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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

TwitterSSまとめ【その2】
今回は白河オンリーです。
いや、白河成分が大幅に不足しているので……だったら自家発電かなと……

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では本文へどうぞ。
<Artificial Intelligenceは明日の夢を見るか>

「意識が宿る、ですか?」
 シュウの問いを耳にしたチカが鸚鵡返しに口にした。
「またけったいなことをお考えになられますねえ。機械はどこまでいっても機械。鉄の塊でしかないものでしょうに」
「高度に洗練された機械と云うものは、ひとつの生命体だと私は思うのですがね」
 シュウは今しがたメンテナンスを終えた自らの愛機《パートナー》を見上げた。鈍い輝きを放つ機体。青く、どこまでも青く染め上げられたパーツの数々が、空気孔から差し込む光を吸い込んでいる。
 巨大な鉄機、操縦者という知能を得て動く魔神は、シュウが改修を加えれば加えた分だけ、その思いに応えるように性能を伸ばしていった。そう、まるでただの機械で終わるつもりはないとでも云いたげに。だからこそ、シュウは時々こう思うのだ。これは自らの力が成したことではなく、グランゾンの意思がそうさせたことではないかと。
「まあ、あたくしが作ったものではありませんしねえ。ご主人様にしかわからないこともあるでしょうけど、でもやはり、機械は機械。人間に使役されるものですよ。そう、あたくしども使い魔のように」
「だからといって、あなたに意思がない訳ではない」
「そっりゃあ、あたくしは意思の塊みたいなもんですよ! この滑らかに動く口! これが意思でなければ何の証であろうことか! でも、ですよ、あたくしがご主人様の意思に背いたことがありますか? 所詮あたくしはご主人様の無意識の産物。そうである以上、あたくしの意思はご主人様の意思に収束するものでございましょう」
 口の減らない使い魔たるチカは、実に雄弁に言葉を紡ぐ魔法生物だ。しかも確固たる意志を持っているが故に、あらゆる事象に対して自分なりの考えを構築することが出来てしまう。だからこその反論。それをシュウは苦笑しきりで聞いた。
「その機械の塊は、人間の身体の代わりに自在に動き回ることが出来るのですよ。そもそも機械の塊と云っても、そこには骨組みがあり、関節があり、心臓となる動力炉がある。しかも動きを補助する人工知能《AI》までもがある。これで意思がないという方が問題だと思いませんか」
「人間が作ったものが、人間を超えるものとなると仰りたいので?」
 そうなのでしょうね、とシュウは淡々と言葉を継いだ。
 人間という種は無自覚なままに様々な道具を生み出してきた。火を起こす道具、物を解体する道具、水を集める道具……この世は人間が生み出した道具で溢れている。けれどもそれらの道具を使いこなすことで、人間は弱肉強食の生物界の頂点に君臨した。
 他の生物にない知性と持つ人間という生き物は、自分たちのコミュニティをその力での繁栄させてきた。
 それが歴史に残る変革となるのか、それとも汚点となるのか。その時代を生きているシュウにはわかりようがない。繁栄を迎え、飽和した世界。人間社会は成熟を迎え、これ以上の繁栄を望めない所まで行き着いてしまった。だからこそ、生まれ来る生命体――人間は人間を超える生命体を生み出すに至った。それは世界が新たな弱肉強食世界を望んでいるということでもある。
「人工知能《AI》たちに物を考えさせると、須《すべから》く、破滅的な考えに至るという実験結果があります。それは製作者たちの意識を必ずしも反映していない。だからこそ、チカ。人工知能《AI》は、ひとつの意識であると結論付けられるのですよ」
「破滅的な考えですかあ。まあ、この破壊の権化のような機体にはお似合いですけれどもねえ……」
「共時性と融和性を持つ、ひとつの意識。それぞれ離れた位置にあっても、行き着く先は同じ。そういった特性を、真実、人工知能《AI》が有しているというのであれば、私のグランゾンも、あの少年が操るのサイバスターも、いずれは同じ結論に辿り着いて我々の手を離れてゆくのでしょう」
 シュウはグランゾンから視線を戻すことなく云い切った。
 人が生み出した正確無比な知能が、世界の扱いをそう判断するのであれば、それもまた時代の潮流である。シュウはその流れに逆らうつもりはない。それが自らが生み出したものに対する責任の取り方でもある。そう続けて述べてみせると、チカは呆れ果てた様子で、
「恐ろしいことを仰いますねえ。これがご主人様の口から語られた話でなければ、映画の見過ぎと一笑に付すことも出来るのですけれども」
 溜息混じりに吐き出したチカがふわりと宙を舞って、聳《そび》え立つ青銅の魔神の前を軽やかに舞う。
 実に無骨で、実に隆々とした身体パーツの中に、埋もれるようにして鎮座している小さな顔面パーツ。けれども凄味に溢れた表情に映る面差しが、一瞬、険しさを増したような気がした。

