三日目に突入しました。
全くロマンスの欠片もない今回のシュウマサなんですけど、大丈夫です!
このシリーズのお約束はちゃんと守ります!!!
ただ、そこに辿り着くまでが長いんですが……
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<記憶の底 ReBirth>
流石に街に出た疲れもあってか、その夜のマサキはは何もせずとも深い眠りに就いた。
目覚ましが鳴るよりも先に目が覚めた朝。身支度を済ませてシュウの部屋に向かうも、反応がない。夜更けまで読書に専念していたのだろうか? 神経質な彼がマサキより後に起きてくるなど考えられなかったが、反応がないのは事実だ。
訝しく感じたが、彼の許可がななければ部屋には入れない。おまけに食材は全て彼の部屋の中にある冷蔵庫の中だ。先に朝食の準備に手を付けることも出来ず、マサキは仕方なしに自分の部屋に戻ろうとした。
「ああ、もう起きていたのですね。マサキ」
掛けられた声に振り返ると、居住区の手前側からシュウが姿を現わしたところだった。話を聞くに、格納庫で剣の訓練をしていたらしい。「あなたとの稽古の前に振り慣れておこうと思いまして」いつから、とは聞かなかったが、掻いた汗で額に髪が張り付いている辺り、かなりの時間を訓練に割いたようだ。
「どうだった、ショートソードは」
「使い慣れた長さだからか、手に馴染む感じがします。後はこの身体に慣れるだけ、ですね」
剣の長さが変わったことで、これまでの体感で振れるようになったようだ。その安心感が彼に自信を与えているようだ。「今日は一昨日のように無様な姿は見せません」そう云い切ったシュウに、マサキはただ微笑んだ。
不慣れな長さの剣を扱っているというハンデは解消されたが、手足の長さというハンデは解消されていない。朝の訓練で彼がどれだけの手応えを得たのかはさておき、思うように剣技を扱えるようになるにはまだ時間がかかることだろう。
「今日は火を使わせてくれるんですよね?」
「ああ。そこまで準備はしておくから、気兼ねなく浴びて来い」
シャワーを浴びてくると浴室に入ったシュウを横目に、マサキはキッチンに立ち朝食の準備を始めた。火を使わせると云った以上、焼き物は必要不可欠だ。どういったメニューにするか悩んだが、マサキの朝食のレパートリーなどたかが知れている。シュウにはソーセージと卵を焼かせることにして、マサキはサラダとスープを作ることにした。
キャベツとベーコンのコンソメスープ。ホールコーンを散らしたサラダ。出来上がった料理をテーブルに置いてまな板と包丁を洗っていると、シャワーを終えたシュウが濡れた髪のままキッチンに入ってきた。
「髪ぐらい乾かせ。風邪引くぞ」
「暑くて敵わないんです。汗が引いたら乾かします」
口では何だと云っているが、火を使うのを楽しみにしているからであるのは間違いない。仕方なしにマサキは卵とボウルをシュウに手渡した。いきなり目玉焼きではハードルが高いだろうと、スクランブルエッグに挑戦させる。卵を割るのには慣れていないようだ。ひとつ目の卵を潰してしまったシュウに、「最初は誰でもそうだ」マサキは声を掛けてやりながら、続けてふたつの卵をシュウに割らせる。
やはり器用な性質であるらしい。ひとつ目の失敗で力の加減を覚えたシュウが、今度は綺麗に卵を割ってみせる。マサキはボウルの中を覗き込んだ。小さい殻が入ってしまったり、黄身が潰れてしまったりと細かいところにミスはあるが、ふたつともきちんと使える状態に割れている。
「上手いもんだな。俺はこう割れるようになるまで三日はかかったぞ」
「本当ですか。上手く出来ているようなら良かった。料理をする人の苦労を知るのは大事ですね。食事の有難みが増します」
徐々に出来るようになっていくのが面白いのだろう。何をするのも楽しくて仕方がない様子のシュウに、今日の目標でもあるコンロへの点火を任せる。その間に卵を掻き混ぜた真境は、火を点けたはいいものの、火加減をどうすればいいかわからずにいるシュウにフライパンを持たせた。
