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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

大団円《グランドフィナーレ》(5)
次回最終回になります!
一回増えた分、今回の更新は短いです。

今後のスケジュールなんですけど、途中になっていた夢の頂を進めながら、久しぶりの白河祭りのレギュレーションを詰めようと思います。(今のところ予定しているテーマは「過去」と「未来」と「成就」です)詳細は決まり次第アナウンスします。時期的にクリスマスに被る可能性がありますが、その場合は祭りが優先です!!!宜しくお願いします。

では、本文へどうぞ!
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<大団円>

 ――もう少しでいい。私に会いに来てはくれませんか、マサキ。

 そうマサキに願った男は、けれどもマサキとの時間を作る気はないようだ。
 マサキはソファから腰を上げた。
 しきりと鳴き声を立てている空きっ腹。そろそろ食べ物を収める必要性があるだろうとマサキが冷蔵庫を開けば、家主が殆ど家に居ない上に、世話をする人間を欠いているからだろう。その中身は悲惨のひと言だった。
「経口栄養補助剤《サプリメント》に頼るのは止めろって云ってんのになあ」
 シュウがいればタッパーの中身で少し豪華な昼食にしようと思っていたが、彼が家を空けている状態では勝手に自分ひとりで食べてしまう訳にもいかない。マサキは冷蔵庫の中身を片付けるついでに、それらの食材を使って昼食とすることにした。
 痛みの目立ち始めた野菜の使える部分を使ってスープを、棚の中にあるパスタと缶詰を使ってクリームスパゲティを作ることにしたマサキは、主人の料理の腕を未だに不安視しているのか、それともおこぼれに与るつもりなのか。様子を窺いにやってきた二匹の使い魔に、終わったら買い出しだな。調理の準備を進めながら云った。
「自分でやらせたら?」
「シュウの為にニャらニャいんだニャ」
 世話を焼きたがるふたりの女性に雑事を任せきりにしていたシュウの家事能力は、だからといって低い訳ではなかった。人並みに家を整えられれば、人並みに料理も出来る。ただ彼は絶望的なまでに自身の趣味を優先してしまう性格なのだ。
 思い立ったがいざ吉日。何もかもを放り出して真理の探究に専心してしまう彼は、一度そうなったが最後。決して忠実《まめ》ではないマサキですら心配になるほどに他のことに不精になってみせた。
 睡眠や食事は云うに及ばず、掃除に洗濯。日常生活に関わる一切を放棄して目の前に迫る真理を掴み取ろうとする彼は、そんな塩梅で生活しているからか。頻繁に家を荒らした。いつだったかマサキが訪れた時など、余程重大な発見をしてしまったらしい。床に散乱する書物の数々に、隅に散らばる経口栄養補助剤《サプリメント》。どうやら書物を手にして読み歩きながら、経口栄養補助剤《サプリメント》を口にするような生活を送っていたようだ。開いたまま放置されている書物も多い中、マサキがそれを踏まぬようにして書斎に向かえば、隈が出来た目を爛々と輝かせながらコンピューターに向かっているシュウの姿があった。
「出来ない奴じゃないしなあ」マサキは宙を仰いだ。
 確かに良く彼が口にするように、多少の埃では人間は死ななかったし、必要な栄養素を摂取していれば健康の維持も出来たものだろうが、それが人間として正しい姿であるのかと問われるとマサキは返答に詰まる。何より不健康を絵に描いたような生活であるのは間違いなかった。
「その態度がシュウを付け上げらせるのね!」
「マサキがさせニャきゃ誰がさせるんだニャ!」
 口煩く云うではないにせよ、折に触れて伝えてきた彼の生活態度の問題点。彼の仲間が彼から離れて行った今こそ、それらを改めさせる時期にきているのかも知れない。
「しゃーねえ。明日は家事をさせるか」
 一年が過ぎた今も、プレシアの未来は定まっていない。
 彼女をひとりにするのは、マサキの中にあるゼオルートへの念が赦してくれそうになかった。マサキが彼女から離れるのは、彼女の未来が確かなものとなるのを見届けてからだ。そう自身に誓いを立てているマサキは、だからこそまだまだ離れた距離で付き合いを続けなければならない男の生活を深く案じている。
「そうニャのニャ! させるべきニャのニャ!」
「今日はお泊りニャのね! ちゃんとプレシアに連絡するのね」
 マサキの言葉に意気揚々と言葉を重ねてくる使い魔たちに、お前らって小姑みたいだな。マサキは笑わずにいられなくなった。ニャンでよ! 自覚はないようだ。キッチンカウンターに乗り上がってくる彼らを料理の邪魔だと追い払いながら、ひとしきり笑ったマサキは、これから先の自分たちの関係に思いを馳せずにいられなかった。


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