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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

あれが欲しい/HAPPY VACATION/ひんやりとした肌
リハビリがお詫びになりつつある今日この頃。
今日こそ更新してやる!

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あれが欲しい……一人寝が寂しいマサキの話
HAPPY VACATION……休暇を得たマサキの話
ひんやりとした肌……2023ハグの日ネタです

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スランプからは抜け出せているので、後は書くだけです。頑張ります!
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<あれが欲しい>

 あれが欲しい。と、マサキが指を差した先を見たシュウは、そこに飾られている子どもサイズの兎のぬいぐるみに、実に数秒もの間、言葉を失った。可愛げのある表情をしているのならまだしも、スプラッター映画に出て来そうな無表情。本気で云っていますか? ようやく言葉を口にしたシュウに、マサキ本人も自分がしている要求が突飛もないものである自覚があるようだ。少しして、妙な事を云ってる自覚はあるよ――と鼻の頭を掻きながら、気恥ずかしそうに言葉を吐いた。
「でも、何か似てるだろ。お前に。愛想のない表情がさ」
「酷く失礼な事を云われている気がしますが、それだけであのぬいぐるみが欲しいと?」
「抱き心地も良さそうだ。ひとりで寝てると腕が寂しく感じる時があってさ……何か抱けるものが欲しいって思ってたんだ。俺にとってはお誂え向きなぬいぐるみに見えるんだけど、お前が嫌って云うなら別に」
「わかりました」シュウは足を踏み出した。
 そしてショーウィンドウ越しにぬいぐるみをまじまじと見た。確かに、云われてみればこのふてぶてしい顔立ちは、自分に良く似ているように感じられる。ふたりで寝ることに慣れたマサキが、自分の代わりに傍に置きたいと思ってしまうのも納得だ。
 値段を見れば、思ったほど高くはない。
 マサキを振り返って、今一度その意思を確認する。本当にこれが欲しいのですか。深く頷き返してくるマサキに、その手を引いて、シュウは彼の望みを叶えるべく店の中へと足を踏み入れて行った。



<HAPPY VACATION>

 いつまで経っても鳴らない目覚まし時計におかしいと感じたマサキがベッドから飛び起きてみれば、時刻はとうに昼。過酷な任務に寝過ごしてばかりの|義兄《マサキ》を、二匹の使い魔とともに律儀に起こしてくれるしっかり者の|義妹《プレシア》。彼女はどうしたのかと思いながら急ぎ服を着替え、慌てて部屋を飛び出しかけたところで――そうだとマサキは足を止めた。
 ようやく取れた休暇だった。
 何かと用事を見付けてはマサキを扱き使うセニアに願い出ていた長期休暇。無論、世界存亡の危機に際してはその限りではなかったが、そういった非常事態が発生しない限り、十日もの日数が保障された休みである。こんなに軽やかな気分で羽根を伸ばせるのはいつぶりか。もしかするとラ・ギアスに召喚された直後のあの穏やかな日々以来かも知れない。
 ベッドに戻ったマサキは窓の外に広がる青空を眺めた。
 流れ行く雲。スピードが速い。開いた窓から吹き抜ける風に身体を撫でられながら、ゆったりと目を閉じる。静かに過ぎゆく時間の心地良さ。この穏やかな時の流れに十日間も身を任せていられるのだ。
 さあ、どう過ごそう。前日まで細々とした任務に追われていたマサキは、いざ訪れた休暇をどう過ごすかといった|計画《プラン》に乏しかった。観光、旅行、散策、遊行……ぼんやりと頭の中にあったイメージを、具体的な形へと変えてゆく。行きたかった観光地、滞在したかった街、遊びたかった施設。考えれば考えただけ十日では済みそうにない。次から次へと思い浮かんでくる希望の数々に、たかが十日、されど十日。と、マサキは目を開いた。
 こうして家でじっとしていても時間は過ぎてゆくだけだ。
 過ごし方次第では、かなり充実した休暇を過ごせる日数である。マサキはベッドの下からバックパックを取り出した。当座の着替えをそこに詰め込んで、既に起きているらしい二匹の使い魔を探しに部屋を出る。
「シロ、クロ、出掛けるぞ!」
 声を上げて程なくして、二匹の使い魔が階段の影から姿を現わしてくる。彼らの話を伺うに、プレシアは街に買い出しに出ているようだった。如何に休暇といえども勝手に姿を消すのは憚られる。マサキはプレシア宛てに書き置きを残すと、多大なる期待を胸に。十日の休暇を有効に使うべく、二匹の使い魔とともに家を出た。

