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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Lotta Love(1)
と、いうことで29番目のお話の始まりです。二人に対するご褒美なので、のんびりとした時間をゆっくり書けたらと思っています。あんまりこの手の話に需要はないような気がしなくもないのですが、書きたいので書きます。最後まで、お付き合いいただけますと幸いです。

今回は導入編です。では、本文へどうぞ!
<Lotta Love>

 吹き抜ける風に波立つ蒼海を眼下に、|風の魔装機神《サイバスター》を疾《はし》らせていた。
 蒼穹を流れゆく雲の群れの合間から、突き抜けるような日差しが目に焼き付き、遠く、近く、舞い踊るように並走する鴎《カモメ》たちが、不意に高度を上げては、空の彼方に飛び去ってゆく。訳あって訪れることとなった久方ぶりの地上。好天で以ってマサキを迎え入れてくれた世界は、眩いばかりの輝きに満ちていた。
「地上に出たはいいけどニャ、どうするんだニャ」
「当てもなく探しても、見付かる保証はニャいのね」
 計器類をチェックしている|二匹の使い魔《シロとクロ》は、主人《マサキ》の無謀な試みに途方に暮れているようだった。めいめいにそう口にすると、何をどうしたものかといった様子でサイバスターを操縦しているマサキを振り返って、そのリアクションを待っている。
 雲を掴むような話だった。
 いつも通りではなかった朝食の席。プレシアとテュッティに加えて、早朝のトレーニングの帰りがけに、ついでと足を運んだらしいヤンロンとミオが同席していたその席は、それでも今日という一日が穏やかに過ぎゆくものであると、マサキに錯覚させるまでに落ち着いたものだった。
 魔装機神四体の操者が顔を揃えたのは、いつぶりか。そう間を空けずに顔を合わせているにも関わらず、尽きぬ話題。会話を重ねながらゆっくりと食事を進め、四十分程。さてそろそろ片付けに取り掛かろうかといったタイミングで、外から魔装機に比類する機体の駆動音が複数、地響きを伴いながらゼオルートの館に向けて迫って来た。
 どうせ他の魔装機の操者だろうと思ったマサキの予想を裏切って館に飛び込んで来たのは、お騒がせな三人組。指名手配犯《お尋ね者》の自覚に薄いモニカとテリウスと、わかっていながら挑発するようにラングランの各地に出現を繰り返すサフィーネだ。
 主人たるシュウの姿はない。
 とにかく話を聞けと煩いサフィーネとモニカ、そしてそれをどうでも良さそうに眺めているテリウスを、仕方なしに館に招き入れて話を聞くこと暫く。どうやら姿のない主人は消息不明になっているようだ。それもただ行方を眩ましたのではなく、三人にそれぞれ命を授けた上で、グランゾンと共に何処かへ旅立ってしまったのだとか。と、なれば。マサキに思い浮かぶ理由などひとつしかなく。
「そこまで騒ぎ立てることかね。どうせ、お前らのことだ。俺たちに云えないようなことの為に動いてるんだろ。だったらあいつだってその為に動いてるんじゃねえの。そりゃ少しぐらいは行方も知れなくなるだろ」
 大体が単独行動の多い男なのだ。自分の在り方を他人に任せない。それは気紛れにもマサキの前に単独で姿を現してみせるところからも窺い知れた。だからこそ、マサキがそう云ってみれば、
「そう思って二週間なのよ? その間、連絡のひとつもないなんて、これまでなかったことなんだけど」
「何かそのお身体にあってからでは遅いのですわ。ですから、心当たる場所は全て探したのですけど」
 はあ、とマサキは溜息を洩らした。どういった組織や存在を追っているのかは不明だが、その調査はかなりの危険が伴うものであるようだ。それをわざわざ敵地に足を踏み入れるような真似をしてまで話しに来たのだ。テリウスはさておき、サフィーネとモニカがゼオルートの館を訪ねた理由は、ただ情報を求めてだけのことではあるまい。
 何を求められているかは察しが付く。厄介な事態になったと、マサキは空を仰いだ。
「それで、僕らに何をしろと云っているんだ」
 そのマサキの気持ちを代弁するようにヤンロンが言葉を吐く。きっと、そのひと言を待っていたに違いない。次の瞬間、察しがいいじゃないのと言葉を放ったサフィーネは、妖艶ににたりと嗤った。
「探して欲しいのよ、シュウ様を。地上で」
 そんなことの為に魔装機神の転移機能を使えるかと流石にマサキたちはごねたものの、現実問題として、シュウとグランゾンは地上に出してしまっていい存在ではない。
 そもそも、何処の世界たれと指名手配犯である男は、自分の目的の為なら如何なる手段をも用いてみせる残虐性を秘めている。それは必要があれば、武力を振るうのも厭わないということだ。迂闊に放置して地上に災厄を振り撒かれようものなら、その所在が不明であることを知りながら放置していた自分たちの責任になってしまう……マサキたちが渋々ながらも、サフィーネとモニカの頼みを聞き入れたのは、そういった理由があったからだった。とはいえ、シュウとグランゾンが何をした訳でもない内から、魔装機神が全機揃って地上に出払ってしまっては、有事の際に動ける正魔装機に限りが出てしまう。マサキたちの本分は地底世界の平和の維持にこそあるのだ。
「どうするの、マサキ」
「放置しておいていい話じゃないよねえ」
 かくて、魔装機神の操者四人の話し合いの結果、マサキとサイバスターが地上に向かうこととなったのだが――。
「地球を何周かすりゃ、あいつらも納得するだろ」
 マサキのやる気はそう簡単には奮い立たない。コントロールパネルを適当に弄っては、気の向くままにサイバスターの舵を北へ、南へ。まるで調整後の試運転のような動きを繰り返すサイバスターに、二匹の使い魔は流石に口を挟みたくなったとみえる。
「ニャあに、それ。探す気ニャいじゃニャい」
「だったら安請け合いするんじゃニャいニャ」
 そう責め立てられた所で、シュウとグランゾンが地上の何処かにいるのかさえ判然としないこの状況では、マサキが真剣になる理由など何処にもなく。むしろ、あの姦しくも片惚れの激しい女二人と日々付き合いを重ねていれば、それは鋼の精神力を誇るあの男とて、時には調査を理由に姿をくらましたくもなったものだろうにと、同情の気持ちすら湧き起こってきたものだ。
 なれば、適当な所で探索を切り上げてやることも、彼らの為。
 そうマサキが思った瞬間だった。
「索敵機能《レーダー》に反応! 西に十キロ!」
「この反応サイズは、もしかするとニャんだニャ!」
 そんな馬鹿な。幾ら世の中が偶然と必然で成り立っているにしても、物には限度がある。けれども無視しきれる情報でないのは明らかだ。マサキは盛大に顔を顰めながら、西へとサイバスターの舵を切った。


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