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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

【幕間】三箇日には隠者の聖なる刻印を(2)【修正済み】
ミオつおい。
 
そんな続きです。なんだかんだで彼女は大和撫子だと思うのは私だけですかねえ。
<三箇日に隠者の聖なる刻印を>
 
 一時間ほどで市場から戻ってきたミオは、早速とばかりにキッチンテーブルにそれらの食材を並べ、リビングでラジオを聴きながらくつろいでいたマサキを呼びつけると、あれしろこれしろと姦しく指示を出し始めた。
「何を作るつもりなんだよ」頼まれた野菜の皮むきをしながらマサキが聞けば、「だし巻き卵とお煮しめ。あとは魚を焼いたりなんだり。ラングランに流通している食材じゃね、どうしたって限界があるし」との返答。
「こんなに食いきれるかねえ」
 山と積まれた食材を眺めて、溜め息混じりに言う。
「三箇日をのんびりと過ごすのには丁度いいくらいじゃない? それに金魚のフンだって戻ってくるでしょ」
「そういや面倒臭え連中がいたっけなあ」
 シュウたちの仮住まいに立ち入るとき、マサキはその大半をシュウとふたりで過ごしたものだった。それは、それだけシュウが彼らを信頼し、手足として使うことを厭わない証でもあった。西に東に……彼らはその命令ひとつでシュウの望む情報を入手してくる駒でもあるのだ。
 今回もきっと。
 孤軍奮闘に見えて、その目的を果たすためにシュウがかなりのアドバンテージを得ていることをマサキは少なくない付き合いで気づき始めていた。二つの世界に渡る人脈はその属性も幅広い。好き好んで後ろ暗い生活に身をやつさなくても、本人さえその気になれば、実社会で充分にその実力を発揮できるだろう。
 約束されたその未来に背を背けた理由が、ヴォルクルスの存在にあったことは想像に難くない。しかし――マサキは思うのだ。そこまで過去に囚われて生き続けることを自分に強いて、シュウは果たして何を成せるのだろうと。
「マサキ、手が止まってる。ちゃんとセルベス剥いてよね」
「滑るし、痒いし……お前、面倒事を俺に押し付けてないか?」
「男なんだから手間のかかる作業をやるのは当然でしょ? 普段キッチンに立たないんだから、こういうときぐらい役に立たなきゃ」
 大量に卵を割り入れたボールを片手に、ミオはコンロの前に立つ。
 ゼオルートの館に顔を出せば、必ずと言っていいほどキッチンに立つだけあって、ミオの料理の手際はいい。フライパンに油を馴染ませると、手早く卵を流し入れてひっくり返しては、また流し入れる……厚みのあるだし巻き玉子が出来上がるまで、そんなに時間はかからなかった。
「賑やかな音がしてくると思えば……気を使って頂かなくとも結構でしたのに」
 まだ眠気が抜けていないのか。シュウは動くのも大儀そうな様子でキッチンに顔を出した。
「こっちに顔を見せやがったってことは、例の付着物の分析が終わったってことか」
「まあ、そうですね。詳しい分析の結果が出るにはもう少々時間がかかりますが、簡単な結果でしたら」
「結局、あの白い付着物はなんだったんだ? 勿体ぶらずに教えろよ」
 聞くまでもないこと――歌うようにシュウはそう言って、やっぱりと呟いて溜め息を吐いたミオに微かに口元を歪めて見せ、そして答えを口にした。「カビと火薬と白鱗菌でしたよ。順当な結果ですね」
「ってことは、白鱗病の南下に警戒が必要ってことだな」
「それは早計かと思いますよ。こちらの作物にも白鱗病が出ている以上、この付着物から検出された白鱗菌が作物由来である可能性も捨てきれません。今後、更に肥料のサンプルから白鱗菌が検出された場合には、その遺伝子情報を比較する必要があります」
「遺伝子情報?」
「どちらが先の世代であるかを確定する必要があるのですよ」
「そんなこともわかるのか?」
「わかります。何世代後の菌であるかも、その遺伝子情報から判断することができます」
「それって、どちらの菌からどちらの菌が生まれたかもわかるってこと?」
「その通りですよ。間に何世代の変異を挟んでいるかもわかります。ですから、その結果を待ってからの方がいいでしょうね」
「なるほど。まあ、あたしたちでできることには限りがあるしね」ミオはうーんと唸ると、「その辺はあなたにお任せかな。あたしは情報収集も得意じゃないし……どのみち、肥料のサンプルの到着を待つしかないってことでしょう? ってことで!」言うなり、シュウに向かってボールを突き出す。
「いくらあなたが不器用でも、マサキの切った野菜ぐらいここに入れられるでしょ? あたしがとびきりのお正月用のジャパニーズ・フードをご馳走してあげるから、手伝って頂戴!」
 
 
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