通勤電車の中でサクッと読めるシュウマサシリーズ。
リハビリもそろそろ終わりが見えて参りました。
今晩辺りから更新用の作品に手を付けようと思います。
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リハビリもそろそろ終わりが見えて参りました。
今晩辺りから更新用の作品に手を付けようと思います。
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<香水>
ふと思い立ったマサキがシュウの隠れ家を尋ねてみれば、生憎の留守。戻りがいつになるかはわからなかったが、折角州を跨いで足を運んだものを、何もせずに帰路に就くのでは面目が立たない。さりとて外で待つのも癪に障る。
ふと思い立ったマサキがシュウの隠れ家を尋ねてみれば、生憎の留守。戻りがいつになるかはわからなかったが、折角州を跨いで足を運んだものを、何もせずに帰路に就くのでは面目が立たない。さりとて外で待つのも癪に障る。
マサキは足元に敷かれている玄関マットに手をかけた。辺りを窺いながら捲ってみれば、鍵がひとつ。変なところでずぼらさを見せるシュウは、賊に入られても盗られるようなものはないと高を括っているようだ。彼が隠したに違いない鍵を取り上げたマサキは、それを使って家の中へと足を踏み入れた。
勝手知ったる他人の家とリビングに上がり込んだマサキは、先ずは空調とスイッチを入れた。次いで冷えた風が流れ始めたリビングからキッチンに移動して、冷蔵庫の中から飲み物を取り出す。贅沢に氷を入れたグラス。そこにアイスティーを注いで、そろそろ冷え始めたリビングにとって返した。
「後で怒られても知らニャいのよ」
「おいらたちは止めたんだニャ」
主人の行いを不安げに見守る二匹の使い魔を尻目にソファに腰掛けたマサキは、夏が盛りを迎えた外の景色を眺めながら、胃に直撃する冷たさとなったアイスティーを飲み干した。青々とした空に緑濃く葉が繁る木々。夏だな。呟いたマサキに、他人の家の中で云う台詞じゃニャいんだニャ。二匹の使い魔は盛大に顔を顰めた。
「大体ニャにしに来たんだニャ?」
「今日は街でのんびり過ごすつもりじゃニャかったの?」
突然に予定を切り替えた主人の気紛れの理由を知りたがる二匹の使い魔に、特に理由はねえよ。そうマサキは答えてソファに横になった。空調の効いたサイバスターのコントロールルームからここまで、ほんの数十メートルの距離でどっと噴き出た汗を吸った衣服が肌に纏わり付く。
「シャワーでも浴びるかな」
「えー? マサキどこまで厚かましくニャるつもりニャの?」
「他人の家ニャんだニャ! しかもあの野郎の家ニャのに!」
驚いた二匹の使い魔が声を上げるも、その程度で抑えられる衝動ではない。そもそも|不埒な侵入者《マサキ》を招き入れるかの如く、玄関先に鍵を隠している|家主《シュウ》が悪いのだ。ソファからばっと飛び起きたマサキは、二匹の使い魔の静止を振り切ってバスルームに向かった。
そしてシャワーを浴びた。
ついでに家の使用料代わりとバスルームを掃除する。床に壁、浴槽とシャワーを当てながら汚れを洗い流し、最後にもう一度。自身の身体に水を浴びせかけたマサキはさっぱりとした心持ちでバスルームを出て、濡れた髪を乾かすべく洗面台の前に立った。
歯ブラシ、歯磨き粉、|整髪料《ワックス》……ドライヤーを当てながら、洗面台の棚に並ぶ生活用品を眺める。常に身ぎれいにしているだけはあって、ひと通りの生活用品は揃っているようだ。ドライヤーを止めたマサキは、その中からひとつの瓶を取り上げた。
彼が好んで身に付けている香水。