 ※ ※ ※

「それで私の所に来たと? もっと他に有用な休暇の使い方があるでしょうに」
 研究の最中らしい。組み上げられた|機構《システム》に繋がれた無数のコードが出力する信号を、ホログラフモニターの前に立って読み取っているシュウは、突然のマサキの来訪にも動じることはないようだ。
 モニターに注がれている視線の厳しさは、シュウが研究に集中している度合いを表している。冷ややかにも映る眼差し――どうやら彼にとってこの研究は、相当に興味深い結果を見せているようだ。これではいつ彼が重い腰を上げてくれたものかわかったものではない。マサキはホログラフモニターの後ろに立った。そしてモニターを挟んでシュウと向き合う。
「あまり邪魔をしないで欲しいものですが」
「研究は逃げねえだろ。行こうぜ、バカンス」
「気候の変化による出力結果の変化も見たかったのですがね」
 仕方ないといった態度でモニターを閉じたシュウが、次いで|機構《システム》を停止させた。やった! と飛び上がった二匹の使い魔に、「あなた方は私に何を期待しているのですか」研究を中断させられたシュウは、不可思議なものを見るような視線を向けた。
「面白い所に連れて行け、ニャんだニャ!」
「マサキひとりじゃ迷っちゃうじゃニャいのよ!」
 それで納得が行ったらしい。確かに。と頷いたシュウは、マサキたちに先に外に出て待っているように伝えると、支度をする為だろう。ひとり、研究用プラントを出て行った。



<ひんやりとした肌>

 不快なまでに蒸した空気が満ちる外の陽気とは裏腹に、空調で適度な温度に保たれた室内。読書に余念がない家主に凭れるようにしてソファに身体を投げ出していたマサキは、その姿勢のまま、かれこれ一時間ほどテレビを眺めて過ごしていた。
「そんニャにべったりくっついていて、暑くニャいんのかニャ」
「本当にニャのよ。しかもずっと同じ格好ニャんて疲れニャいの?」
 フローリングの床の上に伸びていた二匹の使い魔が、口々に言葉を発しながら顔を上げてくる。どちらも呆れ果てた表情だ。マサキは肩を竦めてみせた。確かに適度な温度に保たれているとはいえ、窓からの陽射しは相当に強く、空調からの冷えた風がなければ直ぐに空気が温まってしまうことだろう。彼らの疑問は尤もだった。
「ところがこれが暑くないんだな」
 マサキは布越しに伝わってくるシュウの温もりに意識を向けた。冷えた肌。血行が悪いのか、それとも平熱が低いだけなのか定かではなかったが、彼の肌はマサキよりも明らかに冷たかった。
 冬場ともなれば肌を合わせるのに躊躇いが産まれたものだったが、今は夏。自分よりも体温の低い男の冷ややかな肌の温もりはたまらなく心地いい。なあ、シュウ。マサキは読書が終盤に差し掛かっている男を見上げた。端正な面差し。真剣な眼差しを膝の上の書物に注いでいる男は、きちんとマサキたちの遣り取りにも耳を傾けていたようだ。
「あなたは暑くないかも知れませんが、私にとってあなたの体温は高く感じられるのですよ、マサキ」
「やっぱりニャのね」
「マサキはお子サマ体温だからニャ」
 残り少なくなった頁。シュウの読書の終わりを待って、街に出ようと誘いかけるつもりでいたマサキは、一聴して不快さが感じ取れる声の調子に焦りを感じずにいられなかった。確かに彼にくっついているマサキが彼の温もりを冷たく感じているということは、彼にとってマサキの温もりはその逆であるということだ。それで彼が快く読書に励める筈がない。
「あー……それはすまなかった」
 慌てて身体を離そうとしたマサキの腰にシュウの手が回される。読書に専念しているからといって、周囲の動きに対する注意を怠ってはいないのがシュウ=シラカワという男だ。マルチタスクを易々とこなしてみせる彼は、まるで十人の話を聞き分けたという伝説を持つ聖徳太子のようでもある。彼は片手で書物の頁を捲りながら、もう片方の手でマサキの身体をその場に留めてみせると、至極当然といった態で言葉を継ぐ。
「本当に不愉快だと感じていたら、とうにあなたを離していますよ」
「その割には声の調子が穏便じゃないじゃないか」
「窓から差し込む陽射しが強過ぎて、インクの色が浮いて見えるのですよ。目に痛くて堪らない。我ながら良くこの状態で読書を続けようと思えるものですが、興味深いデータが多いものですから、つい」
「だったらブラインドを下げろよ。何を我慢してるんだよ、お前は」
 立ち上がって窓辺に向かい、ブラインドを下げる。陽射しが遮られたことで、室内が少し薄暗くなりはしたものの、読書を続けるのに差し障りが出るほどの遮光性でもない。これでいいだろ。シュウを振り返ったマサキは、腰を上げたついでに飲み物を取りに行こうと決めて、彼に何が飲みたいかを尋ねた。
 アイスティーと答えた彼の分と自分の分の飲み物を用意して、ソファに戻る。渡したグラスに口を付けたシュウが、ようやくひと心地付いたといった様子で、読み終えた書物の扉を閉じた。そして彼は続けてテーブルの上にグラスを置くと、
「先程のあなたの疑問に対する答えですが」おもむろに言葉を吐いた。
「何だよ。我慢比べの理由がどうしたって?」
 シュウに再び凭れかかったマサキの頭上から降ってくる声。穏やかに言葉を紡ぐ彼にマサキがその表情を窺えば、うっすらと笑みを湛えた顔がマサキに向き合っている。
「――ブラインドを下げるのに、あなたから離れなければならないのが耐え難かったからですよ」
 再び腰に回された手が、やんわりとマサキの身体を引き寄せてくる。導かれるようにしてシュウの膝に乗り上がったマサキは、彼の胸に頭を預けながら、もう少ししたら街に出ようぜ。ずっと口の中に留めていた誘いの言葉を、ようやく吐き出した。



以上です。


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