あと二回ほどで終わる予定です。
長かったですが、過ぎればあっという間。長期間に渡ったこのイベントももう直ぐ終わりを迎えます。今は「やっとか……」という思いの方が強いですが、終わって暫くすると寂しさを感じるようになるのだと思います。
明日は仕事の関係で更新は難しいです。でも今週中に終わらせられるように頑張ります。
長文傾向が強い私ですが、この話はあっさり終わらせるつもりでいるので、後少しお付き合いのほどを。では、本文へどうぞ!
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長かったですが、過ぎればあっという間。長期間に渡ったこのイベントももう直ぐ終わりを迎えます。今は「やっとか……」という思いの方が強いですが、終わって暫くすると寂しさを感じるようになるのだと思います。
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長文傾向が強い私ですが、この話はあっさり終わらせるつもりでいるので、後少しお付き合いのほどを。では、本文へどうぞ!
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<大団円>
ラングラン州の外れ、王都からかなり離れた場所に位置するそれなりの規模の街は、近くに神殿を擁するだけあって人の出入りが多い。近場にサイバスターを停めたマサキは賑やかな空気に満ちている街へと、二匹の使い魔を連れて足を踏み入れていった。
中央通りに沿って建つ種々様々な店に屋台。そろそろ空腹を感じ始めているマサキにとっては誘惑も多かったが、先ずは荷物を減らす方が先と住宅街に向けて道を左に折れた。つづら折りに続く道。街の人間がまばらに行き交う道を二匹の使い魔にじゃれつかれながら上がり、三分の二ほど行ったところで今度は右手に折れる。そこから数メートル。住宅街の一角にあるありきたりな建物の前で足を止めたマサキは、すっかり道を覚えてしまったのだろう。跳ねるようにステップを上がっていく使い魔たちに続いて、玄関扉の前に立った。
「おーい、俺だ」云いながら呼び鈴を鳴らす。
ガランガランと音を立てる呼び鈴に、程なくして開かれる扉。やあ、マサキ。姿を現わしたテリウスに、お裾分けだ。マサキは早速とプレシアに託されたタッパーを渡した。
「モニカは?」
「いますわよ」
家の奥に続く通路からゆったりとした足取りで姿をみせたモニカは、テリウスが手にしているタッパーを覗き込んで、誰からですの? 小首を傾げながら尋ねてくる。
「プレシアからだよ。晩飯のおかずにでもしてくれ」
「まあ。それは有難いですわ」表情を明るくしたモニカが隣に立つテリウスを見上げる。「テリウスは料理の腕はさっぱりなのですもの」
「そうは云うけど、姉さん。これでも前よりは、まともなものが作れるようになったよ」
「その台詞は、両面焼き《ターンオーバー》以外の目玉焼きが作れるようになってから云うのですわね」
サフィーネがヤンロンの許に住むようになるとほぼ同時に、モニカとテリウスはこの家に移り住んだ。それまでふたりの女性に食事の支度を任せきりにしていたテリウスに、サフィーネを欠いたモニカは思うところが出来たようだ。身の回りのことぐらいは自分で出来るようになりませんと。そう云って、テリウスに家事を仕込み始めたのだという。
「両面焼きって、かえって難しいだろ。黄身を破かずに引っ繰り返すのが特に」
「あら、マサキも結構料理が出来る方なのですね」
「そりゃあ、まあな。プレシアだけに食事の支度を任せてもおけねえし」
「見習うべきですわね」ふふ、とモニカが口に手を当てて笑う。
ちぇっ。とテリウスが頬を膨らませる。数多の戦場を経験して逞しさの増した青年は、けれども身内を傍にすると、末っ子気質が顔を覗かせたものだ。それは庶子たる彼が、嫡子である兄や姉たちをそれだけ頼りにしていたことの表れでもある。