街で過ごすと決めたマサキの鼻を擽った匂い。通行人のひとりが付けていた香水の香りは、マサキに強くシュウの存在を思い起こさせた。暫く会っていない。気付いた瞬間、居ても立っても居られなくなった。踵を返したマサキは、二匹の使い魔を置き去りにしかねない勢いで街を出た。
「あんまり弄っちゃ駄目ニャのよ」
「他人の持ち物ニャんだニャ」
家主の許可なく家に上がり込んでいることで落ち着きを欠いているらしい。右に左にと忙しない二匹の使い魔をリビングに戻らせると、マサキは瓶の口を開けた。少量の香水を手のひらに乗せる。ああ、この匂いだ。マサキは首に香水を付けながら、何処かに出掛けているらしいシュウを想った。果たして彼は今日中に帰って来るのだろうか? 馴染み深い匂いに包まれながら脱衣所を出たマサキは、リビングのソファに再び身体を収めた。
――顔を見るまでは帰れそうにねえな。
不安と期待。相反するふたつの感情を胸に抱きながら、そうしてマサキは緩やかな眠りに落ちていった。
あなたは香水をつけるマサキの物語を60分で書いてください。
#60分で綴る物語 #shindanmaker
あなたは香水をつけるマサキの物語を60分で書いてください。
#60分で綴る物語 #shindanmaker
<共犯者>
「本当にやるのかよ」
「家に忍び込むよりは良心的だと思いますが」
陽射しが和らぎを見せ始めた昼下がり。王都の大通りに面した喫茶店のオープンテラスに、ひとりの淑女が姿を現わした。
今からアフタヌーンティーを嗜むところであるらしい。連れとともに見晴らしのいい席に着いた彼女を、喫茶店向かいの建物の影から窺っていたマサキは、彼女が身に纏う悪趣味なまでに豪華絢爛な衣装に気分を害さずにいられなかった。
「どうせ目的のブツを奪うんだったら、どっちでも一緒な気がするけどな」
ふんだんにあしらわれた刺繍に、散りばめられた宝石。贅を尽くした感のある衣装は、どうやればここまで品を悪く出来たものかと思うまでにアンバランスだった。アコーディオン状に広がった立ち襟に裾の広がったスカート。ピエロが着ればそこそこ形になっただろうと思わせるドレスを威風堂々と着こなせるだけはある。淑女は真っ当な世界の人間ではなかった。
社交界で夜の蝶とも呼称されし彼女は、そこで得た情報をネタに、これまで数多の貴族たちを強請ってきたらしかった。彼女が身に纏っている高価な衣装は、そうした後ろ暗い活動で得られた資金が元になっているのだそうだ――とは、シュウの言葉であったが、その情報を抜きにしても、決して趣味のいい衣装には思えない。マサキは隣で人待ち顔でディリー紙を読み耽っているシュウを見上げた。
彼女の飯の種である情報の数々が書き込まれた手帳を、彼女は肌身離さず持ち歩いているようだ。女中として淑女の館に潜入したサフィーネによれば、寝る時には下着の下に挟み込むぐらいの警戒ぶりらしい。無理もない。手帳を失おうものならあっという間に破綻するだろう豪奢な生活を、恐喝者である彼女は送っている。
「女性の下着に手を入れるのは、私としては遠慮したいところですね。それと比べたらハンドバックを漁る方がまだ良心的でしょう」
件の淑女とシュウが関わることになってしまったのは、旧い知り合いが彼女に強請られることとなったからなのだそうだ。妻帯者である彼は、社交界では実に良くある話らしいが、そこに参加していたとある高名な家の夫人と一夜の過ちを犯してしまったのだとか。お互いの胸一つに収めた筈の過ちをどうやって淑女が嗅ぎつけたのかはわからない。ただ彼女は決定的な写真を手に彼を強請った。それも写真を返すことなく何度も。
その写真を極秘裏に処分して欲しい。というのがシュウの旧い知り合いの頼みだ。
自業自得である。
そうは思ったものの貸し借りの多い付き合い。いつぞやの借りを返せと迫られては断り切るのも難しい。かくてマサキはシュウとともに、数日に渡って淑女から手帳を取り上げる機会を窺っている。
