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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Lotta Love(了)
やっとこの日を迎えることが出来ました。
本当にお付き合いいただけて有難うございます。一年半以上の長丁場、沢山の拍手とメッセージに支えられて無事に完走することが出来ました。先ずは恩礼を申し上げます。応援有難うございました!!!!

次回作「大団円」はこの話を元に話が展開する予定となっています。
引き続き30の物語、最後の作品をお楽しみください。

バリを選んだのは本当に勢いで深い意味はなかったのですが、書き上がった今、この国を選んで本当に良かったと思わずにはいられません。偶然とは云え、予言によって導かれた日本人たちの物語など、見所も満載となりましたし、バリという親日国家に対する理解も深まりました。

飛行機の苦手な私ではありますが、いつかバリに行ってみたいなと思った次第です。

では、ここから最終回です。本文へ、どうぞ!
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<Lotta Love>

(7)碧溢れるラングランの平原にて

 何とはなしにゼオルートの館を出たマサキは、気の向くがままに西へ東へと風の魔装機神《サイバスター》を疾《はし》らせた。
「何処に向かうつもりニャんだニャ」
「風の向くまま、気の向くままさ。何処に辿り着くかわからない散歩ってのも愉しいもんだろ」
 誰とも会わずに過ぎてゆく時間の長さに、日常生活に帰ってきたのだと思い知らされる。当てもなく駆けるラングランの景色は懐かしくもあったが、あのうだるような熱気に包まれたバリの喧騒と比べると、静かで、広大で、そして一抹の寂しさと侘しさを感じさせるものだ。愉しかったな。ぽつりとマサキが呟けば、二匹の使い魔が困ったように顔を見合わせた。
 ジンバランでシーフード料理をしこたま腹に詰め込んだ翌日。朝も早くから、人気がないという理由だけでスミニャックのプライベートビーチに呼び出された一羽と二匹の使い魔は、日焼けの後も生々しいマサキの姿を目にして、自分たちの主人が思いの外、バリでの生活を満喫していることを悟ったようだった。早く帰りましょうよ。呆れ果ててそう口にしたチカに、いつかは帰りますよ。天邪鬼の虫が騒いだのだろう。シュウは白々しく云ってのけると、困惑している彼らに付いて来るように告げて、スミニャックの街へと繰り出して行った。
 ショッピングと食事を愉しみ、ヴィラで午後を過ごし、プライベートビーチで夕陽を堪能した一日は、マサキにとっては場所が変わっただけのシュウとの日常生活でもあったが、バリでの旅行が終わることの覚悟を決めるのには充分な時間だったのだろう。帰るか。夜を迎えて自然と口を吐いて出た言葉に、そうですね。シュウもまた未練がないといった様子で頷いた。
 チェックアウトは翌日の午前中だった。長くヴィラを利用していたことも関係しているのだろう。バトラーも見送りに顔を覗かせたフロントで、シュウは彼らにもまた土産物を渡すと、プライベートビーチからグランゾンに乗り込み、マサキを待つことなく一足先にラングランへと帰って行った。
 シュウらしい。そう思いながらマサキもまたサイバスターに乗り込み、ラングランへと帰還した。
 両手に抱えきれないぐらいの量となった土産物。アタ雑貨にコスメ。陶器にファブリック、アクセサリーと揃いも揃った土産物の山を見た仲間たちは盛大に呆れ返り、そこで怒る気も失せたようだった。偶には息抜きも必要よね。テュッティはそう呟くと、愉しかった? ラングランを出た時よりも肌を黒くしているマサキに尋ねてきた。
 プレシアは困惑しつつも土産物の数々を喜んでくれたようだ。皆とお茶をする時間が愉しみになるね、お兄ちゃん。そう云って、早速角の立ったコースターを使って冷えた飲み物をマサキに振るまってくれた。そうして、マサキの目の前で天然石を革紐で繋いだブレスレットを早速手首に嵌め、リップクリームを塗ってみせてくれたプレシアに、どう反応してやればいいか迷いながらも、似合ってる。マサキはそうとだけ口にした。
 ジャケットの内ポケットには、シュウがプリントアウトしてくれた写真の束が詰まっていた。自分の部屋に戻ったマサキはそれを収めるアルバムの必要性を感じながらも、取り敢えずはとサイドチェストの引き出しに収めることにした。本当は一枚一枚じっくりと眺めたい気分でもあったが、シュウとふたりで撮った写真も少なくない。それを目にするのは、何だかとても気恥ずかしいことのように感じられて堪らなかった。
 そこから三日。さしたる任務もないままに過ぎゆく日々が退屈になったマサキは、二匹の使い魔を連れて家を出た。
 雄大なラングランの自然は、マサキ=アンドーという人間を大らかに迎え入れてくれた。風のささめき……水の煌めき……大地の嘶き……そして中天に座す太陽の輝き。全てが慈愛と豊かさに満ち満ちている地底世界ラ・ギアス。その眩いばかりに生命エネルギーに溢れた世界は、バリとは異なる緩やかな時の流れを刻んでいる。
「またいつか何処かに旅行に行けばいいのよ」
「そうだニャ。ラングランも広いんだニャ。面白い場所はいっぱいあるんだニャ」
 まるでマサキの心を見透かしているように言葉を吐く二匹の使い魔に、そうだな。マサキは目の前に開けているラングランの平原を眺めた。
 さやさやと吹き抜ける風が平原を波立たせている。
 この限りなく広大な大地を擁するラングランという国家は、けれどもマサキをたったひとりの安藤正樹にはしてくれない。魔装機神サイバスターの操者、ランドール。その名が重く圧し掛かる月日はとうに昔のものとなってはいたものの、何処に行っても付いて回る立場と名前がマサキには時に窮屈に感じられて仕方がなくなることがあった。
 ――あんな日々は二度と来ない。
 夢のようなバリでの五日間。街中を誰の目を引くこともなく自然に歩くことが許された日々は、確かにテュッティが口にしたように、マサキにとってはこれ以上とない息抜きの時間だった。愉しかったな。自然と繰り返し口を吐く言葉は、マサキが五日間の旅で心身ともに癒されたことを意味している。
「地上に帰りたいの?」クロが尋ねてくる。
「まさか」マサキは笑った。
 やるべきことは山程あったし、やりたいことも山程あった。ングラライ将軍の生き様、或いはバリ王家の人々の生き様に触れたマサキは、気高く散っていった彼らの命の重みを噛み締めたからこそ、自分の生きる場所はラ・ギアスであるという思いを強くしていた。そう、マサキにとっての生きる目的は地底世界ラ・ギアスにしかない。マサキ=アンドーという日本人は、命尽きるまでこの美しい世界で戦い抜いてゆくのだ。
 それが預言によって導かれた者の命運でもある。