火加減の調節はマサキがした。
そこからシュウの傍について、手取り足取り教えてやりながらスクランブルエッグを焼かせる。少し火が通り過ぎてしまった感はあるが、初めてなら上出来だ。器に盛らせるところまでシュウにやらせて、続けてウインナーも焼かせる。
流石にスクランブルエッグの後とあっては手慣れたようだ。上手い具合に焼き目の付いたソーセージを同じく皿に盛らせたところで、いい加減髪を乾かさせなければとマサキは彼を脱衣所に追いやった。
火を使えて満足したのだろう。今度のシュウは御託を並べることもなく、素直に髪を乾かしに行く。
手持無沙汰となった時間に残されたマサキは何をするか悩んだが、どうせさしたる時間でもないと先にテーブルに着いて彼の戻りを待つ。
あっという間に三日目を迎えてしまった。
記憶が戻る気配のないシュウに、果たしてこの生活を続けることに意味があるのだろうかと思いかけるも、それならそれで彼にひとりで生きていけるだけの技術を授けてやるのも自分の務めだろう。マサキはそう思い直した。料理を教えるぐらいであればサフィーネたちでも事足りるが、彼を付け狙う輩を向こうに回せるだけの剣技を教え込むとなると、流石に生半可な腕の人間では務まらない。この機会だ。使えるぐらいには仕込んでやらねば。マサキは決意を新たにした。
「すみません、遅くなって。身支度を自分ひとりで整えるのにはまだ慣れなくて」
癖のある髪を見られるように整えるのに時間がかかったようだ。ニ十分ほど経ってから戻ってきたシュウが席に着く。
朝食を取りながら話をしたところ、彼は今日一日をマサキとの剣技の稽古に費やすつもりであるようだ。あなたと居れる時間には限りがありますからね。そう云って、自分で作ったスクランブルエッグを口に含んだシュウは、まあまあですね。そう云って嬉しそうに笑った。
「そうは云っても体力的な問題もあるぞ。今日は程々にしておいた方がいいんじゃないか」
「トレーニングは毎日欠かさずしています」9歳だけあって、体力面に自信があるのだろう。シュウはマサキの言葉に退く気配も見せず、「グランゾンにも乗れるようにならないとなりませんし。その為には実践的な稽古をするべきでしょう」
確かに剣の長さが使い慣れたものに変わったという現実はシュウに自信を蘇らせたかもしれなかったが、まだ彼には成長した自分の身体に慣れるというミッションが残っている。そう考えると、マサキが直接的に相手をするのはもう少し先のこととして、暫くは距離感を掴ませる訓練に専念させた方がいいだろう。
「まあ、反射神経を養うには実践が一番ではあるがな……」
言葉を濁したマサキに、その思惑を読み取ったようだ。シュウが真っ直ぐな眼差しを注いでくる。
「僕はゆっくりしている暇はないのですよ、マサキ。あの忌々しい教団を殲滅させなければなりませんし、その為に身に付けなければならない技能が幾つもあります。剣術、魔術、操縦術、学術……先ず未来の僕に追い付かなければ」
シュウの言葉にマサキは頷くしかなかった。
付かず離れずの距離を保ってきたふたりの進む道は稀に交わることはあれど、基本的には離れた二本の道だ。魔装機神操者。いずれまたその立場マサキを戦場へと狩り出してゆくことだろう。そうである以上、マサキがシュウを守ってやれる時間には限りがある。
「荒療治しか、ないか」
せめて剣術だけでも形にしてやりたいと思ったが、そうした生温い考えは捨てた方が良さそうだ。マサキは覚悟を決める時間を稼ぐようにゆっくりと朝食を片付けた。最終的な目標はグランゾンに乗れるようになること。その為には通り一遍な訓練では駄目だ。マサキは脳内で彼にどう稽古を付けるか、そのプログラムを組み立てていった。
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