ひっそりと。公式には内緒だよ。
そういう話ですので、特に注記や説明は付けません。
わからない人はこういう話だで納得してください。
10月、11月、12月が抜けてますが、鋭意執筆中です。宜しくお願いします。
そういう話ですので、特に注記や説明は付けません。
わからない人はこういう話だで納得してください。
10月、11月、12月が抜けてますが、鋭意執筆中です。宜しくお願いします。
<終わりの前に>
高校生活三年目の三学期ともなれば、登校する機会はぐっと減る。一月の末、期末試験を終えたマサキは、これから始まる長い休みに思いを馳せた。片手で足りる程度の登校日。さあ、どう過ごそうか。マサキは逸る気持ちを押さえ込むので精一杯だった。
家でごろごろするのも自由なら、夜更かしをするのだって自由だ。ここぞとばかりに任務を割り振られる可能性はあったものの、卒業を控えている身。長期間に渡って拘束されるような任務は――恐らく、ないに違いないい。
そもそもマサキはシュウの監視という任務に就いている。
世界律がエラーを起こしたとしか思えない能力を有している男、シュウ=シラカワ。どうやら彼は複数のシステムをその身に抱え込まされているようだ。ゲームで例えるのであればチートキャラ。人智を超えた法則の世界で生きているらしい彼は、いずれ世界律という因果に大きな影響を与える存在になることだろう。
もしもの時の始末を協会から指示されているマサキは、その時の訪れを思うだに憂鬱になったものだった。
長く、馴れ合いを続けてしまった。
卒業しても尚、その関係が続くのか。マサキにはわからない。教師と生徒という繋がりがあったからこそ始まった関係は、もしかするとマサキの卒業というエピソードでもって最後の時を迎えるのかも知れない。そんな予感をマサキが覚えてしまっているのは、シュウに新しいパートナーが出来たからだった。
勿論、それは人間ではない。魔力の供給源となる使い魔。異端の存在であることを隠すつもりがないのか、正々堂々と使い魔を学校に連れて来てみせた男は、当然のように何処に行くにもチカと名乗った青い鳥を連れ歩いている。それはマサキと二人きりで過ごす時間が無くなったことを意味していた。
「なあに、マサキ。難しい顔をしちゃって。これで暫く学校ともおさらばじゃない、って。そっかあ。テストの出来、良くなかったんでしょ? 成績会議は明後日だもんね。三月ぎりぎりに校長室で卒業式、なんてことにならないように祈っておくわ」
「お前、これでも俺はみっちりあいつにしごかれ」
「やっだあ。センセがつきっきりで勉強見てくれたの?」
辺りを憚らない声で思いっきり、ミオがそんな台詞を吐いたものだから、マサキとしては慌てずにいられない。馬鹿、お前黙れって。急ぎ口を塞ぎにかかると、わかってます。絶対わざとに決まっている態度を取ってみせたミオは、茶目っ気たっぷりにも片目を瞑ってみせた。
「ホント、相変わらず仲がよろしいようで羨ましい限り」
「お前だって、ファンクラブの連中から期末試験の予想問題を貢がれてただろ」
「あんなの無くても、あたしの学年トップは揺らがないわよ」
時に自信が鼻を覗かせるミオは、特に勉学においてその傾向が顕著だ。それもその筈。強化人間である彼女の脳には様々なデータがインプットされている。だからだろう。ミオは強気にもそう云ってみせると、おほほ。と口に手の甲を当てて笑った。
「いいよなあ、お前。勉強の必要がなくてさ」
「マサキには最高の家庭教師がついてるじゃないの。それの何が不満?」
「不満がない筈ないだろ。スパルタだぞ。あいつがそんな可愛らしい家庭教師な筈があるか。期末試験開始前日なんて十六時間勉強させられてるんだぞ、俺」
「そんな全力でオムツの出来が悪いことを自慢しなくとも」
「何でだよ! 俺にだって解ける問題はあるんだよ!」
「その数が問題なんじゃないのよ」
いつしか生徒がまばらに残るのみとなった教室。誰も彼も考えることは一緒とみえる。限りない解放感に満たされた生徒たちは、放課後を満喫する為に、早々に教室を去ったのだ。