しょうがねえ奴だな。マサキは呆れつつも、仲睦まじく暮らしている様子の姉弟に安堵する。
嫡子だ庶子だと云えば聞こえがいいが、要は正妻の子と愛人の子だ。その立場にテリウスがコンプレックスを感じていたことは想像に難くない。マサキは王宮時代のテリウスを思った。何にもやる気を見せることがなかった少年。それはどれだけ自分が努力をしたところで、庶子という立場を覆せはしないのだと諦めているようにも映ったものだった。
その彼が今、嫡子であるモニカの手ほどきを受けながら、ようやくひとりで生きてゆく為の様々な技能を身に着けようとしている。まあ、頑張るんだな。マサキはテリウスの肩を叩いた。
サフィーネが出て行った後。マサキはモニカとテリウスがそのままシュウに付き従ってゆくのだと思っていた。けれどもそれは彼らを過小評価した思い込みであったようだ。ならばわたくしどもも決心の付け時ですわね。そう口にしたモニカは、シュウが驚くほどにあっさりと、テリウスとともにこの街に移り住むことを決めたのだという。
――いつかはテリウスも、ひとりで生きていかなければならない時がくるからですわ。
何故今住んでいる場所を離れるのかというシュウの問いに、モニカはそう答えたのだそうだ。
恐らく、サフィーネという恋敵《ライバル》を失った彼女は、自身の身の振り方を考えたのだろう。自身の人生を懸けた恋に進むか、退くか。そうして答えを得たようだ。神殿に日参して日々の務めに励むようになった彼女は、決して自らの未来予想図を他人に語ることはなかったが、この先の人生をひとりで生きてゆくつもりでいるのだろう。そうした覚悟を感じさせる発言が増えた。
この街に住まうことを決めたのも、神殿が近くにあるからであるらしい。精霊にこの身を捧げるのも悪くないと思ったのですわ。そうマサキに笑ってみせた彼女は、だからこそ弟の未来を案じ、彼に家事を躾けるようになったに違いない。
「でも、マサキ。わたくしども、こういったものを頂くようなことは何も……」
再び首を傾げてそう口にしたモニカに、マサキは云った。サフィーネたちから料理をお裾分けしてもらったこと。これはそれに対するお返しでもあること。そのついでにマサキにモニカたちの様子を見せに向かわせたかったんだろうということ……それを聞き終えたモニカは、でしたら。と家の奥に姿を消した。
「先日、作り終えたのですわ。よければこれをお礼にあげてくださいませ」
モニカが手にしているのは、彼女が編み上げたと思しきレースの小袋。小物やポプリなどを入れる用途のものであるらしい。いいのかよ。手間がかかってるんだろ。細やかな編み目にマサキが驚いて尋ねれば、
「わたくしたちのことを忘れず気に掛けてくれるのですもの。このぐらいは当たり前なのですわ」
花が咲き誇るほどに艶やかに。モニカは優美な笑みを浮かべてみせると、ね、テリウス? その姿を微笑まし気に眺めているテリウスを見上げた。うん、姉さん。満ち足りた表情。深く頷いたテリウスがマサキに向き直る。
「ところで、折角来たんだし、お昼食べていきなよ。僕が作るからさ」
「悪いな」マサキは紙袋を掲げてみせた。「お前の料理を食べてみたいのは山々なんだが、まだ行かなきゃならないところがあってな」
「じゃあ、別の機会に」
テリウスの言葉に頷いたマサキは、行くぞ――と、足元で丸くなっている二匹の使い魔を促した。
「早いのね」
「あっという間ニャんだニャ」
ゆっくりする間もなく次の行き先へと急かされることに不満を感じている様子の二匹を無視して、じゃあ、またな。マサキは慌ただしくもこの場を立ち去ることにした。玄関扉を開き、ステップを下りる。どうやら次に行く場所の見当が付いていたようだ。シュウ様によろしくお伝えくださいませ。背後で手を振りながら、満面の笑顔でモニカが云った。
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