@kyoさん絶好調。
ただシュウがぐるぐる回ってるだけの話なんですけどねえ。この調子だとNight Endを字数で超えそうで怖いです。費やしていい文字数じゃない笑 あ、バレンタインもちゃんとやります。このモードから頭を戻すのは大変ではありますが。
といったところで、本文へどうぞ。
ただシュウがぐるぐる回ってるだけの話なんですけどねえ。この調子だとNight Endを字数で超えそうで怖いです。費やしていい文字数じゃない笑 あ、バレンタインもちゃんとやります。このモードから頭を戻すのは大変ではありますが。
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<記憶の底>
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ラングランからはそこそこ離れた距離にあるバルディア州とはいえ、国内有数の知名度を誇る風の魔装機神の操者だ。マサキを知らぬ者はそうはいないだろうし、そうである以上、記憶を失っている今の状態で人前に顔を晒させていい筈もなかった。
町に出るにあたってそう考えたシュウは、マサキに変装を施すことにした。
僅かに髪型を崩してやり、眼鏡を掛けさせたマサキは、傍目には勤勉な少年に見えたものだ。そのマサキと連れ立って一番近い町へと向かったシュウは、彼の体型に見合った服を見繕ってやり、着替えを済ませさせると適当なレストランで昼食をともにした。
食欲はあるようだ。遠慮しがちではあったものの、きちんと食事を平らげたマサキは、ようやくまともな食事にありつけたからか。また少しばかり顔に精彩が戻ってきたようにも感じられた。
「ずっと太陽が昇りっぱなしだ。それに地面がせり上がってる。ここは地球とは違う世界なんだな」
名前をも失ってしまったマサキは、それでもかつて自分が生きていた世界の記憶までは失っていなかった。屋台や商店が雑多に建ち並ぶ町中で足を止めると、物珍しそうに辺りを窺いながら、不意にそう口にしたものだ。
「ここは地底世界、ラ・ギアス。地球の裏側にある世界ですよ。正確には、座標軸を同一とするだけの位相のずれた世界ですが」
常に太陽が中天に在り、湾曲した大地が緩やかな坂となって続く地底世界。地上と地底の関係性を説明するのは難しい。あるがままに答えたところで、マサキには理解が及ばないだろう。そのシュウの予想は外れていなかったようだ。マサキは訝し気な表情でシュウの言葉に耳を傾けている。
「次元が異なると考えた方がわかり易いでしょうかね。あなたの知る地球の内側には、大量のマグマと資源が眠っているのでしょう」シュウはマサキが頷くのを待って言葉を続けた。「私たちの居る世界はそこに存在しているけれども、同時にそこには存在していないのですよ」
「何を云っているのか、全然わからないんだが」
「理解出来たらアインシュタインを超えられますよ。アインシュタインはわかりますか?」
「何だか難しい理論を考えた学者だよな」
「彼が考えた世界の果てにあるのが私たちの世界ですよ。時間とは伸び縮みするものである。アルバート=アインシュタインの基本理論ですね。それがわかれば後は早い。時間×速さの式で距離が導き出されるように、時間と空間は密接な関係にあるのです。それ即ち、時間が伸び縮みするのであれば、空間もまた伸び縮みするということ。ここまでは理解出来ますか?」
「ごめん。多分、俺にわかり易いように説明してくれてるんだろうけど、さっぱり……」
「あなたの住まう地上世界と私たちの住まう地底世界は、そのくらいにややこしい関係にあるということですよ。それだけ理解出来ていれば大丈夫です。深く考えなくともこの世界では生きていけます。太陽があって、水があり、酸素がある。この地底世界は、生物が生きていくのに充分な資源の揃った世界なのですから」
折角町に出たのだから、とシュウはマサキに他に寄りたいところはないかと尋ねてみたが、特にはないとのこと。知らない世界に紛れ込んだ気分でいるマサキは、ただこうして町を眺めているだけでも、充分に刺激を受けたようだ。「カルチャーショック、っていうのはこういうことを云うのかもな」帰りの道中でぽつりと呟いた。