 我が王国は白い人々に支配される
 彼らは離れたところから攻撃する魔法の杖を持っている
 この白い人々の支配は長く続くが
 空から黄色い人々がやって来て
 白い人々を駆逐する
 この黄色い人々がいるのは
 トウモロコシが育つのと同じ期間だ

「ニャあに、それ?」
「面白い詩ニャんだニャ」
 首を傾げてマサキを見上げてくる二匹の使い魔を膝の上に置いて、マサキは静かに微笑んだ。
「バリに伝わる御伽話さ」
 次にシュウと顔を合わせるのはいつになるのだろう。マサキは旅先でも本を手放すことのなかった男を想った。今頃は研究に邁進しているところだろうか? それとも観光漬けで余り読書が進まなかった憂さを晴らすように書物に埋もれているところだろうか? いずれにせよ、勝手に自身を多忙にしてしまう男のことだ。暫く顔を合わせることはないだろう。
「さあて、次は何処に行くかね」
 マサキは操縦席の中、ひとつ大きく伸びをした。
 燦燦と照り付ける太陽は、バリよりも陽射しが弱い。穏やかで過ごし易いラングランの陽気に、でもやっぱりこの世界がいいな。マサキはそう口にすると、二匹の使い魔に持ち場に着くように告げて、気ままな散歩の続きをするべくサイバスターを発進させた。

<了>


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