「どっちにしても手帳を奪うことに違いはないだろうよ。どうせ法を犯すなら、確実性の高い方法を取った方がいいと思うけどな」
「その結果、あなたにまで捜査の手が及んでしまうのではね。そもそもサフィーネによれば、館にはそれらしい保管場所がなかったようなのですよ。金庫や隠し倉庫など、調べられるところは全て調べたようなのですが……と、なると手帳そのものに挟んである可能性が一番高いでしょう」
「ずさんな管理方法だな。それで紛失したら元も子もないだろ」
「あなたが想像しているような貧相な手帳ではありませんよ、マサキ。彼女が持っているのは、ちょっとした貴重品や書類なら仕舞えるぐらいに確りとした作りをしている手帳です」
「それをあのハンドバッグに仕舞い込んでるのか? そんな余裕があるようには思えないんだが」
マサキは淑女が膝の上に置いているハンドバッグを見た。決して収納力の高くない薄物のハンドバッグ。財布とハンカチを入れただけで充分に埋まりそうな大きさとあっては、そういった頑丈な手帳が入るような隙間があるようには思えない。
けれどもシュウに確たる自信があるようだ。マサキの指摘に、悠然と微笑んでみせると、
「何か誤解があるようですが、手帳のサイズ自体は普通ですよ。もしかしたら、何処かに秘密の隠し場所を持っている可能性も否定出来ませんが、寝る時も肌身離さずにいるぐらいです。手帳そのものに価値があるのは間違いないでしょう」
「まあ、いいけどよ――」そこでマサキは身構えた。
アフタヌーンティーを終えたようだ。連れとともに席を立った淑女に、緊張感が走る。
こうして彼女が外に出る機会を窺うこと三日。ようやく日中に家を出る機会に遭遇出来たマサキとしては、この機会を逃す訳にはいかなかった。それじゃ、行くぞ。シュウに声をかけてから、建物の影を出る。
マサキは店の前の通りがかる振りをした。そして、丁度店を出て来たばかりの淑女に、肩を思いきりぶつけた。
派手に腰から転んだ彼女の手からハンドバッグが落ちる。後はシュウが上手くやることだろう。マサキは金切り声を上げている淑女を無視して、喫茶店を背に四つ辻に向かった。その途中でさりげなく背後を振り返れば、淑女に歩み寄ったシュウが、彼女を助ける素振りでハンドバッグを拾い上げているのが目に入った――……。
※ ※ ※
後程、無事に手帳より写真を抜き取ったらしいシュウから報告を受けたマサキは、ついでと彼と食事をともにしてから王都を去ることにした。
※ ※ ※
後程、無事に手帳より写真を抜き取ったらしいシュウから報告を受けたマサキは、ついでと彼と食事をともにしてから王都を去ることにした。
城下町を抜け、街外れにサイバスターを呼び寄せる。待ちくたびれたのだろう。早速とばかりに首尾を尋ねてくる二匹の使い魔に、無事に目的を達せたらしいことを告げたマサキは操縦席に身を沈めた。
シュウに対する借りの清算としては良くあることとはいえ、畑違いな役割を押し付けられることも多い。ああいうのはこれきりにして欲しいんだがな。マサキはそう続けながら、サイバスターのコントロールを開始した。
きっとそう遠くない内に、シュウはマサキに貸しを押し付けてくることだろう。そしてまた奇妙な事態にマサキを巻き込んでくれるに違いない。それを少しばかり楽しみにしている自分を窘めるように言葉を吐いて、マサキはサイバスターを駆って一路帰路へと。抜けるような青空の下を往く。
あなたは悪事に手を染めるシュウマサの物語を60分で書いてください。
#60分で綴る物語 #shindanmaker
あなたは悪事に手を染めるシュウマサの物語を60分で書いてください。
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