帰宅はしたものの、特にすべきこともないようだ。本を読み耽るシュウの隣で、マサキはひたすらテレビを見耽っていた。何か面白い番組はあったかと聞くと、スポーツ番組が面白いとのこと。
帰宅はしたものの、特にすべきこともないようだ。本を読み耽るシュウの隣で、マサキはひたすらテレビを見耽っていた。何か面白い番組はあったかと聞くと、スポーツ番組が面白いとのこと。
「色んなスポーツをやってた気がするんだ。身体を動かすのは嫌いじゃない。だからなんだろうな。難しい話は苦手だけれど、スポーツのルールはすっと頭に入ってくる」
「そういうことなら、テレビはあなたの記憶が戻る切欠になり得るかも知れませんね。それに、楽しんで見られるのであれば丁度いい。私はご覧の通りの趣味の人間ですから、あなたに付き合ってやれることといっても剣術の稽古の相手をするぐらいです。退屈な思いをさせていると思うとね」
「いいよ、別に。迷惑をかけているのは俺の方だし」
云ってマサキはシュウの膝の上に寝転んできた。なあ、と云ってシュウに向けて手を伸ばしてくる。
――随分と懐いてくれたものだ。
記憶もなければ寄る辺もないマサキにとって、頼れるものはシュウしかないのだ。わかっていながらも拒絶は出来ない。シュウは身を屈めた。マサキの手が胸元を掴んでくる。次の瞬間、のそりと身体を起こしたマサキは、それが当然であるかのようにシュウに口付けてきた。
記憶とは人格でもあるのだ。
先天的な気質よりも後天的な経験の方が、人の性格には多大な影響を及ぼしたものだ。自らを振り替えるたびに、シュウはそう思う。幼かった頃の快活だった自分はもういない。忌まわしい過去は、シュウをそれだけ陰気な性質へと変えてしまった。だからこそ、だ。ラ・ギアス世界で生きた記憶を失ってしまったマサキは、地上世界での時間へと人格を引き戻されてしまったのではないだろうか。そうでなければ説明が付かないほどに、マサキはシュウに自らの存在を委ねてしまっている。
きっと、ここは|IF《もしも》の世界でもあるのだろう。
互いが対立する立場にいなければ、こうなっていたかも知れないという未来のひとつ。それは幸福な未来なのだろうか。シュウはマサキの口唇を塞ぎながらも考えずにはいられなかった。
――自分を救ってくれたあの輝ける少年は、今はその記憶の中にしか存在しない……。
厳然と目の前に立ちはだかる現実。それを考えるだに、シュウは寂寥感に襲われるのだ。シュウの舌を感じながら、恍惚とした表情を晒してみせるマサキ。熱に浮かされたようにシュウの口唇を貪って、それでも足りないとばかりに舌を深く絡めてくるマサキ。欲しいものを手中に収めた筈なのに、シュウの心はどこか乾いたままだ。
「そんなに記憶を取り戻したいの?」
長い口付けを終えたマサキは、シュウの膝の上に乗り上がってぴったりと。寄り添うように肩に顔を埋めている。その様子は、まるで片時たりとも母親の元を離れまいとする幼子のようにも映る。
「……そうじゃない」
「そうではないのなら、何故」
シュウは狡い男なのだ。与えられる答えを持っていながら、マサキに答えを求めてしまう。記憶のないマサキにとって、それはとても答えるのに難しい問いであるだろうに。それでもシュウは問いかけずにはいられない。
見てしまったものがある。一度目のあの時に。シュウはマサキを問い詰めながら、消すに消せない記憶を反芻していた。自慰に耽っていたマサキの手が弄《まさぐ》っていたその先にあったものを。
彼はただ自分の男性器を扱《しご》いていただけではなかった。自らの身体を――それは胸元であったり、腰回りであったり、或いは首回りであったりを弄《いじ》りながら、口を吐いてしまう声を封じるように自らの衣服を噛んでいた。
彼は恐らく、誰かに自分の身体を弄《もてあそ》ばれたいのだ。自分が触れ、抱くのではなく、自分に触れられて、そして抱かれたい。その欲望が偶々水を向けたシュウに向かった。向かったからこそ、躊躇いがちながらも、快感に反応してみせた――……。
