっという間に足りなくなった制服の丈に、理不尽にも教師はマサキを叱った。校則を守れ。痛みで眠れなかった夜も数多く経験していたマサキは、成長が止まって欲しいと何度思ったことか。
「あなたも苦労したのですね」
そういった思いをシュウもしたのではないかと思うと、親しみにも近い感情が湧いてくる。マサキは隣に立つシュウの顔を見上げた。頭半分は高い。190センチを数える長躯とあっては、その苦しみはマサキの比ではなかっただろう。
「全くだ」マサキは視線を大通りに戻した。「広場があるな。あれは案内板じゃないか?」
少し先で噴水が水飛沫を上げている。どうやら、マサキたちが歩いているメインストリートと、直角に交差する形で別の大通りが通っているようだ。その中央を広場としているのだろう。ベンチで休む人も多いそこに案内板があるのを発見したマサキは、闇雲に探して回るよりは――と、広場に足を向けることにした。
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