リストに載せてない話を唐突に思い浮かんでしまったという理由だけで書いてしまいました。腐れ縁設定の白河とマサキが将来どういう関係に落ち着くのかなという妄想です。シュウマサのようでシュウマサではなく、男の友情だったりします。
昨日はお休みして申し訳ありませんでした。
ぱちぱち有難うございます。(*´∀`*)今日からまた頑張ります!では本文へどうぞ!
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<それぞれのこれから>
新婦の礼装というのは、地底世界においても白がポピュラーなのだろうか。
神殿の祭場で行われた結婚式。精霊に誓いを立てたひと組の新たな夫婦が神殿から出てくるのを、マサキはプレシアとともに階段の下から見上げていた。おめでとう、の声が、同じく階段の下で待ち構えていた参列者たちからかかる。階段の中ほどまで降りてきたきた新郎新婦がその声に答えて深々と一礼をすると、後ろをついて歩いてきていた四人の童女たちが、手にした籠に詰められている花とお菓子を撒き始めた。
「お兄ちゃん、一個取って」
プレシアに云われるがまま、マサキは小さな透明の袋に詰められたお菓子を取った。中身はクッキーやマドレーヌといった焼き菓子のセットになっているようだ。ほら、とプレシアに渡すと、彼女は大事そうにそれをバッグの中に仕舞った。
晴れがましい表情で参列客を見下ろす新郎新婦。新郎は青い礼装を、新婦は白い礼装を身に纏っている。
式の最中にこっそりマサキがプレシアに訊ねてみると、加護を受ける精霊の色の礼装を身に纏うのが、ラングランの結婚式でのしきたりなのだという。ということは、新郎は水の精霊の加護を、新婦は風の精霊の加護を、それぞれ受けていることになる。
「火と土とか、水と火とか、土と水とか、目に痛そうな結婚式になるな」
「そうかな? あたしはこれが普通だから、目に痛いと思ったことはないけど。お兄ちゃんの世界では何色の服を着てるの?」
「男は白か黒で、女は白だな」
「なんか地味だね」
ゼオルートが生きていた頃には親交のあった従姉妹から久しぶりの連絡があったと、プレシアがマサキに云ってきたのは今から三ヶ月ほど前のこと。結婚式への参列を願う内容に、未だひとりでの参加は難しい年齢の彼女は、どうすべきか考えた結果、義兄たるマサキに同伴を頼むことを思いついたのだという。
祝い事とあっては断るのも角が立つ。そういう事情なら、とマサキは見知らぬプレシアの従姉妹の結婚式に参列することを了承した。勿論、プレシアの従姉妹も了承してくれたものだったし、式前の両家の親族の顔合わせもそれはそれはと和やかに進んだものだった。
式自体も厳か且つ慎ましやかに済んだのだから、マサキはそれだけでも良しとすべきとは思っているのだ。しかし、である。
「この展開は予想してなかったよな……」
「まあ、うん……」
マサキは参列者の輪から少し離れた位置で、新郎新婦を見上げている男の姿を盗み見た。
こんなに祝い事の席が似合わない男もそういまい。気難しい性質が表情に出る人間であるらしいシュウ=シラカワは、それでも自身が身を置いている場に合わせているつもりなのだろう。幾分、表情を和らがせて、そこに立っていた。
どうも新郎は若い割にはそれなりに名の通っている学者らしく、参列者の友人知人の大半はそうした人脈に拠るものらしかった。しかし、ひっそりとはいえ、どういった気紛れで国際指名手配犯である男がこんな祝い事の席に身を連ねたものか。
マサキに考えられる理由はひとつ。新郎の相手がゼノサキス家の人間であったからだ。
剣術を嗜む男は、その界隈にも顔が利くようだ。下手をするとマサキより余程広い人脈を構築している可能性すらあった。だから、なのではないだろうか。かつてはランドール、そしてゼオルートを輩出したゼノサキス家。その血筋の行く末を、彼が見届けたいと思っている可能性は少なからずある――……。
ふとシュウと目が合い、マサキは慌てて視線を逸らした。けれども、こうして顔を合わせることを承知で祝いの場に足を運んだに違いないシュウは、マサキたちを放置しておこうとは思わないようだ。それを契機とばかりに人波を縫ってマサキたちの元へと近付いて来ると、その隣に立った。
「何しに来やがった」
「ご挨拶を、と思いまして」シュウはプレシアへと視線を落とす。「この度はおめでとうございます。正直、彼がこんなに早く結婚を決めるとは思っていなかったので驚いていますが、それだけあなたの従姉妹が魅力的な女性だったということなのでしょうね、プレシア」
「あ、ありがとうございます……新郎さんはいい人ですよね……あなたと違って……」
引き攣った表情ながらも、祝いの席。その祝福には応えなければならないと思っているのだろう。それでも素直に応えるのは癪に障ると見える。ぎこちない笑みを口元に浮かべてプレシアが云った。
その胸中を慮ったのだろう。シュウはそうですよ、とだけ云うと、プレシアから視線を外した。そして新郎新婦に視線を向けながら、今度は隣に立つマサキに語りかけてきた。
「次はあなたの番ですかね、マサキ」
思いがけず自分の進退に話が及んだものだから、マサキとしては顔を顰めずにいられない。
「はあ? 冗談じゃねえや。先ずはプレシアを嫁がせる方が先だ」
「リューネはともかく、ウェンディをあまり待たせるのは酷ですよ。それにプレシアの先のことを考えるのでしたら、身近に女性の身内がいた方が何かと都合がいいと思いますが」