だからシュウは訊きたかったのだ。マサキにその答えを。
けれどもマサキは口を閉ざしたまま。ややあって、ようやく口を開いても、でも、だって、と一向に核心に触れようとしない。尤もだ。自らの性癖に触れる問題なのだ。そう容易に口に出来た答えでもあるまい。自分は結局|こ《・》|う《・》だ。シュウは思った。どうあっても自分はマサキを追い詰めることしか出来ない。
独占欲、或いは占有欲。自分だけを見て、自分だけを欲して、そして自分だけに従って欲しい。シュウのその欲望は、マサキから自由に羽ばたける翼をもいでしまうのと同義であることだろう。地を這う魔装機操者など誰が見たいと望むものか。彼らは魔装機という強大な力を支配出来るからこそ、地上に輝ける星となるのだ。
それでもシュウはそうとしか望めない。あの心のままに自由に生きる少年は、そうでもしなければ、直ぐにシュウの手の届かない世界へと羽ばたいてしまう。
追えば躱《かわ》され、躱《かわ》されては追うしかなくなる。まるでかつての己のように、掴んだと思えば逃れてしまうマサキを、シュウは何としてでも自分の元に留めて置きたかった。いつの間にか逆転してしまっていた執着心は、けれども抱えている感情はそれぞれ異なったものだ。シュウはマサキと異なり、マサキに打ち勝ちたいのではない。
――その心と身体が欲しいのだ。
狂おしいまでにこの身を焦がす感情を何と呼ぶべきなのか。シュウはその答えを知らなかった。高い知能を望むがままに活かしておきながら、シュウは自らの感情には門外漢なままだ。愛だ恋だと云うのは容易くとも、果たして己のこの感情はそんな薄っぺらい言葉で表せるものであるのだろうか。シュウは悩む。もし、世界に自分とマサキしかいなかったとして、そのマサキが自分に憎しみしかぶつけてこない存在であっても、シュウは悦楽に浸れたことだろう。そんな歪んだ感情が愛である筈がない。
「無理には答えを急ぎませんよ」自らの疚しさに蓋をするように、シュウは答えられずにいるマサキに云った。「あなたが云いたいと思った時に答えてくれればいい」
そして膝の上に乗ったままのマサキを抱き締めた。
「どうします。もしあなたがいいと云うのであれば、サイバスターの様子を見に行きませんか。もしかすると未だ回収されていないかも知れません。改めて見てみれば、何か思い出すことがあるかも知れませんよ」
答えられなかったことを悔やんでいるのか。マサキは押し黙ったまま。伏せた顔の表情は窺えなかったけれども、莫迦みたいに実直な性格をしているマサキのこと。恐らくは相当に複雑な顔をしているに違いない。
「ほら、マサキ――……」
シュウはただただ穏やかに、マサキに笑いかけてみせた。
「……怒ってないのか」
「何故? あなたに答えるのが難しい質問をしてしまったのは私の方ですよ、マサキ。そのぐらいの自覚はあります。昨日今日出会った他人ではないとはいえ、それは私にとってだ。あなたにとっては私は昨日であったばかりの他人。そう簡単に出せる答えではないでしょう」
心にもない台詞を立て続けに吐くことが出来てしまう自分。それを恥ずべきことだとは、シュウは思わない。
――本当に、自分は卑怯な男だ。
必要としているマサキがどちらのマサキであるのか、シュウはわかっている。それにも関わらず、目の前の記憶のないマサキに答えを求めてしまった。身勝手だと思いつつも、最早シュウの胸が痛むことはない。それだけシュウはマサキに対する自分の感情を拗らせてしまった。手に入れたいのに、届かない。抱きたいのに、会えない。そう、気持ちに行き場がないからこそ、シュウは自らの所業を正当化させられるのだ。
「行きましょう、マサキ」
そんな胸の内を悟らせたくない。その程度の良心はシュウにも残っている。シュウはマサキをやんわりと引き剥がすと、サイバスターの様子を窺いに向かうべく、ソファから立ち上がった。
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