ということで導入編その2です。どこに行かせるかは悩んだのですが、楽園がああいうイメージの観光地でしたので、暑い国にしようというのだけは決めてました。その上でミスマッチがそこまで酷くないような土地がいいなあと思って検索した結果、こうなりました。笑
因縁とかそういうのは全く考えてません。本当にただのバカンスです。それ以上でもそれ以下でもないので、気楽にお読みいただけると幸いです。では、本文へどうぞ。
因縁とかそういうのは全く考えてません。本当にただのバカンスです。それ以上でもそれ以下でもないので、気楽にお読みいただけると幸いです。では、本文へどうぞ。
<Lotta Love>
ここまで近距離となるまで索敵機能《レーダー》に反応がなかったということは、隠密《ステルス》機能に優れている機体だということでもある。敵機と思しき機体がグランゾンであろうがなかろうが、油断は禁物。マサキが二匹の使い魔と共に警戒しながら進むこと暫し。さざめく海上に無骨な形状《フォルム》を晒して浮かんでいたのは、紛れもなく探し求めていた|青銅の魔神《グランゾン》だった。
マサキたちがその姿を視認すると同時に、サイバスターに通信を求める信号が入った。マサキは無駄に地上世界を流離わずに済んだことに安堵しつつも、あの気紛れに他人を振り回す男のすること。何を求めての入電かは想像も付かず。もしかすると新たな厄介事の到来であるかも知れない事態との遭遇に、ただただ身構えた。
気を抜くのは彼らの地底世界への帰還を見届けてから――。そう思いつつ、求められた通信の帯域《チャンネル》を開く。
「はいはいはいはい! どうもどうも! お久しぶりにございますね、マサキさん! ……と、野蛮な食肉目の家畜二匹!」
モニターに映し出されたのはシュウの使い魔たる|青い鳥《チカ》一匹のみ。食肉目、とは随分なご挨拶だが、動くものと見れば飛び付かずにいられないのはマサキの二匹の使い魔の習性でもある。彼らにとってこの青い鳥はどうやらとてつもない御馳走に映っているらしく、近くに寄ろうものなら上へ下への大騒ぎになるのが常だ。その都度、羽根が襤褸雑巾のようになるまで弄ばれるチカとしては、それは嫌味や皮肉のひと言も挨拶代わりに投げかけたくもなったもの。コントロールルームを背景に主人不在の操縦席の前にちょこんと留まっている彼は、どうやらひとりで器用にグランゾンの操作をこなしているようで、「ちょっと待ってくださいね」と言葉を置くと、羽根やら足やらをちょいちょいと動かした。
「これでグランゾンの位置固定完了っと」
居丈高な挨拶に鼻息を荒くする二匹の使い魔をせせら笑うように、モニターの向こう側のチカは得意気に胸を張った。
「どうですマサキさん! あたくしのこの繊細な操縦技術! さっすがはご主人様の使い魔だけはあると思いませんか! なんと座標に対して数センチの誤差しかないのでございますよ! このサイズの機体でこの誤差は神の技術の粋! いやあ、この技術をそこの野蛮な二匹の使い魔にもお教えして差し上げたいってものですね!」
「あー、はいはい。わかったわかった。流石はあの自信家で尊大な野郎の使い魔。良く似た性格をしていらっしゃいやがる」
「ホント、ご主人様に負けず劣らずな減らず口ですよね、マサキさんって。まあ、傑出した才能に対して凡人が嫉妬心を抱くのは世の常人の常。あたくしは寛大な性分ですからね。そのぐらいの嫌味は軽く聞き逃して差し上げ」
「で、てめえのご主人様とやらは何処に行きやがったんだ」放っておけばひとりで何処までも。際限なく話を続けそうなチカの言葉を、これ以上はただの無駄話になりかねないと遮ったマサキは、早速とばかりに本題に入った。「見た感じ、お前しかコントロールルームにはいないようだが」
「それなんですよ!」我が意を得たり、とチカが片羽根を広げる。
「あんの規格外の変態科学者《マッドサイエンティスト》、調べものの為に地上であちこち知人を訪ねて歩いていたかと思えば、いきなり少し羽根を伸ばしたいとかぬかしやがってですね、あたくしにグランゾンの番を任せてバカンスに行かれてしまわれたんですよ!」
「はあ?」予想だにしていなかった返答に、マサキの喉から盛大に気の抜けた声が出た。「……バカンス?」
「バカンスですよ、バカンス! それももうかれこれ一週間ぐらい! いかにあたくしが使い魔であるとは云え、物には限度ってものがございません? 来る日も来る日も変わり映えのしない海の上! いい加減に気が狂いそうでございます!」
どんな時であろうと隙なく事に臨んでみせる男が、よもや理由もなく姿を消したとは思ってはいなかったものの、グランゾンとチカを一週間も放置してバカンスとは! しかもチカの口ぶりでは衝動的に思い立ってのことらしい!
