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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

大団円《グランドフィナーレ》(4)
あれこれ次回で終わる????
不穏な空気が漂い始めましたが、なんとか次回で終わりに出来たらと思っています。

いつも拍手を有難うございます。大団円というタイトルの通り、ハピエンで終わる予定です。最後までお付き合いいただけましたら幸いです。では、本文へどうぞ!
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<大団円>

 王都に近い場所に居を構えるのは嫌らしい。州を跨いで尚続く旅路。最後に残ったタッパーをシュウに届けるべくサイバスターに乗り込んだマサキは、計器類の上で寛ぎながら目的地に着くのを待っている二匹の使い魔を視界の隅に、ぼんやりと物思いに耽っていた。

 ――…………家族という共同体は、時間の経過と共に、その在り方を変えてゆくものです。

 一年が経過しても色褪せることのない旅の思い出は、輝ける記憶となってマサキの心に刻み付けられている。観光に励み、ローカルフードに舌鼓を打ち、地元民と交流を持ったあの日々。愉しいことばかりだった旅の終わり際、ジンバランの燃えるような夕陽を浴びながらシュウは云った。

 ――集合体から個々の広がりへと。そして新たな家族を得て、共同体を広げてゆく。そう、それはさながらニューロンのようにね……

 果たしてシュウは、どこまで今日のこの状態を予測していたのだろうか? マサキには見えない世界を見ている男は、それについて自ら語ることはせず。まるで自分にも見通せない未来があるのだとでも云いたげに、ただマサキの問いに微笑んでみせるばかりだ。

 ――ですから、いずれはサフィーネやモニカ、テリウスも家族という箱の中から飛び出して行くのでしょう。

 たかが一年、されど一年。けれどもその一年という月日はシュウの環境を大きく変えてしまった。家族に等しい仲間との別離《わか》れ。それに対して彼は決して寂しいなどと口にはしなかったが、時折、彼らが存在していた痕跡を探すように、辺りに視線を彷徨わせるようになった。
 だからプレシアは、マサキにこのタッパーの中の料理で夕食を済ませるように云ったのだ。
 マサキはプレシアと改めてシュウの話をするようなことはなかったが、彼女には彼女なりに自身の感情に決着を付けていたのやも知れない。必ずしも素直とは云い難い婉曲表現が常ではあったが、シュウを気遣うことが増えた義妹にマサキはそう感じずにいられなかった。それもその筈だ。最早少女とは呼べなくなったプレシアとシュウの間には、もうそれだけの月日が流れている。
「今日はいるのかしらね」
「また何処かに出掛けてるんじゃニャいのか」
 仲間という拘束から解放されたシュウは、以前にも増して気紛れに過ごすようになった。マサキが尋ねても家ることが殆どない。知識の吸収に余念のない男は、興味を感じたことを追求する為に東へ西へ。入手した情報の精査の為に積極的に方々へと出歩いているようだ。
 それを知っているからこそ揶揄するように言葉を吐く二匹の使い魔に、どうかな。云ってマサキはサイバスターを止めた。
 眼下に映る彼の家はしんと静まり返っているように映る。流石はひっそりとした生活を好む男だけはある。生活感の感じられない外観。こうして外から見ただけでは、いるのかいないのかさっぱりわからない。
 マサキは紙袋を手に取った。降りるぞ。二匹の使い魔とともにサイバスターの外に出る。
 勝手知ったる他人の家と玄関扉に手をかければ、当たり前だが鍵がかかっている。マサキはズボンのポケットからキーケースを取り出した。随分前に貰った合鍵を使って扉を開ける。そして玄関を上がりながら、シュウ? 声を掛けてみるも、今日の彼も家を空けているようだ。返事はない。
「おい、いないのか。届け物だぞ」
 キッチン、リビング、寝室に書斎。彼の姿を求めてひと通り部屋を回ったマサキは、姿の見えない家主《シュウ》に、またかよ。愚痴りながらタッパーを冷蔵庫に仕舞い、リビングのソファに陣取った。
 とはいえ、夕暮れには戻ってくるのが常だ。
 テーブルからテレビのリモコンを取り上げ、適当なチャンネルを付ける。二匹の使い魔もこうした事態にはすっかり慣れたとみえて、帰る帰らないだのと騒ぎ出すこともない。それぞれソファの気に入ったスポットに身体を収めると、寛ぎきった様子でテレビを見始めた。
「ところでマサキ、今日は帰るの?」
 マサキにとって最も大事な存在である義妹が、不安を煽るような理由で家を空けているからだろう。おもむろに尋ねてきたクロにマサキは宙を睨んだ。シモーヌやベッキーもいる。間違いは起こらないと信じてはいても、不安なことには違いない。
「んー……どうかな。その時に決めるさ」
「プレシアももう大人ニャんだニャ。自分のことは自分で決める年齢ニャんだニャ」
「それはそうなんだけどよ」マサキはシロを振り返った。「下手な男に引っ掛かったら、おっさんに申し訳が立たねえだろ」
「それを云い出したら際限《キリ》がニャいのね」
「その前にジノは下手な男ニャのか?」
「あいつの場合は、純粋にプレシアが好きっていうよりも嗜癖だろうしなあ」
「その割には成長した今でも大事にしてくれてるのよ。始まりはどうであれ、今は充分な愛情だと思うけど」
 そうかねえ。マサキはテレビに視線を戻した。
 心非ずな生返事になってしまっている自覚はあった。プレシアも心配だ。だが、それ以上にマサキの心を占めているのはこの家の家主に対する危惧だった。いつ尋ねても不在な男は、今頃は何処で何をしているのか。来訪の回数を増やしたマサキとしては、彼が自分の訪れを待っていないように感じられもする。
 何だかな。マサキはぽつりとつぶやいた。何がそこまで彼を駆り立てているのかは不明だが、もしかするとシュウはそうやって自分を忙しくすることで、仲間がいなくなった寂しさを紛らわせているのかも知れない。薄々思っていたことが、徐々に確信に変わってゆく。そして訳もなく苛立つ。何も語らぬ男はいつだってそうだ。マサキに頼ることもなければ、マサキに何かを打ち明けることもなく、自分ひとりで物事を解決しようとしてしまう。
 決して依存し合うような関係にはなりたくなかったが、さりとて赤の他人のような距離感も気に入らない。あいつ、今日も日が暮れる頃に帰って来るのかね。溜息混じりにそう口にすれば、二匹の使い魔はうーんと首を捻った。
「マサキにとってはそっちの方が一大事ニャのね」
「いい大人のすることニャんだから、そんニャ気にしニャくとも。どうせシュウのことニャんだニャ。熱中し過ぎて周りが見えニャくニャってるだけニャんだニャ」
「それならいいんだが、それにしちゃ長過ぎるってな……」
 どちらかといえばインドアな性質であるシュウは、他人に頼らない性格であるからか、どれだけ難解で困難な研究でさえもひとりで全てをこなしきってしまう。手を付けたが最後、三日ぐらいは平気で研究室に篭ってみせたし、見通しが立つまでは寝食をおざなりにするのもザラだ。そう、マサキはわかっている。彼はそういう男だと。
 だからこそ続く不在。むしろきちんと帰宅しているだけ、まだ理性を保っているとも云える。
 だが、それならば何故、彼は頻繁に自分の許を訪れるようになったマサキを放置し続けているのだろうか?


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