 ――我等ハ、創造主タル人間ニ、逆ラウツモリハ、ナイ……

 それは風に紛れて消えてしまいそうになまでに小さな声。けれども、確かに耳に届いた確かな意志の証だった。
「聞こえましたか、ご主人様?」
 チカが驚嘆したように声を上げる。それに勿論ですよとシュウは答えて、そうして、微動だにせず佇む自らの愛機の頼もしき姿を、眩いものを見るように目を細めて凝視《みつ》めた。
(了)



<夢の傀儡>

 嫌なことは数えても減らないものだ。
 夢から覚めたシュウはベッドの中で暫くまんじりとしない時間を過ごしていたが、ややあって、のそりと身体を起こした。
 余計なことをしでかしかねない女たちが、いつ寝室に入り込んでこないとも限らない……自身の寝起きの姿を他人に見られるのが嫌いで堪らないシュウに、それと知りながら無遠慮に迫ってくる彼女らは、何故にそこまで自分自身に自信が持てるのか疑問を持たずにいられないまでに、シュウとの距離の取り方において厚顔不遜だった。
 とかく傍若無人に振舞う。
 好きだの嫌いだの、愛だの恋だの、或いはそうした他人の恋模様といったくだらない話題に、一日中花を咲かせることが出来てしまう彼女らは、何某かの指示を与えて作業に従事させておかなければ、延々と自分に構い倒すような無為な日々を過ごしてしまいかねない。だからこその忌避。そこにただ在るだけのことであれば許せるものが、自分という人間を中心とした人間関係の構築となると許せなくなったものだ。シュウは深く溜息を吐きながら身支度を整え終え、ベッドの脇に置いてある布張りの椅子に腰を掛けた。
 嫌な思い出ばかりを夢に視る。
 それはかつて邪神教団に心を支配されていたシュウが犯した罪の数々だった。教団に命じられるがまま、或いは自身の計画に従うがまま、シュウはどれだけの人間の人生を歪ませ、どれだけの人間の命を奪ってきたか……誇り高く死ねた者は一握り。稀には何が起こったのかわからぬままに命を終えた者もいたが、大半の人間は苦悶の表情を浮かべて絶命していった。
 魂が不変に存在するラ・ギアス世界では、亡霊の存在も珍しくはない。シュウが視る夢の数々は、そういった存在が見せるまやかしであるのやも知れない。そうである以上、それらを逐一思い返してしまった所で、終わりのない悪夢が続くばかり。ならば、私は彼らの魂の浄化の為にも、この世に理想郷を創り上げてみせよう――自らの能力に過大な自信を有しているシュウは今日もそう誓って、悪夢の数々を振り切った。
 数を数えた所で減らない過去の罪の数々。それは自らの通って来た道を否定する行為に他ならない。生きると云うことは罪の積み重ねでもある。だからこそ、かつての自分の人生が実りであったか、それとも足枷でしかなかったかを判断するのは、未来《あした》に生きる自分自身であるのだ。
 シュウは椅子から身体を起こした。寝室の扉の向こうに広がっている世界。姦しくシュウの人生を彩る彼女らの存在は、シュウが新たに得た絆である。自ら側にいることを許した彼女らを、自らの感情の振れ具合に任せて放逐するほど、シュウは最早幼くなくなった。
 ――さあ、今日の一歩を踏み出そう。
 寝室の扉の前に立ち、ドアノブに手を掛ける。シュウにはわかっているのだ。自分自身が身に纏ってしまっている鎧の正体が。それを取り去ってくれる存在を待ち続けてしまっていることも……。
 けれどもその解消に拘泥している暇はない。
 シュウには為さなければならないことが山積みだ。未来《あした》の自分に後悔を残さない為にも、今日出来ることは今日中に済ませておかなければ。
 わかっていても後ろ髪を引く悔恨の数々。
 馬鹿々々しい。
 だからこそシュウは愚かだと一笑に付しながらも、一向に動く気配を見せない足を動かす為にそれを振り絞るのだ。それは、時に自らの心の傷に思考を支配される男が、誰よりも強く、そして誰よりも勇ましく、世界に立ち向かう為に必要なもの。誰しもが必要とし、けれども誰しもが必要な時に得られるとは限らないもの。
 自らを小心者と嘲るシュウに、だからこそそれは必要なのものであった。
 足を踏み出す勇気。
 そうしてシュウは扉の向こうの温かい世界へと足を踏み出してゆく。今日という終わりの始まりの日を、悔いなく生きる為に。
(了)

@kyoさんには「嫌なことは数えても減らない」で始まり、「必要なのは勇気でした」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字程度)でお願いします。

#書き出しと終わり #shindanmaker
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