日頃、厳めしい顔付きで事に挑んでばかりいる男の思いがけないドロップアウト。早くもその理由に辿り着いてしまったマサキは、己の予想が大まかな意味で当たっていたことに驚きを隠せない。
「迎えに行けばいいじゃねえかよ。まさか居場所もわからねえとは云わねえよな」
「そんな恐ろしいことがあたくしに出来るとお思いで? だってマサキさん、自分に置き換えて考えてみてくださいよ。マサキさんがそこな二匹の使い魔にサイバスターを任せて、バカンスを楽しもうと思ったとしますよね。で、これ以上となく気分が良くなったところで、不測の事態でもないのに使い魔がサイバスターに乗って迎えに来たらどう思います?」
「まあ、気分は良くねえよな」
「そういうことですよ! だというのにあたくしに迎えに行けと仰る! 嗚呼、恐ろしい! あたくしまだ命は惜しいんでございますよ!」
「とは云ってもだな、お前んとこの金魚のフンがいねえいねえって大騒ぎしてるんだが」
「何ですマサキさん。もしかしてそれで地上くんだりまでご主人様を探しに来られたんですか? あんな二匹のメス猫、放っておけばいいでしょうに」そこまで云ってチカは大仰に溜息を吐いてみせた。「大体、あたくしがこんな不自由な場所にいるのは、ご主人様が地上で色々とやらかしちゃった所為ですしねえ。そのご主人様の許可なくグランゾンを動かすのはちょっと。勝手に動かしてあれやこれやの因縁を刺激するようなことになってしまったら、あたくし消されるだけでは済みませんし」
行動を共にしておきながら、この言い草! 相も変わらず親しいのか親しくないのかわからない憎まれ口を自らの仲間であるサフィーネとモニカに叩いてみせるチカに、メス猫とはまた随分な表現だとマサキは眉を顰めた。
しかしそれを口にしたところで、チカの無駄話が長くなるだけ。今更と思ったマサキは、気を取り直してモニターの中のチカに向き直る。
「まあ、あいつらは居場所さえわかればいいんだろうしな。この辺に居るって伝えて」
「止めてくださいよ、マサキさん! 何ですか、その前門の虎後門の狼状態! あたくしをどれだけの窮地に陥らせるつもりなのか! バカンスの最中ですよ、バカンス! そこにあのふたりが姿を現したら、どこかの街が消滅しますよ! いいんですか、マサキさん!」
「お前、本当に主人のこと、信用してねえな」
「理解が深いと云ってくださいよ」
街が消えるかはさておき、シュウが珍しくも主体的にバカンスを求めて姿を消した以上、そこにサフィーネやモニカが乗り込んで来ようものなら、流石に気分を害するには違いない。とはいえ、このまま姿を消したままでいられては。シュウのこととなると一歩も退かなくなるサフィーネとモニカ。再びふたりが自分を頼って来るのではないかと思うと、マサキとしては気が気ではない。
「しかしだな、俺も何の成果もなく地底世界《ラ・ギアス》に戻る訳には」
「だったらマサキさんが行ってくださいよ」
「俺が? シュウのところにか?」
「細かくは知りませんけど、何処でバカンスをしているかぐらいは聞いてますし。それでサフィーネさんたちが探してるってことを伝えればいいじゃないですか。そのついでにあたくしが待ちくたびれてることも伝えてくださいよ。流石にご主人様も、マサキさんまで動いてるとなれば考えを改めるでしょ」
「まあ、いいけどよ。何処に居るんだよ、あいつ」
「どこだと思います?」
ふふ、と嘴《くちばし》を羽根で隠して、チカが笑う。
「何と驚くことなかれ、ここから北東へ百キロ! バリ島でございますよ!」
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