「俺もそろそろ帰るかな。お前はどうするんだ、ミオ」
「あたし? あたしはもう少し学校にいようかな。マサキのテストの出来具合をそれとなく先生たちに聞いてこようっと」
「お前、本当に余計なことしかしないな、このポンコツロボット!」
「何度でも云うけど、強化人間をロボットと一緒にしないで頂戴!」
はあ、と気の抜けた吐息を洩らしながら、マサキは薄くなった鞄を手に取った。長い休みに備えて、荷物はあらかた家に持ち帰ってしまっている。じゃあ、俺は行くぞ。そうして幾分、軽い気持ちでマサキが教室を出ようとしたその瞬間だった。
「まだ帰宅していなかったようで、何よりですよ、マサキ」
今日も今日とて陰気な葬式ルックは健在だ。
黒いスーツに白いシャツ。そしてきっちりと締め上げられた黒いネクタイ。その上から白衣を羽織った姿でマサキの目の前に立っているのは、他ならぬシュウだ。
「噂をすれば影が差すじゃない。センセ、どうしたの? まさか化学のテスト、マサキだけ赤点とか」
「残念ながら。今のところは順調に点数を稼いでいるようですよ、ミオ」
なんだあ。と盛大に面白くなさそうな表情になったミオは、それで一気に気を削がれたようだった。赤点のないマサキなんてマサキじゃないのよ。そんなことを口にしながら教室を出て行ってしまう。
「白河先生、じゃあ俺たちもこれで」
「気を付けて帰りなさい。では、また登校日に」
厳格な担任たるシュウの登場に、残っていた生徒たちも教室を出る決心が付いたようだ。慌ただしく教室を去ってゆく生徒たちに、何でだよ。マサキはなんとはなしに落ち着かない気分でいた。
どうも彼らにとってマサキ=アンドーという人間は、シュウ=シラカワという極悪化学教師のお気に入りの生徒であると認識されているようだ。だからマサキは学校ではシュウに絡まないように努めてきたのだが、それでもふたりの間には滲み出る雰囲気があるらしい。まあ、いいんじゃない? もう直ぐ卒業だし。呑気にもミオはそんなことを口にしていたが、マサキとしては気が気でない。
教師と生徒。
本来であれば、シュウの方こそ慎まなければならない立場にいる筈だ。
「何の用だよ」
シュウに教室に戻るように云われたマサキは、自分の机に鞄を置いた。閉ざされるドア。今日のシュウは珍しくも使い魔を連れてはいないようだ。って云うかさ、マサキはまじまじと青い鳥の定位置たる右肩を見詰めた。
「今日はチカはいないんだな」
「魔力を吸い取り過ぎましてね、消滅してしまったのですよ」
「消滅」間の抜けた声が出た。
「まあ、また作ればいいだけの話ですので、あなたが心配するようなことは何もありませんよ」
有無を云わせない口調でマサキと説き伏せたシュウは、そうして一歩、また一歩とマサキの元へと近付いてくる。
「テストの結果が大体出揃ったのですよ」
「それで」マサキの喉が鳴る。「どうだったんだよ。まさかあれだけ勉強させられて、赤点がありました、なんてコトはねえよな」
「無事に卒業出来そうですよ。良かったですね、マサキ」
目の前に立ったシュウが、冷えた手をマサキの頬に伸ばしてくる。久しぶりの手の温もり。もう久しく自分に触れてこなかった手のひらに頬を包まれたマサキは、思わず涙を零してしまいそうになった。
わかってはいるのだ。彼は味方ではないと。だのにマサキはどうしようもなくシュウの温もりに飢えてしまっている。そう、こうしてまた触れてもらえる日を、何度も脳裏に思い描いたほどに。
褒美。マサキは震える口唇でそう口にした。
何が欲しいの。意地悪くも問いかけてくるシュウの余裕めいた表情が憎々しい。
わかってるくせに。マサキはそう言葉を継いだ。そしてつま先を立てると、シュウの首周りに腕を絡めて、その薄い口唇に自らの口唇を重ねにいった。
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