新年ももう二日ですね。
私の部屋のテレビはアンテナが繋がっていないので映りません。テレビがないと新年気分が半減するのだなあと思うことしきりです。ちなみに初詣は行ってません。今日、これから近所の女体神社にお参りに行こうかとは思っているのですが。
と、いうことで続きです。
なんかいい話にまとめてますけど、ミオがちゃっかりしていることに変わりはないです。
私の部屋のテレビはアンテナが繋がっていないので映りません。テレビがないと新年気分が半減するのだなあと思うことしきりです。ちなみに初詣は行ってません。今日、これから近所の女体神社にお参りに行こうかとは思っているのですが。
と、いうことで続きです。
なんかいい話にまとめてますけど、ミオがちゃっかりしていることに変わりはないです。
新しき年に幸いなる祝福を(7)
Ⅰ-Ⅰ
北より白き葉が、南に降りてくる
Ⅰ-Ⅱ
中点に炎舞い、■■は歌い踊る
Ⅰ-Ⅲ
東に黒き果実が、その実を口にした者に祝福を与えしとき
Ⅰ-Ⅳ
西の双■は……
シュウが所持している預言書は完璧な保存状態ではなかった。虫食い状態の預言書の本文は、焼けて黄ばんでいるだけでなく、煤けて文字が読めなくなっている箇所もあった。表紙にも焦げた跡があったことから、どうやらこの預言書は梵書を逃れた一冊であったようだ。
一篇が十三節からなる百八篇にも渡る災厄の予言の数々を、マサキとミオが読み終えるのには一時間半がかかった。宵の口に差し掛かったファーストフード店の店内は、大分その顔ぶれを変え、見知った顔はもうない。夜の初めにいた客たちは、それぞれの行き先に向かったのだろう。若者ばかりで賑わう店内は、これから迎える新しい年への期待と喜びで満ち溢れている。
「全部でいくつの予言があるの?」読み終わったミオが聞けば、シュウからは千四百四節との返事だった。そうなると、仮に一日にひとつの災厄が起こったとしても、単純計算でヴォルクルス復活には三年以上の月日が必要になる。
「千四百四節!? 三年以上!? いやー……これは、ないんじゃないの? 手間が掛かり過ぎてるし」
「それを大真面目にやってみせるのが狂信者でもあり、テロリストでもあるのですよ。そもそも、信仰に効率や利便性を求める信徒はいないでしょう。彼らにとって信仰とは生き方であり、思想であり、奇跡でもある。奇跡にまで合理性を求めてしまったら、それは日常です」
マサキはすっかり萎れてしまったポテトの残りを口に運ぶ。コピーを取るシュウの時間のかかり方から面倒な書であることは予想していたものの、とはいえ、これほどまでに長く純粋な予言の書だとは思っていなかった。氷の溶けたジュースを口に運ぶ。それだったら、今まで通り、戦乱を通じて出た被害をヴォルクルス復活の贄とした方が、余程、効率的であるし効果も高い。考えて、それでも、と考え直す。ならば、サフィーネの会った男は何者だ。
「いや、まあ、そうなんだけど」ミオの疑問は尽きない。「でもさあ、これってどこを中心にして西だの東だの中点だの言ってるの? その中心が予言を書いた人の視たビジョンとずれてたら、いくら予言を実現しても、ヴォルクルスは自ずから復活はしないってことだよね?」
「普通に考えればサーヴァ=ヴォルクルス生誕の地でしょうね。しかし、その生誕地には諸説あり、ここが確実に生誕の地とは言えない面がある。この預言書を記したアザーニャ=ゾラン=ハステブルグという人は、ヴォルクルスはラングランの大陸そのものに生まれ落ちたとたと考えていたようですが」
「ラングラン大陸そのもの? どこかの地方ではなく?」
「それだけの大きさを誇る巨人族だったからこそ、神となり得たのではないかと考えていたようです。ルオゾールはアザーニャ神官のその能力が大きさに比例すると捉える古来的な考え方が気に食わなかったのでしょうね。歯牙にもかけていませんでしたよ」
「え? そしたら、西だの東だのっていうのはラングランの話ではなく、ラングランを中心とした他所の大陸の話?」
「ところがそうは簡単に話は終わらないのですよ。アザーニャ神官が居を構えていたのは城下近く。これは残された当時の書簡などから明らかとなっている確実な情報です。ですから、中点=ラングラン王宮と考える向きもあるのです」
その中点が実際のところどこであろうとも、白鱗病と聞いて予言の一節を諳んじてみせる男が存在しているのは事実なのだ。マサキは残りのポテトを口の中に流し込んだ。流し込んで、それを咀嚼すると、ソファの手前に陣取っているミオの向こう側。シュウを覗き込んで、
「とはいえ、今回の件に本来の中点の位置は関係ないだろ。サフィーネが会った男が、どこを中点だと考えているかであって」
そうですよ。シュウはそう言って、九九を上手く言えた子供を褒めるかのような表情で、マサキを見た。
「勿論、中点をどこに定めるかは、今以て研究者の間でも議論が交わされる問題です。ですが、今回の件に関しては本来の中点がどこであったかについては、全く関係がない。あなたの言う通り、彼らがどう考えているかの問題です。だからこれがテロであった場合、厄介なのですよ」
百万都市の駅は、仕事じまいを終えた年の瀬にも関わらず、まるでラッシュアワーのような混雑だった。
