そろそろ二日目が終わりますよ!長かった!
三日目は怒涛の展開になる筈です。いやーやっと書きたいシーンが書けるところまで来ましたよ!
それを書けば後はお楽しみですからね!頑張ります!
拍手有難うございます。励みとしております!
もう暫くお付き合いのほどを宜しくお願いいたします。
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<記憶の底 ReBirth>
朝食から夕食の時間まで延々ともに行動を続けたからだろう。購入した本の数々を早速読みたいらしいシュウに部屋からの退出を求められたマサキは、彼の言葉に素直に従って自分に与えられた部屋へと戻った。
意識を失ったままだというチカの様子を見ておきたくもあったが、見たからといって戦士でしかないマサキに何が出来る筈もなし。それに、シュウにもひとりになる時間が必要だ。そう思いながら、シャワーを浴びに脱衣所に入る。
恐らく、今日はもう部屋を出ることはないだろう。乱雑に脱ぎ捨てた衣服を纏めて拾い上げて洗濯機に放り込む。洗濯機のスイッチを入れたマサキは、そのまま浴室へと足を踏み入れ、シャワーのコックを捻った。むっと押し寄せてくる蒸気の中、シャワーを頭から浴びる。
鮭のバター焼きと、サラダ。そしてウィンナーを使ったコンソメスープ。朝に引き続いてシュウに包丁を使わせてみたが、やはり器用な性質であるようだ。まだまだ危なっかしい場面もありはするが、綺麗に野菜を刻んでみせた彼は、自身の上達振りに欲が出てきたようだ。明日は火を使いたいと、マサキにねだってきた。
火の使い方という意味では大した料理ではなかったが、そういう気持ちがあるのならと、マサキはシュウに鮭を焼くところを見ているように云った。バターを焦がさないように、そして鮭の切り身に満遍なく火が通るように、火の加減をこまめに調節する。マサキの隣に立った彼は生真面目にも、食い入るようにマサキの手元を見詰めていた。
明日はベーコンを焼いてもらうからな。そう彼に告げると、任されるのが嬉しくて堪らないのだろう。はい。と弾む声で返事をしてきたものだ。姿が姿なだけに調子が狂うが、懐かれて悪い気はしない。料理に剣技、どちらも一通りこなせるようにしてやらないとな。マサキは頭を洗いながら、ぼんやりとそんなことを考えた。
食事の最中の会話は今日見てきた街の光景についてが殆どだった。マサキにとってはありきたりな街の光景も、彼にとってはまだまだ物珍しいものであるようだ。何処の店の前でこういった人がこんなことをしていた……実に良く記憶していたシュウは、それらの光景を話しても話しても話足りない様子だった。
もしまた街に行くことがあったら、今度は時計塔を見に行きませんか。シュウの誘いにマサキは勿論だ。と頷いた。
大道芸を彼が見たことがあるのかマサキは知らなかったが、ただ街を買い物ついでに歩いただけでも、様々な発見に喜びを露わにしてくれるのだ。もし見たことがなかったとしたら、それは彼にとって興奮必死の出来事になるだろう。
王室という世界から一足飛びに外の世界に押し出された少年は、けれどもその生活を存分に楽しんでいるようでもある。マサキはふと考えた。未知なる世界を識《し》ることに貪欲な9歳のシュウ。現在のシュウも、そんな風に世界を見ることがあるのだろうか? 世界を冷めた目で眺めている男には、そうした感情の揺らぎが起こることそのものが有り得ないことのようにも感じられる。もし彼が記憶を取り戻したら訊いてみたくもあるが、何故だろう。彼はきっと酷く気分を害することだろう。そんな気がした。
身体を洗い終えたマサキは、浴室から出た。湯船に湯を張って思いきり浸かりたい気分もあったが、遠出をした疲労感からか。面倒臭く感じられた。まだ回っている洗濯機を尻目にバスタオルで身体を拭き、バスローブを纏って脱衣所を出る。
どうせ普段は下着一枚でベッドに入る生活だ。バスローブだけで動き回ってもひとりきりの部屋。誰に迷惑がかかることもない。マサキは素肌にバスローブ一枚の姿でソファに収まった。テレビを点けると、ゴールデンタイムに相応しいファミリー向けのバラエティ番組が流れてくる。「何か飲むかな」ひとり呟いて、冷蔵庫に向かう。
いつでも賑やかな二匹の使い魔がいるのが当たり前の生活。彼らがいない生活を送るのは、記憶を失った時以来だ。冷蔵庫の中から牛乳を取り出したマサキは、棚に置かれているインスタントコーヒーと合わせて、カフェオレを作った。お前らも飲むか。そう声をかける相手は今はいない。
