前々から云っていたと思うんですけど、私は猛烈なヤンロン×サフィーネ信者です!
何でこんなことを改めて云っているかというと、この回はそういう回だからです!
いやもう何で私が照れる?ってぐらい照れながら書きました!笑
と、いうことで本文へどうぞ!
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何でこんなことを改めて云っているかというと、この回はそういう回だからです!
いやもう何で私が照れる?ってぐらい照れながら書きました!笑
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<大団円>
「行き先が決まってるって云ったのニャ」
「それってここのこと? ヤンロンの家ニャのよ」
紙袋を片手にサイバスターを降りたマサキが向かった先に、二匹の使い魔は意外性を感じたらしかった。
「寄り道に決まってるだろ」マサキは紙袋の取っ手を握り直した。
プレシアから預かった三つのタッパー。その届け先を彼女は口にしなかったが、それは云わずともマサキが理解してくれると期待しているからだ。それが阿吽の呼吸で通じるのも、長く兄妹として生きてきたからこそ。
けれども同じくらいの付き合いになる二匹の使い魔たちは、それがわかっていなかったようだ。首を傾げるようにしてマサキの顔を窺ってくる。
「タッパー三つは多いんだニャ」
「|ふ《・》た《・》り《・》じゃ食べきれニャいんじゃニャいの?」
「お前ら、最近暇だからって、理解力が落ち過ぎじゃないか?」
マサキは早速|呼び鈴《チャイム》を鳴らした。
暇さえあれば真面目に修行に勤しんでいるヤンロンのことだ。不在にしている可能性は高かったが、今となっては彼がひとりで住んでいる家でもない。どちらかはいるだろう。マサキは待った。
ややあって、はーい。と、扉の向こうから妙に気取った女性の声が聞こえてきた。鼻から抜けるような高い声。普段の彼女の容貌を思い浮かべたマサキは、あまりにも不釣り合いな声音に思わず眉を顰めた。
「どこから声を出してるんだ、お前」
「何だ。ボーヤなの。先に云いなさいよ」
扉越しに聞こえてきた声はいつも通りの彼女のものだ。化けの皮が剥がれるのが早ぇ。マサキが呟くと、カチャリと鍵が開く音がした。次いで開かれた扉の向こう側からサフィーネが顔を覗かせてくる。
ナチュラルメイクとは縁遠い目鼻立ちの際だった顔に、肌の露出が多い扇情的な服装。彼女のなめかましいボディラインは、街中で数多の男の視線を釘付けにするだけはある。妖しくも艶やかな雰囲気は今日も健在だ。
「お前、相変わらず凄え格好してんのな。少しは慎めよ」
すっかりこの家に馴染んだ女性の変わらぬいでたちに、目の遣り場に困ったマサキが口にすれば、ヤンロンはこれでいいって云ってるわよ。サフィーネはからかんからと笑ってみせた。
潔癖なぐらいに頑固さが際立つ堅物な男にしては寛容な態度。ふたりが一緒に暮らし始めて大分経ったとはいえ、マサキとしては驚きが隠せない。
「嘘っぽいのね」
「嘘っぽいのニャ」
二匹の使い魔も同じ考えでいるようだ。疑わし気な視線をサフィーネに向けている。
本当かよ? マサキもまたまじまじとサフィーネを凝視《みつ》めた。一歩間違えば露出狂に間違えられかねない布の量。下手に動かれようものなら、見えてはならないものが見えてしまいそうだ。あいつやっぱりムッツリなんだな。マサキはずっと心に秘めていた彼への印象のひとつを口にした。
「お前は朝から何を云ってるんだ」
どうやらマサキのその言葉を聞き付けたようだ。家の奥から姿を現わしたヤンロンが、不愛想にも限度がある表情でマサキを見下ろしてくる。
「僕に対する最終的な評価がそれで決まりだというのなら、出るところに出る覚悟はあるぞ」