話がひと段落着いたところでファーストフードを後にし、そろそろ神社に移動を始めようとしたところで、どうしても年越し蕎麦を食べたいと言い始めたミオに引っ張られて、男ふたり、年末の飲食店を訪ね歩いてはみたものの、流石にどこの店も長蛇の列。それならば駅の立ち食い蕎麦ならどうだと、交通機関を使うついでにと足を運んでみたものの、こちらもこちらで手っ取り早く年越しの儀式を済ませたい人々で溢れ返っている。
「日本人ってイベント大好きだよねえ。ちゃんとした風習も総出で盛り上げてイベントにしちゃう」
「そういや、当たり前のように食ってたけど、なんで大晦日に年越し蕎麦を食うんだっけ? 健康祈願だったっけか。子供の頃、親に聞いた記憶はあるんだが」
「縁起物ですよ。細く長く伸ばして蕎麦を作るところから、長寿を意味する食べ物となったのだとか」
それでも街中の飲食店よりは回転が早い。十五分ほど並んだところで店内に足を踏み入れたミオは、ファーストフードでセットメニューを平らげているだけでなく、振袖を着ていることもあり、数口でいいと、残りはシュウとマサキに押し付けるつもりらしかった。「あたしは数口でいいし、二杯でいいよね」と、かけ蕎麦の食券を二枚購入する。
「お前、だったらコンビニでカップ蕎麦でよかったじゃねぇかよ。その辺の公園だったら、この寒さだ。ベンチも空いてただろうよ」
「気分よ、気分。カップ蕎麦が悪いってワケじゃないけど、やっぱり形としてちゃんとしたお蕎麦を食べたいじゃない」
「私もそんなには食べられないのですがね」
そう言いながらも、振袖姿のミオに気を配ってはいるらしい。シュウはその手元から食券を取り上げると、彼女には少し高い厨房のカウンターの上にそれを差し出す。「取り皿をひとつ頂きたいのですが」あっという間に出てきた二杯のかけ蕎麦と小皿。カウンター下に下ろしたそれに、ミオがネギやら天かすやらを乗せて行く。トレーに乗せて、店の隅。三人で陣取れそうなテーブルまでマサキが運ぶ。
六人ほどが立って食べられるテーブル席。カップルらしき若者たちと、忘年会帰りらしき初老のサラリーマンと相席だ。「いいねえ、嬢ちゃん。いい男をふたりも引き連れて。両手に花で初詣かい?」サラリーマンは酔い醒ましを兼ねているのだろう。鼻やら頬やら額やらを赤くしながら、水の入ったコップを片手にそう言った。
「いいでしょー? おじさんはこれから家に帰るの?」
「青春だねぇ。おっちゃんは家に帰って寝るだけだよ。寝正月、寝正月」
「初詣は行かないの?」
「近所の神社に行けたら行こうとは思ってるんだけどねえ。毎年この日まで仕事なもんだから」
マサキはシュウとともに二杯のかけ蕎麦から蕎麦を少量ずつ取り皿に取り分けて、ミオの前に割り箸とともに置いた。「伸びない内に食えよ」
そして、初老のサラリーマンと話し込んでいるミオを尻目に蕎麦を黙々と食べた。けれども、まだ幾分か腹に余裕のあるマサキと違って、元々の食が細いらしいシュウは中々箸が進まない。「お前の食生活は貧相だよなあ」呟いて、かけ蕎麦を奪う。「先ほど食べたばかりですよ。そんなに直ぐに、こんなには入らない」それでも半分は食べたのだから、努力の甲斐が伺えようというものだ。
マサキももう満腹感を感じてはいたが、まだまだ育ち盛りであるからか。このぐらいの量ならどうにか食べきれそうだ。だったら、腹が膨れ切らない内に胃に収めてしまうに限る。マサキは蕎麦を一気に掻き込むと、「もう暫く蕎麦はいいや」と、水でそれを流し込んだ。
「ねえねえ、おじさんからお年玉貰っちゃったんだけど」
「お前、何してるんだよ……」
取り皿の蕎麦は半分ほどが減ったばかり。見ればもう初老のサラリーマンは店を後にしている。千鳥足で駅の改札に向かう姿が、店の外に映る。「交通費の足しにしなって」現金にもミオは貰ったお金を見せて喜んでみせるが、整備費も自分たちで稼がなければならないとはいえ、自分たちの方がサラリーマンの平均年収より遥かに稼いでいることぐらいマサキとて知っている。慌てて店の外、走ってサラリーマンに追い付いて、簡単に礼を述べると、「いいんだよ。気にしない、気にしない。わざわざお礼を言ってくれてありがとな。よいお年を!」広くなりつつある額を叩きながら、彼は人混みの向こう。笑顔で改札の奥へと消えていった。
「別れた奥さんとの間に娘さんがひとりいるんだって」
マサキが店に戻ろうとしたところで振り返ると、ミオとシュウが立っている。
「お前がそういうことを言うと嘘っぽいんだよ」
「本当よ! あたしよりもうちょっと、歳は上になるらしいけどね。中々会えないらしいから」
「そっか。正月に会えるといいな」その機会はきっとないのだろうと思いながらマサキは言う。
言って、改札の奥。電光掲示板の隣の時計を見る。頃合としては丁度いい。そろそろ神社にも人の列が長く成している時間だろう。「そろそろ行くか」券売機に向かって歩き出す。
「滅多に地上で戦闘する機会なんて、あたしたちにはないけれど」人混みを縫いながら前へ。ミオを気遣いながら先に進む。その最中。「ああいう人たちの生活を、あたしたち守っているんだよね」ミオは何かを噛み締めるようにそう呟くと、大事そうに胸に抱いていた一枚のお札をバッグの中に仕舞った。
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