けれどもあの時には、シュウがいたのだ。心細さに怯えるマサキを、その温もりで慰めてくれた男が。
記憶を失くしたマサキを即座に保護してみせた彼が、何を目的としてあの場に居たのかマサキは知らないままだったが、彼が何某かの目的を持ってマサキの様子を窺っているだろうことは予想が付いた。それは決して色恋沙汰などといった艶めいた理由からではない。何故ならシュウはこう云ったではないか。宇宙で初めてマサキに性的な意味で触れてきたあの時に。
――私はあなたを連れてゆく。私が見ているこの世界、その高みへと。あなたにしか成せないこと、それをあなたに成してもらう為に。
マサキは深く溜息を吐いた。
何気なく脳裏に蘇ったあの日々に、今のシュウとの差異を思い知る。勿論、それは現在の彼の年齢が9歳であるからこその純粋さと無邪気さではあったが、既にシュウと性行為に及んでしまったマサキからすれば、眩いくらいの純真さにも映ったものだ。
彼となら、現在のシュウとはまた違った関係を築ける気がする――マサキはカフェオレが入ったカップを手にソファに戻った。賑やかな音を発しているテレビを眺めながら、白茶けた液体をひと口啜る。甘い。砂糖を入れずとも感じる甘味。舌に蕩けるようなまろやかな味わいは、それだけ質のいい牛乳を使っているからなのだろう。
意地を張るのを止めればいいのだろうか。マサキは現在のシュウと自分の関係を振り返った。敵だ味方だと騒いでいた日々はもう遠くへと過ぎ去ってしまった。超えた一線の分、近くなったように感じられる距離。気安く、というにはまだ余所余所しさが残る距離感ではあったものの、ともに死線を潜り抜けた数の分だけ、その考えや見ている世界が理解出来るような気分になっている。そう、戦闘時に於いては全幅の信頼を寄せるまでに。
だからといって、それが恋愛感情になるかと訊かれれば、それは違うと答えるしかない。
肉欲。そう、単純な欲にマサキは負けたのだ。それも二度も。マサキは内容の入らないテレビを眺めながら、頭の中でシュウのことを考え続けた。あの男が与えてくれる温もりは、マサキが胸に抱えている空白を埋めてくれる。それだけではない。平穏な日常に馴れ合えないマサキの理由のない焦燥感を鎮めてくれる……。
冗談じゃねえ。マサキはひとりごちてカフェオレを煽った。
彼を憎む気持ちはとうになくなっていたけれども、彼に抱えている蟠りまで消えたりはしないのだ。何を考えているのか掴み切れない男。掴んだと思った先から零れていく砂のような記憶は、彼の言葉があまりにも哲学的であるからだ。
もっと明瞭りと物を云いやがれ。マサキは幾度彼にそう思ったことだろう。
そうした彼の在り方に反発を繰り返すマサキの心は、もしかすると彼の言葉を素直に聞けなくしてしまったのかも知れない。だからマサキは自分にシュウが何を成して欲しいと思っているかの答えさえも知らないままなのだろう。
彼は何を自分《マサキ》に求めている? その答えをマサキは知りたいと思いながらも、知るべきではないとも思っている。
「ホント、よくよく記憶を失ってくれやがる……」
憎々しくて仕方がないけれども、それはかつての憎しみとは質の異なる感情だ。シュウの手のひらの上で転がされているような関係……それは果たしてまたいつの日にか復活することもあるのだろうか。それともこのまま夢幻と消え去ってしまうのだろうか。
彼は記憶を取り戻さない方がいいのかも知れない。
ふっと心の中に湧いて出た考えを、マサキは反射的に意識の外に押し出していた。過酷な未来を体験していない現在のシュウの素直な有り様を見ていると、彼はこのまま記憶を失ったままの方が幸福なのではないかとも思えてくる。マサキとの行き詰った関係にしてもそうだ。いっそ過ちをなかったことにしてしまえたら……けれどもそれは現在のシュウが辿ってきた道を否定することでもある。彼の誇りを傷付けるような選択を、どうしてマサキが望めたものか。
「あいつの記憶が戻ったら、俺はどうするんだろうな」
誰にともなく呟いたマサキは、返ってくることのない言葉を待つように、ひとりきり。身動ぎすることなく、華々しい世界を映し出しているテレビ画面と向き合い続けた。
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