「だったら勝負だ。って云いたいトコだがな、この後まだ寄らなきゃならない所があるんだよ」
マサキは紙袋から取り出したタッパーをヤンロンに手渡した。
ほう。と声を上げたヤンロンに続いて、あらぁ。とサフィーネも声を上げる。マサキが告げずとも、ふたりともそれが誰からの届け物か理解出来たのだろう。今日の夕食のメニューを考える手間が省けたわ。タッパーを覗き込みながらサフィーネが笑った。
「こないだのお裾分けのお礼だってさ」
「相変わらずしっかりしてるな、プレシアは。お前とはえらい違いだ」
「本当に、ひと言余計な奴だな」マサキは大仰に溜息を吐いてみせた。「早まったんじゃないか?」
云いながらサフィーネへと視線を動かせば、馬鹿ね。彼女はまたかんからと笑った。
納得ずくといった笑顔。いつからか穏やかな表情が増えるようになった彼女は、ヤンロンの長所も短所も全て呑み込んだ上でここにいる。そう云いたげな眼差しをしていた。
わかったよ。マサキは頷いて、ヤンロンに向き直った。
「けど、あれは本当に美味かったぜ。皮がパリパリしててさ。でも中の肉は柔らかくて」
「あら、嬉しいことを云ってくれるじゃないの。もっと云って頂戴」
どうやらマサキがしこたま舌鼓を打った料理を作ったのはサフィーネだったようだ。ぱあっと表情を明るくしみせると、既に相当突き出ている胸を更に張ってみせる。彼女が調子に乗り易い性格なのは相変わらずらしい。美味かったよ。マサキは重ねて云った。
「ヤンロンが作ったかと思うぐらいに美味かった。お前、料理上手なんだな」
「馬鹿云え。躾けたのは僕だ」
即座に口を挟んできたヤンロンに、ああ、だからか。マサキは納得した。
料理は火が命と断言する彼の料理は豪快だが、舌が溶けるぐらいに美味い。野菜の歯応えを残した炒め物や、さして力を入れずとも噛み切れる肉料理。鶏や豚の丸焼きなどは、リューネが作るものより数十倍はジューシーだ。
プレシアの家庭的な料理とはまた異なる職人気質な味。それきっちり再現してみたサフィーネの器用さは、勿論褒められて然るべきものであったが、それもこれも大元のヤンロンの料理の腕あってこそ。けれども彼の図々しさが垣間見えるこの台詞には、流石にサフィーネも思うところが出来たようだ。ちょっと! と、声を上げる。
「云わなきゃわからないことをどうして云うのよ! 珍しくボーヤが手放しで褒めてくれてるのに!」
サフィーネはそう云うなり、彼が着ている人民服の襟を掴んで、その身体を前後に揺すり始めた。
「だからさっき云ったじゃねえかよ。早まったんじゃないかって」
「早まってはないわよ。けどね、この男のこの根性は叩き直す必要があるでしょうよ!」
「ほう、奇遇だな。僕も常々同じことを考えていたところだ」
きっとふたりの間では、こうした遣り取りはいつものことであるのだろう。何だかなあ。マサキは宙を仰いだ。跳ねっ返りの強いサフィーネの言葉を涼しい顔で受け流しているヤンロンは、今更この程度では彼女が出て行くことはないと確信しているようでもある。
「一生やってろよ」マサキはふたりに背を向けた。
喧嘩するほど仲がいいとは良く云ったものだが、今のヤンロンとサフィーネの関係はその言葉を体現しているようだ。どれだけ言い争いをしたとしても、じゃれ合っているようにしか映らない。それは彼らが他人の目に映る自分たちの仲に拘らなくなったことを意味していた。
「何だ。茶ぐらい飲んで行けばいいだろう」
ヤンロンの言葉にマサキは振り返った。
まるで昔からそうであったかのように並んで立っているふたり。けれどもそれに違和感を感じることはない。
「まだ届け物の最中なんだよ」マサキは片手を挙げた。「茶はまた今度の機会にしてくれ」
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