三日間寝込んだせいか、体力が落ちてしまいました。しょんぼり。
その為、本日の更新は短めとなっております。
拍手、感想有難うございます。レスは後日、余裕のある時にさせていただきたいと思います。
少々お時間をいただくことになると思いますが、どうかお待ちください。
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<記憶の底 ReBirth>
どうぞと場所をシュウに譲られたマサキは鐘の前に立った。
何処までも続く平原を向こうに、鐘を打ち鳴らす。カーン……カーン……幾つ鳴らすか悩んだが、シュウに合わせて七つ鐘を撞くことにした。カーン……カーン……ラングランを吹き抜ける穏やかな風が、マサキの撞いた鐘の音を平原へと運んでゆく。
彼が何を思って七度、鐘を撞いたのか。マサキには思い当たる節はなかったが、余韻を長く残す鐘の音はマサキに改めて自らの立場を自覚させた。
魔装機神操者。マサキの立場は祈るよりも行動で示すものだ。だからこそ、圧倒的な力を与えられた意味を、その力の正しい揮い方を、マサキはいつだって考え続けている。数多の力なき人民の命を預かって戦争に赴いている以上、判断を誤ってしまったでは済まされない。魔装機神の操者という立場は、心の中に正しい天秤を持たねば務まらないのだ。その意味を昔は軽く考えていたとマサキは思う。
誰に対しても、何に対しても、等しくあれ。
カーン……カーン……未熟だった己を振り返りながら鐘を撞く。居場所のなかったマサキに新たな居場所を与えてくれた地底世界ラ・ギアス。その自然は雄大だ。マサキは目の前に広がる果てしない平原を目に焼き付けながら、更に鐘を撞いた。カーン……カーン……カーン……そして、どれだけの苦難が襲いかかろうとも、幾度だってこの世界を護ってみせよう。改めては口にすることのない決意を胸に刻んで鐘から離れる。
「さて、下りるか」
少し離れた場所にて待っているシュウの許へと向かったマサキは、最後にもう一度だけ平和祈念の鐘を振り返った。そこにひとりの少女が母親と思しき女性の手を引きながら近付いて行く。戦う力を持たない彼らは、この鐘をどういった思いで撞いているのだろう。新たに鳴り響いた鐘の音を背に、マサキはシュウとともにその場を立ち去った。
「何で七回なんだ?」
「何の話です」
「鐘を撞いた回数の話さ」
斜面に設えられた傾斜も鋭い階段を下り、なだらかな坂道に戻る。下り坂だけあって歩くのは楽だ。時折、高台に上がって来る人々と擦れ違いながら街の中心部へと向かう。その道すがら、マサキは鐘を撞いた回数についてシュウに訊ねた。
彼のことだ。意味もなくその回数を選んだ訳ではないだろう。
博覧強記と呼ぶに相応しい知識の持ち主たる男は、地底世界に限らず、地上世界の知識にも明るかった。勿論、現在のシュウの記憶は9歳で止まってしまっているが、王族に生まれ付いたからこそ叩き込まれた知識がある筈だ。それは平凡な家庭に生まれ付いたマサキとは比べるまでもない量であるに違いない。
「七という数字は『世界』を表すのですよ」
「そうなのか? 初めて聞く話だ」
「世界が完成するのにかかった日数なのですよ。神は六日かけて世界を創り、一日を休みに充てました。そこから転じて、七は『世界』や『完全』を表す数字として崇められるようになったのだとか」
「だから七つ、か」
世界平和と完全なる平和。シュウは七つの鐘の音に、ふたつの意味を込めたのだ。
聡明で素直な9歳のシュウらしい祈り方に、だからこそマサキは首を傾げたくなった。現在のシュウであったならば、祈るよりも行動ありきと、こういったモニュメントには目もくれないのではないだろうか。
何より彼には力がある。学術然り、魔術然り、剣術然り……愛機グランゾンにしてもそうであったし、勝手に付いて来ていると口にしがちな仲間たちにしてもそうだ。願いを実現出来るだけの力を有している彼は、過酷な人生を強靭な精神力で耐え抜いてきたからこそ、祈りが何の意味も果たさないことを知ってしまっている。
それが彼をして、徹底した現実主義者《リアリスト》としてしまったのだろうか。
彼のそうした傾向は、けれども今に始まったことでもない。
彼はマサキと出会った時点で、既にかなりの虚無主義者《ニヒリスト》であったし、強烈なまでの皮肉屋《アイロニスト》でもあった。皮相的に世の中を眺め、斬新的に結論を導いて行く。既存の価値観を正面から打ち砕いてゆく彼の熾烈な発言の数々に、マサキはどれだけ心を挫かれそうになったことか。それはサーヴァ=ヴォルクルスの支配から解放されても、変わることなく彼の中に残り続けている。
現在のシュウ=シラカワという人間の根幹を成す性質。それは9歳のシュウにはないものだ。
堂々巡りだ――。大通りへと戻ってきたマサキは、シュウとともに食材の買い出しを進めながら、幾度となく尽き当たる謎に頭を悩ませた。9歳からマサキと出会うまでの間の彼に何が起こったのか。明け透けに物を語りがちな彼の仲間が言葉を濁すということは、それ相応の出来事があったのは間違いない。既に相当に過酷な人生を送っている彼に、襲いかかったそれ以上の奇禍。知ったからといってマサキに何が出来た筈もないのは明らかだったが、それを知ることによって、時に鼻持ちならなく感じるあの男の態度の数々に対して寛容になれるのではないか? マサキは自分に対して不埒な振る舞いに及んだ男の内心を、もしかするとより深く知りたいと思っているのかも知れなかった。
「結構な量になりましたね」
手提げ袋に加えて、食材が山と詰め込まれた紙袋を抱えることとなったシュウが、その中身を覗き込みながら云った。
肉に魚、そして野菜。バケット類。三日ぐらいしか持たないとはいえ、三食を自炊で済ませるとなると、それなりの量を必要としたものだ。マサキもまた自身が抱えている袋の中身を覗き込んだ。卵に牛乳、加工食品。必要な食材は全て買った。後は遅れることなくバスに乗り込むだけ――時計塔を見上げて時刻を確認したマサキは、次の瞬間、恐れていた事態が起こってしまったことを覚った。
「シュウ、場所を変えるぞ」
大通りを行き交う人波の向こう側に、あからさまにこちらを警戒している複数の人物の気配がある。
ひとつ、ふたつ、みっつ……全部で10人ほどにはなりそうだ。マサキはシュウを促して街の外れへと向かった。出来る限り人が少ない場所を目指して、急ぎ歩を進めてゆく。着かず離れずの距離を付いて来る気配に、巻き込まれる市民がいないことを願いながら、街外れにある木立に入り込む。
「待ってください、マサキ。彼らは」
「お前の敵には違いない」
「ですが、彼らを相手にしてしまうと、あなたの立場がややこしいことに」
「俺を誰だと思ってるんだ。魔装機神サイバスターの操者だぞ。ほら、出て来いよ。相手にしてやらあ」
マサキは紙袋を片手に抱え直して、剣に手を掛けた。
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