「それだったら魔装機の女性陣で充分だろうよ。っていうか、お前はどうするんだよ。他人の心配をするぐらいだったら、先ず自分のことを何とかしな」
シュウの口元に微かに浮かぶ笑み。きっと新郎新婦を祝福してのことなのだろう。そう思ったマサキもシュウに傚って新郎新婦に視線を向けた。
幸福を絵に描いたような今日の主役であるふたりは、階段の中ほどで参列者が構えるカメラに向かってポーズを取っている。方々から聞こえるシャッター音。誰も彼もが今日の記録を残すのに夢中だ。それを眺めながら、シュウが続ける。
「彼女らとの生活は賑やかで楽しいものではありますが、この先の人生をそういった意味で共に歩みたいかと聞かれると、どうしてもひとりの方が気楽だという結論になってしまうのですよ」
「……まあ、それはわかる。仲間として付き合うのと、人生を共に歩むっていうのは意味が違ってくるよな。正直、まだピンとこねえ。そういった未来に自分がいるのを想像できねえっつうかさ……」
「だからって、あたしのことは気にしないでね、お兄ちゃん。あたしは嫌だよ。お兄ちゃんがあたしの為に色んなことを我慢するなんて」
「我慢はしてねえよ。ただ、本当にな。ピンとこねえんだよ。結婚して、子供がいて、家庭があるって未来がさ。それにお前のことは兄としてやらなきゃいけないことだろ。お前が変な男に捕まっちまったら、俺はどうやっておっさんに謝ればいいんだよ。そこを見極めるぐらいはさせてくれ」
「そのぐらいはいいけど……」
「美しい兄妹愛ですね。だからといって、遠慮はいけませんよ、マサキ。プレシアの云う通りです。あなたにはあなたの人生がなければなりませんし、それがあるからこそプレシアもまた自分の人生を送れるのですよ」
「そりゃ、そうだけどよ……だからって、今直ぐ結婚したいとは思わねえしなあ……」
どうやら写真撮影もひと段落付いたようだ。ぱらぱらと人垣から人が歩み出てくると、新郎新婦を囲んで歓談を始めた。他人たるマサキでは勝手がわからないだろうと、気を遣ってくれたのだろう。親族の顔合わせの場にいた従姉妹側の親族が、「プレシアちゃんも行きましょう」と声を掛けにくる。
「お兄ちゃん、あたし行ってくるね」
「ああ。ゆっくり話をして来い」
親族と一緒に人垣を抜けていったプレシアが新郎新婦の近くに並ぶのを見て、マサキは思った。プレシアのこうした未来は容易に想像が付くのだ。きっとその日の自分はどうしようもないくらいに緊張して、どうしようもないくらいに心を乱されて、どうしようもないくらいに意地を張るに違いない。
けれども、自分が新郎としてこういった場に立つ光景を、マサキは想像できない。それは今に限ったことではなく、子供の頃からそうだった。ひとりで気ままに生きている自分の姿が容易に想像できるのに、誰かと一緒に生活している自分の姿がどうしても想像できない。おかしいと思いつつ魔装機の操者になって、そして今。沢山の仲間に囲まれて生きていながら、やはりマサキは誰かと一緒に生活をしている自分の姿を想像できないままでいる。
「お前と一緒なんだろうな。ひとりの方が気楽だ……っていうか、お前はいいのか? 新郎の知り合いなんだろ。話をしたりとか色々あるんじゃねえのか」
「私があの場に混ざるのもね。彼が望んでくれたこととはいえ、迷惑をかける訳にも行かないでしょう。こうして離れた場所で眺めるぐらいで丁度いいのですよ」
「お前の行動はよくわからねえ」
はあ、とマサキは溜息を吐いた。階段上のプレシアは、従姉妹の手にしていたブーケを貰ったようだ。やはり、結婚には夢があるのだろうか。嬉しそうに顔を綻ばせて、大事そうに両手に抱えている。
「きちんと送り出してやらなきゃな」
マサキがぽつりと呟くと、そうですね。とシュウは相槌を打ち、マサキ、とその名を呼んだ。
「もし、歳を取って、それでもお互いひとりだったら、その時は一緒に暮らしませんか」
視線を新郎新婦に向けたまま、穏やかに云ってのけるシュウは、まるでマサキがその提案を受け入れてくれると信じているようだった。
「お前、こんな時に冗談を云うんじゃねえよ。そんなこと云われたって誰かが聞きつけようものなら、またああだこうだ面倒なことになるじゃねえかよ」
「私は本気ですよ。あなたとだったら退屈せずに暮らせそうだ」
「退屈ねえ。喧嘩が絶えないの間違いじゃないのか」
「その頃にはお互い丸くなっていると思いますがね」
ふと、マサキの脳裏にその生活が思い浮かんだ。十年後ぐらいの自分とシュウが一緒に暮らしている。干渉は最小限。気ままにお互いに声をかけ、すべきことを一緒にこなし、それ以外の時間をひとりで過ごしている。
「……悪くないかもな」
マサキがそうとだけ云うと、でしょう? と、シュウはマサキを見た。険の取れた穏やかな表情がマサキの目の前にある。滅多に見れないシュウのその表情に、マサキは珍しくも彼の本心を見たような気がした。
自由と孤独を愛する男は、けれども完全なる孤独はきっと嫌なのだ。
マサキよりずっと年上のシュウは、マサキの知らない現実を数多く見てきている。家庭を持つ現実だってそうだ。だからこそ、人生の伴侶と未来を誓う場を目の当たりにして、自らの未来を考えてしまったに違いない。
――プレシアの次はこいつの面倒を見ることになるのかもな。
でも、マサキは思った。そんな人生も悪くない。
男ふたりで自由気ままに。その未来をマサキは脳裏に鮮やかに思い描けたのだから。
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